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仲良し姉弟の異世界トリップ  作者: 松佐
第一章~幼少期~
6/8

死亡フラグをへし折った。

空気を巻き込んで衝撃波を生じさせる程の威力を内包した棍棒が横薙ぎに振るわれる。空気の層を纏い、眼下を通過したそれは一撃でも貰えば、余裕でオーバーキル判定が下されるだろうな。つまり、死ねる。全力で跳躍した結果、衝撃波の被害を受けることはなかったが、動くことのできぬ木々は圧倒的な暴力を甘んじて受けるしかない。滞空状態では、あまり自由に行動できないのだが、勇気を持って攻勢に出る。


両手で杖を持ち、上体を痛いくらいに反らせ、杖と体の表面を魔力で補強した。

重力に従い落下する、そのエネルギーも加味し反らした上体が九の字に曲がる勢いで化物こと血赤の異端児の加護持ちボブゴブリンキングの脳天に杖を力一杯叩きつけた。衝撃と打撃音が森に木霊し、化物の足が地面に沈む。呻く化物の鼻っ面を蹴り飛ばして距離を取りながら、私は溜息をついた。


「固すぎるぞ、化物め」


愚痴っても仕方がないのだが、言わずにはいられなかった。野生の感とでも言うべき生物の本能は非常に優秀で弾き飛ばそうと再度魔力砲撃を敢行したところ、放った瞬間に回避行動を取られ、躱されてしまったのだ。以降、未だタメを必要とする魔力砲撃は決定的な隙となって攻撃を誘うことになった。厄介な事この上ないな。必然的に近接戦闘に移行したが、如何せん獣人といえども今は5歳児で相手は加護持ちの魔物。地力に高い隔たりが存在する。棍棒と杖の耐久力は職人が作った杖の方に軍杯が上がるが、やはり腕力で大きく劣っているから撃ち負ける。杖は折れないが、棍棒を受け止められるわけではない。


しかも、オプションで衝撃波による付加ダメージまであるときた。本当にふざけた状態だな。それに私はパワーファイターじゃなく技巧派の剣士になる予定なんだが、肝心の刀も入手していないし、前途多難すぎるな。全く、加重で潰そうにも巨体すぎる。急所を潰したら、萎んだ風船に空気を入れ直す感じで再生するし、なんで汚物まで異常な治癒対象なのだ。若干、表情が喜悦に歪んでいたし、化物のくせにそっち方面の性癖持ちか。状況はすこぶる最悪だ。


「グガァアアアアアアアア!!」


今日何度目かの咆哮を轟かせ、化物は突進の体勢に入った。実際問題、突進だけでも致命傷になるのだが・・イメージ的に5歳児が軽トラに轢き逃げされる感じだな。追加で文句を言わせて貰えるなら、巨体の割に動きが俊敏とか止めてほしい。30mの距離を数秒で詰めて来るなと言いたいな。猛然と迫ってきた化物が得物を振り下ろそうとモーションに入った瞬間を叩く。完全に力が込められる前に全力で打撃を叩き込むことでバランスを崩し、私に対して必殺の威力を誇る一撃を相殺する。上体が泳いでいる今がチャンスだ。素早く杖を引き戻し、急所目掛けてカチ上げる。治癒能力は高いが、痛覚は通常通りに働いているのだ。急所攻撃が有効手段なのは普遍の原理である。大威力の攻撃を叩き込むには最高の好機だ。


「フルスイング!!」


ダンッ、弾むような打撃音を響かせた強打は200kgは固いであろう重量の化物を弾き飛ばした。おお、予想以上の効果だ。攻撃した当人こと私が一番驚いている。体を九の字に曲げて勢い良く吹き飛んだ化物は木にぶつかって漸く静止した。今のところ、習得している戦技の中でも相当な高威力に位置する一撃だからか想像の斜め上を行く結果を残してくれたな。戦技、武器系統のスキルのレベルの上昇に伴って習得できる必殺技のようなもので存在自体さっきまで記憶の彼方に眠っていたから、使用する機会もなかったが、ふと思い出して使ってみたのだ。


スタミナをごっそり持って行かれたが、相応の結果を残してくれたから納得すべきだろうな。魔法が魔力を消費するように戦技は使用者のスタミナを消費する。魔法の方が楽だな。

だが、この状況を切り抜けるなら戦技の使用は必須だろう。例え化物の息の根を私自身で止められなくとも救援が来るまで耐えれば、私の勝ちだ。もし救援が来なければ残念ながら私自身で決着をつける必要性が生じるが、死ぬ気でやればやってやれないことはないのだから頑張るしかないのだろうな、きっと。


ドンッ、憤怒の形相で棍棒を振り切る化物に対抗して杖や棍棒系に共通する基本戦技ノックを叩きつける。威力は拮抗している。地力と地力の真っ向勝負では敢え無く敗北した私が戦技を使うだけで地力の差を埋められたことから、戦いを生業にするものが戦技の存在を忘れるのは万死に値するんじゃないかと今更ながら痛感した。スタミナに限りがある以上、長期戦は勘弁して貰いたいが治癒能力を持つ化物相手に短期決戦で挑むのも現状の戦闘能力では難しいな。治癒能力を凌駕するだけの攻撃手段を的確に命中させられるかも勝敗を左右する分岐点になるだろう。意外と冷静に分析できてる自分に驚きつつもノックを必死に相手の棍棒にぶつける。威力が拮抗していなければ、私は今にも衝撃波の影響でボロ雑巾の如く地を這っていた可能性が大だ。


打ち付け、打ち据え、叩き、叩き付け、衝突、衝突、衝突。棍棒と杖がぶつかる度に周囲に四散する衝撃波で木々は薙ぎ倒され、地面は抉れ、捲り上がる。まさに惨劇の跡という風景に変貌した西の森の一角で私と化け物はひたすらに打ち合い続ける。一撃毎にスタミナが限界に近づくが、化物はスタミナが無尽蔵とも思える程に活力に満ち溢れ、拮抗していた武器同士の衝突は僅かながら均衡を崩し、威力はやや化物の方が高くなっていた。拮抗していた威力の片方が微量ながら減衰したせいで、化物が生じさせる衝撃波が殺しきれずにダメージをじわじわと与えてくるのだが、誰かどうにかしてくれないだろうか。私は正直、限界だぞ?幾ら待っても救援は来ないし、化物は元気一杯だ。ふざけるなと大声で文句を言いたいが、今は喋ることすら億劫だ。これは生きて帰ったら冒険者ギルドから慰謝料をこれでもかと、ぶんどらないと割に合わない。


永遠にも思える程の攻撃と攻撃の応酬に私は神経を磨り減らしていた。当然だろう。ただでさえ体格差があり過ぎ、普通に居るだけでも威圧されている気分になるのだ。しかも、圧倒的体格差から放たれる一撃は重たい。非常に重たい。力任せの一撃であっても、純粋な質量からして格段に違う。戦技によって拮抗に近い状態は保たれていても普通なら何度か私がしたように弾き飛ばされている。く、駄目だ。一瞬、たった一瞬のミス。戦技の初動が遅れた時、力が乗り切る前に叩かれた杖は後方に弾かれ、引っ張られるようにして私の身体は吹き飛んだ。そして、激突。木の幹に背を強烈に打ち付けた。かすむしか意に反して気分は痛み故かハイになり、思考がクリーンになる。


冷静に考えると私のスペックなら勝てるはずだ。ドラゴン、それこそ魔族など常識から酷く逸脱した存在でもなければ、私に勝機はある。否、絶対に勝てる。私の保持スキルは一般から見ても狡い、卑怯、そんな認識を持たれても仕方がないものだ。少なくともスキルのランクは一般に販売されているスキルの一段以上高い位置にある。これでCランクに毛が生えた程度の化物の成り損ないに負けるなんて、それこそ冗談じゃないか。そう、今迫り着ている化物は真の化物にあらず、化物の成り損ないだ。加護持ちだから強いと先入観を持ったのが行けなかった。確かに強い、加護持ちは通常個体よりも強い。たが、結局ボブゴブリンキングはCランクの魔物。力が拮抗しないのは私が弱いから。私が弱い位置で燻っているから相手を勢い付かせてしまったのだ。


なら、する事はただ1つ。圧倒的武力を持って主導権を握り返し、完膚なきまでに叩き潰す。代わり映えもなく突進してくる奴の思惑は単純に力技で、脳天に向かってのひと振りで私を撲殺するつもりらしい。なら、こちらもシンプルに。華美な装飾は必要ない。淡々と奪い去るだけだ。体が痛みに軋むがお構いなしに立ち上がる。加重を前方方向に掛けて、私は砲弾の如く突貫した。繰り出すのは打ち上げのフルスイング。ゴルフのスイングを真似たんだが、案外うまく行ったな。ほぼ垂直に打ち上がった奴を追い、加重を真上の方向に掛け直す。下方からの推進力で浮上するのは、まさに未知の感覚だが練習すれば飛行も可能だなと、これからの日々における楽しみをまた1つ発見した。


奴を追い越した時点で静止し今度は下方に加重を掛けつつ浮き上がってくる奴に向かって振り下ろしのフルスイングを敢行する。小気味いい打撃音を残し奴は地上に激突した。次でフィニッシュだ。残りの魔力を注ぎ込み、それらを杖の先端に集中させる。全身全霊を掛けた本気の魔力砲撃。奴の息の根を止める手段として尤も相応しいのはこれだと思うから、疲労とか気にしていられない。全力だ。重力に従って落下する。治癒の最中だろうかもがきながら奴は懸命に起き上がろうとしていた。


「そのまま、黙って死んで逝け!!」


呆然と間抜け面で空を仰ぐ奴の鼻っ柱に杖の先端を突きつける。過剰なまでに込められた魔力は遺憾なく威力を発揮する。桜色が爆散した。


剣士の要素が出てこない。

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