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仲良し姉弟の異世界トリップ  作者: 松佐
第一章~幼少期~
7/8

フラグをへし折ったあと


細やかな桜色の魔力の粒子が桜吹雪の如く散っていく。爆心地もかくやという衝撃が周囲に伝ったが、対象以外を傷つけないという無属性魔法の特徴は遺憾なく効果を発揮し、化物との物理的接触で発生した被害を除いて、森へのダメージはない。ただ、物理的接触による被害は目を背けたくなる。さすがに責任を追及される云われはないが、もしも森の地形変化について責任を追及されたなら、国外逃亡も視野に入れる必要がある。それほど、森への被害は多い。へし折れた木は数十じゃ数えたりないだろう。数百は固い。


地面は穴だらけで凸凹。こんなになるまで、よくもまあ暴れ続けられたものだと感心する域だな。5歳児でこれは完全に異常なのだが、そもそも初心者の集うこの場所に上位ランクの加護持ちがいること自体、異常なのだ。色々と目を瞑ってもらいたいどころか、当初の予定通りギルドには文句を呈してやらないと気がすまんな。割と威厳に満ちた口調ではあるが、やっぱり喋っているのが5歳児の女児というのが締まらないな。溜息が出る。私はとりあえず帰還の準備を始めた。まず、魔力砲撃など魔力をそのまま運用する技術に定評のある無属性魔法でもって魔力糸をつくり出し、内部機能を消し飛ばされ、死に至った化物の死骸をぐるぐる巻きにした。


一応、ギルドカードにも討伐記録が残っている。どうやら、インプットしたゴブリンの生体情報は正確に言うとゴブリン系統の魔物の生体情報だったようだ。表記自体はボブゴブリンとなっているので、死骸は持ち帰った方がいいな。その方が毟り取れる慰謝料も多いはずだ。冒険者ギルドは魔物の生息域、この森のような場所の生態系の調整もやっている。ここは新人冒険者の安全を確保した上で経験を積ませるための区域でもあるらしいからな。そんな場所に上位の加護持ちが現れたとなると大問題だ。ギルドにとっては醜聞に成りかねないが、今回は目先の利益を優先しようと思う。単純な実力も認められるはずだ。そうすれば、ランクアップもし易くなる可能性も高い。というのも、ギルドマスター。つまりギルドの長だが、彼らは自らが目をつけた高い実力の冒険者に指名で依頼を任せてくる。


基本的に危険度は高いが、報酬やそれ以外のボーナスも普通の依頼に比べて格段に質がいい。高性能な装備の支給だったり、高級店での使い切り無料券だったり、高ランクの冒険者の収入が一般の冒険者の収入の数倍以上なのも収入に見合うだけの危険な依頼を達成し続けているからなのだ。ちなみに私に良くお菓子をくれる50代~60代のおっちゃん達は見た目に反してBランク中位からAランク中位程度の実力を持ったベテラン中のベテランで今は後続の育成を無料で買って出ているらしい。身近にそんな凄い実力者がいたなんて、ナーサさんに教えてもらわなかったら一生気づかなかったかもしれないな。もう少し体の方が成長したら師事を仰いでみるのも悪くない。例えスキルから絶大な補正が掛かっても私は元々戦闘に関してはずぶの素人、門外漢なのだ。経験が染み付いた技を見せてもらって、それを反復するだけでも随分と違う、そう思うのだ。先人の積み上げてきた技術の、技量の結晶なのだから。


はぁ、話が脱線するのは悪い癖だな。とりあえず、最初の目的通りに死骸を持って帰る。無属性魔法減重、つまり加重と対になる魔法で軽くして引きずっていく。そこまで広範囲に広がる森でもなく、徐々に回復していた魔力を消費してエリアサーチを発動して王都の方向も確認しながら最短距離を歩いたおかげか2時間で王都に帰還できた。さすがに死骸を持ち込む際は門番に厳重なチェックを受けたが、問題がないと認められた後はスムーズに冒険者ギルドまで直行できた。人々は遠巻きにこちらを見てはぎょっとしているようではあるけれども、私はその程度のことを気にしないからな、無問題だ。割と無理やりに死骸をギルドの中に押し込み、普段の喧騒が嘘のように静まり返ったギルド内を悠然と歩く。

受付に死骸を持っていくとナーサさんが何時もの余裕の笑みを珍しく乱して駆けてきた。


「恭さん、無事ですか?報告に来た冒険者から加護持ちが出たと聞いたので、良かった。どうやら、逃げ切れたようですね。早く討伐隊を募らないと」


「ひとまず、落ち着くのだ。加護持ちの魔物はこの通り、私が責任をもって討伐したぞ?だが、私が受けたのは初心者用の討伐依頼だ。現場も初心者用の魔物生息域。その場に加護持ちの魔物でしかも、Cランクのボブゴブリンキングが現れたのは、ギルドの重大な監督不届きだと思うのだが、相応の対応を要求したいと思っている」


「へ、あ、え?」


本当に珍しいな。冷静沈着で才色兼備なギルドのアイドル受付嬢がここまで取り乱すとは。まあ、それほど私がやってのけたことは突飛だということだ。常識的に考えて5歳の少女が単騎でCランクで加護持ちの魔物を討伐し得るはずもないし、過去に例もないんじゃないだろうか。多分、誇ってもいい事だな。後はギルドから幾ら金を毟り取れるかだ。さすがに5,000,000ルピの刀が簡単に売れるとは考えにくいし、騎士団などの国直属の兵達が懇意にしている武器屋は別のところだ。そもそも、騎士団は剣と盾を主な武器とする。冒険者も基本的に剣や弓、魔法を中心とした戦術を好むし、刀の扱いは難しいのだ。売れる可能性はそう高くないはず。けれど、早く金を用意できる分には困ることは何もない。


「討伐したの、ですか?加護持ちであることを加味すれば、Bランク相当なんですよ?」


「ギルドカードにも討伐記録はちゃんと残っているぞ?尤も、加護持ちとは表示されてはいないが。ともかく、これで私が討伐したという証拠になるな。あ、そういえば、報告に来た冒険者とやらが一緒に連れてきたはずの女性達は無事か?」


「ええ。現在、ギルド直属の専門医が体調を検査しつつ、カウンセリングも行う手はずが整ってます。そちらは心配しないでください。ただ、恭さんの言う相応の対応についてはギルドマスターと話し合って頂く必要があります」


「構わないぞ。あ、できれば死骸の方が買い取ってくれると助かるのだが」


「ええ、手配します。何せ加護持ちの魔物の、それも見る限り無傷の死骸なので、素材的な利用価値は随分と高いでしょう。こちらは1時間ほど、お時間を頂くことになりますが、よろしいですか?」


「問題ない」


「それでは、ゴブリン討伐の報酬を先に支払っておきます。総計で421体討伐しているので、報酬は39,470ルピです」


受け取った報酬をギルドカードに収納した。ナーサさんに教えてもらった情報だが、ハイスペックなギルドカードは財布の機能も保持しているらしく、カード内部に金だけを収納する亜空間が存在しているとか。正直、ギルドカードがなぜ銀貨1枚なのか分からないな。


「では、ギルドマスターが待っているので、ついてきてください」


ナーサさんの言葉に従い、彼女の後ろに続こうとした瞬間だった。ギルドのドアが乱暴に開け放たれ、無駄に高価そうな装備の冒険者達が入ってきた。多分、貴族の出だな。


「ちょっと待って貰おうか、そこでくたばってる加護持ちは俺達の獲物だ。勝手に横取りしてんじゃねえよ」


しかし貴族の出にしては粗野な言葉遣いだ。俗っぽくなったのだろうか。というか、こういうのを既視感って言うんだろうな。前回は今朝だぞ。普通はもう少し、間を置くものだと思うんだが。


「横取りとは失敬な。そちらが依頼を受けたのかもしれないが、初心者が集まる区域に取り逃がした上に下手をしたら犠牲者も出ていた。そちらの不手際であることは明白だろう?見事な依頼失敗ということだ。道理に反したことを喚くより、違約金の用意をしていたらどうなんだ?」


「黙れ!獣人風情が俺達に楯突いて許されると思っているのか!」


いつの間にか私と貴族らしき冒険者の遣り取りに注目して、いつもの喧騒が嘘のように静まり返っていたギルド内にあちらの言葉が響いた瞬間、床に転がっている化物の発していた殺気など比べるのも烏滸がましい濃密な殺気が渦巻いた。主に高齢の冒険者から放たれたそれは寸分違わずあちらさんにだけ注がれていた。これまでの人生、その重みが全て詰まったような、重さ。凄い、これが歴戦の戦士が放つ殺気なのか。でも、ナーサさんのそれは歴戦の戦士である彼らを遥かに凌ぐ。質量を持たないはずの殺気であちらの装備が潰れて行く。そんな馬鹿な、と思わなくもないが、事実としてあちらの装備が圧縮されていく。何者なんだろうか、それと何なのだろうか。殺気を放っている人々がぼそぼそと呟く謎の言葉は。断片的に拾うと、


「猫耳・・最上・・萌え」「我らの・・宝・・愚弄、許さな・・」「殺す・・カス・・ゴミ」


とりあえず、皆さん。心中穏やかではないことは確かだな。可哀想に貴族らしき冒険者達は公衆の面前で失禁し、白目を向いて失神している。悪臭が酷い。魔力砲撃で完全に除去しておく。すると殺気がふっと消え去り、ナーサさんの表情がいつもの優しい笑顔に戻った。先程までの表情はさながら魔王の微笑み。定例化しているのか、失神した冒険者達が高齢の方々に連行されていく。何が行われているか、好奇心は尽きないが、わざわざ藪をつついて蛇を出すこともない。静かにナーサさんの後に続いた。


案内された部屋はギルドの2階にある一番広い部屋で恐らくはギルドマスターの執務室なのだろう。部屋の中央、1人の老人が机に向かっていた。ナーサさんが一礼してから入室した。私もそれに倣う。


「おお、ナーサ君。その子が期待の新星か?」


「その通りです、マスター」


うんうんと私を眺めて老人は頷いた。全てを見透かされているような濁りのない眼、識眼。識眼とは見詰めるだけで対象の情報を引き出す鑑定眼だ。普通のスキルと違い、私の剣豪や魔力庫のようなユニークスキル。それも尋常ではないスキルレベルだ。未来視すらも可能かもしれない領域、確信などないが直感で悟った。この老人がギルドマスターである所以は全てを見通した上での適切な判断能力と恐らくはナーサさんを超える実力者であること。試されるのは癪だが、収め切れていない刃のような殺気が皮膚を刺激してくる。見た目に反して、性格はやんちゃ小僧なのかもしれないな。常識人は5歳児に殺気を向けたりしないのだ。それに相当、格が高いようだ。本能が逆らってはいけないと警鐘をガンガン鳴らしている。


まあ、変態爺の持ってた世界の説明書の情報が全部正しいわけではないが。例えば人間の生まれた時点での素体能力は確かに低い。魔族と比べると差は10~15と言ったところだ。寿命を比べると数百年単位で差があるが、先に言った通り、素体能力の差は10~15。明らかに差が少なすぎる。理由は何故か?簡単な話で人間と魔族では規格が違うからだ。確かに寿命が長い方が核は高いが、それは同じ規格同士を比べた場合。つまり、人間の平均寿命が80として魔族を500とする。両者には圧倒的な差があるが、生物の格で言えば同程度。生物としての規格が異なるため、安易に比較はできないというわけだ。少なくとも生物としての格という面では条件的に同じなのである。ただ、生物の格が上がった時のステータスの増加率は魔族など長命種の方が高い傾向にあるらしいが。


「ふむ。儂の殺気を受けて平然としておるか。確かに稀に見る逸材。して、報告には聞いておるが、恭君は何を望む?」


「刀が欲しくてな。金がいる」


「刀、か。もしかしてここを出て直進した位置にある武器屋で売っている、あれか?」


「その通りだ。あれが欲しい」


「しかし、あれは妖刀。下手をすると喰らわれる」


「失敬な。逆だ。私が喰らう。妖刀であるなど、最初から分かっていた。異常な雰囲気を持つ逸品だったからな。しかも、例え入手しにくい刀であっても相場から見れば、あれは高すぎる。訳ありだと言っているようなものだ。それでも、あれが欲しい」


少し嘘をついた。妖刀だと確信があったわけではない。しかし、尋常ならざる一刀だとは理解していた。周囲の空間を蝕むような邪悪な空気を纏っていたからな。不吉、その一言に尽きる。故に買おうと思った。私に普通の刀は似合わない。曰くつきがちょうどいい。兼ねてから思っていたことだ。それに刀に意思があるわけはないのだが、何処か寂しそうだったのだ。使い手を待ち焦がれているような、だから私はあれを欲した。通常の規格に収まらないあれを欲した。


「なるほど、ならば、あの妖刀を今回の件の対価とする」


これで今回の一件には片がついた。


御使 恭 魔法剣士見習いLv18

生命魔力950,100 魔力量40 ,800

ステータス、腕力12 脚力8 総合筋力10 魔力408 耐久6 技術22

スキル、杖術Lv6(41/60) 刀術Lv1(8/10) 剣豪Lv1(5/10) 魔砲Lv12(54/100)

無属性Lv10(8/100) マッサージLv8(76/80) 剛力Lv7(56/70) 魔力庫Lv6(19/60)


生命魔力の量を変更しました。10,000で一年分の寿命です。

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