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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
2年後の世界
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予想していなかった再開

 酒場を出たソラ達はユニ達が集めた情報を聞きながら、“コレットを皇城に送り届ける”という目的を完遂する為、真っ直ぐに城に向かった。











 はずだったのだが………。











「我等を謀った罪、ここで裁いてくれようぞ!」


(どうして…こうなった……)



 *



 僕達は今、城へ向かう途中で、皇国騎士隊に道を塞がれ、剣や杖を向けられていた。


 騎士隊の先陣を切って、剣を向けているのは、先程コレットを『俺の女』と(のたま)った貴族士官の男であった。


 酒場で剣を振り下ろした右腕は力加減を誤った為、容赦なく叩き折った所為か、首からかけられている布に腕を通しており、ボロボロになった(した)顔をはガーゼ…もとい、包帯と湿布で治療されていた。


 閑話休題。


 とにかく、そんな彼が、戦闘態勢を取りながら、僕達の道を塞いでいた。


 謀ったと言われても……正直身に覚えがないのだが……。


「えっと……。取り敢えず、謀ったとはどういう……」

「黙れ逆賊!」


 話をしただけで一気に『逆賊』まで位があった。


 そこまでした覚えは本当にない。


「貴様の様な者がいるからこそ、悪は無くならないのだ! 諸悪の根源である貴様をここで退治してくれる!」


 こいつ本当に()ってしまおうか……。


 拳をグッと握り締めて、もう一度殴り飛ばしてしまおうとする感覚に襲われる。


 コレットは当然の様にそんな僕をどうどうと落ち着かせる。


「まあまあ、落ち着いてソラ」

「「「?」」」

「だがなぁコレット、これを怒るなというのはちょっと理不尽じゃないか……。僕だって、自分の事を“人類の絶対悪”とまで言われたら、流石に怒る。認められていないけど、ユイちゃんの将来辛い思いをする様な事があってはないんだから」

「結局怒る理由がユイちゃんの為になってるよ」

「そうだ〜! あと、ユイは認めないぞ〜」

「あ……」

「「「??」」」


 士官が言った言葉に怒りが湧き上がるも、その理由がユイちゃん為である事をコレットに言い当てられると、恥ずかしさに口を尖らせる。


 そんな話をしているソラ達は気付かないが、三人から一歩離れたい見ていたクロエ達はソラ達がお互いの名前を呼び合うたびに半数の兵隊達が首を傾げている事に気付いた。


「ええい! 我の前でいちゃつくではない! 貴様等、何者だ!」

「俺? 俺はソラだ」

(わたくし)はコレットと申します。この子は娘のユイちゃん」

「ユイです! よろしくお願いします!」

「よろしくお願いしますでh……」

「『(わたくし)』って……。君の一人称は『(わたし)』だろうに……」

「形式は大事な事だって、お母様から教わったもん。それに、そういうソラだって、いつも私達と話す時は『僕』なのに、他の人には『俺』って言ってさあ」

「メンドウ!」

「だよね〜」

「大切で安心できる人達に対して、自分の素を出すのはいけない事なの? それに、他者に対して虚勢を張るのは当然だろう」

「虚勢って言い切るんだ」

「ああ。舐められた態度を取られるのは面倒だろ?」

「……うん! そうだ!」

「や、ユイちゃんまで……」


 最初は自分に賛同していたユイちゃんが僕の方に肩入れをした為、困った様表情を浮かべるコレット。対照的にユイちゃんを味方にした僕は悪戯な笑みでコレットを見た後、優しくユイちゃんの頭を撫でる。ユイちゃんは気持ち良さそうに目を細める。


 そんな僕達を見てどんどん怒りが募っていく士官の姿に気付いたが、コレットが話しかける…いや、僕が話したいから、士官の視線を無視して、コレットと話し続ける。


「大切だった言ってくれるんなら、二年前も同じ様に読んでくれれ嬉しいかったな」

「でも、山籠り?に入る前にはもう殆ど、今の調子だっただろう。出会った時の事は帳消しにしてくれればありがたいんだけど……」

「それでも、だよ」


 ユイを挟みながら目の前にいるコレットと楽しく話し、それが内心夫婦様だなと思って顔がニヤける。


 そんな三人の会話に耳を傾けていた半数の兵隊は『二年前』や『山籠り』という言葉に徐々に昔の事を思い出して行き、冷や汗を流し始める。そして、『ソラ』と『コレット』という名前がその当時の本来の出来事を聞かされた者達は顔を青ざめて、どんどん後ろに下がっていく。


「貴様等! いい加減に!」


 兵隊達の様子に気付いていない士官はしびれを切らし、持っていた剣を俺に向けて突き付ける。そんな士官を潰そうと拳を作ろうとした瞬間、


「はいはい〜。ちょっと、お待ちよ〜」

「「「!!!」」」


 なんとも呑気な声で止めに入る男の声が聞こえてきた。


 兵隊達が後方からやってくる声の主の為に道を開き、ゆっくりとした足取りで僕達の元にまでやって来た。その姿は、魔族の象徴である尖った耳を前面に主張しているオールバックに額から二本のツノを生やした赤黒い褐色の男をしていた。


 いつの間にか、


「貴族さん。一体どうしたって言うんだ? わざわざこんな下町まで兵を連れて来て」

「そんな事決まっておりましょう、ガルド隊長! 此奴らは民達の前で、この私目を辱め、さらには、私を含め、四人の同胞にこれ程までに重傷を与えた! 民を守る皇国兵であり士官を務めているこの私を!」

「なるほどね〜。だから、罪人として捕らえるって事か……」


 男は顎下に生えた髭を弄りながら噛んでいた串をクイッと下から上に上げる。


 士官の言っている事が全てではないという事を理解しつつも、自身の立場上深く追求すれば、色々と問題になると思った男は渋々という風に納得した。そんな男を見ながら、何処かで会った事があるようなと頭を捻らせる。


「すまないね〜にいちゃん。俺も立場上「確保せよ」と言う事がしか出来ないわけよ。だから、ここはひとまず……」

「ああ! 思い出した! あんた、“俺様ガルド”か!」


 そうか、思い出した。


 確か、ゴブリン討伐クエストの時に、僕達が張ったテントを襲ってきたゴブリン達を指揮をしていた男で、俺様主義ではあったが、戦い方は肉体を使った正々堂々と戦う奴だ。


「久しぶりだな」

「久しぶり? 以前に会った事があったけか?」

「おいおい、そんなつれない事言うなよ……また氷付けにされたいと言えば、わかるかな?」

「?!」


 氷付けという言葉に強く反応したガルドは僕達の顔を覗き込むように確認すると、思い出したように声を上げた。


「?! お前、まさかソラか!」

「ああ。久しぶりだな」

「久しぶりも何も、二年ぶりだぞ! そんな呑気な……。はあ……。という事は、そっちのお嬢ちゃんが姫さまって事か……。これまたさらにお美しくなられて」

「そうだろう。……手を出したら、潰すからな」

「なんで坊主がそれを言う……今、何か言ったか?」

「いいや、なんでも」


 コレットが褒められ、何故か自分の事のように嬉しかった俺は胸を張って頷いた。……後半の言葉は聞こえていなかったみたいだが。


 僕達が昔の事を思い出しながら楽しく話していると、それに納得のいかない士官がガルドに尋ねる。


「な、何をしているのですガルド隊長! 早くその者達を捕らえ!」

「おいおい、そんな事をしたら俺の首が飛ぶじゃねぇか」


 ガルドか言った予想外の一言に士官の思考は一瞬停止する。


「……え? 隊長、それ一体どう言う意味で……」

「世界的に勝手に噂されている事は省くが、ここにいる女性はこの皇国の姫君、コレット・フォン・ジェラート様だ」


 ガルドがさらっと言った言葉に怒りが頭が追い付いていなかったが、ゆっくり状況を理解し始め、自身が今やっている行動にどんどんと顔を青ざめていく残り半数の兵隊達。


「なんだ? 名乗らなかったのか?」

「一応は名乗ったんだがな……」


 呆れながら士官を睨み付けると、士官は持っていた剣を後ろに隠すように手を引っ込めた。


「……取り敢えず、そこを退いて貰えるかな? まずは、コレットをお母さんの元にまで連れて行きたんだ」

「なら俺様も付き合おう。それに、こいつらの事も報告しなければならないからな」


 青ざめていた兵隊達の顔面蒼白となり、膝から崩れ落ちた。


 僕は自業自得だと、崩れ落ちた兵隊達の事を気に留めず、コレットが彼等に声を掛けないように手を引っ張りながら城へ向かった。


「いらない事で時間がかかった」

「悪いな。俺様部下どもが迷惑をかけた」

「気にしなくていいよ」

「それにあの士官の人、何処かで見た事があると思ったら、よくお父様が開かれるパーティーで、いつも私にちょっかいをかけてくる人だっだから、ちょうど良かったよ」

「…………ほう」
















「ソラ! 落ち着いて! 昔の事だし、今は気にしていないから!」

「離せコレット! でないと、あいつを殺れない!」

「そんなことしなくていいから!!!」

「……はいはい、さっさと行くわよ馬鹿弟子」


 ソラが士官を本当に殺ろうとしているのを必死に止めコレット。これ以上迷惑をかけられないと判断したクロエはソラにそう呼びかけなら、頭を強く殴り、気絶した所を担ぎ上げ、そのまま城に向かった。


 ガルドは突然の事に驚きを隠せないまま、口を開いて固まっていた。

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