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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
2年後の世界
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旅の準備はしっかりと

 奈落の底で大きな走り音が響き渡る。


 その先頭ではソラが魔装を纏ってはおらず、通常の状態で走る。そんなソラを魔物達は必死に追いかけ回す。


 そんなソラの正面を体の大きな恐竜が道を塞ぎ、大きな拳が振り下ろされる。そんな拳に自ら飛び込み、ソラは反撃するように力強く拳をぶつけた。が、ソラが振り上げた拳は振り下ろされた恐竜の拳よりも力強く、恐竜の大きな体を容易く吹き飛ばした。


 恐竜が仰向けに倒れ、ソラが地面に着地をすると、背後から一匹、前方から二匹の魔物がタイミングを見計らったように襲い掛かる。


 ソラは後方の魔物を掴み、前方の二匹に向けて投げ飛ばす。


 投げ飛ばしたのち、すぐに態勢を整えていると、追いかけていた魔物達が一斉に襲い掛かる。それ見て、ソラは恐竜の尻尾を掴み、それを力強く引っ張り上げる。


「うおぉぉぉぉおおお!!」


 そして恐竜の体ごと、大きく振り回し、魔物達を吹き飛ばした。


 振り回した事により、大量に巻き上がった砂埃が晴れると、魔物達がのたれ死んでるように地面に倒れ、まるで死屍累々のような光景だった。


「よっしゃ!」

「ではありません!」

「痛った?!」


 この光景を作り出したソラは喜びの声を上げるが、それを叱るようにユニが頭を叩くのであった。



 *



 皇国襲撃事件から約二年。


 ソラ達は奈落で特訓を重ね、今では魔装無しで、そこに住む魔物達を圧倒する程の実力を身に付けていた。


 しかし、二年前と比べ子供っぽさが表に出て、大人ぶっていた時より雰囲気が柔らかなものとなったが、少しばかり、手がつけられなくなってしまい、叱られている事が多くなってしまっていた。


 ……最も、


「無茶したね、ソラ」

「ソラくんはバカ!」

「あれは魔法や魔導を使わずに現状を突破したかったんだ。考えた中では、力技でああする事が一番だと思ったんだけど……」


 コレットやその義娘であるユイの前では、子供っぽさと大人の真似が混ざっているようなそんな雰囲気となる事があり、その姿が一番ソラらしさが出ていた。


「それより、この現状をどうするのよ!」


 地面に腰を下ろしているソラの前に立って、上から見下ろすユニは周囲に指をさした。周りには未だに魔物達が気絶しており、その中でも一番の被害者でもある恐竜は、目を回しながら、顔を真っ青にしていた。


「……アハハハ」

「笑ってないで、あの子達に謝ってきなさい!」

「は、はい!」


 ソラは座っていた地面から急いで立ち上がり、気絶している魔物達に向けて走っていった。

 それを見ていたコレットとユイはそんなソラを見て笑みをこぼすのであった。



 *



「え〜、それでは。僕、そしてコレットの特訓を祝して……」

「「「「乾杯!」」」」

「かんぱ…って、僕のセリフ取るなよ!」

「ソラ! 早く食べないと、この勢いだと()()()が全部食べちゃうよ!」

「おい誰か、そこのバカ恐竜止めろ!」

「ギシャ〜!」


 ソラ達はクロエ及びユニから教われる事を全て教わり、それを祝って軽いパーティーをするはずだったのだが……。


 何処から聞きつけたのか、今まで特訓を共にしてきた魔物達やこの奈落で出会った恐竜(ソラ達はミストと名付けた)が、ソラ達のパーティーに参加する事となり、かなりの量の料理が並べなれていた。


 それを食い意地があった者達は我先に食べようと手を伸ばし料理を食していく。ソラはそれに参加していったが、コレットはユイと共に自分が食べる分だけ取り分け、少し離れた所で笑顔で食事を続けていた。


「あの子…この後する事をわかっているのかしら……」

「わかってはいると思いますよ」


 ユニは魔物達と一緒になって必死に料理を食べているソラを見て、呆れながら今後の予定の事も含めてそう呟いた言葉にコレットは大丈夫だと言った。


 そこでクロエは、尚も食事を続けているソラを呼び出し、この後する事を訪ねた。


「この後何をするのか、覚えてる?」

「確か、奈落を出る準備として、必要な物の準備とそれの為の勉強会みたいなのを開くって事で良かったよね?」


 ユニとクロエはソラが覚えていた事に関心の声をもらした。


「バカにするのも大概にしろ!」


 ソラの怒声は奈落中を虚しく木霊するのであった。



 *



 パーティーが終わり、かなり遅い時間故、ユイや魔物達は眠りに就く中、ソラとコレットは奈落を出立する為の準備の為、クロエの話を聞いていた。


「何より重要な物は、水と食料です。それが無いと生きていく事もままならないでしょう」

「食料の方は、何とかなりそうだけど…水がな……」

「何処の水も綺麗とは限らないし、飲み水かどうかも確かめ手段がないしね」

「そこで最も有能な道具がこの“貯水石”よ」

「ちょすいせき?」


 そう言って取り出したのは丸みのある柔らかそうな物体だった。クロエはそれをソラに向けて差し出し、興味本位で持ってみると、予想した通り、ブヨブヨとした柔らかな感触だった。


「何これ。まるでゴムみたいだ」

「貯水石はその性質上からかなり柔らかい物質でできていて、引っ張ったり、踏み潰したりしても、元の形に戻る事が出来るの」

「へ〜。で、これを水につけたりすると、この石が水を吸い込むって事か……」


 ソラは渡された貯水石を使っていつもお世話になっていた洞窟内の湖から水を集めようと、持っていた手を沈め、グッと握りしめのち手を離したが、湖の水が集まることはなかった。


「……なあ、クロエ。水が全く集まらないんだけど……これって壊れているわけじゃ無いよな?」

「ふふ。それだと水を集めることはできないわ。貸してみて」


 不審がったソラはクロエにそれを返すと、水の集め方を二人に見せるように説明を始めた。


「さっきのソラの様にただ水の中で水を集めようとしても集まることはないわ。そもそも、こんな柔らかいだけの石が、どうして貯水石なんて呼ばれているのか分かる?」


 クロエの問いかけの意図がわからず、ソラは首を傾げる。


 そんなソラの代わりにコレットが、その問いに答えた。


「研究者達が、その石を色々と調べるの。燃やしたり冷やしたり、それから魔法をぶつけたりね」

「つまりはそういうこと。この石は元々、魔力に強い反応を示していたんだけど、魔力を当てられ続けると、周囲の水を集める特性があったの」


 クロエはこんな風にと、魔力で覆った手で貯水石を握り、水につける。手を離すと貯水石に凄い勢いで水が集まっていった。


 ソラは驚きの声をあげながら、水が集まっていく様子を見ていた。


 しばらく見続けていると、吸引が終わり、見た目ではたいした変化は見られなかったが、ソラが湖につけた時とは違い、かなり湿っている様に思えた。


「貯水石は一定量魔力を浴びると、集める性質に変化する。そして集めた水はさっきと同じ要領でグッと握りしめると」


 湖の水を集めていた貯水石をクロエがグッと握りしめると、大量の水が溢れ出した。


「溜めていた水を出す事が出来るの」

「なるほど。要はその貯水石はスポンジって事だね」

「確かに、その例えの方がわかりやすいね。水を出す量とかは力加減だから、そこをしっかり覚えていきましょう」


 それからしばらくの間石を使う事を学び、湖の水を含んだ貯水石を三つ程作る事が出来るのであった。

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