認識の違い骸
ソラ達はその変死体に釘付けとなるが、すぐにユニ達を呼ぶように仕向ける。コレットはソラに言われた通りにユニ達を呼びに行き、ソラは魔物達が寄ってこないようにベアード・ゼブラの足元から氷の壁を作る。
体調が優れない故か、作り上げるのにかなり時間を取ったが、どうにか完成するとができた。氷の壁が出来上がる頃にはコレット達もやってきており、調査を開始していた。
「……」
「ユニ、クロエ。何かわかったか?」
「……いえ、何も……」
ユニのその言葉聞いてソラ達は驚愕の表情を浮かべた。
「な、何もないことないだろ! 現にこいつはここまで変な死に方を!」
「落ち着きなさいソラ」
「だけど!」
「いいから。最後まで聞きなさい」
「……」
ソラはクロエに諭され、押し黙る。
そんなソラの手を誰がギュッと握りしめる。隣を見てみると、とても不安な表情をしているコレットの姿があった。それを見たソラは少しずつ冷静を取り戻していった。
そうだ。不安なのは僕だけじゃない。コレットだって同じなんだ。こんな時にしっかりしなくてどうする!
ソラは握られていたコレットの手を握り返す。コレットは驚いてソラを見て2人の視線が重なる。
……ボン!
しばらく見つめ合っているとコレット頭から大きな爆発音と共に大量の湯気が溢れ出し、顔を真っ赤にしてあたふたとし始めた。
流石のソラも突然爆発したり、顔を真っ赤にしたり、あたふたとし始めれば、驚くと同時に不安にもなる。
「だ、大丈夫か?」
「だ、だだだ、……にぁ〜!!!」
「ほ、ほんと、大丈夫か?」
「にぁ〜!!! にぁ〜!!!」
「はいはい、ご馳走さま。そろそろ話をしたいと思うけど、いいかしら?」
「う、うん。大丈夫だよ」
突然爆発したコレットを支えると、さらに湯気が噴き出て、顔をさらに赤く染めているコレットの頭を自分の手で仰ぐ。それを見たユニは完全に2人に呆れてれていた。
ソラはユニが調査した結果を聞くために、コレットを支えながらユニ達の方に向いて話を聞く。
「この亡骸からわかることは、やっぱり何もなかったってことよ」
「何もなかったって…やっぱりおかしいと思う……」
「そう。普通はありえないわ。普通わね」
クロエとユニはどうやらここあたりがあるような言い方をしてそのことにソラは2人に尋ねる。
「普通はって……。普通じゃない方法があるってこと?」
「あるにはある。普通じゃありえない特別な方法あるわ」
「普通じゃありえない特別な方法?」
ソラは似たような言い回しに純粋に興味が惹かれ、2人に耳を傾けるが、2人はバツが悪そうに言い澱み、なんと言葉を発すればいいのか悩んでいるようであった。
やがて重苦しく口を開いた。
「実は、魔法の中にはたった1つだけ、魔導に対抗する唯一の魔法があるの」
「魔導に?!」
「その方法に到達したウィザードは1人もいないの。でも、ごく一部の魔族の中にはそれに到達したウィザード達がいたの」
「私達はその魔法を“虚無”というわ」
ドックン!
ソラは虚無という名前を聞いて何故か心臓が跳ね上がった。
「虚無というのはごく僅か人しか使えない光と闇の属性魔法の複合した魔法のことなの」
「でも、対立する2つの魔法だから、さらにごく少人数になるけど、それができるようになれば、世界中に敵がいなくなると言われるほど、完成された究極の魔法とも言われているわ」
2人が黙々と説明を続けているが、そんなことにも気に留めず、自身の鼓動の音がソラの体を蝕み、2人の言葉に耳を傾けることができなかった。
そんなソラの記憶が過ぎる。
それは巨大なハサミを身につけた人が1人の人間の首にを挟んでいる光景だった。
不意に手に力が込められる。そんなソラの変化に気付いた2人は、思わず恐怖を覚える。その様子はまるで豹変した怪物のようであった。
するとずるっと何が滑り落ちそうになり、ソラは慌てて落とさないように抱きしめる。胸の中を見てみると、そこにいたコレットが顔を赤くをしているものの真っ直ぐにソラを見つめていた。
ソラはすぐに正気を取り戻し笑みを浮かべる。額からは汗を流してはいるもののその表情からは先程のような恐怖はなかった。その雰囲気に2人はほっとした。
2人はソラの雰囲気の変化から虚無については伏せておくことを判断した。取り上げず、殆ど意識の無いコレットを休ませる為に、いつもの休息ポイントに向かった。
コレットは終始ほぼ意識の無いままだった。
*
2人今日1日、虚無について語ろうとはしなかった。
その日僕は夢を見た。
*
その日僕は飢えていた。
流れる水、風靡く草花や木々達、街を歩く人間全てがその時の僕には餌という認識しかならなかった。
誰も信じられず、自分すら信じることもできない。何も知らない僕にとって、存在する全てのものが敵という認識にしかならなかった。
『どないしたんや自分。その程度かいな?』
僕にとって最大の敵である、彼女に出会うまでは……。
*
ソラは何故今日は早く眠りについた。
2人は寧ろこの状況が好都合だと判断したのか、3人で話がしたいとコレットを呼んで集まっていた。
「どうしたんですか? 突然呼び出して……」
「少し話したいことがあってね」
どうやって準備したのかわからなかったが、そこにはソラが言っていた卓袱台というテーブルの側に敷物を敷いて座っていた。そのテーブルはクロエのお気に入りらしい。
コレットが敷物の上に座ると、2人は虚無について話し出した。
「ソラの雰囲気が変わったから話さなかったけど、虚無については少し続きがあってね。さっきの話を覚えてる?」
「ど、どうにか……。光と闇、対立する2つの魔法の複合した複合魔法だとか……」
「そう。でも、この話には少しばかり続きがあるの」
「続き?」
「虚無を使えるウィザードはね、数百年に一度あらわれるとされている虚無の魔法使いは何度もこの土地をリセットさせているの」
「この奈落は昔から虚無の影響を受けない程深いところにあったからこの場所に力のない魔物が死んでしまうこと以外は深い影響を与えることはなかった。だからここの場所の優劣がわかりますかなるほど力だけの世界となったの。力がなければ生き残ることができなかったから」
2人がまるで昔話を語るようにコレットは2人の話を聞いた。
「虚無には何もない。生きるということも、死ぬということも。なにもかもを無に返す。消滅という言葉すらも、そこにあったということも全て」
「じゃあ、あの魔物さんに何もないという意味は……」
「そこに顔や腕があったということすらも無くなっていたわ。私には消滅したと認識することすらできなかったわ」
「だからこそ、虚無の危険性をあなた達には伝えておきたかったの」
2人の話を聞いて、それをソラにも伝えようと心に決めるコレットであった。
そんな中、この場にいるたった1人だけはとある疑問を感じていた。
(どうして、ソラは消滅したことが認識することができたのだろう……)
自分ですら消滅すること認識することができなかったのに、ソラは2人と同じように認識することができた。
2人が認識することのできた理由はわかる。それは加護があるから。
加護というのは様々能力を成長させる力があるが、その本質は魔を払う力にある。
加護を持つ者は自身にふりかかる毒や痺れなどの状態異常系の魔法や呪いを無効化させる力を持っている。それは自身が見る事が出来る景色もそうだ。加護を持つ者はその世界の本来のものを見ることができる。故に、コレットはそのベアード・ゼブラの本来の姿を認識することができたのだ。
それは彼女と融合したユニにも同じように付与されていると理解することが出来る。しかしソラは違う。
ソラにはそんな力がそもそも備わっていない。にもかかわらずコレット達と同様な認識が出来る。クロエにとってそれはありえない事だった。
クロエはその疑問に頭を悩ませるのであった。