夢見る出会い
お腹が空いた。
聞いた話では、雪の降る凍えるような夜。そんな日に交代で行なっていた見回りの日にボロボロな布切れ一枚を体に巻き、下水道の側で倒れていた所を発見されたらしい。
目を覚ました時、そこは小さな家の客室のような部屋であった。しばらく何も考えずに部屋中を眺めていると、この部屋にあるたった一つの扉から見知らぬ人が部屋に入ってきた。
「あら、目を覚ましたのね。よかった」
部屋に入ってきた女性を見て少々驚きつつも、すぐに平静を保った。
それからしばらく、女性は色々と話しかけてくるも耳に届くことはなかった。
何故なら、
『……ちっくしょう……』
目の前の女性ではない誰かの声が、耳に届いていた。
*
「俺の力をかなり奪われた……。しかもちまちまと少しだけ奪って捨てたあのフード野郎!!! 今までの恩を仇で返すとはな!」
誰かの声に耳を傾けていると、まるで意識の底に落ちた行くように暗闇に落ちていった。
暗闇に落下していると、下の方からその場に相応しくない程淡い白い光が暗闇を照らし出し見てみると、そこにはひどく汚れ、ボロボロな状況で眠っている大きな動物の姿だった。
その動物の周辺には立つことのできるある程度の地面が存在し、それ以外の場所は上に見える景色同様に真っ暗闇だった為、その地面な着地した。
その事に動物も気付き、ゆっくりと顔を上げこちらを見てくる。
「貴様か。……今回はこれまで以上に中途半端だな。どうした? いきなり道具がいるのか? だったら適当に荷車でも…いや、今回はあの野郎に回収されたんだっけな……」
「……」
「どうした。いつものように、妖を魔物を喰い尽くせばいいんじゃないのか?」
「……?!」
「何怯えてやがる。それがテメェだろうが。空っぽのテメェが、あの女で何かを満たそうとする事自体がおこがましい事だと何故気づかねぇんだぁぁぁぁあ!!!」
立ち上がった動物が凄まじい咆哮をあげる。その咆哮に圧倒されながら吹き飛ばされそうになるそんな時に気付いた。彼の体についているのが汚れだけではなく、まるで線のような模様が体全体を覆い尽くしていた。
それに気を取られ、その吹き飛ばされる勢い圧倒され再び暗闇の中に呑まれていった。
*
目を覚ますとそこは先程と同じ部屋だった。
横になっている体を起こすと、横には先程の女性が小さく寝息をたてていた。
その姿を見つめていると、こう思った。
うまそうだな
そう思った瞬間、すごい汗と凄まじい程の空腹感が体を支配した。毛布を握りしめている手は震え、いっぱいの手汗をかいている。
もうここにはいられない。
そう考え近くにあった窓を開けて、屋根伝いに転がり落ち、家の横にあった路地裏に放り出された。
体に軋むような痛みを感じつつも、壁伝いに立ち上がり、すぐにその場から消えるように離れる。
人通りの少ない裏通りを通り、遥か遠くに見える巨大壁に向けて歩を進める。途中大きな男に肩を触れるが気にすることすらせず歩み続けた。
「……? おい、今誰か居たか?」
「は? いきなりどうした?」
「今、誰かとぶつかった気がしたのだが……」
「……誰も居ないぞ?」
「……気の所為…だったのかな?」
「そうだって。ほら、さっさと行こうぜ」
振り向いた先には未だに壁に向かって歩く少年がいたのだが、それを誰一人として認識することはなかった。
目に見えるもの全てが空腹である胃袋を満たしてくれそうな極上なものに感じながらも、それを必死に耐え、しばらく歩いていると目指していた壁に到着する。
壁を下から見上げると、首が痛くなるほど高く、空腹の胃袋のままではよじ登ることはまず不可能だった。
少し屈み込み、めいいっぱい力を込める。そして大きくジャンプした。
外壁の上で見回りをしていた兵士達は異常なし!っと目の前を歩いていく。
その事に少々驚きつつも、すぐに意識を晒す。誰を見続けていると、その人間で空腹を満たしてしまいたくなる衝動に呑まれそうになる為、それに呑まれないように必死に走った。
そこからはよく覚えていない。どうやって外壁を降りたのか、いつのまに野原をかけたのか、わからない事だらけだったのだが、ただ一つ分かることはここが森の中だという事だけだった。
真っ暗な森、その森の木々や雑草を見て、それもうまそうだと感じ、もういっそ食べてしまおうかと、木の幹に向けて大きく口を開いたその時、鼻をくすぐる強烈な油の匂い意識が持っていかれる。
その匂いにつられるようにふらふらと歩いていると、火をくべている暖かい光が照らし出していた。
草木を掻き分けて進むと、そこには大きな猪から肉を剥ぎ取り、調理をしている綺麗な黒髪の女性が視界に映った。
だが……それがいけなかった。
「♪〜……? あら? 自分、どないしたん?」
注目されていることに気づいた女性は問いかける。しかし、目に映った女性があまりにもうまそうで、もう抑えることが出来なかった。
「……Gararaaaaaaaaaa!!!!!!」
咆哮と共に体全体を白い衣が覆われ、触れていた木を強く押すと触れていた幹が消滅した。しかし、そのことに気にも止めず、女性に向けて襲い掛かる。
「?! こんな子供があんなもんを使うやて?!」
女性はジャンプして殴りかかった拳を避ける。拳は女性の背後にあった薪に直撃し、薪全てが消滅した。
「ありゃりゃ……。まさか、こんな子供と出くわすとは思わんかったわ。しかも……そんなよだれ垂らしてもうて、そんなお腹すいとったん?」
「Gurururu……」
「あかんはこれ……言葉がまるで通じとらん。呑まれてもうたんかな……」
そう言いながら女性は首にかけていた鍵を取り出した。
「……」
「Gururur……Gararaaaaaaaaaa!!!!!!」
女性が大事そうに鍵を握り、目を瞑る。そんな女性に我慢ができなくなり、再び女性に襲い掛かった。
「……魔装錬金・形態変化!」
ズバァン!
襲い掛かるものに向けて、突然現れた鍵のような形の剣で、白い衣ごと左腕を切り裂いた。
切られ、吹き飛ばされ、転がり落ちてる姿。ポタポタと流れる赤い血。それすらも気に止めることが出来ない程の空腹に、方向と共にさらに力が高まり、傷口から魔力が溢れ出し、それに伴ってさらに血が溢れ出す。
「……自分、それ以上はあかんわ」
「Gururur……」
「それ以上したら、君が死んでまう。止めさせてもらうで、少年くん」
女性は鍵の剣を構え、少年と同じ様な魔力を放ち始める。
「その空っぽの力、ウチの満たされた空っぽで、封じ込んだるわ。覚悟しいや!」
*
「今日、やけにソラは起きるのが遅いね」
「気になるの?」
「う、うん……」
目を覚ましたコレット達は、未だに起きてこないソラのことか気になっているコレットの様子にほのぼのとしながら紅茶を飲んでいた。
「……やっぱり、そろそろ起こして……!」
きます! そう言おうとした瞬間、
「「「Ghaaaaaaaa!!!」」」
外から悲鳴の様な鳴き声が洞窟内は響き渡り、三人は慌てて洞窟の外に向かう。
入り口付近で様子を伺っていると、そこには胴体がなくなった魔物や頭がなくなった蝙蝠、さらには魔物や動物とは違った巨大な生物が片手を失い、満身創痍の状態で倒れていた。
「な、なにこれ……」
「死屍累々」
「……! おそらく、あれの仕業でしょうね」
クロエが何かに気づき指を指すと、巨大な真っ白な蛇が姿を現した。
「蛇?!」
「あんな奴、この奈落で見たことない。きっと、手当たり次第といった感じかしら」
蛇の行動を観察さていると、コレットが何かに気付いた。
「……? 二人とも、あれ見て。蛇さんの首あたり」
二人は蛇の様子をしっかりと確認する。
「……私にはなにも見えないけど……」
「コレットちゃん。あなたにはなにが見えているの?」
「あの蛇の中に女の子がいる!」
「「?!」」
二人は驚いて三度蛇を見るが、そのことに視線を浴びている蛇も気がついた。
『……?! サジタリウス……。サジタリウス!!!』
蛇はそう叫びながら、コレット達に襲い掛かった。