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仲良し姉弟の異世界トリップ  作者: 松佐
第一章~幼少期~
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就職しました

転生してから5年の月日が経ち、私は姐さん達(娼婦の方々)を、弟は貴族や豪商の奥様方をマッサージする日々を送っていた。私達が捨てられ拾われた娼館はいわゆる公娼館で国から合法的に認められている場所だ。そのため、財政的な余裕は地方の娼館の比ではないし結局は拾われた子である私を娼婦とする気は元々なかったらしく、だからと言って恩を受け続けるだけなのは私の趣味じゃない。そこで無駄に蔵書の多い娼館長の書斎で色々と知識を収集しつつ、マッサージの技術を磨いてきた。


今では姐さん達の疲労を軽減するために毎日マッサージを続けている。恩返しのつもりが、少ないながら5歳時には破格の給金を出してくれている。本当に頭が上がらない。弟に至っては数日で平民の月収総額を稼ぐまでになっていた。有能な弟がいるというのも、かなり考えものだ。将来的に弟に養われる姉・・・全力でどうにかしないとな。


というわけでだ。自立するために冒険者になるって手段を私は選んだ。冒険者は基本的に年齢は問われないし、依頼さえこなせば報酬はきっちり支払われる。最初のうちは雑用紛いの依頼ばかりだが、ランク(信頼度と同義)が上がれば討伐などの依頼も受けられるようになる。前世では荒事担当は弟でなく私。だから弟のように狡猾に計算して生活するより自由気ままな冒険者の方が性質的に私向きだ。弟はあの年で貴族や金持ち相手に人脈づくりしてるんだぞ?私には真似できない芸当だな。


とにかく、やってきました冒険者ギルド。冒険者になるには、まず冒険者ギルドで登録しなければならない。登録時に自身の生体情報を表示できる身分証明書、ギルドカードも発行されるから本格的に冒険者をやろうがやるまいが登録に来る人間もいるようだ。尤も、ギルドカードも無料で配れるほど安いものではない。ギルドはギルドカードによる支出を冒険者の達成した依頼の報酬の一部で回収している。


だが、ギルドカードを貰って依頼を受けない人々もいる。その分は赤字になる。それが近年問題になり、登録した場合は最低でもFランク(ギルドにおける最低ランク)の依頼を10個達成する義務が課せられるようになった。現金にすると銅貨、銀貨、金貨、晶貨の4種類ある硬貨のうち銀貨10枚分に相当する。尤も、ルピという単位に直すと銅貨は1ルピ、銀貨は100ルピ、金貨は10,000ルピ、晶貨は100,000ルピだから実質1,000ルピ。それほど法外な値段ではない。


引き戸のドアを押し開けて、ギルドの中に入る。適度な賑わいを見せている屋外に比べ、入った瞬間に喧騒に包まれた。つまり、うるさい。女性の冒険者もいるが、やはり少数だ。昼という時間帯はおっさんの人口密度が段違いに跳ね上がるからな。仕様がないか。あちらこちらで怒鳴り散らす酔っ払いの姿が見える。昼間から飲酒とは随分と良いご身分のようだ。上手く隙間を抜けながら、受付にたどり着いた。


「登録をお願いできるか?」


「登録料金として銀貨1枚が必要になりますが?」


少しニヤついた表情で受付の少年が言う。恐らく新人だな。熟練の受付は客相手にこんな真似はしないし、客の年齢で態度を変えはしない。絶対ではないがな。まあ、その、なんだ。私はこれでも精神年齢は20歳。小僧に嘗められるのは我慢ならんな。


「おい小僧、男の(たま)消し飛ばされたくないなら、嘗めた真似をするな」


「・・・・・ひっ」


小さく悲鳴を上げ、受付の少年が後退る。勿論、小さすぎて喧騒に呑まれて消えるが。何をしたかといえば、文字通り男の命に対して無属性魔法の加重を微弱だが施した。微弱でも女子に蹴られた程度の痛みが断続的に与え続けられるが。青い顔でついには蹲ってしまった少年に気づいてか熟練者っぽい受付嬢さんが出てきた。


「お客様、あの子が何か不手際でもなさいましたでしょうか?」


「銀貨1枚を登録料として寄越せと言われたんだが?」


「申し訳ございません。後できちんと仕置しておきますので・・ご用事は登録ですか?」


「今度はきちんとお願いできるかな」


「はい。まずはこちらの用紙に名前等をご記入ください」


圧倒的に身長の足りない私のために一瞬で足の低い机を用意してくれた受付嬢さんに感謝をしつつ、名前と職業、特技を記入していく。職業も拡大解釈すれば、スキルと同じ効果がある。スキルと違う点は1つしか選べず、そして1つの職業にしかなれないのだ。勿論、こちらにもユニークジョブ(固有職業)が存在する。そして、私には未だ職業がない。


「ギルドでは転職の儀も執り行っていますが、どういたしますか?手数料は銀貨1枚です」


お金取るのか。必要な支出であるのは間違いないからな。ポケットから銀貨1枚出して支払うとギルドの右端にある部屋に案内された。中は狭く、部屋の中心に魔法陣が展開されていた。初めて見るし情報もそんなにないが、転職の儀専用の魔法陣だ。主に転職の儀は私のように職業を持っていないものやスキル同様職業にもレベルがあり、それが一定に達したものが上位の職になりたい時に執り行う儀式だ。受付嬢さんの支持で魔法陣の上へ。


「お客様は現時点で魔法剣士見習いに転職可能ですが、転職しますか?」


「お願いする」


魔法剣士見習いは剣術と魔法を併用して戦うスタイルの者が主になる職業だ。尤も、適性があるので併用していても剣士見習いになるしかない者もいるそうだが。儀式も恙無く終わった。そして、受付に戻って登録の続きをする。


「次にギルドについての説明をお聞きになりますが?」


「大体、情報は仕入れているから良い」


「では、こちらのカードに血を一滴、垂らしてください。生体情報を読み込み、刻むので」


これがプロの対応だ。丁寧で一連の動作に淀みがない。でも、特筆すべきは若さだな。綺麗な働く女性の魅力は測りしれない。この喧騒の中で彼女が姿を現した瞬間、ピタッと静まる者が何人もいた。ギルドのアイドル受付嬢って所なんだろうな。関心しながら爪で指先を切り裂いて、滴った血をカードに付着させる。


「はい。これが貴女のギルドカードになります。もしも紛失した場合、再発行には2000ルピ掛かるので、無くさないよう心がけてください」


そう言って、渡されたギルドカードを受け取った私は自分で言うのもなんだが、5歳児のつぶらな瞳でお姉さんをじぃっと凝視する。身長差のせいで上目遣い、瞬き回数が減って少し潤んでくる。これぞ秘技、うるうるした上目遣い。お願いごとをする時にとても重宝する技術だ。精神年齢20歳の私がやるには狡い手管かもしれないが。


「あの、まだ何か?」


「むさ苦しいおっさん達がたむろしていて掲示板に近づけないのと、掲示板に手が届かないのを、どうにかしてほしい。無茶なお願いだとは思っているが」


しかし、この口調は見た目と全然合わないな。凛とした雰囲気の女剣士にぴったり当てはまりそうだ。ふむ、刀と杖の扱いも練習し始めるとするか。それはさておき、受付嬢さんへのお願いは見事に叶えられた。受付嬢さんことナーサさんは私を抱えると見た目に反して力強い、けれど綺麗な一喝で仕事をしないくせに掲示板の前でたむろしていた中年冒険者を追い払い、しかも私が依頼を選ぶまで抱っこ状態でいてくれたのだ。親切な受付の鑑だな。これこそ受付担当のあるべき姿だ。分かったか、小僧。


ダメージから回復したのか職員用の部屋から少し顔を出した小僧の男の命に再び加重を掛ける。悶絶して地面に倒れ伏した所で開放してやった。この加重、対男用魔法に決定だな。MやドMという性癖の人間には寧ろ治癒魔法的な意味合いになってしまう可能性が大であるが、一般男性相手には十分過ぎる威力だ。微弱であれなんだ。弱するだけでも脅威だろうな。男性にとって。


で、選んだ依頼は害虫退治だ。害虫、例えば農作物をかじる芋虫や家の台所を縦横無尽に駆け巡る卓越した生命力を保持した奴、Gのことだ。まあ、G退治については前世でもご近所対象だが、請け負っていた。あんなもの、飛翔する瞬間を網で捕らえて外に出し開放した瞬間に頭に爪楊枝を突き刺しておけば、死ぬ。死因は爪楊枝に地面に縫い付けられ、動けず、最終的に蟻に食われるパターンが多かったな。


受注を終えて、ナーサさんにお礼を言ってから、早速害虫退治に向かう。害虫退治は雑用系(民家の掃除などが例)に次いで人気がなく、常時依頼(常に出され続けている依頼)なのにここ数年は誰も受けた形跡がないらしい。ギルドとしては非常に頭の痛い状況だと簡単に推測できる。ギルドの儲けは冒険者の達成した依頼の報酬の2割の回収と冒険者から持ち込まれる魔石や素材を加工した物を冒険者へ還元(販売)、この2種類だ。しかし、ギルドが欲するのは依頼人からの信頼だ。ひいては冒険者への信頼。


信頼関係が成り立つことで、再び何らかの依頼が寄せられてくる。それを冒険者が解決し、また次の依頼が来る。このサイクルで冒険者ギルドと冒険者の経済は回っているのだ。そして、雑用と害虫退治は依頼者にとっても王都に住む人々にとっても一番身近なのだ。身近な出来事ほど関心を集めるものないし、感謝することも激怒することもない。ギルドの存在する王都、そこに住む人々の信頼を勝ち得るには雑用と害虫退治が何よりも重要と言える。


そんな依頼が数年以上も張り出されたまま、解決されないのは非常に悪い状況と言って差し支えないのだ。私の場合は安全策を取ったに過ぎないがな。調べた結果、私と弟は獣人の猫人族の中でも白猫族と黒猫族という部族の親の間に生まれた。捨てられたのは多分、他部族同士の結婚故かもね、と姐さん達に聞いた。2つの部族は昔から険悪な仲なんだそうだ。部族の長がキレたんでしょうね、とも言っていた。


結論として当初の予測にあった差別という線は消えた。貴族連中は知らないが、一般的に獣人に対する差別はほぼ皆無。肩の荷が下りた気分ではあるな。と、話が大きく脱線したが、白猫族は俊敏さに黒猫族は膂力に特化した部族で、その子供である私と弟は身軽さと膂力のバランスが良いハイブリットなわけだ。しかし完全に体ができていない状態で、まあ5歳で体ができてたら怖いが、魔物の相手をするほど私は無謀じゃない。そう言う意味での安全策だ。最初の依頼者は、公娼館御用達の野菜を提供して貰ってる八百屋兼農家のお姉さんだ。


ご近所だから顔馴染みなのだが、困っているなら言ってほしいものだ。本当に水くさい。いつもおまけで幾つか野菜を追加してくれる良い人で、生まれてから彼女の作る野菜にはお世話になりっぱなしだ。害虫退治くらい頼んでくれればいいのに。と、私はこの世界の害虫をすっかり嘗めくさっていたのだが、甘かった。元の世界の常識が既に通用しない世界であるというのに私は甘かった。


ところで。公娼館御用達の品物は基本的に貴族なども愛用するほど価値が高いものだ。しかし、お姉さんは身分の高い者達にも野菜を売りつつ一般の人達にも売っている。勿論、畑は用途別だ。そして、お姉さんの所の野菜が今のところ国内産の野菜で一番品質がいい。他国からも買い求めに来る人間がいるのだから、頷けるだろう。そのため必要な生産量は必然的に多くなり、耕地も広大になる。働き手自体はお客さんからの援助で雇っているようだが、さすがに25ヘクタールは広すぎると思うぞ。これで黒字になるって年収幾らなんだ?維持費だけでも、とんでもない気がするが。


失礼。とんでもないのは維持費ではない。害虫の方だ。なにあれ、人間で例えると3歳児サイズ・・そんな巨大芋虫が見渡す限り、闊歩している。呆然とする私の横でお姉さんは溜息混じりに語った。


「害虫といっても、ほぼ魔物だからねぇ。繁殖力高いし、退治が追いつかないのが現状。で、どうにかできるの?」


「ちょっと魔力増幅用の杖を買ってこようと思う」


「あ、それなら倉庫の中にあるわよ。私も昔はやんちゃしてたからね」


やんちゃの部分が非常に気になるところではあるが、好意に甘えて杖を貸して貰う。さて、出来立てのギルドカードで確認した限りでは私の魔力(生命魔力ではなく魔法行使時に消費するエネルギー)は魔力庫のスキルもあってか15000。お姉さんに借りた杖はかなり高品質だから恐らくは問題ないはずだ。


害虫のサイズには驚きを隠せないが、意外に私向けの依頼だな。遠距離砲撃の練習にもなるし、ちょうどいい。無属性魔法の範囲攻撃は基本的に砲撃だ。光線だったり光球だったり様々な形や型はあるが、全てに共通していることがある。それは砲撃の範囲内にいる対象にだけダメージを与え対象以外に被害を及ぼさないのだ。単に火のように物を燃やしたり水のように物を濡らすなんていう個性が無属性故に存在しないだけなのだが、まあ今回はその性質がとても役立つ。


杖の持ち手を経由して杖の先端に魔力を集中させながら、イメージする。巨大芋虫を消し飛ばす光線を。巨大芋虫を薙ぎ払う光線を。そして、放つ!


「一発でここまで・・凄いわね」


桜色の魔力の奔流、私が放った魔力砲撃だが、見事に効果を発揮した。野菜を巻き添えにしていたら想像も絶する負債を抱える羽目になっていただろうが。成果は5ヘクタール分の芋虫だ。消費魔力は5000。撃てても後二発で射程は500mか、芋虫を集中させてくれれば一発で事足りるんだが。お姉さんの方を見ると


「分かってるわ。みんなにも手伝ってもらうわね」


そして、待つこと二十分弱。雇われた従業員方々が走り回って、追い込んでくれた所を薙ぎ払って依頼は完了した。あれだけ従業員がいるなら依頼を出す必要もない気がしたから、お姉さんに質問した。


「ああ、芋虫は毎日湧くからね。野菜に卵が産み付けられてて、やっぱり退治が間に合わないのよ。その杖上げるから、今度は卵までお願いするわね」


卵から羽化するまでの期間は1日・・どんな悪夢だ。報酬は晶貨1枚、随分と色をつけて貰えたようだ。本当ならギルドで報酬は受け取ることになっているが、依頼を寄せてから数年立っても受注された形跡もなく報酬を預けておく意味がないと回収して近々依頼自体を取り下げるつもりだったそうだ。次は娼館によく来る豪商のおじさんの所だ。


「よぉ、恭ちゃんじゃないか。何かようかい?」


「バラクさん、今日はギルドの害虫退治できたんだ」


「なんだ、やっとか。正直、依頼を出してから数年。どうなっていることやら」


結果から言えば、倉庫の中に湧いたG殺しが仕事だった。倉庫の外から砲撃を一発で片付けたが、さすがに私でも恐怖を感じずにいられなかった。3歳児サイズのG、それが隙間なく倉庫内を埋め尽くして・・。生命力が卓越している分、吸収できた生命魔力も多かったが、視界に入れるのは勇気がいる光景ではあったな。見ているだけで、カサカサという擬音が聞こえて来そうだった。


今更だが名前に関しては前世と一切変わってないし、言語も世界共通で日本語だ。日本風の名前なのは一部の獣人と東洋の島国の人間くらいしかいないから、私たち姉弟は珍しい部類に入るらしいな。ちなみに私は獣人で苗字があり、部族間の結婚という規則違反で生まれた子だ。何かのフラグだと思ってる。明確に言うと弟と相談して12歳から入学できる魔法学園に行くことに決めた。お金儲けも入学金を揃える目的がある。弟は既に貯めていそうで怖いが、それはともかくだ。獣人は一般的に差別を受けていない。局地的に差別している場所もあるが、基本的には世界中のどこにでも行けるし、内向的だった多くの獣人も最近は外交的になり人間の街にも出てくるようになった。


学園の生徒も獣人を含む割合が増えているそうだ。血族が現れそうだな、割と高確率で。あの変態爺は今頃高みの見物して楽しんでいるはずだ。喜んで障害を用意してくれることだろうな。想像力を逞しくしすぎたか?遅かれ早かれ分かることだ。それに後7年はある。障害に対処できる強さがあれば、問題ない。


この日は夕方まで害虫退治に奔走し、溜まりに溜まっていた害虫退治の依頼を3割ほ消化した。おかげでランクが昇格。ランクはRを筆頭にSSS、SS、S、A、B・・・Fと十段階あり、私はFランクからEランクになった。知る限りでは最速のランクアップらしいが、所詮まだまだEランクだ。日々、鋭意努力を怠らないようにしよう。


御使 恭 魔法剣士見習いLv5

生命魔力907,230 魔力量25,000

ステータス、腕力7 脚力5 総合筋力6 魔力250 耐久3 技術13

スキル、杖術Lv2(1/20) 刀術Lv1(0/10) 剣豪Lv1(0/10) 魔砲Lv3(4/30)

無属性Lv3(1/30) マッサージLv8(45/80) 剛力Lv4(19/40) 魔力庫Lv3(1/30)


ステータスの5歳児平均は1~2,成人男性だと5。

魔力量は単純に魔力×100。

スキルについては多すぎると書くのが面ど・・ではなく、剛力はレベル分だけ腕力を上げます。今の状態は+4。魔力庫はレベル分だけ魔力を50アップ、今は+150。


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