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 先頭を切る二台の車は花梨の力により、物理法則に反して直角に進路を変えたものの、力の及ばない背後の車が、数メートル先に迫っていた。

 避けられないほど、目の前に。

 

「あ、あ、あ」


 俺は情けない声を出しながら、咄嗟に右腕を大きく振っていた。

 

 無意識。何も考えられなかった。

 おそらく、車との衝突を回避しようとした本能的行動、無条件反射だと思われる。無意味な行動に変わりはないが、体は勝手に動いていたのだ。

 

 目にも留まらぬ速さで俺に向かってきていた車が――

 

「きゃぁぁぁぁあ!」


 花梨の悲鳴が一際大きく辺りに鳴り響いた。

 

 が、その悲鳴を容易くかき消す程の、耳障りでけたたましい衝突音があがり、空気を揺るがす衝撃波が続く。

 セダンは俺へと衝突する既、側面から強い衝撃を受け、くの字に湾曲。

 割れたサイドガラスがあたり一面に飛散した。

 

 見えない力により衝撃を加えられた車は、一瞬の間を置いて弾き飛ばされ、群衆の頭上スレスレを超え、五十メートル先の民家の軒先へと落下。

 

 植え込みが次々になぎ倒されていった。

 

「え……?」


 何が起こったのかわからなかった。

 突然のことで理解が追いつかない。けれど、俺は自分の手のひらに視線を落としていた。見慣れた手に変わりはない。続いて花梨を見やった。

 

「もしかして今のは……花梨の能力をコピーした俺の力なのか?」


 尋ねるも、花梨も状況が飲み込めていないのか、反応をよこさない。

 

 が、のんびりと彼女の反応を待っている余裕はない。

 俺は、視界の端に軽自動車の姿を捉えた。

 

 花梨も敵の攻撃に気がついたのか、空に向かって腕を薙ぐ。

 頭上を見ると二台のバス。前方からは、俺めがけて飛んで来る軽自動車。

 敵は攻撃の手を緩めない。

 

「くそぉぉぉ!」


 俺は迫り来る車に向かって手のひらを突き出す。

 やるしかなかった。確信が持てないながらも、信じるしか無かった。例え力が使えずとも、何もしなければ、何も始まらない。

 

 瞬く間に俺の懐に飛び込む車。

 しかし、抱いていた不安が自信へと変わり、確信する。

 

「ぐっ!」


 飛び込んできた車は、俺の突き出した手によって阻まれ、歪な衝突音を鳴らしながらフロントを大きく陥没。リアを天高く持ち上げ、急停車。

 ボンネットには俺の手形がくっきりと残った。

 

 コクリとつばを飲み込む。

 

 やはり、この黒式尉には、コピー能力が備わっていた。 

 今、アメノタヂカラオの能力をコピーしている。

 

 みるみると自信が湧き上がり、闘争本能が呼び覚まされた。

 

「あぁぁぁぁ!」


 俺は車を持ち上げ、金髪野郎に向けて投げ飛ばした。

 投げた時の手応えは全くといっていい程、無かった。が、現実として車は時速数百キロを伴って、金髪めがけて飛行する。

 

「おや?」


 腰に手を当てていた純矢は、ゆっくりと腕を前に突き出した。

 

 車はとてつもないスピードで純矢に衝突した――かに思われた。だが、熊坂の本領を目の当たりにさせられてしまう。

 

 車は純矢と接触する寸前、一瞬にして砂のごとく粉々に粉砕させられてしまったのだ。その粒子状となった靄は、車の形を辛うじて保ちながら純矢を通り過ぎていき、背後の校舎に接触。消散した。

 

 彼は風圧により乱れた髪型を整えるように、優雅に手ぐしをする。

 

 大きくざわつく観衆。口々に、「どうなってんだ」と声を潜めながら顔を見合わせていた。

 

「……大丈夫? ねぇ大丈夫?」


 興奮のあまり気が付かなかったが、花梨は俺に言葉をかけ続けていたようだ。

 

「はぁはぁ……大丈夫だ。何も心配はいらない」

「そう、それなら良かったわ。いえ本当に良かった……。もうだめかと思ったから……」


 随分と弱気になった花梨だが、涙脆くもなったようだ。

 泣き出しそうに声が震えてる。

 

「やはり黒式尉には、他のお面の力をコピーする能力があるようだ。もう心配は無用だ」

「本当?」

「おそらく、だがな」


 俺は拳を握った。これで勝利も夢ではなくなったのだ。

 俄然、闘争心に火がつく。

 

「今度は俺達の番だ」


 花梨が大きく頷く。

 お面の内側では笑顔を作っているんだろうなと勝手に想像した。

 

「え?」

「イーッヒッヒッヒ」


 不気味な笑い声を上げるのは、いつの間にやら花梨の背後に立っていた男。

 

「うそ、だろ?」


 純矢がそこにいた。

 

 気が付かなかった。いや、気づけなかった。僅かな時間とは言え、花梨に気を向けており、純矢の動向に注意を払う余裕など無かったのだから。

 彼に対して気を回していたとしても、俺達を取り囲む群衆に紛れ込まれたら判別のしようがない。

 

 

 ――あぁ。

 

 

 だからこそ、こうやって背後を盗られたのか。

 

 そう仕組む為に群集を集めた、お手製のステージ。俺達はその罠にまんまとハマったのか。

 

「お遊びは、このくらいにしようか。アハハッ」


 せせら笑うと、純矢のやせ細った手が、花梨の丸い肩へと伸びた。

 あ、と声を上げるまもなく、花梨の肩が純矢の手のひらに包み込まれ――

 

「え?」


 花梨が異変に気づき振り返る。が、バランスを崩して俺の胸の中に倒れこんだ。

 腕の中に抱えた花梨を見下ろした。

 


 彼女の両腕が――肩から消失している。



「う、ウソだろ……。大丈夫か!」


 訊くも、花梨は事態が把握出来ていないのか、不思議そうな声を上げるばかりだ。

 

 純矢の周りには陽光を反射して、煌めく粒子が漂っていた。おそらく、花梨の腕を盗みだしたことにより発生した、何らかの物理現象。分解された花梨の腕の素粒子か?

 

「花梨ちゃんの腕が消えたのは、これで二度目だね」


 純矢が残念そうな声で、だが口元をヘラヘラさせて言う。

 

「あぁ、残念。これでは闘うどころではないねぇ」


 純矢は屈みこみ、花梨の足に向かって手を伸ばす。

 咄嗟に花梨の身体を抱えて退いた。

 

「おやおや。足を狙っているってバレちゃったかな?」 


 鼓膜にまとわりつく下卑た声の純矢。

 

「てめぇだけは……絶対に……絶対に許さねぇ」


 自分でも驚くほど低く、冷たく呟いた。

 

「許さない? 別に君に許してほしいだなんて思っていない。どうやらそのお面にも力が備わっているらしいが、僕の盗む力を前にしては全てがゴミ同然だよ」


 純矢が俺達に向かって一歩近づく。

 

「その腕を治してほしくば、百戒として然るべき行動を取りなさい」


 観衆から異様な囁きが起きる。

 そのどれもが、純矢に対する感嘆とした喘ぎであった。

 

「あっ! あのおんなの人。うでが無くなってる!」


 まさに、無邪気、といえる幼い子どもの声が、雑踏の中から木霊する。

 その声に気がついたのか、花梨の身体がぶるりと震えた。

 

「え? うでが……無くなってる? うでが……無くなってるの?」


 花梨は頭をさげ、腕の付け根を交互に見回す。

 

「ない……。うでが……ないわ」


 くように、俺の顔を見仰いだ花梨。

 お面越しに見える花梨の瞳には、光が無かった。

 

「くそっ……」


 花梨は今にも壊れてしまいそうであった。

 トラウマ。殊勝にも、その悪しき過去に立ち向かおうとした矢先、気持ちをくじかせるように腕を消失したのだ。

 

 俺は腕の中にすっぽりと収まっている花梨を強く抱きしめた。

 

「花梨。他のヤツの声など聞くな。俺の声だけを聞け」

「うで……うで!」

「大丈夫だ。落ち着け」

「いやっ! 腕が、なくなった? 嘘でしょ! また腕が、無くなったの?」


 花梨が俺から抜けだそうともがき始める。だが、彼女を強く抱きしめ続けた。

 

「言っただろ。俺はお前を見捨てないって」

「いやっ! いやあぁぁぁぁぁあ!」


 叫ぶ彼女の耳元で、必死に声を届ける。目の前の純矢に注意を向けると、彼はクスクスと笑い声をあげ、俺達を眺めているだけであった。

 とことんなまでに、下衆野郎だ。

 

 俺は花梨の背に回している手を、肩口まで寄せた。

 触れる事の出来ない消えた腕。同じ目に遭わされた当時は、これとは別に足も失った。そして誰にも助けを乞えず、地面に転がされていたんだ。

 孤独から、そして反撃できない無力さから、絶望するしかなかっただろう。

 そして、その後――

 

 花梨の置かれた状況を想像すると、胸が張り裂けそうになる。

 

「大丈夫だ。何も心配はいらない。今はこうして俺がそばにいるんだから」

「……助けて……助けて!」

「あぁ。すぐ助けてやる」


 抱きしめる腕の力を開放し、花梨の腰を掴んでそっと引き離した。

 彼女の光の無い瞳が、力なく俺を捉える。

 

「助けて……俊……。また……あたし」


 儚く、弱々しい声。

 花梨をまっすぐ見つめ、こくりと頷いた。

 

「今、そのトラウマの中から引っ張りあげてやるからな」


 言ったまもなく、辺りに漂っていた光の粒子が、たちまちに花梨を覆った。その粒は磁石のように引きつけあい、腕を形成するかの如く寄り集まる。

 眩いまでに腕は輝きを放ち、徐々に色を帯び、健康的な肌色がするりと現れた。

 まさに、一瞬の出来事、であった。

 

「取り返してやったぞ、花梨」


 やはり、漂っていた粒子は花梨の腕だったか。

 返却。

 たしか花梨はこんなことを口にしていた。念じるだけでこれが出来るなんて、とんでもないお面だな。熊坂。

 

 腕の回復を即座に感じ取ったであろう花梨は、すぐさま視線を落として腕を見やる。彼女は自身の腕を見つめ、手のひらを開いたり閉じたりを繰り返した。

 

「俺は、お前を見捨てない。そうだろ?」

「俊……俊……」


 嗚咽しながら俺の名を呼ぶ花梨。

 お面越しでも分かるほどに、花梨は涙を溢れさせていた。そんな彼女の素直さに心が締め付けられる思いでいたところ、グラウンドの土を踏みしめる足音に気付かされた。

 俺たち二人に純矢が迫る。

 

「どうやったのか知らないけれど、お楽しみのところ邪魔するよ」


 俺に向かって純矢の手が伸びる。が、それを勢い良く払いのけた。彼の舌打ちが続く。

 

 腹の奥底から、どす黒い憎悪の感情が沸いて出た。

 

「その力で、今の今まで何人の人間を苦しめたんだ?」


 俺は自身の背後に花梨を回しながら、努めて冷静に問うた。

 

 

 全てを終わらせる前に、どうしても確かめておきたいことが一つ、あった。

 

 

 そして、その確かめたいことが間違いであって欲しかった。

 訊いてはならないことかもしれない。

 知らない方が幸せなのかもしれない。

 

 もしそれが事実であった場合、俺は過ちを犯してしまうかもしれないのだから。

 

 けれど、それでも。

 それでも、訊かずにはいられなかった。

 

「突然おかしなことを訊くねぇ」

「いいから答えてくれないか?」


 純矢は訝るよう首を傾げながらも、

 

「うぅん。いいよ。苦しめるというと語弊があるけど、唯一、花梨ちゃんだけじゃないかな? あとの人間は、盗んだままどこかに消えちゃうから、苦しみようがないだろう?」


 その返答を受け、俺の眼前がみるみる赤く染まる。俺が期待しない回答に近づいている。

 間違いであってくれ。

 嘘であってくれ。

 祈る様な気持ちで問いを重ねた。

 

「十年前の鬼神祭で、守司が消されたという話を聞いたが……まさか、お前の家族がそれに関係しているわけないよな?」


 純矢は腕を組み、低く唸る。

 

「十年前に守司が消された……か」

「そうだ。関係ない、よな?」

「うぅむ……。おそらくは、守司攫しゅじさらい、の事を言っているんだろうね」

「守司攫い?」

「そう。さらわれた様に姿を消すことから、そう名付けられたんだ。まぁ名付けの親は、何を隠そう、僕の兄なんだけれどね」


 心臓が、ひときわ大きく脈を打った。


「うそだろ……」

「ということはだ、キミの話す十年前の守司攫いは、間違いなく兄といってもいい。そもそも、守司を消す人間なんて聞いたことが無いからね。それに兄は、一時期、守司を消す事に、楽しみを見出していたみたいだからねえ。その当時は、そんな強者の兄を尊敬していたが、今にして思えば、同じ家族であっても常識を疑うよ」

「……冗談は、やめてくれ……」

「おっと、人のことは言えないな。僕もつい最近、何人か消しちゃって、その楽しみに目覚め始めたからな。ククッ」


 喉を鳴らして笑う純矢を見て、底知れぬ憎悪に支配される。

 

「母さんは……こいつの兄の事を……言っていたのか」


 瞬間、俺は純矢の懐に飛び込むと、彼の腹部を思い切り殴りあげていた。

 髪を振り乱して飛ばされた純矢は、地面にもんどり打つ。

 腹部を抑えてのたうち回り、しばらくして膝に手をついて起き上がった。

 

「ふ、不意打ちとは卑怯だ……」


 もはや周りが一切見えない。

 この男に対して、明確な殺意が芽生える。

 

「僕の力が理解できていないようだ。全く、これだから無知で下賎な百戒は困る」


 言った純矢が俺に向かって手をつきだす。俺はその向けられた小さな手を握った。力いっぱい握った。

 まるで子供の様に小さく、か弱い手であった。いかにもケンカをした事のない温室育ちの手。

 

 口元を不敵に歪ませた純矢は、

 

「分かっていると思うけど、僕に触れると盗まれるんだよ。例えそれが身体であろうとも……ね」


 ゲラゲラと笑い飛ばす彼を前に、俺は冷たく言い放つ。

 

「盗めよ」

「じゃあ遠慮無く。まずは左腕から――」


 それを聞き終える間もなく、俺はまたしても思い切り振りかぶった拳を、純矢の脇腹へ力任せに叩き込んだ。

 肉のえぐれる鈍い音が空に霧散し、純矢のくぐもった呻きが面ごしに漏れる。

 その場に倒れ込もうとする純矢だが、無理矢理に手を引いて起こす。

 

「早く、盗めよ」

「あ、あれ? ぬ、盗めない? どうして!」


 純矢の声に動揺が現れ、その様子を見る群衆が色めきだつ。

 

 花梨の時ほどではないにしろ、俺の腕からも煌めく粒子が舞い上がっていた。紛うこと無く盗まれているのだろう。が、舞い上がるその粒子は、立ち上る湯気のように空気に溶け込んで消えていた。

 俺とて純矢の力を真似ている。

 盗まれているのなら、そのそばから盗みかえせばいい。

 

「百戒を侮った結果だ」


 低く言い放つが、その言葉が純矢の耳に届いていないことは明確であった。

 

「い、痛いじゃないか! 離せぇぇぇぇ!」


 純矢の拳を、力を込めて握っているせいか、彼は悶絶していた。

 

「お前は僕の力でこの世から消されたいのか! されなくないなら離せ!」


 彼は抵抗を示すように、俺の腕をぽこぽこと殴ってみせる。学習しない男のようだ。

 

「離さねえよ。お前の兄貴が俺の父さんを殺したんだからな。守司を殺すお前も同罪だ」

「父さんを殺しただって?」


 純矢が語尾を上げて問うてきた。


「あぁ。俺の父さんは、守司中に、お前の兄貴によって消されたんだ」


 はっ、と鼻で笑う純矢。


「消されたから何だってんだ。復讐ってやつか? バカじゃねえの? そんなもん、消された方が悪いに決まってるだろ。自分の能力不足が祟っただけじゃねえか! 自分をゴミと自覚出来ないバカだから消えたんだよ! だからお前は百戒なんだ! 離せよ! クズ!」


 俺を殴り続けていた純矢の拳が、脇腹にめり込んだ。

 ほんの少し、痛かった。


「ゴミだろうが何だろうが……精一杯生きている人間なんだよ」


 冷たく言って、自身の拳を純矢の腹部に思い切り叩きつけた。鼓膜をつんざく純矢の絶叫が響いた。掴まれていない腕で腹を抑える金髪野郎。


 反省の態度を見せて欲しかった。

 例えそれが嘘であっても、俺は振り上げた拳をおさめることが出来たのだ。

 演技でも良かった。

 最悪、無言でも良かった。


 キッカケが欲しかったのだ。

 この怒りをおさめるキッカケが。


 なのにどうして俺を煽ったんだ? 

 なぁ、純矢。

 教えてくれよ。


 殺されるかもしれないのに、どうして俺を煽ったんだ?


「……もう、止めるつもりはない」


 ギリと奥歯を噛み締めながら低く言い、二度、三度と純矢の腹部に拳をお見舞いする。その度に俺の拳も激痛に見舞われた。だが、亡くなった父や、凌辱じみた行為を受けた花梨を想うと、止められない。

 罪人になることも厭わないとさえ思えていた。


 ――どうなってもいい。


 純矢一族を、滅ぼしてやる。


 これ以上、この一族によって涙を流す人間が増えないよう……徹底的に潰してやる。


 そう。

 まずはこいつを、『見せしめ』として――殺してやる。



「死ね」

「俊っ!」


 過ちをおかしそうになる俺を引き止めたのは、赤いシュシュのよく似合うお面を被った女性であった。

 俺の振り上げた拳をつかみ、かぶりを振っているのは花梨だ。

 

「あたしは……あたしは、貴方と離れ離れになりたくない!」

「くっ……」

「言ってくれたでしょう? あたしを見捨てないって。その約束を守ってほしい」

「……」

「これからも、俊のそばに、いさせて?」


 その落ち着き払った花梨の声が脳を駆けまわり、激情に押し流されていた俺を現実へと引き戻した。

 眼前には血反吐を流し、ぐったりとしている純矢。それを見て、スッと血の気が引く。

 

 花梨が掴んでいる俺の腕を解いた。高く持ち上げていた拳をそろりと下ろす。

 

「ありがとう……花梨」


 俺は自分が泣いている事に気がついた。それほどまで、自分を見失っていたようだ。

 ありがたかった。ここで純矢を殺めていれば、本当の意味で全てが終わるところであったのだから。

 

「さぁ、終わらせましょう」


 花梨が何かを吐き出すように力強く言った。俺はそれに小さく頷く。

 

「そうだな。鬼神祭を終わらせよう」


 その言葉を残して、俺はグラウンド中央へと純矢を引きずっていった。

 

 砂地のグラウンドに、純矢の引きずり跡を刻みながら中央へと躍り出ると、俺達を取り囲む群衆をぐるりと見回した。人々の視線が自分に集まる。

 

 純矢のつけているお面を強引に引き剥がし、彼をその場に投げ捨てた。

 

 見せしめが村長の孫に勝利したところで、鬼神祭が変わるとは思っていない。

 ただ、地位の無い俺が、高地位のエリートに勝利したという事実を受け止めてほしかった。地位や数字の無意味さを理解して欲しかった。

 今はまだ、その事実を受け止めきれないかもしれない。けれどこれから先、何らかの変化があるはずだ。そして最終的には、命を粗末に扱う祭りを終わらせることができると信じている。

 

 

 純矢を見ると、顔を歪めて泣いていた。この男を支配していた自信や尊厳は、そこにない。

  

 静まり返っていた群衆から、波を打つ様にざわつきが現れ始めた。歓声はない。


 そんな群衆を尻目に、俺は坊主頭へと向かって歩んだ。が、グラウンドに居たはずの坊主の姿はなく、あるのは、地面に転がされたしかみの『お面』だけであった。

 


 

 俺はそれを見て、昔の自分を見ているようで悲しくなった。


五章おわり

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