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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
2年後の世界
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大好物の雑魚

 朝食が終わり、何もすることが無くなったソラは、


「ユイちゃん。買い物行くけど一緒に行く?」

「行く!」


 ユイを連れて買い物に出かける事となった。ちなみにコレットは母であるマリーと未だ滞在中のエリーゼ達に捕まっていた。


 ユイを呼びに言った去り際、「もう、勘弁して〜」と顔を真っ赤にしていた。


 城下に出てみると、王都に負けない程、何処もかしこも賑わいを見せていた。ソラはユイちゃんと離れ離れにならない様しっかりと手を繋ぎながらやっているお店を一つずつ見て回っていく。


「さすが、皇国の中心。すごい賑わいだな……」

「わーい!」

「ああ、ユイちゃん。離れないで」


 ユイに手を引かれながらその後に続いて一つ一つ様々な店を回って行くが、ピンっとくるめぼしい物は見つからずにいた。


「う〜〜ん。これ!っていうものか見つからないな……。ユイちゃんは何が食べたい?」

「ハンバーグ!」

「それは昨日食べたからダメ。同じものばかり食べてるとコレットに怒られるよ」

「ぶ〜」


 食べたい物を尋ねたのに、食べたい物は食べてはいけないと注意されたユイはほっぺたを膨らませて口を尖らせる。ソラはそんなユイの頭を優しく撫でるともう何事も無かったかのように気持ち良さそうに目を細め、されるがまま頭を撫でらせている。


「あれれ? あなたは」


 しばらく頭を撫でていると、ソラ達の後ろから声をかけてくる人物がいた。後ろに振り返ると、そこには見覚えのある商人や姿があった。


「リストさん? 二日ぶりですね。お店の売り上げの方はどうですか?」

「これがさっぱりでね。何か良いものは無いかとこの中心街を回っていたところなんだ」

「そうだったんですか……」


 入国後に別れたリストとの再会に少し驚きつつも、軽く言葉を交わした。話を聞いたところ、未だに自身の店の景気はあまり芳しく無いらしい。


「やはりここは、今現在の常識を破った様な新しい物を作り出す必要があります!」

「常識を破った様な新しい物ですか…」


 新しい物と考えて悩ませる二人。そんなことに飽きてしまっているユイはソラが見える位置で近くにあったお店の品を眺めている。


「だったら、ドラゴンの肉なんてどうだ? 肉質で油のノリも良い!」

「………キッド?」


 そんな二人の話に口を挟んでくる一人の男がいた。それは昨日、ギルドの凱旋で中央を歩いていた青髪の男、キッドあった。


「よう。久しぶりだな」

「ああ、久しぶり……。ていうか、よく俺だとわかったな」

「昨日の凱旋の時にな。どんなに姿や魔力が変わろうと、その瞳の奥にある色は変わらないよ。そんなお前を間違えるかよ」

「ああ、そうか……」

「本当に……、久しぶりだな……」

「うん。久しぶり……」


 まるで悟ったように語りかけるキッドの瞳には懐かしむような優しさを持っていた。


「おやおや、二人はもしかしてお知り合いなのですか?」

「ああ、キッドとは昔行き倒れていた時に出会ったんです」

「行き倒れていた?」

「こいつ、とにかくご飯をいっぱい食べるものですから、持っていたお金が底をついて、森で倒れていたの発見したんです」

「森で……」

「ええ。ですので、美味しい飯を出す店に案内してご飯をご馳走したんです。でもご馳走したらこの人、俺のことなんで考え無しにご飯をバクバクと食べちゃったから、俺も、料理を作ってもらったおやっさんもすごく困ってて……」


 と、そこまで言いかけてある事を思い出す。


 そういえばおやっさんは自分の料理に対する研究はかなりみっちり行う人だったよな……。僕も同じ様に、古代都市にあった料理の本を何度も読み返したり、自分好みの味に変えたりしてた。


 その中で、僕やカメ助が一番気に入っていた食べ物が……。


 ソラはそこまで思いたり、近くにあったお店に再び視線を移していく。目的のお店でなかった場合、すぐに次に移り、また次に。そう繰り返していくうちに、ユイが覗いているお店にたどり着く。


 ユイが覗いていたのは中心街にあった魚屋。ユイは近くにある死んでいる魚をツンツンとつついている。そんな魚達を見ていくと、ソラが思い出したとある魚発見した。それも大量に。


「……見つけた。しかも()()()()大量に残ってた!」

「? 何か見つけたのかい?」

「リストさん。あなたが使っている宿の台所、借りてもよろしいですか?」



 *



 ソラがある魚を大量に買い込むと、リストが借りていた宿の厨房を借り、黙々と料理をしている。


 ソラはリスト達にどんな魚を買ったのかを伝えておらず、一体どんな魚を何調理しているのかわからずにいた。


 何かしらの処理が終わった魚をザルを使って蒸していると、ゆっくりとそのザルを開くと、熱々や湯気モワモワと浮かび上がった。


「はい。とりあえず、蒸し立てを一つ二人には食べてもらって、その後にもう少し調理したのを食べてもらいます。ユイちゃんはそっちの方を食べてもらうね」


 そう言って差し出したのは魚の体を切り開き、骨や内臓を処理し、それを蒸した魚の身であった。


「……では」

「いただこう……」


 二人は名前もわからない魚の身を二つに分け、それを食していく。


 魚の身はとても柔らかくそれと同時に今まで食べた魚ととも違う新たな食感であった。


「う、美味い!」

「すごい。こんなの食べた事がない!」

「そうですか? だったら、さらにその衝撃美味しいものを食べてもらいましょう」


 そう言ってソラは蒸しあげた魚を串に通し、蒸している間に作ったタレにつけて炭の熱で焼き始めた。


 焼き始めた瞬間、強烈な旨味の匂いが二人に直撃し、涎を垂らす。ソラが扇で仰ぐとさらに匂いが強烈になる。


 そしてそれが完成する頃には座っている席から体を前のめりに立ち上がり、完成を今か今かと待ちわびていた。


「はい、これで完成です。試食をどうぞ」


 そう言って三つの皿を三人の前に出した。リストとキッドは魚から発せられる匂いに耐えきれず、勢いよく魚に食らいついた。


 一口口の中に含むと、染み込んだ濃厚だが嫌みのない甘辛いタレと魚の旨味。蒸している故に柔らかく崩れてしまいそうな身は少しの焦げの部分でさえ、美味しく感じてしまうほどであった。


「そ、ソラ! これ! すごい! すごくおいしい!」

「ユイちゃんにそこまで言わせれるか…最近食べてなかったから、美味しくできたか不安だったけど」

「うん! おいしい! 食べてみて!」


 そう言って切り分けた魚の身をあ〜んと差し出すと、ソラもそれに答えて食べてみると、昔と比べて圧倒に美味しく出来上がっている為、驚きのあまり言葉を忘れてしまう程であった。


「そ、ソラくん。これは一体どんな魚を使っているんだ?!」

「これですか? 名前を言ったら驚きますよ。二人はどんな魚だと思います?」

「定番の鮭やタラだと思うが……」

「鮭の様に身が赤いわけでも、タラよりタンパクで食べやすい……。考えてもやはり答えが出てこない。この魚は一体なんなんだ?」

「正解は、“うなぎ”だよ」

「「な、何?!」」


 ソラが言ったうなぎとは王都や皇国で雑魚認知されている魚で、ぶつ切りのゼリーに付けて食べる全く美味しくない魚である。


 ソラが買った大量の魚が入った桶の中にはぬるぬるで細長いうなぎが大量に敷き詰められていた。


「ほ、本当にうなぎだ……」

「うなぎは蛇の様な外見と、砂が混じった身故に人気がなかったけど、調理法一つで絶品の魚に変わるんだ」

「なるほど……。これ程美味い魚なら当然人気も出るし、雑魚という認識から値段もかなり安い。これなら!」


 リストは味と安さから目が商売人の目に変わり、うなぎの美味しさは間違いなく人気が出ると確信していた。


「では、もう数品うなぎ料理を作って下町の人達に試食会を開いて味を見てもらいましょうか」

「ええ、そうですね! あ! あとでそのタレのレシピも教えてくださいね!」

「この程度のレシピであればいくらでも」


 その後、うなぎ関連の料理をいくつも作り、どれも美味しく出来上がった。


 リストは皇国にあるうなぎを独占し、ソラと共にうなぎの試食と販売を行い、あまりの美味しさに人気殺到。皇国での新たな名物のなるが、それは別のお話。

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