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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
2年後の世界
129/246

力の一端

「依頼…ですか……」

「うむ。そうだ」


 依頼……。


 アッシュの依頼という名の頼み事をされ、ソラは頭を悩ませる。


 貴族や皇族の依頼となると依頼料はかなりのものになる。しかしそれと同時にかなりの高難易度のクエストと同等の依頼という事になる。


 それを踏まえて考えるとおいそれと「はい、やります」と答えることはできない。


「……取り敢えず、依頼の内容を聞いてもよろしいですか? 話を聞いて、それから考えさせていただきたい」

「うん、それでも構わないが、おそらく君はこの依頼を断ることは無いだろう」

「断言されるんですね」

「自身があるかな。では依頼の内容だが、お主にはある者の警護を依頼したい」

「警護…ですか……」


 警護の依頼と聞いて、自分自身ではなく、かなりの信頼の置ける貴族なのだろうと思い、さらに詳しくアッシュの話に耳を傾ける。


「実はその者には中央国協同魔法学校に入学が決まってあったのだが、とある事情でそれが叶わず、今年から編入という形でそちらの学校に復学させたいと私は考えいる」

「はぁ……」

「だが、それまでの道中には当然危険が多い。そして編入した学校内で変な虫がついてもかなわん」

「はあ、なるほど……」


 少しずつ察し始めたソラは「なるほど、父親とはこんな感じか」と呆れ半分、勉強半分に話を聞いていた。


「そこでお主の出番だ」

「僕…私がですか?」

「うん。お主にはその者を含め、我らを中央国に到着するまで同行する事、学校内で変な虫がちょっかいを出さない様に警護してほしい。もちろん、報酬は弾む」


 ソラがアッシュから頼まれた依頼の内容を聞いてそれを断る理由が無かった。しかし、それでも気になる事はある。


「……私なんかでもよろしいのですか?」

「なんかとは?」

「私には一切の功績がありません。己の為に、自身の研鑽の為に、日常を過ごしておりました」

「今こそ、目的を持って日常を過ごしておりますが、それでも世の者達には私の存在を好ましく思わない者などがおります。その他にも貴族でも無ければギルドの者でもありません。一平民。それが私です」

「そんな私が皇王の信頼の置ける者の護衛をすることなど……」


 ソラは身分や功績の話をし、貴族や騎士隊のことを考えて断ろうと考えいたが、アッシュは断ろうとするソラに口を挟んだ。


「私は同じ以外にこの依頼を頼もうとは思わないのだ」

「!」

「受けてくれるな」

「は……!。その依頼、謹んでお受けいたします!」


 アッシュの依頼を深く頭を下げて依頼を受けた。


 コレットはソラと父親であるアッシュとの会話がひと段落すると、安心したようにほっと胸をなでおろした。


 そんな空気が執務室中に充満した時、突然扉を開く者が現れた。


 扉を開いて現れたのは貴族の様な格好の男が幾人の兵隊を連れて現れた。


「お、お待ちください、伯爵!」

「ええい黙れ! 一平民如きが私の時間を煩わせるなど許せるものか!」

「……どうしたのかね、伯爵」


 伯爵と呼ばれた男の登場に頭を抱えながら何故やってきたのかを訪ねるアッシュ。ソラは頭をヘコヘコと下げて部屋の端の方に移動して控える。


「どうしたではありません! 何故私の息子を中央国への推薦が取り消しとなったのですか?!」

「え?」

「うん?」

「い、いえ、要らぬ口を挟んでしまい申し訳ございません」

「ふん。まあ、礼儀というのは教え込まれている様だな。貴様の親に感謝するのだな」

「ありがたきお言葉」


 親…いないんだけどな……。


 内心そう思っていたソラは拳を作り強く握り締める。それに気付いたコレットは文句を言おうとして頭に響いたユニの制止の声が聞こえ、ぐっと堪える。


「推薦を断った理由か……」

「はい! 是非お教え願いたい!」

「それはな、私が最も信頼する男が行方不明となっていた連れて帰ってきたからだ」

「「は……?」」

「元々、その男は王都の者なのだが、愚か貴族達の者達の事もあって、推薦が取り消しとなった。ならば、我が国の者として、我が娘と共に推薦をしようと思っていたのだが、その時は未だ帰って来なかった為、娘を含めてその者の分を開けていたのだが、それに無理矢理割り込んだのは、お主であろう」

「ですが、帰ってきていないのならば!」

「いいや、娘なら帰ってきた。その者がしっかりと連れて帰ってきてくれたぞ」

「な!」


 アッシュの言葉でようやく部屋の隅で控えている平民がここにいる意味を理解した伯爵はキイッ!とソラを睨め付ける。ソラは顔を上げず、静かに控えいる。


「貴様か…貴様が!」

「ソラ、面をあげよ」

「は…しかし……」

「……」

「かしこまりました……」


 ソラは皇王に言われた通りに言われ顔を上げる。


「先程申した通り、依頼の為に、娘と同じ学校に通ってもらうことになるが、構わんな。もちろん、そなたの学費は私が持とう」

「そう言ってもらえるのはありがたいのですが……本当によろしいのですか?」

「私の娘を護衛してもらうのだ。この程度の支援なんぞ、どうという事はない」


 皇王は自分の娘を守る為というのであれば、どんな支援でも惜しまないつもりであった。ソラも、コレット及び、娘のユイのを絶対に守るつもりだった為、支援をして頂く事は大変喜ばしい者であった。


「お、お待ちください!」


 しかし、それに納得のいかない伯爵は当然待ったをかける。


「なんであるか伯爵」

「姫様のお帰りには大変喜ばしい事でございます。ですが、この様な男に姫様を預けるのは如何なものかと思われます!」


 伯爵は平民(ソラ)には姫であるコレットを守るのは相応しくないとはっきりと口にして、顔を上げたソラはソラは少しばかり顔をしかめる。


 それに気付いたアッシュは面白そうと思い、少し頬を緩ませながら伯爵に訪ねる。


「ほう……。では、誰ならばお主はいいと思う?」

「でしたら僭越ながら私の息子はどうでしょう?」


 イラっ!


「私の息子はこの皇国魔法学園を首席で卒業しております。ですので、私の息子と共にいれば、()()()()()いいでしょう」

「……そうか」


 アッシュは伯爵の言った言葉の中に、とある意味が込められていたことに気付き、少し眉をピクッと動かす。しかし、アッシュはそれ以上に衝撃的な事が起き、驚きの表情を浮かべる。


 バキバキバキ!!!


 何が砕ける様な音が突然響き渡り、その音の方視線を向けると、ソラが強い魔力を身に纏い手をつけている床を激しく砕けている。


「「……」」

「……何か?」

「い、いや……! そうだな。なら、君の息子とそこに居る彼。その二人が決闘をし、勝利した方に娘の護衛を頼みたい」

「嫌でございます。()()()()()()()()大変なんですから」

「?! いいでしょう! その勝負お受けいたします!」


 皇王が提案した決闘という言葉にソラがまるで挑発をする様な言葉を口にすると、伯爵はあっさりと承諾し、決闘を執り行う事となった。


「…………ありがとうございます」

「構わないよ。私が望んで持ちかけたのだから」



 *



 執務室から皇城の庭に降りてきたソラは庭の中心で大きく息をする。


 目を閉じ、瞼の裏に浮かぶ光景はあの時のレインの姿。そして、あの時の涙を流すコレット。


 当時の事を悔やみながら感傷に浸っていると、引き攣った笑みを浮かべながら伯爵の息子が現れた。


「ヒッヒッヒ! お父様。まさか姫君の前でこんなお膳立てを用意して貰えるなんて、感激ですよ」

「ヒッヒッヒ! 気にする事ではありませんよ」


 そう言って現れた伯爵親子はソラを見るなり薄気味悪い笑いを出しながらニヤニヤと笑い合っていた。


 それを見たコレット家族はの女性陣はすごく嫌そうな顔をしていた。


「それではお父様。僕はあの平民にお灸を据えればよろしいのですね」

「ええ。遠陵なくやってしまいなさい」


 伯爵の息子がソラの方に指差すとソラは軽く柔軟運動を行い、体を伸ばしていた。


「ふむ。ではソラくん。もう準備はいいかな?」

「ん〜! ふう……。はい、大丈夫です」

「では、僕の引き立て役として頑張ってください」


 準備完了した二人はお互いに構える。伯爵の息子は杖を悠々に構え、ソラは左手を軽く振ると、大きく腕を振り下ろす。


 周りにいた兵士達は面白半分でわらわらと集まって居るが、コレットやユイ、クロエ達は二人の横にはおらず、ソラの背後に隠れるようにソラを見守っていた。


「それでは……始め!」


 決闘を開始したと同時に息子は持っていた杖を振り、魔法を放とうとする直前、ソラは振り下ろされていた手を大きく振り上げた。



 *



「おい、なんだあれ?」


 皇国の城下で平民達が空を指を指した。空には城を覆い尽くす程の巨大な氷山が現れた。




 城内では、そびえ立つ巨大な氷が庭中を覆い、辺りにいた兵士達は寒さのあまりガタガタと震え、決闘の審判をしていたアッシュは自身の右半身が凍りついていた。ソラの相手をしていた伯爵の息子は顔以外の全てが氷に呑まれ、寒さと恐怖に震え上がっていた。


 氷を放ったソラは振り上げたを下ろし軽く手をぶらぶらと払うと、審判をしていたアッシュの方を見た。


「……僕…私の勝ちですよね?」

「あ、ああ。あれではこれ以上戦う事は不可能だ」

「なら良かった!」


 そう言って自身が放った氷に触れ、覆い尽くされている伯爵の中息子を巻き込まないように、炎を放つ。


 炎は氷を物凄い勢いで溶かし始め、巨大な氷山を消滅させた。


 氷を溶かし、自由になった伯爵の息子は腰を抜かし、地面に座り込む。ソラはそんな息子を気にも止めず、皇王の凍り付いていた半身を溶かした。


 そしてその隣にいた伯爵に視線をずらした。


「これで文句はありませんよね?」

「え…あ……」

「それと伯爵。私から二つ程お願いがあります」

「あ、お願い?」

「一つ目は、「将来的に」とか、コレットを物のように扱うの、やめてください。一瞬、ぶっ飛ばしてしまいたくなりましたので」

「は、はあ?」

「それと二つ目は、二度とコレットにちょっかいかけるような事しないで下さい。あんたの息子とくっ付けようしたものですから、思わず、()()()()()()()()思ってしまいましたから」

「ひぃ?!」

「これからは気をつけて下さいね」


 ソラは伯爵から離れると、コレット達の元に戻り、いつもの笑顔を浮かべる。


 脅された伯爵は恐怖に顔を歪ませながら、逃げるようにしてこの場を後にする。残された息子は同じ様に恐怖して父の後を追いっていった。


 アッシュはそれに逃げ惑う伯爵を見送れながら、ソラの方に顔を向ける。


 見るからに怒っているコレットと困っているソラ。


 その姿を見て呆れながらため息を漏らすのであった。

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