子供の涙はすごいのです!
ユゥリと合流を済ませた僕達は村長に報告を済ませ、皇国に戻ろうという所で、問題が発生した。
「……どうして君達まで付いてきているの?」
「いいでしょう。久し振りの再会なんだから」
エリーゼさんが僕達の後を追ってトリュシュまで乗って来た馬車までやって来ていた。エリーゼさん後ろの方ではエリーゼさんのお仲間がその後ろをぞろぞろと歩いてくる。
馬車に乗って帰ろうとする僕達は後ろをついてくる彼女等をどうしようかと悩んでいると、カイと呼ばれた一人の男が話しかけて来た。
「おい、お前。エリーゼさんの事を知っているようだったが、一体何者なんだ」
「……ここは普通、『名を尋ねるなら、まず自分から名乗ったらどうだ?』とか言うんだろうけど、面倒だから話すよ。ソラだ。エリーゼさんとは姉弟ようなものだ」
「?! その名前、もしやお前、あの落ちこぼれか!」
「……おちこぼれ?」
「頭の悪い人だよ、ユイちゃん。それにしても、よくそんな昔呼ばれてた呼び名を知っているね」
「黙れ! 忘れたとは言わせないぞ! この俺、カイ・レミュートの名前を!」
「カイ・レミュート? 聞いたことある名前だな」
以前にも聞き覚えのある名前に一瞬頭を悩ませるが、すぐにその名前を思い出した。
「……ああ! 思い出した! 『ズッコケレミュート三兄弟』か!」
「「「誰がズッコケ三兄弟だ!」」」
ズッコケの部分に強く反応してカイと、恐らくレミュート三兄弟であるトムとミンが声を上げる。その光景に困ったような笑みを浮かべるコレットとエリーゼさん。そんな二人を先程からずっと見つめている男が約一名。
「……お久し振りです、こなんさん。いえ、コレット様と呼べばいいんだろうか」
「? ……えっと、どちら様ですか?」
「お忘れですか? ライト・ホプキングです」
ソラはカイ達がいる事と『ライト』という名前になんとなくそうなのではないかと思っていたが、予想通りだった。
「あ、ああ……。ホプキングさんですか…お久し振りですね。お元気でしたか?」
「ええ、本当にお久し振りです」
なんだか…仲が良さそうだな………。
「僕は今、あの中央国魔法学校に席を置いてありまして、そこで優秀な成績を収めております」
「そうだったんですか……。私も、近い後そちらに通う事になっております」
「でしたら、僕達と共に中央国に向かいませんか?」
「…………」
「おい、聞いているのか」
「ああ、聞いている聞いてる」
コレットとホプキングの会話を聞くのに集中していた為、カイが何を言っていたのか全く耳に入っていなかったが、尋ねられたので適当に返事を返した。
「いえ…私はしばらくの間は中央国に向かう予定はないので……」
「君のような優秀な女性は早い段階で多くの事を学んだ方がいい。それに、これはあなたの為に言っているのですよ」
まるで含みのある言い回しをするホプキング。出発の準備が完了したのか、ユゥリはコレットの側に近づいていく。
「コレット様。皇国に出立する準備が整いました」
「わ、わかりました。では……」
「いえ、皇国に行く必要はありません」
二人の間に口を挟んだホプキングは悪びれもせず言い放った。
「コレット様はこれから僕達と共に中央国に向かうのですから」
「?!」
こいつ……殺しておくか………。
「ま、待ってください! 私はまだ、中央国に向かうつまりはありません! ですので」
「それはそこにいる落ちこぼれの所為でしょう? 力も無い愚かな人間か為にあなた様が気を使う必要はありません」
ホプキングは無理矢理にでも中央国に連れて行こうとコレットの腕を掴んだ。
「は、離してください!」
「これも世界の為なのです!」
「イタッ!」
………………コロスカ。
ガチャリとリボルバーを取り出すと、正面にいた三人は小さな悲鳴をあげるが、そんな事はどうでもいい。
コレットヲコワガラセ、イタイオモイヲサセタコイツヲイマココデコロス。
そう思い、銃口を向けようとしたその時、
「ママを離せ!」
コレットとエリーゼさんの間にいたユイちゃんが大きな声を出して、ホプキングの足をポコポコと殴り始めた。
その姿に冷静さを取り戻し、握っていたリボルバーを仕舞う。
そうだ。ユイちゃんだってママが嫌がる事をされるのは嫌なのに、そのユイちゃんより先に冷静さを失ってどうする。
僕はホプキングを睨め付けながら少し様子を見守る事にした。レミュート三兄弟はリボルバーを取り出したあたりから、何も喋らず、成り行きを見守っている。
ホプキングは自身を殴っている女の子に視線を落とす。
「……ママという事は、君はコレット様の娘さんですか」
「そ、そうだ! ママ酷いことしてるあんたなんか」
「あんたなんか……なんです?」
「ヒィ!」
ホプキングはいつもと変わらない笑みを浮かべると、ユイちゃんは短く悲鳴をあげる。
「あれ、おかしいな? 僕が笑顔を見せると、いつもみんな喜んでくれるのに、悲鳴をあげるなんて」
今のホプキングは恐怖以上の何者でも無い。
ホプキングは不思議に思い、手を触れようとして、ユイちゃんはホプキングに向かって思いっきり体当たりをした。
コレットを掴んでいた手が離れ、少し距離が出来ると、エリーゼさんがコレットを支え、ユゥリさんが二人を隠すように前に出る。
「くっ! 子供が!」
ホプキングは痛みで怒りの表情を露わにし、体当たりしたユイちゃんを叩こうと、手を大きく振り上げる。それを見たユイちゃんは顔を歪ませ、目頭に大粒の涙を浮かべ始めた。
これは…まずい!
ユイちゃんの様子に気付いた僕はすぐに魔導を使い、魔導の壁を僕を含めた四人を包み込むようにして張る。コレットも同じ様にユゥリさんとエリーゼさんに触れて、その体を魔導障壁で包み込む。
瞬間、ユイちゃんは涙を流し、泣き叫んだ。まるで衝撃波の様な泣き声が突如にして響き渡り、周囲にあった植物達を一瞬にして枯れ、消滅した。
その泣き声をもろに受けたホプキングは体の原型を残しつつも、パリンッ!と割れる様な音と共に地面に横たわった。
衝撃波が止み、張っていた障壁を解除する。解除すると、慣れていなかったエリーゼさん達はその場にヘタリと座り込み、呆然としていた。
ユイちゃんは未だにその場で涙を流しており、障壁を解除して、僕達はすぐにユイちゃんの元へ駆け寄った。
「ユイちゃん。もう大丈夫だからね」
「ふえぇぇん!! ママ!!!」
「大丈夫。ありがとうね、ユイちゃん」
「二人とも大丈夫か?」
コレットがユイちゃんを抱き締めると、ユイちゃんはコレットの胸に顔を埋める。コレットはお礼を言いながら、さらに強く抱き締めた。僕はそんな二人に尋ねると、大丈夫だと頷いたコレットを胸の内にあるユイちゃんをを包み込む様にして抱き締めた。
コレットは少し安心した様な表情を浮かべるが、逆に安心したユイちゃんはさらに涙を流し、僕達は慌てるのであった。
その後しばらく、ユイちゃんが泣き止むことはなかった。
その光景を温かく見守るユゥリ達だったが、たった一人、とても面白く無さそうな表情を浮かべる人物がいた。