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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
蛇の少女と未来街の幽霊魔導師
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新たなるの道

 暗闇に包まれたとある場所。


 その場所で多くの魔物に囲まれている一人の男の姿があった。


 男は魔物達の中央で立ち尽くし、不敵な笑みを浮かべる。


 魔物達はそんな男の様子を伺い、あたりをぐるぐると回っている。


 そして、一匹の魔物を筆頭に中央の男に襲い掛かる。


 男は自身に向けて襲い掛かってくる魔物達を見て、自ら魔物達に向けて走り出す。


 男が魔物と衝突しようとした時、ひらりと回避する。その後、他の魔物達の間をすり抜けて囲まれていた場所から脱出した。


 魔物達は男が間をすり抜けていくのに全く反応できなかったが、すぐに男の方に振り返り、威嚇するように唸り声を上げる。男もそれに反応するように懐から何かを取り出そうとした時、


「そこまで!」


 一人の女性の声が男達に待ったをかけ、何かを取り出そうとした男・ソラの特訓が終了したのであった。



 *



「お疲れ様、ソラ」


 特訓が終了すると、水が注がれているグラスを手に、駆け寄ってくるコレット。それを自称娘である女の子・ユイは今にも人を殺せるような視線でソラを睨めつけていた。


「ありがとう。いただくよ」

「お母さん〜!」


 コレットからグラスを受け取ると、すぐさまユイがこちらに向けて突撃してくる。


 コレットは突撃してくるユイと同じ目線まで屈み、受け止めながら、転ばないように抱きしめた。抱き上げられたユイはコレットに体を寄せて、こちらに嫌な顔を浮かべていた。


 ソラはそんなユイを見て肩をすくめながら、遠くで魔物達の世話をしているクロエの側に向かった。


 魔物達は自分達で狩ってきた獲物をクロエに調理してもらい、それを美味しそうに食べていた。


(そういえば、最近カメ助の姿を見てないな……)


 ソラはそんなことを思いながら魔物達を見ていた。


「また振られちゃったかしら?」

「振られるって……別に告白なんて……」

「自称娘であるユイちゃんに認められれば、娘公認の義親子(おやこ)だものね。いや〜、残念残念」

「……」

「……もう、冗談よ。そんな目で見ないで」


 クロエが言った言葉にソラは睨めつけていたが、それを否定するつもりはなかった。


 正直な話、そうなったらいいなという期待もある。あの子の母親として見ている人がコレットだからという理由も確かにあるが、あの子をちゃんと育ててやりたいという気持ちの方が強いからである。


 嫌われているとはいえ、助けたいと思った事に変わりはない。だからこそ、コレットに任せっきりのこの状況をどうにかしたいとも思っている。


 ソラはユイを助けたこの一ヶ月もの間、嬉しそうに笑いあっている二人を見てそんなことを思っていた。


「……あの子ももう母親ね」

「ああ、そうだな。……ところで…いつまでそうしているつもりなんだ、ユニ」


 そう言ってコレット達から視線を外し、二人がいる場所からかなら離れたところから怯えながら見守っている元十二星宮で、現在コレットの力の一部であるユニの姿がそこにあった。


 ユニはパクパクと口を動かしているが、ソラ達の耳には何を言っているのか、さっぱりわからなかった。


 そんなユニに堪え兼ね、ソラとクロエはユニを無理矢理にでも、引き摺り出そうと腕を掴み、コレットの元へ引っ張っていく。


「ちょ、ま、待ってください?! 私はこのままでいいので、手を、手を〜??!!」


 ユニが慌てて二人にやめるように呼びかけるが、ソラ達はそれ無視してコレット達の元へ連れていくのであった。











「いや〜〜〜〜〜〜!!!」












 *





 ユニが悲鳴をあげる中、奈落の外の世界ではとある話題で持ちきりとなっていた。


 それは『魔族との全面戦争』であった。







 *







 王都




「それで、戦力増強の為に、中央国に学年進級と同時に留学するという事で合ってますよね?」

「ええそうよ。流石は学院トップね」

「茶化さないでください。こんな事、子供でもわかります」


 とある王城の一室で少し抜けたような話し方をする王都の宮廷魔導師であるカンナは自分の顔の横で手を合わせて、ニコニコとしながら、部屋にあった椅子に腰掛けていた。そんなカンナの正面にある椅子に座っているのは、魔法学院の最優秀生徒で、皇国から帰還した日からカンナに弟子入りしたソラの姉的存在でもあるエリーゼの姿がそこにはあった。


「まあ、今回は全面戦争ということもあって、私や王様も共に同伴しますし、皇国や帝国からもあなたと同じような推薦者を輩出し、中央国協同魔法学校に入学させることなっているわ」

「そこで私を推薦していただくということですか?」

「ええ。私を通して、一応()()の推薦しておいたわ。王様にはすでに申請を通してあるから、あとはあなたの意志だk……」

「やります」


 エリーゼはカンナの言葉を聞かず、即座に返事をする。カンナもエリーゼがそう言うであろうことがわかっていたのか、表情を一切崩さずエリーゼを見つめる。


「魔族と戦うんですよね。魔族と戦うってことは、彼らが動く可能性があります。彼らが動くということはきっと…いや、間違いなく、ソラは彼らと戦うんです」

「……」

「それを黙って見ているなんて私には出来ません。私は、彼の()()()()()ですから」


 カンナはエリーゼの話を聞いた後、一枚の羊皮紙を手渡した。


「ここにあなたのサインを。日程やその他の推薦者が決まり次第随時報告するわね」

「はい……! ありがとうございます!」


 エリーゼはカンナから羊皮紙を受け取ると、頭を下げるのであった。








 *





 時間はおそらく夜。


 空にはいっぱいの星空が、輝いていると思う。


「……きらきら、ひかる……よぞらの…ほしよ……」

「何歌ってるの?」


 正直、この声には驚いた。


 おそらく、かなり遅い時間だ。


 君はあの子と眠ってしまっているものだと思っていたから……。


 後ろを振り返ると、そこには君が居て、その姿を見ただけで、心臓が騒ぎ出す。


 ……嫌じゃない。


「まだ、起きてたんだ……」

「うん。少し、話がしたいなって…思ってたから……」


 そう言って君は僕の隣に座った。うるさく騒ぎ出している心臓の音が君に聞こえないか、とても不安だ。


「……」

「……」

「「………あの」」


 僕達は何かを話そうと声を出した時、互いに見つめ合い、声が重なる。


「お、お先にどうぞ……」

「い、いや、君からでいいよ」

「……な、なら、話すけど……その…ソラって、その……好きな人って……いる?」

「え?」

「い、いや! その! 私、そういうのは疎いから、じ、人生経験の参考までに聞いておこうかな! なんて……」

「……」


 僕の隣に座ったコレットは顔を真っ赤にして慌てふためきながら、そう力説するが、どんどんと声が小さくなっていき、やがて何も話さなくなり、下の方を俯き始めた。


「……そういう君は? 婚約者とかいないの?」

「こ、婚約者とかは…いないかな……」

「そっか……」


 安心した。


「僕はもちろん婚約者なんていないよ。でも、好きな人はいるかな」

「そ、そうなんだ……」


 好きな人はいる。そう言っただけで、コレットはまるで、この世の終わりの様な表情を浮かべ、目頭には涙が溜まっている。でも、言いたいことがたくさんある。


「ああそうだよ。その人、いつも一緒にいるのに、全く気付いてくれないだ。ほんと、困っちゃうよね〜」

「……ひょっとして、ソラの好きな人って、クロエさん?」


 どうしてそうなった。


「……そういう鈍感な所とか、たまに怒りたくなるよね……」

「ええ?!」

「自分がいっぱいアピールしてくるのに、こっちの気持ちに全然気付かないから、正直、不公平だよな〜」


 僕はついつい文句を言ってしまい、少しずつ話がずれてしまいそうになり、すぐに話を戻す。


「ま、まあ、話を戻そう。次は僕から君に聞きたいことがあるんだけど……」

「…………うん」

「えっと…その……」

「……はあ」


 僕が好きな人がいると言っただけで、かなり落ち込んでいるコレットに頭を抱えたくなる。だけど僕は君のせいでいっぱい困ったんだ。少しの間でも困ればいい。


「僕は、」


 どうせそれも、


「君の事が好きなんだけど、君は好きな人はいないの?」


 すぐに終わるんだから。


「……え?」


 落ち込んでいたコレットは僕の言葉に目を見開いて顔をあげる。

 僕の顔はきっと赤いだろうから、絶対に顔を合わせられない。


「……ごめんなさい」


 コレットがそういうと、頭の中に雷が落ちた様な衝撃が走る。「ごめんなさい」ということは、僕の気持ちには答えられない。そういう意味だろう……。


 ああ、なるほど、これがさっきコレットが受けた衝撃か……。


「そ、そっか……」


 僕はこれ以上ここにい続けることが出来なくなり、立ち去ろうとすると、コレットは僕の方に体を預け、もたれ掛かってくる。


「こ、コレット?」

「……さっき、嘘をつきました。私、好きな人がいます」

「……」

「不器用で、よく色々な事を誤魔化したりするのに、本当は誰よりも他人思いで、優しい、その男の人の事が大好きなんです」


 コレットがゆっくり語りかけていく。ソラは少しイラッとしたが、


「……好きです」


 それを聞いた瞬間、そんな感情が一瞬にして吹き飛んだ。


 僕は、コレットの方に顔を向けると、コレットと視線が重なる。


 少し潤んだ綺麗な瞳を見て、様々な感情が渦巻いて、言葉に言い表す事が出来なかった。


 やがて、重なっていた綺麗な瞳が閉じられる。


 少しだけ漏れる甘い吐息。


 高鳴る胸の鼓動。


 その鼓動を抑え、そっと優しく、それでいて強く、大事なものを誰にも渡さないように、二人の唇が重ねるのであった。

第4章完結。

第5章をお楽しみ。

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