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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
蛇の少女と未来街の幽霊魔導師
107/246

落ちる闇。変わり始めた関係

 そこは光すら届かない奈落の底。


 世界の常識が通用しない力のみが全ての世界。


 それが奈落での常識。


 しかし、その常識を全て飲み込んでしまう程の闇が遙か高くの天空から舞い降りた。



 *



「それでは、この1年の最後の特訓を行うわ」


 小さな蝋燭の光がこの場にいる2人。真っ黒なドレスを着ていたクロエと服もかなりボロボロになり、顔や肘まで破けむき出しとなっている腕にもかなりの生傷が残ってはいるが、幼さが無くなり少し大人な雰囲気を醸し出し始めたソラの姿があった。


「あなたがこれまでに行ってきた特訓は基本的にはあなたの全体的な強化。肉体から魔力から判断能力。その他諸々を含めた特訓だった。でもそんな君の姿を見ていてわかったことがいくつかある。それは、君がまだ()()()()()()ってことよ」

「……」


 クロエが話し出してからソラの表情はとても真剣そのものだった。


「それがどういうわけか、それとも()()()()()()()()()()、それは私には分からない。もしかたら私にはそう見えているだけで、本当はそんな力ないのかもしれない……」


 あくまでも可能性。あくまでも予感。そんなあやふやなもの。ありえるかもしれない可能性故に徐々に声が小さくなっていく。


 しかし、ソラから聞いたスキル《独自解・習》を計算に入れても元々の基礎がダメダメだった為、魔導の特訓を含めてもソラが現在の段階まで辿り着くまで少なからず後5年はかかるものだと考えていた。


 しかし1年。


 たった1年で、そのほとんどを完璧にこなせるようになっていた。


 その理解と身につけることの出来る成長速度は異常より最早怪物という言葉が最も相応しかった。


 だからこそわからなかった。ただの黒目のコンバット。それだけならば、王都や皇国、帝都の兵士や衛兵は勿論、ギルド上層部の強者にもコンバットの血を引き継いでいる人は大勢いる。


 にもかかわらず、ソラは王都の…中でも魔導師を目指すもの達から通常ではありえない程嫌われている。その理由が何故なのか、ソラ本人は語ろうとはしない。コレットですらその事は一度も教えていなかった。


 だがその時、語ろうとしないソラから発せられる雰囲気に何か違うものが混ざり合ったオーラを放ち出し、そのオーラからはいつもソラとは全く別物の力を持っていた。


 だからこそ、クロエはその力に何かしらの可能性を感じていた。


「わからない可能性に賭けてみるなんておかしな話だけど、でももしそれが本当だったr」

「クロエ……」


 クロエが未だ不安な表情をしている中、意味で聞いているだけだったソラが真剣な表情で話しかける。


「……1年って、もうそんなに経ってたの?」

「……はあ?」


 突然変な事を言い出したソラにクロエは思わず変な声が漏れる。


「俺の見立てでは、まだ半年ぐらいしか経ってないと思ってたんだが……まさか1年が経過しているとは」

「え? いや、ちょっと待って。ソラ、それは本気で言っているの?」

「本気って…当たり前だろ!」

「そんな威張って言うセリフじゃないのよ!」

「あ、素が漏れ出した」


 まるで反省の色のないソラの様子に先程まで真剣に話していたクロエはなんだか阿呆らしくなり、素が漏れ始める。


 ソラ達が1年間クロエと付き合いを共にしていると、彼女の素というのがわかり始める。彼女はソラやコレットより子供のような一面を見せる事があり、ごく稀に自分より幼い人と感じてしまう。


「はあ…全くもう」

「アハハ…でも、大丈夫だよ」

「何がですの?」

「……」


 ソラは応える事はしなかったが、クロエに向けて安心したような笑みを浮かべていた。それを見たクロエはなんだか諦め気味で呆れつつ、ソラを中心に魔法陣を展開する。


「もうあれこれ色々言わないからそこでじっとしてたほしいのですよ。外側からあなたに呼びかけるから色々と辛い事や嫌な事を思い出しちゃうかもしれないけど我慢してね」

「……了解!」


 ソラは坐禅のように脚を組み目を瞑った。クロエはその様子を確認して静かに詠唱を開始した。



 *



「う〜……。頭痛ぇ……」


 ひとまず特訓が終了し、洞窟から出て外の空気を吸いながら頭を抑えている。


 クロエの特訓でソラの頭の中を様々な症状が襲ってきた。


 1番最初に襲ってきたのは深い嫌悪感。ソラ自身の気分を深く害し軽い吐き気を催していると、次に襲いかかってきたのが激しい頭痛だった。一瞬誰かが頭をゴリゴリと掘っているのではないかと疑いたくなるほどの頭痛にソラは耐え切れることが出来ず、地面にのたうち回った。


 クロエは危険だと判断し、魔法陣を解いてソラを呼びかけながら治療を行った。


 ソラも落ち着き、特訓を中止にしようとクロエが口にしようとするがそれをソラは止める。


 クロエはその理由を尋ねるが、ただ深く頭を下げるソラ。その後1回だけ同じ事を行い、ソラは体が耐え切れなくなり洞窟の端の方に行って嘔吐した。


 そこで特訓は終わり、嘔吐したものはクロエが浄化魔法で清潔にした後洞窟から出て行った。ソラもそれに続いて洞窟を出るが入り口の近くで頭を抑え、グッタリとしていた。


 その少し離れた所では、実体化したユニから自身にあった魔導指導を受けているコレットの姿があった。


「……。………! …………」

「……気にならなでしたら、私達も休暇にしましょうか」

「!……いいの?」


 先程から壁にもたれかかっているソラの姿が視界に入り、まるで集中できていないコレットはチラチラとソラの様子を見るがすぐに特訓の方に意識を向ける。が、それもものの数秒で途切れソラの方に意識が向く。


 ユニはそれに気付き、特訓をひとまず切り上げる。


 コレットはその理由を尋ねる事はせず、ただ良いのかと尋ねるだけだった。ユニは頷いてコレットに応える。コレットは笑顔でありがとうと言って特訓を切り上げ走り出した。しかし、コレットはソラがある方とは違う方に向かって行った。


 一方ソラは荒い息をしながら喉を通る酸っぱさを耐えながら、壁にもたれかかっている。頭痛も大方収まり、今は少し落ち着いている状態だ。


 しかしソラに襲いかかる脱力感に未だに立ち上がる事が出来ない。


 ソラは少し目を瞑り息を整えていると、


「はい……」


 突然誰かがソラに話しかけていた。


 目を開くとそこにはコレットがおり、手にはクロエの所持品の1つである透明なグラスあり、その中には水が汲まれてあった。


 ソラはグラスを受け取ろうとするが、その力すら残っておらず、腕が上がらない。それに気付いたコレットはグラスをソラの口につけてゆっくりと傾けて水を飲ませる。ソラが苦しまないようにゆっくりと。


 コレットの気遣いで、グラスに入った水がソラの体を流れ、喉に残っていた酸っぱさがなくなり、少し体から楽になる。だがすぐに恥ずかしさがソラの体を覆い尽くす。


 ソラがそう感じ始めたのは半年程前からだ。


 ソラの暴走以降、コレットはソラに対して気をきかせることが多くなった。持っていたタオルをソラに渡してきたり、先程と同じように水を渡してきたり、最初はおどおどしくもあったがソラを数日で慣れコレットに同じようにタオルや水を渡した。


 しかし、それが半年程続いたある日、眠っているソラを起こすようになった。


 それだけならまだ善意という事で納得する事ができるソラだったが、コレットは自分のご飯をソラに食べさせようとしたり、汗を流しているソラにタオルを渡すのではなく、自らソラの汗を拭くようになった。


 ソラはその行動にある考えが浮かび、思考が凍りつき、燃え上がるような恥ずかしさとありえないという考えの狭間で頭がぐしゃぐしゃになっていった。


 その日からお互いに変な空気が流れ始め、現在までそれが続き、お互いに妙な空気が生まれ始めた。


「……」

「……」


 それ故に、現在互いに向き合っている2人は視線を外にやって言葉を交わさずその場に座り込んでいた。


 遠くでは2人の保護者の様な瞳で2人を見て笑みを浮かべているユニの姿があった。


「……水…ありがとう……」

「うん…どういたしまして……」


 2人の会話は長続きせず、すぐに会話が途切れる。そんな2人の頬は真っ赤に染まっている。なんと言葉を交わしていいのかわからないが、それでも()()()()()とソラは口を開いて話しかけた。


「……と、特訓はいいのか?」

「う、うん…今は休憩中。私の魔導はちゃんと集中しないといけないから……」

「そうだったけか? えっと確か、現在知識にある魔法を取り入れて魔導を使うってものだったよな」

「うん。元々ある四属性。火・水・風・土の4つに思いを込めて色々な魔導を使っていこうって方法だよ」

「それってそんなに難しいのか?」

「そんなにでもないけど……ソラみたいに複合魔法を魔導には組み込むのはかなり難しいと思う。複合魔法は中級の魔法から上級の魔法を組み合わせた強力な魔法だから」

「そうなのか?」

「そうだよ〜!。ソラはすごく簡単に言ってるけど、本当はすごい高度な魔法の術式なんだから!」

「お、おう」


 コレットは膝立ちとなり、壁にもたれかかるソラに勢いよく近づく。


「元々複合魔法を使える人は殆どセンス見たいな感じで多くの人が使えるわけじゃないんの! 私だって成功するかわからないのに、ソラはそれを成功させたんだから、本当にすごいよ!」

「あ、あり、ありがとう……で、でも、少し離れてもらってもいいかな? ……色々と心臓に悪いし……」


 最後の一言が聞こえたのかわからないが、コレットは覆い被さるようにソラに接近し、あと少しで顔と顔が重なってしまうほど近くづいていることに気付き、顔どころか耳まで真っ赤にして、ゆっくりとソラから離れた。


 コレットは自身の唇を自身の指で隠すが、少しだけ見えてソラはその場所に釘付けとなる。ソラは1年前のあの出来事を思い出し、ゴクリと生唾を飲む。


 ソラが口を開き、何かを言おうとしたその時、ドサッという音が2人の耳に届いた。


「い、今の音は?」

「な、なんだろう……。私、ちょっと見てくるね」

「待って、僕も行く」

「だ、大丈夫だよ! ソラは無茶しないでここで」

「僕が気になった。君を1人にしておけない。それじゃあ、ダメかな?」

「……〜〜〜〜! ううん!いいよ!」


 ソラの言葉にコレットは言葉にならない声をあげて、とても嬉しそうに了承した。


 ソラは壁に手をつきながら立ち上がると、その逆の方からソラを支えて一緒に立ち上がるコレット。そのまま音のした方に歩み始める。


 音の方に近づいて行くと、どんどんと強烈な異臭が臭い始める。ソラ達はその臭いに耐えながらそちらに向けて歩き続ける。


 そしてその臭いの元に辿り着くとそこにはソラを死目前まで追い込んだ奈落の四魔獣の一体、ベアード・ゼブラが横たわって死んでいた。


 だが、その異様な死に方に2人は凍りつく。


 死んでいるベアード・ゼブラの体は左腕が無くなり、頭も右耳から鼻までにかけてまるでそこだけ掬い上げられたように無くなっていたが、それ以上にその無くなった傷口から()()()()()()()()()()()()()()

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