ぷちゅんっと潰れまして、それから
「痛みを感じる暇もなかったな、弟よ」
「そうだね、姉さん。しかし、姉さん。僕たち姉弟は絶対にモブのままで主人公格にはなれないと思ってたんだけどね、これは俗にいうテンプレ的展開なんじゃないかな?」
「真面目な顔で妄想を語るな、弟よ。もし、俗にいう中二病を患っているなら矯正する必要があるぞ?そこのところ、分かって発言しているな?」
「厳しいな、姉さんは。でも、この白色に染まった世界を見たらファンタジー小説の内容を思い浮かべずにはいられないよ。そもそも、隕石の衝突に巻き込まれて肉体が爆散したのに、今こうして会話してられるのも普通に考えて異常現象だよ。一般常識の通用する現状じゃ決してないと思うなぁ」
「一理あるな。ふむ、事の顛末はこの爺が知っていそうだ。締め上げてみるか」
「ちょっと待て!それはどう考えても老人に対する態度じゃないじゃろ!?」
後ろ手に話の冒頭あたりからずっと私の後ろで、こそこそしていた爺の首根っこを掴んで弟と自分の間に引きずり出した。
「要件があるなら、さっさと喋ってほしいものだ。このグズが!」
「老人愛護精神というものがないのか、お主は!最近の若者の中でも特に最悪じゃぞ!?」
「敬老精神ぐらいちゃんと持ち合わせているが、相手を選ぶだけだ。老人というだけで若者に優しくして貰えると勘違いしているのなら、早々認識を改めたほうがいい。そして、貴様はどうも大事を起こした張本人のようだ。その上で敬ってほしいなら、相応の対価を支払うべきだと思わないか?」
「まるで、儂がお主らを殺した張本人であるかのような発言じゃな」
「違うのか?」
「いや、違わないのじゃが」
「よし殺そう」
「待つのじゃ。これには深い深い訳があるのじゃ」
爺の話を要約すると爺が風邪をひいて、くしゃみをした弾みで宇宙空間内で動かず静止していた小惑星的な物が吹き飛び、見事私達に直撃したということらしい。
「「よし殺す」」
「断定じゃと!?待ってくれ、当然償いをするつもりじゃ。お主らには異世界に転生する権利を与える。転生特典もやるし、特別に姉弟のままで転生させてやるのじゃ。だから、殺すのだけは勘弁してくれ」
「そもそも、爺は僕らに殺せる次元の存在ではないはずなんだけどね。なぜ怯えているのか意味不明な上に滑稽だよ。はぁ、気分が殺がれたね、姉さん」
「そうだな、弟よ。首を絞めるだけで許してやろう」
皺だらけの首に指を絡ませ、ゆっくりと力を込めて・・。
「って、殺す気か!?」
「殺せないのと殺したいのは全くの別物だ。ほら、さっさと償いとやらの詳細説明をして貰おうか。私は有能な者には優しいぞ?」
「何故か釈然とせんが、ほれ。大体のことは書いてあるから読むがいい」
あっさりと拘束を外した爺は一冊の本を弟に投げ渡す。なぜ、こっちに寄越さないんだ?
「粗雑に扱われても困るのじゃ」
「僕の方が丁寧に扱うと判断したと。産業廃棄物にも劣る最低ドジ野郎のくせに重要な部分は理解してるんだね。見所のある産業廃棄物以下の存在だ」
「毒舌な上に上から目線じゃと!?ある意味、姉より悪いのじゃ」
「ああっ?!弟を馬鹿にするとは良い度胸だな」
「もうやじゃ。この姉弟、めんどくさい」
しょぼくれた爺には何の需要もないというのに、さすが弟に産業廃棄物以下と称されるだけある。全く、目が汚れるな。
「くぅ、やはり姉も毒舌じゃ」
思考もダダ漏れになるのか、さすが変態趣味の爺だ。乙女の思考を読み取るとは、何とも抜け目のない完璧な変態だ。ここまで来ると、いっそ清々しいな。これが、変態を極めた者が至る最大最強の境地か。恐ろしさのあまり、震えが止まらない。変態怖い。
「変態爺、姉さんが怯えている。だから、消えてろ」
「理不尽じゃ!!」
喚く爺を余所に弟が本に書いていた内容を簡単に説明してくれる。ゲームのようにステータスが数値化され、ファンタジー小説のように人間以外の種族例えばエルフなどが存在する剣と魔法の世界。珍しいのは人間と魔族が敵対関係にないこと、そう弟は語るが、ファンタジー系統の本をあまり読まない私にぴんと来ない。
特筆すべきはステータスに存在する生命魔力という項目で、これの量=寿命の等式が成り立ち、生物を殺すことで微量だが殺した対象の生命魔力を吸収できる。そして、寿命は生物としての格を如実に表すもので、一部では人間が迫害されている地域もあるそうだ。というのも、エルフや魔族という種族は長命種で平均500年は寿命があり、対して人間は80年。
またステータスは生物としての格に依存し、人間など短命種に比べ長命種は初期の能力値が突出している。中でも魔族は全種族中、最高の戦闘能力を誇るらしい。必然的にステータスを上げるには生命魔力ひいては寿命を延ばす必要性がある。要は経験値みたいなものと解釈しよう。他にもダンジョンやら迷宮やら男心をくすぐる要素に満ち溢れている、と弟は嬉しそうに熱弁した。私はこれでも女なのだがな。
で、尤も重要なのはスキル(技能)と呼ばれるもの。弟曰く補助道具で、剣術ってスキルは剣による戦闘技術を向上させ、料理ってスキルは料理技術を向上させる。技術向上を効率化させる道具と解釈しておく。転生特典とやらは好きなスキルを数は限定だが、選択する権利で、特別にユニークスキル(固有スキル)も選択可だという。弟曰くユニークスキルは普通のスキルよりも補正値が高く希少。ちなみに普通のスキルは巻物って形で売買されているとか。正直、興味はあまりない。
「変態爺、スキルの一覧表寄越せ」
「なぜ、高圧的なんじゃ!?」
「両親の代わりに育ててくれた祖父母に孝行する機会を奪われたんだから、姉さんのそれは当然の対応だと思うよ。ほら、変態爺。さっさと一覧表を渡せ」
弟は涙目の爺から一覧表をひったくると、何故か私の分まで勝手に決めた。まあ、差して問題のある構成でもなかった。結果は以下のとおりだ。
私は杖術、刀術、剣豪、魔砲、無属性、マッサージ、剛力、魔力庫。
弟は指圧術、アダルトマッサージ、体術、拳聖、気功術、雷属性、魔法、怪力。
「変態爺、お世話にならなかったな。行ってくる」
「さっさと行け。お主らといるとストレスの溜りようが半端ないんじゃ」
そうして、意識がブラックアウトする。