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ショートショート

手作り(ショートショート7)

作者: keikato

 朝刊を広げ、チラシの多さにイヤ気がさした。

 不動産屋、パチンコ店、家電店、ホームセンター、さらには墓地の広告まで入っている。

――高いな。

 墓地の価格に、つい大きなため息が出てしまう。

 オレも七十を過ぎた。そんなに遠くない日、骨を埋める場所が必ず必要となる。

――最近、それにしても多いな。

 自分がそういう年齢なのか、どうもそうした広告が目についてしまう。

 新聞を読む気が失せ、縁側の外に目を向けた。

 庭の片隅、南天が赤い実をつけている。

――気がつかなかったな。

 今日は庭の手入れをしようと思った。庭いじりがオレの唯一の趣味なのだ。

「あなた、ちょっとお願いー」

 妻の呼ぶ声がする。

 オレは新聞をたたみ、妻のいるキッチンに行った。

「どうした?」

「これなんだけど、重くてね」

 妻が漬物容器の前に立っている。

 どうも漬物石を新しいものと交換したいらしい。


 先日、妻と河原を散歩したときのこと。

「あら、いいのがあるわ」

 形も大きさもちょうどいいと言って、妻は河原にあった石に目をつけたのだ。

 漬物石にするらしい。

 おかげで翌日、わざわざ車で出かけ、オレはずいぶん重い石を運ばされた。

 妻は手先がとても器用で、なんでも自分で作ってしまう。漬物もそのひとつだが、パンや菓子も自分で焼く。さらには服の仕立て、小物入れの制作、さらにはちょっとした日曜大工までやる。

 ほとんどのものは材料を買ってきて作る。特にプレゼントなんかは自分の手で一からこしらえ、そのできばえもなかなかのものであった。

「手作りは、心がこもっていていいのよ」

 経費は安くあがるし、それにもらう方も喜んでくれるのだと、妻はほこらしげに言う。


 オレは目の前の石を見て言った。

「これと取り換えるんだな?」

「ええ、持ち上げられなくて」

 なるほど、ばあさんの細腕では無理であろう。古い漬物石の倍ほどもあるのだ。

 漬物石を交換してやった。

「あなた、さっきはどうしたの? 大きなため息なんかついちゃって」

 妻がオレの顔をうかがい見る。

 どうも妻の耳にまで、さきほどのため息が届いていたようである。

「墓地と墓の広告を見て、なんだか他人ごとに思えなくてな」

「身につまされる?」

「ああ、そういう年なんだろう」

「すごく高いでしょ」

「墓地と墓石で三百万以上だ」

「死んでもお金がかかるわね」

「オレの骨、河原に捨ててもかまわんぞ」

「そんなあ! ちゃんとしてあげるわよ」

「すまんな」

「ねえ、ほら見て」

 妻が庭を指さした。

「南天の木のあるところ。あそこ、ちょこっとあいてるでしょ。日当たりもいいしね」

「まさか、オマエ?」

「あなたには悪いけど、それまで漬物石として使わせてもらうわね」

 妻が漬物容器に置いたばかりの石に目をやる。

「いや、かまわんが……」

 手作りの墓石とは、なんとも心がこもっているではないか。妻ならきっと、立派なものを作ってくれるにちがいない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 味がしみて 天国でも 美味しい茶漬けにありつけますね。 夫婦の機微を描かせたら天下一品! [一言] わが家のママは桜の下に眠っています。 樹木葬 言うんで…
[一言] 読み終えたあと、クスクス笑いが止まりません。あまたある作品群の中でも、これは上位に入りますね。さすが、名手です。何度読んでも面白くて、文章、構成も完璧(^_^)v
[良い点] ブラックな結末になるかと思いきや、情のある静かな終わり方で、すごく好感がもてました。 こういう落ちも面白く、新鮮です!よい作品です!
2017/12/02 14:55 退会済み
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