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「特別室が惨状だったのを忘れてたの! どうしよう! このままじゃクビになっちゃう!」


 水無月は、ガー、と叫んで、その場に背を丸めて蹲ってしまった。

 

 確かにこの有様ではクビは免れないかもしれない。

 

 本棚をぶっ倒して本をばら撒き、小部屋の扉をぶち抜いて破壊し、村の重要な資料を盗み見られている散々な状態だ。

 主犯が俺だとしても、足取りを追われたら水無月も無傷では済まないと思われる。

 

 だが――、

 

「片付けてしまえばいいだけじゃないか」


 一歩下がって倒れた本棚を見やった。

 半分近くの本棚が内向きに倒れており、中からはみ出た本が床を覆い尽くしている。

 外れた扉は蝶番が取れてしまっただけで、損傷は少なく見えた。

 

 改めて見回してみても、片付けてしまえば問題ないように思える。 

 

「片付けるだけで大丈夫かな? 本当に大丈夫かな?」


 見回している俺の隣に水無月が並び、そっと腕を掴んできた。


「壊れた扉だって蝶番が外れただけだから、簡単に元に戻るよ。問題ない」

「う~ん……。俊くんがそう言うなら――」


 うん、と大きく頷いた水無月は、


「――信じる。俊くんを信じてついていきます!」


 どこについてくるつもりだ。というツッコミはしないでおこう。


「じゃあ先に片付けてしまうか」と俺。

「うん。でも片付けるって言っても、どこから手を付けて良いのかな? 先に本棚を戻して、床に散らかった本を片付けた方がいい? それとも先に本をかき集めた方がいい?」


 ねぇねぇどうする? 

 と、まるでデート中の様な甘えた口調がきにかかる。

 

「……先に本棚を戻した方が効率いいだろう」

「じゃあじゃあ、一緒にもちあげよ?」


 流石に、この鉄製の本棚を一人で持ち上げるのは困難だ。

 人手はあっても困らない。


「そうだな。一緒にもちあげるとするか」

「うん!」


 水無月は俺の腕を引いて棚へ誘った。

 すると背後にいる花梨が、不服そうに声を上げる。

 

「どうしてあたしに頼まないのかしら。のけ者にすることは感心しないわね」


 別にのけ者にしたわけではなく、俺のせいな事もあって頼みづらかったのが本音だ。

 だが、そんな花梨の発言が気にくわかなったのか、水無月は花梨に食って掛かる。

 

「んだよテメェ。部外者はスッこんでろよ!」


 豹変しすぎだろ。


「巻き込まれたとは言え、本棚を倒したのはあたし。当事者と言って貰いたいわね」


 肩をすくめて、何やら呆れた様子の花梨だった。

 

「俊くんとの初めての共同作業なんだよ。いいから邪魔をするんじゃねえ!」

「随分とお手軽な共同作業だこと。同じ空気を吸う事も、共同作業にしてしまう勢いね」


 喧嘩をしている場合ではないので二人を宥めたのだが、

 

「俊くんと言えど、この闘いの邪魔はさせないよ!」


 水無月は俺の肩をポンと押して、扉側へと追いやった。

 

「そうね。それこそ部外者は引っ込んでてもらいたいわ」


 花梨は慣れた手つきでお面を装着すると、力を利用してアッサリと倒れた棚を戻しつつ、水無月へと歩み寄った。

 まさに片手間で棚を戻してしまったよ。

 スゲェな、花梨の力は。

 

「お? いい度胸じゃねぇか。やる気満々だな。花梨……」


 水無月は指の骨をポキポキと鳴らすと、近づく花梨に向かって歩いた。

 花梨も花梨で、わずかに乱れた服装を整えつつ歩む足を止めない。

 

 流石に傍観などしていられない。

 片付けに時間を要するだろうに、くだらない事に時間を費やしていては陽が暮れてしまう。

 

「いい加減にしてくれ!」


 二人の間に割って入ると、

 

「邪魔しないで!」


 二人の怒りのハーモニーが奏でられ、俺は素直に引き下がった。







 拳が出る乱闘騒ぎとはならなかったものの、二人の間で飛び交う暴言は、それはもう耳を覆いたくなるような単語のオンパレードであった。

 バカだのアホだのと、そんな子供じみた言葉ではなく、口にする事がためらわれるエグい言葉が、恥ずかしげもなくぶち撒けられた。

 

 聞いているこっちが、恥ずかしさで顔が赤くなるほどだ。

 

 しばらく言い合いを繰り広げていた彼女たちだが、文句も出尽くしたのか、どちらからともなく喧嘩に終止符を打ち、床に散らばる本を片付け始めた。

 部屋の隅で固まっていた俺は、彼女たちを刺激しないように、そろりと片付けに参加する。

 

 女性の喧嘩って怖い。

 


 散らかる本は見たところ多くはないが、しかし、そのどれもが分厚い書籍だ。

 手に持つとずっしりとした重さがあり、ちょっとしたウエイトトレーニングが可能な重量である。

 

 かき集めた本を、せっせと棚へと収めていく。花梨や水無月も黙々として汗を流しており、この様子だと陽が暮れる前に片付く勢いであった。

 

 両手いっぱいに抱え上げていた本を並べ終えて、床に散乱する本を拾い上げていたところ、他のものに比べて微妙に太い書籍を拾いあてた。

 

 他の書籍と同様、代わり映えのない赤い表紙の書籍だが、どういうわけだか手が震え、妙な胸騒ぎを感じた。

 

 まさか――直感に突き動かされた俺は、片付ける手を止めてその本を丁寧に開く。

 

『平成二十二年度 鬼神祭に係る調査研究報告』


 何の因果か、俺は目的の書籍を手にしてしまったらしい。

 

 数多く有る書籍の一つにすぎないにも関わらず、妙な直感に突き動かされ、その書籍の中身を読もうと手にとったのだ。

 これはもはや運命と言えるのではないだろうか。

 出逢うべくして出逢った書籍。

 

 天啓に打たれたような衝撃を覚え、頭がクラクラとしてしまった。


「どうしたの?」


 花梨の物問いを聞き流し、俺は報告書を読み進めた。


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