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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
2年後の世界
130/246

トリュシュの森

「クエストですか?」

「ええ、そうなの」


 伯爵の息子との決闘を開始数秒で終わらせたソラはその日の夜、コレットの母親であるマリーに呼び出されていた。


「伯爵の言伝に、あなたの力は夫が収めている皇国の領地中に響き渡るでしょう。そうすれば、力()()ならば、何の問題もなくあの子を護衛できるでしょう」

「つまり、私には功績が足りていないと?」


 マリーは小さく首を縦に動かす。


「実績の無いものにあの子を任せておけませんって抗議の手紙が沢山届くことは免れないでしょう。しかし、私やあの人が指名して依頼するクエストをあなたが完遂すれば、それもある程度は緩和される」

「その為に私を呼び出したと……」

「ええ。受けてくれないかしら?」

「皇王様の依頼を受ける以上、奥方であらせられる王妃様の依頼を断る事はありませんが…私は何をすれば?」

「一つはここから近くにあるトリュシュという小さな村に出たブルー・ベアーという魔物討伐か捕獲。もう一つは町の活性化として新たなこの国の名産を作って欲しいのよ」

「国の安全と活性化…ですか……」

「それでは、お願いしますね」



 *



 マリーの依頼を受けたソラはブルー・ベアーが出ると言われるトリュシュに向かっていた。


「で、何でコレット達まで付いてきてるの?」

「心配だったんだよ。いけない?」

「だめ?」

「いけなくもないし、ダメって事も無いけど…なんだかなぁ……」


 誰にも言っていなかったにも関わらず、何故か付いて来ていたコレットとユイにため息を漏らす。


「もうちょっと親を心配させない様にする事は出来なかったのかな……」

「お父様もお母様もソラの側にいる方が安全だって言ってくれてたし、それにソラ一人で行かせたらむしろトリュシュの人達の方が心配なんだって」

「うぐっ……」


 確かに、あれだけの力を見せつけられればその心配の意味もわかるソラにはその言葉を言い返す事ができず、押し黙った。


 そしてため息を漏らしながら、ここまでソラ達を馬車で運んで来てくれた騎士団のユゥリにお礼の挨拶を口にする。


「ありがとうございます、ユゥリさん」

「いえ、私は己がやるべき事を全うしているだけですので」

「ですが……」

「私の(めい)は、姫様を無事、皇王様の元へ送り届ける事です。ですのでこの程度、別に苦ではありませんので、お気になさらず」


 ソラ達を乗せている馬車の手綱を引っ張っているユゥリの方に顔を出してお礼を言うと、自分の仕事ですからと言われ、それ以上言葉を返すことが出来なかった。


「トリュシュまでまだ半時ほど掛かりますので、どうかごゆるりと」

「……ユゥリさんがそういうのであれば」


 ソラは荷車から出していた首を引っ込めて広い荷車の中で、自然にコレットの隣に座った。


「ところで、ユゥリさんはどうして皇国の騎士団に入ったんですか?」

「姫様、私はあなた様の騎士なのです。ですから、私目に敬語などは……」

「いいから。教えてくれませんか?」

「はあ……。私が騎士団に入隊したのは、田舎で暮らす母にお金を送る為とあとは行方不明になった父を探しています」

「行方不明って……」

「皇国にいるという手紙が何度も届いたのですが、ある日からぱったりと途切れ、その後消息が分からなくなりました。ですので、その父を探す為に騎士として働きながら、父の事を探しているのです」

「そうだったんですか……」

「お父様に頼んで、探すのをお手伝いしますか?」

「い、いえ! そこまでしてもらわなくて、十分でございます! お気持ちだけで……」


 ユゥリが遠慮しながらコレットの申し出を断ると「いつでも相談してください」と言い、ユゥリはそれに頷いた。


 その後、トリュシュまでの道のりをたわいない話をしながら馬車を進めた。



 *



 トリュシュに到着すると、村長に一言挨拶を済ませると、ブルー・ベアーが生息する森の方に向かった。


「お、お待ちくだされ!」

「はい?」

「実は、中央国から依頼を受けた者達が森に入っておりまして、ですので、あなた方が来ていただかなくても……」

()()()()()()()()。討伐をしっかりと確認したのち、連絡等を含めて見届けておきたいとあったので」



 *



「聞いてない……」

「あれれ? 言ってなかったか?」

「言ってないよ! 皇国と中央国からの二重依頼なんて!」


 森の中を二人で進みながら、ソラの隣で頬を膨らませながらコレットは少し睨み付ける。ソラはそれを特に気にしている様を見せず、言葉を返す。


「皇国の人達が受けてくれなかったから中央国に依頼した。よくある話だろう」

「それは…そうだけど……」


 ソラの言葉に少し納得がいないコレットは下を俯きながら言葉を返そうとするが、言葉が出てこない。


「ギルドの人達も騎士団も、命あっての商売だ。危険なものは避けて通るのは当然だろう。だから、ユイちゃんをユゥリさんに預けて待っている様に頼んだんだろう」

「うん……」

「それに、ギルドや騎士団の人達の代わりに僕達であの村の人達をも守ればいいんじゃないのか?」

「! うん、そうだね!」


 ソラの言葉にようやくやる気を出したコレットは「やるぞ!」と気合を入れながら森を進んでいく。その姿に少し頬が緩んでいると、森の奥の方で大きな爆発音が聞こえた。


「!」

「始まったか」

「行こう!」


 ソラ達は急ぎ足で爆発音が聞こえた森の奥へと進んでいく。戦闘どんどん激化していっているのか、大きな音がそこら中から聞こえてくる。


 大きな音に混じり、大人よりも若い青年の様な声が耳に届いてくる。


「(まさか、この依頼を受けているのって、まだ子供?)コレット、周囲への警戒は怠らないで。もしかすると、取りこぼしがあって、大惨事を起こすかも!」

「わかった! 『(えん)』を使って周囲を見張ってる!」


 コレットが目を瞑ると、ソラはコレットの手を繋ぎ、足を止める。すると、コレットから小さな風が起こると、ゆっくりと目を開く。


「動く人影は五人。近くには魔物さんらしき影が一つ。大きさは人よりも、少し大きな…かな。他には何もなさそう」

「コレットとしては上出来だと思うよ。クロエとかは山一つ分は軽く『円』の範囲内だがら」


 この場にいないクロエの凄さを今更ながら感じていると、急に森中が静かになった。


「?! 魔物が真っ直ぐにこっちに向かって来てる!」

「何?! あいつら、取り逃したのか?!」


 コレットが魔物が近づいて来ている事に気付くと、ソラはコレットを守る様にして前に出る。すると、大きな巨体がズシンッ!と森の草木を掻き分けて現れた。


 現れた魔物は全長二メートル程の青い体毛に身を包んだ熊型の魔物だった。


「薄々感付いていたが、僕、熊関連に何かされたかな?」

「え、えっと……」

「奈落で殺された時とか、ユイちゃんに出会うきっかけになった理由って、熊型の魔物だったし!」

「た、たまたまだよ」


 ソラが左手で小さく拳を握りしめながら熊から視線を逸らすと、コレットはそんなソラをなだめている。しかし、そんな二人を遠慮無しに青い熊が爪を立て、体を大きく広げながら、ソラ達に襲いかかる。


 大きく腕を振り上げでソラ達を切り裂こうとした次の瞬間、ソラは熊の顎を強く押し飛ばし、仰向けのまま宙を舞い、地面に倒れこんだ。


「ふぅ……。かなり弱かったな」

「簡単に吹き飛んだね」


 ソラが手をパンッパンッ!と払い、コレットは仰向けに倒れている熊の様子を確認する。熊は仰向けになったままピクリとも動かない。


「おいおい。一撃で青天井かよ」

「意識はないみたいだけど、まだ生きているかな?」

「気絶する程力は出してないはずなんだけど……」


 ソラ達が動こうとしない熊の様子を確認しようとしたその時、熊が現れたのと同じ方角から武装をした男達が現れた。


「くそ! ブルー・ベアーは一体どこに……?! これは……」


 男達の中で、最もリーダー的男が辺りを見渡しながら草木を掻き分けて現れると、倒れている熊を発見する。


 その後、続々と現れた男達はソラ達の存在に気がついた。


「君達、ここで何があったんだ?」

「えっと…そっちからその熊が突然現れて、襲って来たので、顎を強く殴ると、仰向けに倒れてそのまま動かなく……」

「この熊を殴った?!」


 男の近く佇む男は驚いた様に熊とソラを交互に見る。


「それよりも、怪我ないか?」


 しばらく惚けて、ソラ達を心配するリーダーの男。熊を通り過ぎてソラ達の前に立つと、心配した様に尋ねてきた。


「こちらは怪我ひとつありません。問題なしです」

「そうか、なら良かった」

「役はねぇよ。こいつは俺達の獲物だった」


 ソラは丁寧に言葉を返すと、安心した様に息を漏らす。しかし、そんな中三人目の最後の男が不機嫌そうに横たわっている熊に指を指す。


「こいつは俺達の獲物だった。それ横から取られるのは許されねぇ事だ」

「やめろ、()()

「しかしだな、()()()! これは……」

「こんな状況になったのは、こいつを取り逃がしたの俺の責任だ。非は俺にある」

「だけど……」


 カイとライトと呼ぶ二人の会話が少しずつ白熱していく。他の仲間達は、その会話に聞き慣れているのか、ライトと呼ばれる男の隣にいるものや、離れて見守っている女二人は呆れたり、ため息を漏らしたりしている。


「あの〜」


 二人の会話が本格的に白熱する前にソラは二人の話に口を挟む。


「こちらとしては獲物というのはそんなに興味がありませんので、手柄はそちら持ちで構いませんよ」

「な?!」

「いいのか?」

「ええ、いいですよ」


 ソラは自身が倒した熊の手柄をあっさりと譲り、ソラを除く全員が驚きの表情を浮かべる。


 中で一番驚いていたのはソラの隣にいるコレットであった。


「ちょ、ちょっとソラ!」



「……?! ソラ?」



「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ! 手柄を渡しちゃったら、あなたの功績が!」

「町の活性化も頼まれているんだから、そっちで挽回するれば問題ないだろう。それに、この依頼はトリュシュの人達が安心して暮らせる様にする為に受けたんだから誰が手柄とかは別に構わないだろう」

「それはそうだけど……」


 どっと項垂れるコレットは、少し口を尖らせながら、手柄の件を渋々了承した。


 そんな中、五人の最後尾にいた女の子がソラの顔をただじっと見つめていた。


「まさ…か……、ほん、とうに……」






「ソ_____」







 瞬間、横たわっていた熊の指がピクリと動き、勢いよく起き上がった。


 起き上がった熊は「Guooooooo!!!」と正面にいる最後尾の女の子を引き裂こうと爪を立てた。仲間達は一瞬何が起きているのかわからず、反応する事はできず、女の子は熊の事に全く気付いていなかった。


 爪を立てて襲おうとする熊に仲間達は女の子を守ろうとするが間に合わず、無残に引き裂かれるのを黙って見守ることしかできなかった。





 ドパンッ!!!


 そんな音が聞こえなければ……。





 大きな音が四人の背後から聞こえると、熊の頭から何が飛ばし、後頭部から大量の血が吹き出す。額には小さな風穴が空いており、そこからだらだらと血が流れ出し、ドサリと横たわった。


 音が聞こえた背後を見てみると、ソラの手に四人には見慣れない近代的な武器を持っており、そして何より、ソラの瞳が黒色から青色に変化していた。


「大丈夫か、お嬢さん」


 ソラはコレット以外のものには近代的な兵器であるウィザード・リボルバーをしまうと、最後尾の女の子に無事かどうかを尋ねた。


 しかし、女の子は返事を返す事なく、どんどんソラの側に近づいていった。女の子がソラの顔に届くまで近づくと、ソラの顔をペタペタとまるで確かめる様に触れた。


「え、えっと……」


 ソラは困惑しながら目をパチパチとさせ、コレットどんどん不機嫌になっていく。女の子の仲間達も困惑して顔を見合わせている。しかし女の子はその事にも気付いていなかった。


 そしてしばらく触れ、疑念が確信に変わると、ポツポツと言葉を口にし始めた。


「やっぱり…ソラだ……」

「え?」

「ソラ!」


 女の子は自身の腕を首に回し、体を密着させる様に抱きしめる。


 ソラ達の顔には驚きや困惑の表情が浮かび、コレットに至ったは目頭に涙を浮かべ、必死堪えていた。


「ソラ!」

「ちょ、ちょっと待って! 君誰?!」


 ソラはこんな事をされる人に心当たりがなく、コレットの表情を見て慌てて女の子を見る離しながら、何者かを尋ねた。


 女の子は後ろに回していた手をソラの胸倉に持ってきて離れない様に服をぐっと握りしめながら、驚くほど簡単に自分が何者なのかを口にした。


「誰って…忘れちゃった? 私。エリーゼよ」

「え……。ええぇぇぇぇええ??!!」


 それは家族である二人の二年ぶりの再会であった。

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