変化する虚無
ソラは姿が変わった剣を見つめ強く握りしめると、何かが流れ込んできた。やがてそれがこの剣の使い方だと気がつくと、リボルバーを取り出し、剣を女の子に向ける。
女の子は一瞬警戒のような動作を取るが、すぐに腕を前に出す。すると、女の子の周りに黒い球が大量に現れる。
「すり抜ける能力に消滅させる黒い球。虚無の対抗策は魔導と魔喰龍の力のみ……」
ソラは魔剣を握り冷静な分析をしながらブツブツと呟いていると、自分に大きな影が差す。見上げるとそこにはソラをここまで運んだ恐竜がそこにいた。
ソラはしばらく恐竜を見つめていると、女の子が声を上げながら、黒い球がソラ達に向けて飛んでいく。ソラは剣を振り下ろし、黒い球を切り落とそうとすると、突然黒い球が大きく広がり、包み込もうとする。
ソラは慌てて逃げようとするがそれよりも先に黒い膜となった球がソラ全体を包み込んだ。
それを見ていたコレット達を絶望に染め上げた。だがすぐに表示は一変する。
黒い球に包まれそれに呑み込まれたソラ。そんな黒い球を突き破り、四つの影が飛び出した。
飛び出て来た影は、その黒い球を守るように四方を浮かび、女の子の行動して警戒している魔装の盾がくるくると回っていた。
ズバッン!
黒い球を縦に大きく切り裂くと魔装の状態のソラが中から出てくる。そしてリボルバーを女の子の方に向けると、女の子はすぐに銃先から外れ横に飛び退いていく。
それを見たソラは一瞬だけ恐竜の方を見て、すぐに女の子を追う。
女の子は幕を張ろうとするが、黒い球をいくつも重ね、壁のようなものを作り出す。それに向けて剣を振り下ろし、あっさりと打ち砕く。女の子も負けじとさらに重ねて壁を張る。
それを確認したソラは思わず笑ってしまう。
「ここまで」
『?』
「ここまでピンチな状況が続くと、流石の虚無の君でも何も考えずに戦うのは無理そうだね」
『!』
「だからこうやって…」
重ねて張っていた壁を斬り砕き、破壊すると、その内側にいた女の子が姿を見せる。
「こうやって、普通に触ることができる!」
ソラはそう言って女の子の腕をつかみ、恐竜に向けて思いっきり投げ飛ばす。女の子はくるくると回りながら飛んでいき、投げつけられた恐竜はしっかりとキャッチした。
恐竜は女の子をキャッチしたことに驚いて手に持った女の子を見る。女の子も同じように掴まれた為、驚きながら自分を掴んでいる主と目を合わせる。
互いに見つめ合ったのち、女の子は暴れ、手の中から抜け出し、地面の上を浮かびながら、ゆっくりと着地する。
恐竜は女の子が地面に着地すると現状に気が付いて急いで殴りつけるが、女の子はそれから逃げるように飛び退いた。
それを見たコレットは女の子に起きつつある変化に気が付いた。
「あの子…もしかして……」
コレットは気が付いたことをソラに伝える為、今の力を振り絞ってクロエの制止を振り切って影から飛び出していく。
「ソラ〜! ……はわわわ?!」
「?! コレット!」
ソラに駆け寄ろうとするコレットは脚を躓き転びそうになり、それを見て物凄い勢いで駆け寄り転ばないように抱き支える。
「あ、ありがとう……」
「怪我はない?」
「うん、大丈夫。それよりも」
支えられているコレットはソラの傍に立ち、虚無を使わず、恐竜から逃げる女の子を見る。
「あの子…やっぱりそういうことなのかな?」
「そういうことって?」
「多分だけど……。あの子、もしかすると、心が戻りつつあると思うの」
「! コレットもそう思うの?」
「もってことは、ソラもそう感じていたの?」
「虚無っていうのは全てを呑み込んででも満たされない器を満たそうとする心のない無自覚意識。でも、あの子は少しずつ意識が現れ、心が生まれつつある」
「心が!?」
「心が生まれつつあるから、僕の攻撃を必死に防ごうとしたり、ああやって恐竜から逃げようとしたりするのも、きっと恐怖を感じているからだと思う」
ソラの話を聞いて、それに納得するように女の子を見るコレット。
女の子はまるで逃げ惑うように恐竜から距離を取っている。
「多分だけど、まだ虚無を使うことができると思う。だからこそ、次であの子の器を満たし尽くす」
「わかったけど…ソラは、どうしてそんなに虚無に詳しいの?」
コレットは虚無について妙に詳しい彼に対して疑問を思った疑問をぶつける。ソラは少し困ったように言い淀み、しばらくして、
「……あの子を助けたら、全部話すよ。だから……」
「……わかった。待ってる。だからあの子を、必ず、助けてあげてね」
「! ああ、任せて」
ソラは大きく返事をして一気に走り出す。恐竜が何度も殴り、それを逃げるようにかわし続ける女の子を抱き上げ、少し離れた誰もいないところで女の子を離し、少し距離を取る。
そして踏み止まりながら振り返り、浮いていた魔装の盾を一つ掴む。掴んだ盾を天高く掲げ、
「おい虚無。僕の全力、受け止めてみやがれ!」
浮いていた三つの盾が一つ重なり、強い光を放つ。それを見た女の子も自分の体を黒く輝かせ、真っ直ぐにソラに向けて放つ。
黒い光は地面を抉るように消滅させながら、真っ直ぐソラに飛んでいく。
しかし、そんな光を無視して自身の盾を力を溜める。
そんなソラを見ている者が一人。
その者は、偽っていた心が溶け、本当の主人と重なるソラの姿を見て、
『(……少しだけだからな)』
ソラの鼓動が一瞬速まり、片方の瞳の色が黄色く変化する。彼が初めて力を貸してくれたあの時と同じ感覚を感じ取る。力が湧き上がり、盾に集めていた魔力が一気に膨れ上がってチャージが完了した。
「いくぜ! “ジャッチメント・ブレイザー”!!!」
溜まった魔力を強い光に変えて強力な魔導を発射する。
白い光と黒い光が互いにぶつかり合い、強い衝撃を放つ。その衝撃で周囲の瓦礫を消滅させる。
黒い光は白い光を消滅させ、飲み込み始める。その余波で身に纏ったいる魔装を削り取り、盾を持っている腕に大きな傷をつける。
しかし、
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ソラが放つ白い光が黒い光を上回り、黒い光を打ち破って女の子諸共、奈落を全体を包み込んだ。
*
包み込んだ白い光が収まり、放った光が無くなると、コレット達はすぐに周囲を確認する。光に呑まれた女の子が姿を消して、それをみんなが必死に探す。
何処にも見当たらない女の子を探すコレット達。そんな中、ソラは何かを抱き上げる。ソラが抱き上げたのは探していた筈の女の子だった。
魔物や恐竜は抱き上げている女の子を睨めつけながら唸りを上げる。
ギロッ!
女の子を睨めつける魔物達に向けて鋭い視線を向けるソラ。魔物達はその視線を恐れて身を竦める。
ソラは魔物達を強く睨みつけるが、すぐに視線を外し、女の子の方にを優しい瞳で見つめる。
コレットはそんなソラに近づいていき、コレットを守る為にドラゴンの状態へ変身していた体をいつもの人の状態に変化し、同じようにソラに駆け寄る。
ソラが抱きかかえている女の子を見ていると、先程の姿と違って、とても幼い子供の様な姿でスヤスヤと眠っていた。
「……ソラ。これって……」
「この子の器をあの技で無理矢理満たしたんだ。だから、器の中身が無くならない限りこの子が虚無を使うことはないよ」
「そっか……?! ソラ! 怪我……」
「? …本当……」
「い、急いで治療を……」
「それよりも先にこの子を見てくれないか?」
ボロボロになった右腕を治療しようとするコレットに、抱き上げている女の子を先に治療する様に頼むソラ。コレットはスヤスヤと寝ている女の子とソラを交互に見ながら女の子を預かった。
「……今のこの子に手を出すなよ」
ソラはコレットに女の子を渡すと周囲にいた魔物達を強く睨めつけ、ソラ達が拠点として使っている洞窟に向けて歩き出す。
コレットはその後ろ姿をすぐに遭い同じように拠点に向かう。周囲にいた魔物達はそんな二人を追うクロエの背後に控えながら、ゆっくりとソラ達の後を追うのであった。