闘技場対戦録-魔書使い マリルvs短剣使い フレイ-
闘技場。それは、より強い者と戦うことを、より自分自身が強くなることを望むものが集う場所。
円形の闘技場の観客席の下には、土で覆われた円形のステージ。
観客は既に盛り上がっており、今日もここでは強者達が死闘を繰り広げるのである。
「本日の対戦は……魔書使いマリル対短剣使いフレイ!!! 両者とも入れ!!!」
主催のアナウンスで、観客を魅せる戦う者二人が入ってくる。
まず、出てきたのは白い肌に青い髪を上の方で一つで結んだ女__マリル。朱色のベレー帽をかぶり、髪の色と対照的な朱色と白を基調とした西国風の服で、短いカボチャパンツ。右手には古そうな分厚く大きな本を持っている。
その後、反対側から出てきたのは、編み込みのある白い長髪を左下で一つに結った女__フレイ。瞳は水色で冷たい印象を受ける。細くしなやかな体つきで、動きやすそうな白と青の装いはポケットが多くてどこから武器が出てくるのか予想がつかない。
「本日は可愛らしい女性達の戦いのようですね!! それでは__始めっっ!!」
「「うぉぉぉぉぉおおお!!」」
開始のアナウンスに沸き上がる観客。
開始一秒、早くもマリルが仕掛けた。
魔書を開いて呪文を唱える。
「地形変化! 氷原の形!!」
唱えた瞬間、マリルを中心として地面が円状の波を描きながら次第に冷たい氷で覆われていく。
「……ぬなっ……っ!」
足が氷漬けになるのを跳んで回避し、氷の上に立つフレイ。しかし、つるつると滑る氷上ではしっかりと態勢を整える事ができない。
それを横目にマリルはまたもや呪文を唱えて地から足を離し、宙に浮く。
「効果付着、自由飛行!」
続けざまに攻撃呪文を唱える。
パラパラパラと不思議なチカラで次々と捲られるページ。
「爽風の陣、風精の輪舞曲!」
魔書から黄緑色に淡く光る小さな光が幾つもあらわれ、フレイに向かって飛んでいく。
だが、フレイもただ黙って見ていた訳ではない。
フレイは懐から短剣を何本も取り出し、凍った地面に投げさす。全体に満遍なく、定間隔で、柄を少し地表に出して刺す。
そして、刺した短剣の柄を踏み台にして__跳び回った。隣へ、次から次へと柄から柄へと。
淡い黄緑色の光はそんなフレイを斬りつけるような風を起し追いかける。しかし、フレイを捉えることができない。当たらぬように反転したり、回転しながら負けじと跳ね回るフレイ。
そんな攻防が続いていた中、フレイが攻撃をマリルにぶちかます。
マリルの近くの短剣の上でクン、と足に力を入れて__跳び上がる。
「うわっうわぁぁぁ!!」
通常、ヒトが飛んで来られるとは思えない程の高さにいたマリルは、フレイのまさかの跳躍力に驚いている。驚きで固まってしまい、動く事ができない。
そのままフレイは懐から取り出した短剣で固まったマリルを__斬る。
「ふっ……!」
「きゃぁっ!!」
跳び上がりつつの右下からの斬りあげ。
見事に当たった一閃で、マリルは魔書を手放してしまい発動していた魔法が溶けて地面へ落ちていくマリル。
ぱたん。と、魔書が落ちた。
どんっ、と派手な音を立て、氷の消えた土の地面へ打ち付けられるマリル。
フレイはしっかりと受け身をとり着地。
そのあとにマリルの様子を見に近づく。
その様子を見守る観客たちは唾を飲んで、勝敗が決するかもしれないこの状況に静けさをもたらした。
見てみると、マリルは高いところから急激に落ちていった事で目を回して気絶していた。
静かに、フレイは呼びかけた。
「審判。マリルが気絶しています」
「おおっとぉぉぉ!! マリルが気絶ぅぅぅ!! よって勝者、フレイ!!!」
「「わぁぁぁぁぁぁああああ!!」」
またもや一段と大きい歓声をあげる観客たち。
「……楽しかった」
マリルに向かって呟いたフレイは、倒れたままのマリルを無言で肩に担ぎ上げ、地面に刺さったままの短剣と空から落ちた魔書を拾い集める。
そして、舞台から去っていった。
「これにて、本日の対戦は終了いたしました!! 気をつけておかえりくださいませ!!」
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