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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
蛇の少女と未来街の幽霊魔導師
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誤魔化すことの出来ない思い

 感じ取れるあの子の気配。それだけの理由で奈落の道を全力で駆ける。瓦礫の間を無我夢中で走り続ける。


 荒れた道を突き進みながら息を切らす。心臓の鼓動が激しく脈打つ。


 だが、その苦しさが心地いい。この鼓動が心を動かす。


 この先にあの子がいる。


 そう思っただけで、心が弾む。脚が前へ進む!


 理由は分からない……。分からなくてもいい! とにかくあの子に会ってみよう。


 理由なんてなんでもいいじゃん。後付けでも構わない。今はただ……君に会いたい。


 そう思っていると、何者かが背後から僕の体を持ち上げられた。


「な、なんだ?! 何事だ?!」


 その突然の浮遊感に驚きながら足をバタバタさせていると、突然地面が現れた。


 その地面をよく見ていると、その地面がゴツゴツと乾燥した肌を持つ大きな頭…というか、助けた恐竜の頭だった。


「この肌…さっきの……。まさか…ついて来たのか?」

「……」


 恐竜は声を上げることはなかったが、その大きな脚をのっしのっしと僕が向かっていたあの子がいる奈落の道を進んで行った。





 *





 私は女の子に向けて矢を放つ。


 矢は再び空中で静止し、また私達の方に矢先を向けて反射される。でも今度は反射して来た矢を私の矢で撃ち落とす。しかし、何本か矢が外れ、地面に突き刺さり、土埃が舞い上がる。


 私に当たらなかったことに安堵していると、女の子が大きな奇声を上げる。その声と共に周囲からソラを消し去った黒い球がそこら中に現れ、岩や壁を消滅させた。


 そのうちの一つが私に向けて現れ呑み込もうとする。


 黒い球が大きな広がりを見せようとした瞬間、突然影が差し、目の前に大きな大きな真っ黒な手が私を守るようにして現れた。


 黒い球がその腕に触れると、まるで吸い込まれるようにしてどんどん萎んでいき、小さくなり、やがて消滅した。


『大丈夫、コレット?』

「えっと……」


 その大きな腕を辿り、上を見上げると、真っ黒なドラゴンさんが私を覆い尽くすようにして私を守っていた。


 ……()()()()()


「まさか、あなた…クロエさん?!」

『ええそうよ。どう? 驚いた?』

「はい……。正直、かなり驚きました……」

『なら、ソラの言う所のドッキリ成功かしら?』


 ドラゴンさん……クロエさんはとても嬉しそうな声を出す。それにちょっとばかり怒りたくなって、口を尖らせる。


「……驚いたことがそんなに嬉しいですか?」

『ええ。だって、その驚いた顔が見たくて、ずっと黙っていたんだから』

「そうですか〜……。ソラだったら、目をキラキラさせて喜ぶと思いますよ。僕のソラは、心で生きているから……」

『……そうね。なら、絶対に生きないとね』

「はい……!」


 私は上にいるクロエさんに強く返事をして、女の子の の方を見る。


 しかし、女の子の方は私達の方には目もくれず、周りや後ろの方ばかりを気にしていた。特に()()()()()


 女の子のことが気になって私も周囲を確認する。するとそこには逃げたはずの魔物さん達の姿があった。


 大きなうねりを上げて、女の子を睨め付けている。


「あの子達…どうして……」

『……まさか?!』


 クロエさんが何かに気がつくと、声を掛ける前に魔物さん達は女の子に向けて襲い掛かった。


 女の子は襲い掛かる魔物達を目にして、再び奇声を上げる。すると、女の子を守るように周囲に薄暗い膜のようなものが張られる。


 その膜に襲い掛かる魔物さん達が強くぶつかると、触れた部分から消滅していき、襲い掛かる勢いのまま体もなにもかもが消滅していった。


 私はその光景に驚きと激しい疑問、そして目の前で魔物さん達を死なせてしまった罪悪感が一気に襲い掛かった。


「なんで……、どうして……」

『魔物達は、私達の手助けに来たのよ』

「?! どうして?!」

『借りを返すため……。そういえば、聞こえはいいかもしれないけど、そんなものが考えが魔物達にあるはずがないわ』

『彼らは自分達があの子に勝てない事が分かっている。そして、私達はあの子に唯一の戦う事ができる事も彼らには分かっているよ』

「! それって……!」

『……彼らは……、私達のために、……囮になっているのよ』


 クロエさんの言葉を聞いて、言い表せない感情が込み上げてくる。それ言葉を失って、クロエさんから再び女の子に視線を戻す。


 周りには襲い掛からなかった残りの魔物さん達が女の子を取り囲むようにしてあたりをうろうろとしている。


 女の子が何かをしようとした瞬間、再び襲い掛かって無理矢理行動を中断させた。


 襲い掛かった魔物さん達は先程と同じ様に消滅するのを、黙っていているしかなかった。


 再び罪悪感が込み上げる。


「……やめて……」


 魔物さん達は大きく跳び上がり女の子に襲い掛かった。


 そして同じ様に魔物さん達は消滅する。


 それでもなお、彼らはやめることはなかった


「やめてぇぇえええ!!!」


 私はそれを見て叫び、弓を引いた。















氷炎双拳(ひょうえんそうけん)獅子炎爪(ししえんそう)!」
















 聞き覚えのある声。


 あり得ないと思った、私の心にずっといる彼の声。


 女の子の頭上から響く、私の()()()()の声……。


 私の声に応える様に、彼は奈落の空から飛来して来た。






 *






「……ぇぇえええ!!!」


 誰かの声がする。いや、僕はこの声を知っている。理解もしている。


 彼女の()()()()()()……。


「恐竜! 僕を投げて!」


 恐竜は不思議な目で僕を見つめる。


「いいから早く!」


 恐竜は言われる様にして僕を掴むと、空高く放り投げた。


 空に放り投げられると、やがて地面に向けて落下していく。僕はその間に手に力を込める。燃え上がる様な熱い氷。それを見ながら、あの時僕の中に消えていったソルガの言葉を思い出す。




 *




『俺の力の一部をうまく使いたいなら、あの女の事を一番に考えるんだな』





 *




 ああ……。分かってるよ。だって僕は……。


「氷炎双拳・獅子炎爪!」


 落下していく先に魔物に囲まれている女の子がいた。見覚えはある。僕をあの暗闇に落とした女の子だ。


 僕はその女の子に爪を立てると、腕に纏わせていた氷の塊が、まるでソルガの顔の様な形に変化する。


 僕の声を耳にした僕より幼い女の子はふわりと魔物達の間をすり抜けて回避していく。僕は地面に勢いよく落下すると、地面が一気に凍りつき、凍った部分から溶解し、地面にマグマを作り出した。


 空中にいる魔物達は溶解した地面に驚き、そのままマグマに落ちそうになるが、大きな風を巻き起こし、魔物達をマグマの上から外側に吹き飛ばす。


 魔物達は足場のある地面に安堵しているが、僕はたったある一点だけを見つめ、視線を釘付けにしていた。


 視線の先には、ドラゴンの下に隠れる女の子。


 ドックン!


 強い心臓の音。自分のなにもかもがどうでもよくなる程熱くなる胸。その子の涙を流している姿を目にして、壊れてしまいそうになる鼓動の早さ。


 高鳴る鼓動の音に、そして彼女の姿に、僕を覆い尽くしていた黒い靄が晴れていく様に、記憶の中にある彼女の姿が蘇る。僕の心に住み着く君の姿が。


 気が付けば、僕は彼女のそばまで跳び、駆け寄っていた。


 目の前にいる女の子と見つめ合い、何かを話そうと口を開こうとする。


 何を話そう。どんな言葉を口にしよう。口にした瞬間、僕の目の前から消えしまうのではないか、離れていってしまうのではないか、そう思うと声が出ない。





「……ソラ」


 私の目の前に現れた彼に、私は勇気を振り絞って、またいなくなる様な恐怖とか、一人になるのでは考えてしまう寂しさをが私の中を駆け巡る中、会いたかった、触れたかった、話がしたかった、そんな思いが私の心をいっぱいにしていき、ただ、彼の名前を呼んだ。






 名前を呼ばれ、僕の心を彼女が支配していく。いっぱいにしていく。


 僕は無意識に彼女を強く抱きしめる。グッと強く、絶対にはならない様に、離さない様に、強く、強く抱きしめる。






 彼に強く抱きしめられて、混乱して頭がこんがらがる。でも……すごく嬉しい。


 強く抱きしめられ、彼を肌で感じている。



 少し…震えてる……。



 私は、彼の事で胸がいっぱいになりながら、震える彼の背中をぎゅっと抱きしめる。


背中に手を回されて、彼は少し驚いた様なそんな声を出し私の耳元で、そっと呟いた。






 背中に手を回された瞬間、僕の中にあった不安や恐怖が一瞬にして消え去り、暖かい思いで心が満たされ、思わず声が漏れる。


 少しずつ涙が零れ落ちる。



「ただいま。コレット」



 僕は呟いた彼女の名前。僕の心をいっぱい彼女。


 僕は抱きしめている彼女をもっと引き寄せ抱きしめる。彼女を()()()()()()()()()。渡してしまったら、壊れてしまいそうな程にコレットばかりを考えてしまう。


『虚無はね、心に宿った人を思い浮かべることと、自分の気持ちにちゃんと気付く事が大切だよ』



 ああ……。エレナさんの言う通りだ。


 もう誤魔化せない……。誤魔化せそうにない……。




















 だって僕は……、















 こんなにもコレットの事を……。





















      愛してしまっているんだから……。

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