ギルドの凱旋
盗賊達を撃退した後、ソラ達は何事も無く皇国に着く事が出来た。
今回は前回の様な出来事もなかったので、すんなりと門を通る事が出来た。ただ人数が増えてしまった為、入国料の予算がかさみ、支払金額か高くなってしまった(全面的にソラが支払い)。ソラは落ち込み、馬車の中で這いつくばっていた。
その後、皇城への道を進んでいると、ユイが何かを発見した。
「ママ。あれなあに?」
「あれ?」
「何々?」
「何も見えないけど?」
ユイが何かを発見した方に指差す。場所はソラ達がいる場所とは反対側の通り。エリーゼ達はそちらの方視線を向けるものの、何も見る事が出来なかったが、ただ二人、ソラとコレットは指差した方をソラは確認し、コレットは感じ取る事が出来た。
「なんだか、人がいっぱい集まっているね。喧嘩ってわけじゃないけど…何かを見ようとしている…のかな?」
「道の端に集まって中央の道を開けて何かを見ようとする…か……」
「ソラ、何か知っているの?」
「あんまり見た事が無いんだけど…多分“凱旋”だと思うよ」
「凱旋?」
全員の視線がソラに集まる。
「何年…もしくは何ヶ月って単位だけど、ごく稀にギルドのごく一部の中で最も強く、優秀で、最高位のギルドの証を持つものだけが受ける事が出来るクエストがあるらしく、それを受けただけでも賞賛されるが、この賑わいからすると、おそらくクリアしたって解釈でいい思うよ」
これも全部、おやっさんから聞いた事だけどな。と答えるソラ。それを聞いたユイは真っ直ぐに隣の通路をじっと見つめていた。
それに気付いたソラはユイの頭を撫でる。
「ぅ〜」
「……行ってみる?」
「! いいの!」
「一緒ならね。それじゃ行こっか」
そう言ってユイを抱き上げたソラは動いている馬車から降り、真っ直ぐに隣の通路に向かった。
「ソ、ソラ! ユイちゃん! 待ってよ!」
突然の行動に反応できなかったエリーゼ達はただ呆然と眺めているだけだったが、いち早く意識を取り戻したコレットはすぐさま馬車から降りて二人を追いかけた。そのコレットの後ろ姿もエリーゼ達はただ呆然と眺めていた。
*
民衆の最後尾に並び、道の中央を歩いている人達に視線を向ける。
一人は堅いの大きな男。かなり大きか、重そうな鎧を身に纏っている。しかし、別段苦しそうというわけでは無く、むしろ余裕を見せながら歩いている。
もう一人はマントをつけ、黒いハットを被っている見るからにウィザードの女性。自身のスタイルを強調する様なかなり痛々しい服を着ている。特に胸の部分を。
そしてラスト一人は三人の中では唯一真面目そうな人で、腰に下げている異国の剣である刀や珍しい青色の髪に思わず目を引いてしまう。
それ以上に驚く事に、真面目そうな人だと思っているのに、それを認められない自分がいたからである。
(うそ……。あの青髪のにいちゃん…どう見たってキッドじゃん!)
それはまさに知り合いであるキッドの姿であった。
「……ソラ。あの人って……」
「ああ……。キッドで間違いと思うよ……」
「あら! あんた達、キッド様を知っているのかい?」
「キッド…様?」
道の中央を歩いているキッドの名前を言うと、すぐ目の前にいたおばさんが話に混ざってきた。
「様って、どういう事ですか?」
「知らないのかい? なんでも昔、中央国でとある姫さまの誘拐事件が起きらしいのよ。その姫様を助けたのが当時学生だったキッド様だと言われているわ」
「それで一年前、そのお姫様と結婚したらしいのよ」
「け、結婚ですか?!」
「ええ。今、彼がここにいるのは皇国のギルドのメンバーを戦争に参加させる為らしいわ」
なるほど…だからそう言われているのか……。
それにしても、結婚か……。
おばさんにそう言われ、城でのアッシュの話を思い出していた。
*
「お主に一つしてほしい事があるのだ」
「してほしい事が…ですか……」
今まで話した中で、その表情は二年前のあの事件の時の様な真剣な表情であった。
「うむ……。実はな……まあ、当然のことなのだが…コレットに婚約の申し出が来ている」
「……………ほう」
「それが一つや二つならまだしも、十や二十。それ以上なのだ」
「……………………ほう」
つまりそいつらを全員殺れと……。
「そこでだ。君には……」
「はい……」
「あの子と婚約関係を持ってほしい」
「…………はい?」
今……なんと?
「あの…今、何と申しましたか?」
「私の娘を嫁としてもらってほしいと申したのだ」
聞き間違いかと思い聞き返してみるも、やはり同じ返答が返って来た。
「な、なんでそんなことを?!」
「自身の利益以外に考えもしない輩に娘をやる事になんの意味がある。それに、あの子の幸せを考えると、君しかいないと思ってな」
「で、でも、そういうのはコレットの気持ちを第一に考えて……」
「あの子の目の前で、同じ事を言えるかい?」
「………」
皇王様の問いかけに、僕は答える事ができなかった。
*
その後、色々と言い訳を口にしたのだが、まともに口が回らず、結局曖昧なまま、話が終わってしまった為現在がどうなっているのかは分からずにいた。
「結婚…か……」
「? どうしたの?」
「いいや、なんでもない。それにしても、あいつってそんなに強かったのか……」
強いって事は、何か学べる事があって事だよな……。
……“円”を使ってわざと触ってみようかな。
僕の“円”は直径二十メートルで、コレットの半径一キロと比べればまだまだではある。ただ僕が使えるこの二十メートルはその範囲内なら自由に操作が可能であった。
通常、魔法で使う“円”は言葉通り、自身を中心に円を描いているのだが、僕の場合視線の先から二十メートルのまでが円であり、その範囲内であるのなら自由に操作が可能なのだ。
今いる場所から道の真ん中にいるキッドまでの距離はおよそ十九メートルぐらい。円の範囲をギリギリかすめている。
あいつが円の存在をしているのなら、おそらく僕より才能や実践経験は上。もしかすると、模擬戦を行えて、さらに何か学べるものがあるかもしれない。
……試してみるか。
円をキッドに向けて伸ばそうとしたが、それをコレットに気付かれ、不自然な笑顔に圧倒されて、乾いた笑みを浮かべながら視線を逸らしつつ、凱旋を行く三人を静かに見守るのであった。
(さっきの奴等………もしかして………)
先程視界に移った男女の姿に、自身の記憶にある二人が思い浮かび、現在の二人の姿に安心して、思わず笑みをこぼすのであった。