お説教と夕飯作り
ギルドの凱旋を見て、その中心にある人物に驚きつつも、二人はそれ以上何かするでもなく、その場を後にし、おそらく待っているであろう自分達が乗ってきた馬車に戻った。
馬車に戻ると、ソラとコレットはユゥリとエリーゼからお説教を受けた。馬車の中で正座をし、何を言葉を返さず、静かにお説教を聞いていた。
お説教を受けているその隣では、ロープで縛っていたライトが目を覚ましており、その姿を見て一瞬ユイが小さな悲鳴をあげながら涙を浮かびそうになった為、ソラ達は説教を受けている間、レミュート家長女であるミンにユイを預けた。
怯える様にミンの服をグッと握りしめ、身を寄せている。ミンはその姿にオロオロと動揺を隠せず、困惑した表情を浮かべていた。
「とにかく! もうあんな事をしてはなりません! 良いですね!」
「「は、はい……。申し訳ありませんでした……」
ユゥリもコレットもエリーゼも気づいていない様だが、今二人が叱っている二人のうち一人はこの国のお姫様だということに気付いているのか疑問に思いつつも、敢えてそれを口に出さなかったソラは、コレット共に二人に対して頭を下げる。それを見たエリーゼはため息を漏らし、ユゥリは頭を抱えた。
「……とりあえず、もう日が落ち始めていますので、ひとまず、お城へ戻りましょう。お母様が心配しております」
「はい……」
コレットはゆっくりと頷くと、ユゥリは馬車の手綱を手にとって、馬車を動かし皇城に向かっていった。
*
皇城に着くと、エリーゼ達を客室に、ソラ達をマリーのいる執務室に通された。
「……以上、彼らの協力により、魔物の討伐に成功しました。彼らの力なければ、もっと時間がかかっていた事でしょう」
ソラが報告を終えると、マリーは納得しながら頷き、同時にソラ達と一緒に来たエリーゼ達の存在を理解した。
「なるほど、わかったわ。ありがとうございます。無茶を言ってしまって」
「いえ。私めが、やりたくてやっている事ですので」
「そう? それなら嬉しいわ。このまま順調に功績を挙げて、貴族達に認められていったら私達のお願いも……」
「わあー!!!」
マリーが何かを嬉しそうに呟こうとしてそれをソラが大きな声で遮って、聞かれない様にした。だが、その突然叫んだ事により、ソラが最も聞かれたくない人物に深い疑問を持たれた。
「……? お願いってなあに?」
「え?! いや、別に。なな、何でもないよ!」
「そんな事ない! 絶対に何か隠しているもん!」
コレットはソラに詰め寄り、尋ねるようとするが、ソラはそれを伝えまいと距離を取る。自分とその好きな人とのまだ決まっていない婚約話を自分から…ましてや、その好きな人に自分から伝える事など、恥ずかしさの余り色々と耐えきれることが出来ない。
ソラは絶対に語ろうとせず、コレットは必死に聞き出そうとする。そんな光景を娘の母であるマリーは二人の姿を優しく見守りながら、孫であるユイの頭を撫でていた。
*
その後、何とかコレットに語ること無く、事なきを得たソラは特に意識したわけで無く、皇城の厨房にやって来ていた。
「さて、今日は何にするか……」
「あれ? ソラも来てたの?」
「ああ、コレット。ついね」
軽く会話をを挟み、厨房に並ぶ二人。
「晩御飯、何にしようか」
「夕飯まで約二時間ぐらいあるから…ハンバーグとかで良いんじゃないか?」
「ユイちゃん好きだもんね。お肉のミンチとかあったかな?」
慣れ親しんだ会話で本日の献立を決めていく二人。その場にいる調理師達の姿を気にも止めていない。
そんな二人の姿を見守る数人の影があった。
「何をしていらっしゃるのですか、王妃様?」
「見てからないの! 実の娘が将来の未来夫と一緒に料理をしようとしているのよ! 母親として、見守るのは当然です!」
「は、はあ……」
「姫様の料理か……。楽しみだなぁ〜」
「…………」
(何やってんだ…あいつら……)
背後にいるマリー、ライト、ミン、エリーゼの視線を感じながら、料理を進めていく二人。みじん切りやミンチ。テキパキと手慣れた様に料理を進めいく二人に周囲にいる調理師達はもちろん、背後から見守っていた者達も驚きの声を漏らす。
調理やソースなどの仕込みが終わりに差し掛かった頃、隠れていた彼女らの反対側からこちらを覗き込んでくる小さな影が現れた。
「お腹すいた……」
「そろそろ飯の時間かと思ってな」
現れたユイはそう言いながら調理室に入って来て、クロエがその後に続いて入室してくる。
調理師達は注意を呼びかけるが、二人は聞く耳を持たない。ソラ達はそんな二人に慣れているのか、軽く言葉を交わしながらご飯の準備を進めていた。
「今日はハンバーグだから、楽しみに待っててね」
「ハンバーグ! やったー!」
ユイは今夜の夕食がハンバーグだと聞いて両手をあげながら大いに喜んだ。
そして、ハンバーグが焼きあがるまで静かに待ち、人数分のハンバーグの盛り付けまで完成した。
「はい、お待ちどうさま。完成だよ」
「わあーい!」
完成に喜んだユイは早速食べ始めようとして、
「お待ちください」
一人の男が待ったをかけた。
「……この人は?」
「このお城の毒味をする人」
「ああ……」
コレットの説明に納得したソラは完成したハンバーグをナイフで少しだけ切り分け、小皿に乗せる。
「毒なんて使っていませんし、そういうのは細心の注意を払いましたから、大丈夫ですよ」
「ですが」
「あの子にご飯を食べさせたいんだ……」
「御託はいいからさっさと調べろ」
ゾクッ!とこの場にいた者達に緊張が走る。小皿を差し出された男は震えながらそれを受け取ると、ソラは笑顔を男に向け、周囲の緊張が一気に途切れた。
ソラ達は自分達の分の夕食を持ってこの場を後にした。毒味の男は小皿に乗せられたハンバーグを緊張の面持ちで口にすると、あまりの美味しさに目を丸くするのであった。
その後、調理師を含めるこの場にいる者達と皇王、ライトの分のハンバーグをみんなで食し、城内でとても好評であった。
*
「はあ……」
また感情的になってしまった……。
夕食直前、悲しそうなユイちゃんの表情を見て思わず感情が表に出てしまった。
一年前のあの日から…自分の感情が抑えられなくなってしまっている……。そのせいで少しコレット達に心配を掛けてしまっている……。ここの一年程の悩みの種だ……。
コレット達は王妃様に挨拶に向かい、僕は案内された部屋で今日の出来事に反省しつつ、体を休めている。
すると、閉めていた部屋の扉が開き、誰か部屋に侵入してくる。
「誰だ……」
「私……」
「コレット?」
部屋の中にやってきたコレットが部屋に差す月の明かりに照らされながら僕が休んでいるベットの側にまでやってきた。
「どうしたの? こんな時間にやってきて。戻らないと、ユイちゃんが心配しt……」
僕がコレットに疑問を言い終わる前に、コレットは僕の体に覆い被さる様に押し倒してきた。
「コ、コレット? 今日はかなり大胆だな」
「惚けてないで、お母様とお話しの意味を答えて」
「いや、でも…その……」
「……私には教えられないの?」
寂しそうな声を漏らすコレットに僕は慌てて否定する。
「い、いや! そんな事…ないけど……」
「なら、どうしたら教えてくれるの?」
小さくなっていく声を聞き取り、尋ねてくるコレット。困り果てた僕は、
「なら、僕を満足させてくれたら、その問いに答えてあげる」
どのみち、自分から折れることは目に見えてわかっていたので、せめてもの抵抗として、そう言い放った。
「そう……わかった。だったら今は聞かないでおくね」
「そ、そうか」
「そ、それと、ソラ」
「な、なんだ?」
突然顔を赤らめ始めたコレットは潤んだ瞳で僕を見ながら、不安げな表情を浮かべ、しかしはっきりと思いを口にした。
「今日、すごくさみしい思いをしたか…その…君を満たさせて」
「……ああ。わかった……」
寂しげな瞳で真っ直ぐに見つめられたソラは、コレットの言葉を聞いて、優しくコレットを受け入れていくのであった。




