お婆様とその家族
「開門!」
城にやってきたソラ達はコレット及びガルドの説明の元、大きな城の門が開かれた。
「そういえば、この門を正式に潜るのは初めてだな」
「そうなの?」
「初めての時は意識が無い状態で運び込まれていたわけだし、二年前の時は殆どお忍びで隠れ隠れ出て行ったわけだから、少しばかり感慨に浸りたくもあるが、庶民的感覚からか、なんだかちょっと、苦手でもあるかな」
「そうなんだ」
「それに…こういう門を潜ると、ラベンダーとのあの嫌がらせ特訓を思い出してしまうから……」
「あ、あはは……」
ラベンダーという名前をソラが口にすると、コレットは納得した様に苦笑いを浮かべていた。
門を潜ると、中にな城へと長い道が続き、見た目の華やかさと違って、物静かなものだった。
「よくよく見渡してみれば、下町と比べて静かなものだな」
「これでも一応お城だからね。あまり騒がしくすると、色々と問題があるんだよ」
「自分の我が家に「これでも」って……」
コレットがさらっと自分の家の悪口を口にした為、ソラは呆れながらどっと項垂れるのだった。
*
城の中に入るといつのまにか言伝に伝わっていたのか、城にいた大勢の者達がコレットの下に集まり、頭を下げて行き、あれよあれよとコレットとユイがメイドや執事やらが連れて行き、その後を保護者代理がその後を続いて行った。
それを見守ったソラの前に一人の女性騎士が現れる。
「お初にお目にかかる、ソラ殿。自分はあなた様を皇王の下へとお連れする事になりました。ガルド隊所属、ユゥリと申します」
ユゥリ名乗る女性騎士が敬礼をして現れ、ソラの案内を申し出た。 ソラとクロエは断る理由もなく、案内を頼んだ。
しばらくユゥリの後を追い、城の中を歩いていると、城の庭が目に入った。
そこはソラ、そしてコレットのお父さんであるレインの事を思い出していた。当時の出来事が頭をよぎり、自身の拳をどんどんと強く握り締めいく。
「……………ソラ?」
「?! あ、ああ、悪い」
庭をぼぉーっと眺めていると、いつのまにか立ち止まっており、それをクロエに呼びかけられすぐに歩き始める。手を広げると、爪が深く突き刺さり、傷口から真っ赤な血が流れ出している。自分が予想していたより力が入っていた事に少し驚いてしまう。
傷が付いた手から流れ落ちる血で城の床を汚さない様に魔力で包み込む。それを見てソラは頬を緩ませた。
二年前の当時ではこんな事も出来なかったのに、今ではさも当然のように出来るようになっていた。
目を瞑っては今でもあの時の事を思い出せるからこそ、あの時決めた覚悟を再び胸に決め、ユゥリの後を追うのであった。
*
しばらく歩いていると、この城の執務室にやってきた。
「皇王様、王妃様。ソラ殿。ならびに、そのお連れの方をお連れしました」
「ありがとう。下がって良いですよ」
「は!」
執務室に入りそこにいた皇王達の頭を下げると、ユゥリとガルドを下げた。
ソラはクロエより少し前に出ると、しっかりと身に付けられた作法で膝をつき、頭を下げる。
「この度は、突然押しかけ上、このような場にお招きいただき、感謝の言葉もありません」
「「……」」
「以前は、しっかりとした挨拶もせず、突然いなくなってしまい申し訳ございません」
「「………」」
「……あの…何か?」
ソラが挨拶及び謝罪をしっかりと行うなう為に、慣れない作法をユニから教わったのだが、皇王様達は驚いたように静かにソラの様子を伺っていた。
その事に気付いたソラは静かに見つめている二人に顔を上げると、二人も慌てていた様子を見せる。
「い、いえ……。二年前の事や王国の宮廷魔導師様から、しっかりとした言葉遣いが出来ないものだと思っていましたから」
「あはは……」
王妃様の言葉を言い返すどころか、実際その通りであった為、引きずった苦々しい笑みを顔に貼り付けていた。
「仕方ありません。彼、今日この日の為に、相当言葉遣いの練習をしましたから」
「おおい!」
クロエはユニとの練習していた言葉遣いの件を暴露され、ソラは皇王の御前にも関わらず大き声を出し、恥ずかしさで、顔を赤くしていた。
空気が和み、皇王達から笑いが溢れ始める。その理由が自身の恥ずかしい話を暴露された事が理由であった為、恥ずかしさで顔を俯いていた。
「ふふふ。……ソラ様。伝えなければならない事があります。それが何かわかりますね」
「……はい」
和んだ空気が王妃の言葉で引き締まり、王妃の尋ねられた言葉にソラはおおよその検討が付いており、静かに頷いた。
「お主にはこの皇国を救ってくれたとはいえ、勝手に我が娘を誘拐したという大罪人として扱わなければならなかった所であった」
「……」
「連れて行くというのであれば、一言声をかけるのが礼儀であろう。二年間、何一つ音沙汰もなく、ふらっと帰って来れば、こうなる事は当然であろう」
「は、はい……。申し訳ありません……」
皇王はソラに対して不満をぶつけているのだが、今まで感じたことのない慣れない怒られ方に戸惑ってしまう。
「いくら無事に娘を連れて帰って来たとはいえ、お主は娘を連れて行った張本人でもある。後に、貴様にはしっかりとした罰を与える。それまで待ち、覚悟しておくことだ」
「は!」
罰という言葉を聞いて、仕方のない事だと既に腹を括っていた為、罰についてはすんなりと受け入れることが出来た。
「それでは、失礼しm……」
「いや待て」
「?」
退出しようと立ち上がろうとしてそれを皇王が呼び止める。
そして先程とは違ってとても優しい笑みを浮かべていた。
「……娘を守っていただき、ありがとう」
「い、いえ……」
本当に慣れないソラは戸惑いながら、上手く言葉を返す事が出来なかった。
「それと……」
「は、はい!」
上手く言葉を表す事が出来なかったソラにとって、話題を変えてもらうのは正直ありがたかった。
「うむ……、実はな___________」
*
コレットとユイはメイド達によって美しいドレスを身を包んで、ソラ達が連れて行ったであろう執務室に向けて地面をするスカートを持ち上げて、急ぎ足で向かう。
「ママ……。歩き辛い……」
初めて身に纏うドレスに戸惑いながら歩くユイにコレットは足を止めて、ユイで手を引き、ユイの速度で歩き始める。
そして執務室の前にまでやってくると、中が何だが騒がしくなっていた。扉をくぐるとコレットの親であるアッシュとマリーは楽しそうに笑い、入り口の近くで控えていたクロエは呆れ、その中心にいたソラはとても慌てている様子だった。
「ソラ〜。どうしたの〜」
「や、ユイちゃん?! それにコレットも?! べ、別に! ななな、何でもないですのよ?!」
「は、本当にどうしたの? 何かあったんじゃ……」
「ほ・ん・と・う・に! 何でもないから!」
ソラはやって来たコレット達に顔を真っ赤にして深く尋ねられないようにして、その慌てように圧倒されてそれ以上尋ねようとはしなかった。
「ふふふ」
「ははは。……久しぶりだな、コレット」
「あ、はい。ただいま戻りました。お父様。お母様」
「おかえりなさい、コレットちゃん。それと……」
「?」
マリーはコレットの足元にあるユイに目をやる。見つめられたユイは見つめられた理由がわからずに、首を傾げる。
「あなたが、ユイちゃんね」
「う?」
マリーは立ち上がり、ユイの側にまで近付いてユイと同じ目線まで屈み込んだ。ユイは逃げるようにコレットの後ろに隠れた。
「私はマリー。あなたのお母様であるコレットのお母様。あなたにとってはお婆様…になるのかしら」
「……お婆様?」
「ええ。おいで」
マリーは大きく腕を広げユイを呼ぶ。ユイは不安そうにコレットの顔を見上げると、コレットは笑顔で頷いて「さあ」とユイの背中を軽く押し、前に出すと、ユイは駆け出しマリーに抱きついた。
「お婆様!」
「ユイちゃん」
「よかった……」
「ああ、そうだな………?!」
ユイとマリーが抱き合っている姿にコレットと安心して見ていたソラだったが、コレットのドレス姿に気付き、その美しさからすぐさま顔を晒した。
コレットは顔を晒したソラに首を傾げ、ソラの顔を覗き込もうとする。ソラは自身の顔を絶対に見せまいとどんどん顔を背けていく。
「……役者が揃ったところで、そろそろよろしいかな?」
「は、はい! 確か、頼みたい事があるとか……」
「うむ。その件なのだが……」
アッシュが少し悩みながら、ソラを見つめて、
「お主、私の依頼を受けてはくれないか?」
そう言ってきた。