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仲良し姉弟の異世界トリップ  作者: 松佐
第一章~幼少期~
5/8

死亡フラグか、まだ5歳なんだが。

Eランクに昇格したのだが、素直に喜べない。原因は昇格条件の甘さだ。Fランクの依頼を10個達成、効率的に運べば、遅くても2日でクリアできる条件。Eランクになるだけで本格的な討伐系の依頼を受けられるようになる、その事実に驚いた。そもそも、害虫退治は危険性の低い魔物退治と同じだ。新人冒険者が下積みをするためにあるような依頼、その下積みを経て本格的な魔物退治に挑むのが常道だったはずなんだがな。


ギルドの端にある本棚で冒険者ギルドの成り立ちを記した歴史書を読んで、そう感じた。創始者は十中八九地球からの転生者で支援者は恐らく神だな。ギルドに換金ってシステムがあるが、どうも神が持ち寄られた物の価値に応じた金額を用意し、人間を介して渡されるらしい。便利なシステムだな、と感心せざるをえない。まあ、貨幣の価値が下がらないのか非常に疑問ではあるが。


とりあえず、読み終わった歴史書を登録の時のお姉さんもといナーサさんに抱っこされることで漸く足りた高さを利用して戻す。登録から1週間、私は連日蓄積された害虫依頼と雑用依頼を消化し続けた。通常は1日前後の休みを入れつつ依頼を受けるのが普通らしいのだが、そこらへんが転生者と一般の考え方の相違点なんだろうな。日々の仕事に生活が掛かっているから、余計に慎重さが増す。それは理解できるし、正しい考え方で賢い考え方だが、休みすぎても体が鈍ってしまうだろう?私はそれを是としないだけだな。


この1週間、やってることは普通の肉体労働か魔力砲撃を乱射するか。別段、疲労感が残るわけでもないしな。継続可能なスケジュールだったぞ。ギルドの従業員には凄く感謝されて拝まれたから、雑用依頼の滞り具合は本当に頭痛ものだったようだ。


「というわけでだ。日頃、室内にこもってばかりのヒッキーもとい弟を連れ出して残りの雑用をこなしてしまうと思うのだが、どう思う?」


「姉さん。確かに今日は非番でお客さんもいないけど、室内から出ずに仕事ばかりしているけれども、ヒッキーは失礼だと思うんだ」


「それにな、姉として弟が毎日のように女性の柔肌を揉みまw・・失礼、舐め回している状態はどうも認可できなくてな」


「姉さん、なんで言い直したのさ。正直、余計に悪化してるからね!?」


「いやな、弟よ。お前が仕事中、部屋から響いてくる女性の悲鳴はもう姉とてかばいきれぬレベルなのだが」


「仕方ないんだよ。気功術で感度を上げた後、指圧でツボ押しながら雷魔法で微弱の電流流すから効果抜群でさ」


「アダルトマッサージの補正も伊達ではないな。姉ながら私は弟が恥ずかしい。まさか、あの変態爺と同じ次元に堕ちるとは・・あれほど、道を踏み外すなと祈ったのに無駄だったな。恥ずかしいし悲しいぞ」


「姉さん、後生だから変態爺と同列存在なんかにしないでほしいんだけど」


「え、危険性だけなら弟の方が断然上だぞ?主に女子の貞操の危機とかな」


「・・・もう、いいです」


尻尾をふにゃりと下げて俯く弟を余所に残り10個となった雑用依頼を受理する。弟も今日、登録した。今日は弟名義で依頼を受理し、私が手伝うのだ。というのも、私は雑用依頼では昇格できないから、弟のランク上げに使った方が効率的だ。面倒なことにDランク昇格には害虫のようなランク外の雑魚じゃないFランク以上の魔物討伐が条件として絡んでくる。依頼の達成数自体は有り余ってるからな、後は討伐だけなんだ。


姉的に弟が先に死んでいくのは忍びない。定期的に狩りに付き合わせる心積もりだ。弟のことだから心配は無用なのだろうがな。ある意味で唯一の肉親なのだから、余計に世話を焼きたくなる。若干、若干だが前世では世話を焼かれる側だったような気もするが。


「ほら、行くぞ。時間はいつだって有限なのだから」


「姉さんが凹むことを言うからだと思うけどね」


「その発言に変態爺も凹むと思うんだが・・まあ、変態爺だしな」


「変態爺だからね、凹むくらいがちょうどじゃないかな?」


「仲がいいですね」


私を下ろしてから、ずっと静観していたナーサさんが口を開いた。仲がいいか、愚問だな。

1日中一緒にいるわけじゃないが、大体のことはアイコンタクトで伝えられる程度には仲のいい姉弟だからな。改めて確認する必要もない。


「ナーサさん、行ってくる」


「いってらっしゃい」


ナーサさん、最近フレンドリーだ。若干、私の専属受付と化しつつあるしな。仕事始めて1週間だが。


「ところで、姉さん」


「ん?なんだ、弟よ」


「依頼さ、1人でやってみたいんだけど」


「普通に迷子になると思うぞ。あんまり王都内の地理に詳しくないだろう?」


「それこそ、実地で自分で体験することだよ。姉さんこそ、僕に付き合ってる暇があったら討伐でもしてたらどう?聞いた話じゃ、学園って冒険者のランク高いほうが色々と高待遇らしいよ。例えば、テスト以外は実技の授業免除とかね」


「そうか。すまない、弟よ。急用を思い出した」


「相変わらず現金だね、姉さんは。姉さんらしいけどさ」


再び冒険者ギルドのドアを潜る私の後ろで弟が何か言った。聞き取れなかったし、聞き取れる音量で喋らなかったのだから、つまり独り言の類だろう。聞き直すことはしなかった。


「あれ、弟君と一緒に依頼を受けに行くんじゃなかったんですか?」


「仕事漬けで外をよく知らないから自分だけで好きに見て回るって。弟の意見は尊重したいからな」


「そうですか。で、何か依頼を受けますか?」


いつもの抱っこポジションに移行した私は掲示板に張り出されている討伐系の依頼を眺める。依頼はEランクから2つ上のランクまでなら受理可能になるため、私は最大でCランクの依頼を受けることができる。さすがにCランクはまだ受けないが。


「どれがいいだろうか」


「恭さんは年齢の割に実力も行動力もありすぎるので、Dランクの範囲であれば、よっぽどのことがない限りは失敗することはないです。強いて、お勧めするのであれば、常時依頼のゴブリン討伐と西の森のゴブリンの巣の壊滅ですね。賢い冒険者は達成条件が同様の依頼を組み合わせて受けるものなので、恭さんもどうですか?」


「さすがナーサさん、サービス精神旺盛だ。なれば、私も期待に応えなくてはな。これでも、一対多の殲滅戦は得意中の得意だ。今日中に首級を上げてやる」


「ああ、恭さんは本格的な討伐は今回が初めてでしたね。討伐依頼を受注するとギルドカードにも情報が刻まれます。討伐系の依頼を受けるとギルドカードに討伐対象となる魔物のデータ、主に魔力の波長や質などもインプットされるわけです。その魔力の波長と質を元に討伐数も記録されていくので、首級を上げる必要はありません。全て、消し飛ばして頂いて結構です」


「つまり、生物は常に微量の魔力を発散していて、それを認識しギルドカードは一定範囲内にいる対象の数を把握、討伐による目標の消失を感知し記録する。便利なのに銀貨1枚とは随分と安価だな」


「恭さんの理解力の方が驚きですが、まあギルドカード自体は先ほど読んでいた歴史書に記されていないだけでギルド創始者と神の合作なのでハイスペックなのも当然です。製法自体は秘匿されていますが、魔法を学んだものなら数年の修行で簡単に作れるようになる代物ですし材質もよく磨いた鉄も同然ですからね。ただ無料配布となると赤字になるので、数年前に規則が改正されましたが」


「さすがギルドのアイドル受付嬢。知識も豊富で対応も丁寧だな。素晴らしいの一言だ」


「そこまで言ってくれるなんて、受付嬢冥利に尽きますね。では、依頼の受理を行いましょうか」


「おっと、ちょっと待って貰うぜ」


「なんでしょうか?」


「その依頼は俺達が受けようと思ってたんだ。横取りされちゃ困るぜ」


首を捻って、声の主を見ると明らかに小物臭のするチンピラが5人立っていた。いわゆるパーティーなのだろうが、全員脳筋の馬鹿に見えるな。考えるって言葉の意味も分からないんじゃないだろうか?


「私が先に受理するんだから、横取りも何もないだろう?そもそも、これから受理をするってタイミングで割って入ってきたそちらの方が横取りだと思うんだがな。自分のやってることがどんなことなのかも理解できていないお馬鹿さんは嫌われるぞ?」


「喧嘩売ってんのか、餓鬼が!」


「大前提を間違っているぞ?喧嘩を売ってきたのはそちらだ。きちんと喧嘩を買ってやるから、心配はするな・・すぐ、沈めてやる」


「何だと、餓鬼のくせに調子に乗ってんじゃn・・っ?!」


5人の急所に無属性魔法加重を一瞬だけ強で施す。声にならない絶叫を上げ、泡を吹きながら失神した5人を余所に淡々と作業を消化し、かくして私はゴブリン退治に出かけた。興味本位で出て行く間際に例の5人の様子を見ていると静観を突き通していた年配の冒険者達が集まってきて、どこかに連れて行ってしまった。あの5人は折檻されるのだろうか?


「主に50代~60代の高齢冒険者に絶大な人気を持つ恭さんに文句をつけるなんて、よくもまあ命知らずなことが出来たものですね。人生の大先輩方に厳しく厳しく教育してもらってくださいね。そして、後悔するのです」


恐ろしい呟きが知り合いの受付嬢の口から吐き出された気がしなくもないが、なんだろうか、知ってはならない話のような感じだから、私は早々とその場を退散することにした。

西の森に行く前に寄り道して八百屋のお姉さんの畑で芋虫を消し飛ばす。あの芋虫は卵まで完全に消し飛ばしても出現するから、畑全体がダンジョンなのかもしれない。よく見れば、微小の魔力結晶も落ちてたしな。


ダンジョンは世界に遍く魔力が何らかの原因で異常をきたし、一定範囲を巻き込んで暴走した結果に出現する特殊空間。ダンジョンの内外では自然のルールが異なる。魔物は殺しても復活する。正確には討伐者に吸収される微量の生命魔力以外が一度、純粋なる魔力に還元されダンジョン内に溶ける。すると討伐者に吸収された微量の生命魔力の分を補完して元の量に戻し、その作業が完了した時点で魔物は復活を果たす。そういうサイクルが魔物には適応され、普通なら残るはずの死骸も消え失せる。その代わりに魔力結晶が残る。魔力結晶については良く分からないが、ダンジョン内の魔物が死ぬと残していく物でギルドにて換金できる、その程度の認識で十分だと思う。


さて、本来の要件に戻る。依頼にあった西の森の名の所以は単純に王都の西に位置していることからだ。ゴブリンなど新人向けの魔物が棲息しており、比較的危険度は少ない場所である。それでもゴブリンは徒党を組めば、危険度が跳ね上がり、時にベテランの冒険者でも対応しきれないことがある。要は油断大敵ということだな。依頼者の情報によれば、ゴブリンの巣は西の森と隣接する山脈の麓にあり、どうやら山脈の麓部分に横穴があるらしく、寝座として使い始め、巣になったようだ。無属性魔法、エリアサーチで索敵してみると確かに山脈の方に生物の反応が集中している。


それだけでなく森全体を同じような反応を持った魔物が徘徊している。恐らくはゴブリンで餌を探しているのだろうな。個体数が多ければ、多いほどに食料は必要になるから、早めに殲滅しないと生態系が崩れる危険性もある。どの程度の能力を持っているのか数体で徘徊しているグループの1つに接触して確かめる。


接触といっても背後から魔力砲撃での強襲だがな。総数は5体だったが、跡形もなく消え去った。魔力砲撃の殺傷能力の調整も練習しようかって意識が芽生えつつある今日この頃だ。防御能力は魔力砲撃で消し飛ばせる程度として、身体能力はどうだろうか。3体で移動中のグループに真っ向から対峙してみた。私に気づいた様子で奇怪な声を上げながら、突貫してくる。得物は棍棒。


冷静に杖の先端で突出している個体の棍棒を殴打、さっと杖を引き戻し注意が棍棒にそれた今、顔面に突きを放つ。衝撃で後退した所で回転からのスイングで後続ごと殴り飛ばす。仕上げに杖の先端に魔力を集中、イメージ力で以て綺麗に反り返った片刃を作り上げる。一閃、実際にやってみると打ち首はえぐいな。


東洋の島国から持ち寄せたものだからお値段も簡単には手を出せない額だが、本物の刀を買いたい、一目惚れした逸品もあるしな。気になるお値段はって?はは、晶貨50枚だが何か文句あるか。現在の所持金は日頃の頑張りのおかげで晶貨8枚だ。畑の害虫退治は1回、金貨5枚で落ち着いたから地道に行けば、3ヶ月弱で稼げる金額だが、さすがに3ヶ月経って残っている自信はない。ちなみに今回の依頼報酬だが、美味しいといえば美味しい。


まずゴブリン討伐の常時依頼は1体毎に50ルピ、巣の壊滅は10,000ルピ+ゴブリン討伐数×20ルピだ。エリアサーチの結果だけ見ても400は固いから上手く処理すれば、あくまで上手く処理すれば、38,000ルピにはなる。森の中を徘徊している分も合わせてだからな。ゴブリン以外の冒険者の反応もあったから目的は同じだろう。常識を重視するか利益をとるか・・今更、愚問だな。


「対象をゴブリンに限定、エリアサーチ、対象補足。魔力充填、広範囲魔力砲撃開始」


声に出したのは、気分だ。偉い人の研究で魔法は声に出した方が安定性を得られるそうだから、慎重を期したって部分も確かにあるぞ。連日の行使で無属性スキルと魔砲スキルもレベルが上がって精度もしっかりしてきたからな。本当は変に心配する必要もないのだが、まさかの事態をいつも想定しておかないと足元をすくわれてしまう。


光線は放射状に発射され、360度全面が桜色に染まる。エリアサーチの結果、ゴブリンの反応だけが消失。同業者らしき反応は依然として確認出来た。一応、徘徊組は殲滅完了だ。巣の方も正直、遠距離砲撃で片付けてもいいのだが巣を持ったゴブリンは色々と物を収集する習性がある。ゴブリン本体を遠距離砲撃で片付けても現場の確認を怠るべきではないだろう。というわけでだ。とりあえず、遠距離砲撃で片をつけた。


「で、現場にやってみてくれば残念ながらゴブリンに頂かれてしまっている女性が大量に、か。情操教育的に5歳児が見るにはショッキング過ぎる光景だな。ヘマをすれば私も同じ末路を辿る、そんなことが実際に有り得る世界とは面倒なものだ」


魔力砲撃の応用で彼女達の内部にいる異形と病原菌など害になるものを消し飛ばす。総人数は20人か、随分と熱心に収集活動に勤しんでいたと見える。こういう魔物の被害者は冒険者ギルドと国が責任をもってアフターケアをすることになっている。後はギルドに報告すれば迎えが来るだろうが、果たして放置状態で大丈夫だろうか?そんなふうに悩んでいる時だった。唐突に、背後から強烈な殺気が迫り着たのは。


「っ、バリア!」


咄嗟にワンスペルで発動できる無属性魔法の基本防御魔法を展開。瞬間、衝突音と同時に衝撃が防御魔法を突き抜けて私を強襲した。固めの岩盤に足がめり込み、バリアが逸らした衝撃で地面が捲れ上がる。衝撃は全身を突き抜け骨を軋ませた。幸い、被害者に更なる被害が及ぶことはなかったが、現状は相当最悪な部類にカテゴリーされるはずだ。破壊されはしていないが、お荷物がいる状態で魔法を突き抜ける程の衝撃を発生させる膂力を持った魔物が出現した。冒険者ギルドには文句をつける他ないな。どこがDランクだ。


「どう考えてもDランクじゃ血赤の異端児の加護持ちボブゴブリンキングを相手取るのは身に余ると思うぞ?」


思わず口をついて出た言葉だが、現状を如実に表していると言っていい。ボブゴブリンキングはゴブリンの上位種の上位種の上位種でCランクだが、実力はCランク中でも上位。そして、血赤の異端児は魔族の一部が信仰している神で加護持ちは対応する神様の恩恵を授かることができる。血赤の異端児の場合、中々に強い魔法耐性と膂力、耐久の強化だ。暫定的に考えても、現在、棍棒を振り下ろした状態で静止しているデカ物はBランク上位の戦闘能力を有している。


事と次第によればAランクだ。それほど、加護持ちは危険性が高い。暇がある時に読書ばかりしておいて正解だったな。知識があると無いでは大違いだ。現状の最悪さは変わりはしないものの、とりあえず、極太の魔力砲撃で巣から眼前の巨体を弾き出した。ダメージが少なくても構わない。下手に棍棒を振り回されて万が一この場が崩れたら仲良く生き埋めだ。それは避けたい、全力で。


「エリアサーチ」


加護持ち君の反応は絶賛こちらに接近中だな。同業者は割と多いから被害者のお姉さん達をお願いするか。不自然な動きがあれば、遠距離砲撃でズドンッ。脅しとけば、真面目に仕事してくれるはずだ。ついでに救援要請と事情の調査もお願いしたいところだ、冒険者ギルドさんにはきっちりしっかり抜け目なくと念を押しておくがな。


「バリア三重展開、シールド三重展開、交互に配置。ついでにバレットも展開、モード乱射。型は円錐、螺旋回転」


バレットはオリジナルの無属性基本魔法。何とかアロー、の銃弾バージョンだ。貫通力は銃弾の方が増すと思うがな。ただ記憶に間違いがなければ、血赤の異端児の加護にはまだ付加効果があった。治癒能力の強化だ。少々の傷は瞬時ではないが、楽々と回復してしまうはず、持久戦ともなると嫌味なくらい嫌な相手だな。とりあえず、


「バレット、一斉射撃」


加護持ち君の姿が視認できた瞬間にぶっぱなす。イメージ不足か初速が少し遅いが、遺憾なく効果は発揮した。体長にして2m半は固い化物の体中にバレットが食い込み、血潮が噴き上げる。噂通りゴブリン系の魔物は血が緑だったことに関心するが、呻きながらも速度を微妙に減速させた程度で化物は勢い良くバリアに突っ込んできた。直前でバレットを再展開しぶっぱなすが、やはり固いな。皮膚の表層を抉るだけで再生されてしまう。


尤も、あの加護の治癒は残りの生命魔力をエネルギー源としているから生命魔力が尽きるまで削り続ける手もある。こっちの魔力が絶対に持たないがな。しかし、念には念を入れて六重にして良かった。多少減速したというのに単なる突進で4枚叩き割られたぞ。ふむ、そろそろ頃合だ。再度、魔力砲撃で化物を遠くに弾き飛ばす。


「そこの木の陰で隠れている奴ら出てこい。事は急を要しているんだ」


さすがに化物が木々を薙ぎ倒す音などで気づいたのか同業者が集まってきていた。パーティー数にして4つ、総人数は17人か。十分だろう。


「妙に大人ぶった口調だな、餓鬼」


「無駄口叩く暇があったら現状の情報収集をするべきだと思うがな。おっと、残念なお頭では高等過ぎて及びもつかないか」


「なんだと!?」


無駄口を叩いた男に私を含め17人分の冷めた視線が突き刺さる。


「単刀直入に言うぞ。中にゴブリンの被害を受けた女性達がいる。化物は私が足止めするから、街に連れ帰ってほしい。救援要請も頼む」


お頭の残念な男が言った言葉にも一理あるな。やはり、凛とした雰囲気の美少女剣士に見える年齢にならないと違和感は拭えないだろう。さすがに5歳児のちびっ子には合わない口調だ。それでも事情を素早く咀嚼した同業者はてきぱきと動き化物がリターンしてくる前に支度を完了して、街に運んでいった。ゴブリン達がせしめた他の戦利品は手付かずで、これが終わって換金すれば結構な額になるだろう・・・近年稀に見る完璧な死亡フラグだ。


そもそもだ。お願いしたが、5歳児を放置していくってどうなんだ?何の抵抗もなく後ろ髪を引かれた様子もなく平然と帰っていったな。色々と釈然としないんだが、泣き言を言ってる暇もないか。早速、客が戻ってきたからな。私は接客が得意じゃない。尤も、お相手も繊細な質じゃ間違ってもなさそうだ。少しばかり、手荒に扱っても問題ないだろう。プランとしては物理的な効果のある魔法攻撃と隙を狙って直接攻撃が一番無難だな。救援を待ってたら多分死ぬ。遠距離魔法でやり過ぎても魔力が尽きて死ぬ。近接過ぎても死ぬ。逃げたら絶対追ってくるし、スタミナ的に逃げきれない。逃げきれても周囲を巻き込んだ場合の被害が大きすぎる。遅まきながら結構、ハードな人生になりそうだと切実に思った。


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