最強
洛王高校野球部に入部後初の休みの日がきた。折角だから一年生同士で街に行くことになった。
「やっぱグラウンド広くないからこれからもこういう日増えるのかな?」
「それはないだろ?筋トレとかが普通だと思うぞ。」
「幅川のいう通りだよ、怪童。」
「やっぱそうだよな。ってかそうじゃなきゃ勝てないし今日も動きたいんだよなー。」
一年生同士といっても結局幅川と九々木と俺の3人しか集まらなかったんだけどな。
野球道具が古くなったからそれを買いに来たついでに飯を食って帰るというのが当初のプランだったんだが・・・
「キャッ!や、やめてください・・・」
「京都初めてなんやろ?案内したるっていってるやん?」
「いえ、私には他に「なんだって?ぼそぼそ言ってたらきこえへんで?」
「そ、その・・・」
ガシッ、
「おい、その娘嫌がってるだろ?離してやれよ。」
「あ?なんやお前?」
気付いたら幅川が飛び出していた。
「おい、喧嘩になったらシャレにならないのに何やってんだよ?」
「怪童のいう通りだよ。」
「こういう屑は無視できないんでな。殴らないし安心しなよ。」
「そんなこと言っても・・・」
「ほう、なんかの部活に所属してんのか、で、殴らんでもかてると・・・舐めんなや!!」
殴りかかってきたナンパ男を避ける幅川
「はは、だせぇな。」
「なんやと、貴様ぁぁぁ!!」
「おい、幅川!!」
まっすぐに突っ込んでくるナンパ男の攻撃を全て避ける幅川。
その時、
「おい、何しとるんだ?」
「あ?」ナンパ男の頭を掴む大男が現れた。
「そいつはうちのもんだ手は出してないだろうな?」
「え、その、はい出してません!」
「じゃあとっとと帰れ。」
「は、はい!失礼しましたー!」
ナンパ男は逃げ帰るようにダッシュでその場を離れた。
それよりこの大きな人190cm位の身長に何かスポーツをやっているようにしか見えないほどの体つきだ。
「なんでお前はいつもすぐはぐれるんだ!?」
「は、はい、すみません・・・」
「今回は助けてくれた人がいたからすぐ場所が分かったからいいものの・・・。お、そうだ礼がまだだったな。助けていただいて本当に助かった。ありがとう。」
「いえ、結局あなたが来て場が収まったんですから。」
「そんな謙虚にならんでいいのにな!高校生か?」
「はい、一年です。」
「そうかそうか。野球部みたいだな?違うか?」
「え?そ、その通りですけど?」
「おーやっぱりそうか!後ろの二人も含めて筋肉の付き方がっぽかったんだよ!とか言ってほんとは願望だったんだけどな。京都で野球とは大変だな。一流館があるからな!」
「でも、一流館を抑えて甲子園に行くのは俺らですから!」
「ほー、威勢がいいな。いい眼もしている。名前は?」
「怪童です!」
「幅川です。」
「え、えーっと九々木です、はい。」
「ははは!そうか、じゃあどこかで会うかもしれんな!さて帰るぞ。」
「は、はい。」
「あ、あの。」
「なんだ?」
「名前は?」
「・・・は?なんだ、知らなかったのか?俺もまだまだ有名じゃないのかね。まあ覚えていてくれたら甲子園には出場するからその時は期待しといてくれよ!じゃあな!」
「は、はあ。」
考え事をしている仕草をする幅川。
「どうした?」
「いや、あの人どこかで見たような・・・。」
助ける前に置いたであろうエナメルバッグを手に取り帰ろうとするとき、九々木が気付く。
「ん?あれってNANHOUって書いてないか?」
「南鳳!?」
「あ、分かった!あの!」
「ん?まだ何か用か?」
「南鳳の・・・いや、日本球界に現れた世界最強の打者、華王さんですよね?」
「華王?」
「知らないのか?華王 松院。昨年突然南鳳高校に現れ、現在2年生ながら通算HR数はすでに88本をマークしている高校野球界最強の人だよ。」
「なんだ知っているやつがいたじゃないか。まあ世界はまだ早いぜ。」
「俺キャッチャーやってて、怪童は投手なんです。よければですけど・・・」
「やめておけ。」
「え?」
「お前らみたいなイキイキしてるやつらを試合以外では潰したくない。勝負をしてくれっていいたいんだろう?俺は好き好んで選手潰しはしたくないんだ。」
「選手潰しって・・・?」
「あ、あの、華王君は成績はある程度知っているよね?その、あまりの実力差を見せつけてしまうから本人の意思に関係なく対戦投手のほとんどの人が野球から去ってしまうのよ。」
「まあ、そういうことだ。やりあいたいなら甲子園にきてからに・・・」
「そんなことないっすよ!俺が実力差で心が折れる!?そんな覚悟で高校野球をやるわけがない!そんなんじゃ、一流館にすら勝てない!俺を甘く見てほしくないっす!!」
「・・・ははは。後悔するなよ?」
鋭い眼光で二人を睨みつける華王。
「ほー、こんなとこ無料で使えるのか。」
華王さんと近くの運動公園まで来た。小学生のチームが練習していることも多々あるが今日はあいていたのでここで勝負することになった。
「両翼80m位か?金網を越さないように打たないとな。」
「HR前提ですか。絶対抑えてやりますよ。」
「そりゃ楽しみだ。さあこい!」
いざ投手野手として立ってみても不思議なほど恐怖感はなかった。それが逆に怪童、幅川を不安にさせていた。
(まずは思い切りストレートでこい!フォーム改造後のやつでな。)
(オッケー!いくぜ!)
ザッ、ビシュッ!!
指の離れ具合、腕の出かた、力の伝え方、絶好調の感覚だ!
ズドーン!!
「140後半くらいか?球威は抜群、キレ、ノビも素晴らしい。ははは・・・はははははは!!すまないな。ここから、本気だ。」
ゾゾッ!
華王の本気発言の直後、二人に寒気が襲った。
さっきまで感じていた違和感はなくなったが同時に圧倒的な威圧感を感じたのだ。
(雰囲気が変わった。ここは得意のコースだ。左の膝下へと入れてこい!)
(オッケー、今日ならコントロールミスをしなさそうだ。)
ザッ、ビシュ!!
左打者の膝下インロー、右打者から一番遠いアウトロー、このコースへとクロスファイヤーでストレートを投げ込む。これが怪童の一番自信のある球で特に左打者相手なら先輩にも打たれなかった絶対的に自信のある球だった。その瞬間までは・・・。
ガシャン!!
「・・・は?」
「弾道低すぎたな。フェンス直撃ってとこか。」
速すぎるスイング。いつ振ったのかわからないほど速さ。それに比例するかのような打球速度。レフト方向に弾丸ライナーで飛んでいった球は金網に突き刺さっていた。
「さあ、来いよ。これで終わりじゃないだろ?」
「も、もちろんっす!!次行きますよ!!」
強気な発言はしているものの怪童はいったい何が起こったのか理解できなかった。絶好調の状態で完璧なコースへと投じて絶対に抑えられたと思った球を何事もなかったかのように完璧に捉えられたのだ。
その後も投げるも投げる球すべて完璧に捉えられた。投じた球は28球。ストレート、スライダー、縦スラ、そして新たに身に付けたチェンジアップでさえ初見で軽々と持っていかれたのであった。20球目以降はストライクが入らなくなったため華王が勝負を中止して最強への挑戦は終わった。
「今日はまあまあ、楽しめたぜ。まだお前は1年生だ。夏の大会期待してるぜ。」
「ありがとうございました。」
呆然と立ち尽くすことしかできなかった怪童と幅川の代わりに礼をする九々木。
この日投じた28球はストライク及び打たれた球は17球、ボールは9.
空振り狙いの変化球はとことん見切られ、華王が打てると判断した球17球はすべて長打コース、少なくとも12球はHR性の当たりを打たれた。
こうして日本一の打者への挑戦は終わったが怪童の心を折るには十分すぎる内容だった。




