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第4章〜そんなこと〜

「渚ー起きろー…」

低い、よく通る声が灰色の廃墟に響く。

「んー…爾ク…爾。おはよー?」

声の主は僕と一緒に自殺した爾だった。

眠い目をこすって僕は体を起こす。

この世界にきてから4日目。いい加減知りたい。

元の世界に戻るための。ではなくこの世界の意味を。

すべてが灰色の世界の中で僕と爾だけがフルカラー。

唯一の手がかりは僕らが死ぬ前に自殺したDAYSの秦。彼がここにいること。

そこで爾の考えだけど、ここは自殺した人がくる場所なんじゃないか。という推測だ。

確か生前読んだ本では自殺した人は死神になるって書いてあったけど…。実際それが嘘なのか本当なのかわからないし証明した人だっていない。当たり前だが。


とにかく廃墟でボーっとしてるわけにもいかないから、僕と爾は廃墟から出た。

灰色の町にはあいかわらず灰色の人がたくさんいた。

なんだか自分たちだけ違うみたいで。

まぁ実際違うんだけど。

僕たちは人ごみから逃げるように灰色の水が吹き出る噴水のある広場に来た。

「渚、どーするよ。このままじゃ何も手がかりがつかめないよ」

爾が僕を見ながら言う。

爾は背が高い。僕が小さいだけかもしれないが、とにかく背が高い。

僕が164cmなのに対して爾は176cmだ。

「どーするって…どーしようもないよ。誰もしゃべらないんだもん」

こっちに来てからずっと灰色の人に話しかけるが返事はない。

というより僕らに気づいていない。話しかけても、体を揺さぶっても無反応。

僕の返事に不満だったのか、爾は唇をとがらせる。

「気になるじゃん、やっぱ。どー考えても天国でも地獄でも、ましてや現世でもないんだから」

「それはそうだけど・・・」

そんなこと僕に言われてもどーすることもできない。

しかし、僕らはたった数分の間に自分たちの運命を知ることになる。

何か手がかりはないかとキョロキョロしていた爾が、視線をとめて「あ」と言った。

「?何かあった??」

期待を込めて僕は爾を見上げて訊く。

「あれ…あの人見てみろ・・・」

爾が指差した方向を見る。

そこにはフルカラーの人がいた。よく見ると見覚えのある人。

「DAYSの秦!!?」

思わず僕は叫ぶ。爾は何も言わない。ただ少しだけ震えている。その震えの意味が僕はわからない。よっぽど秦が好きだったのか、それとも何かを悟ったのか。

爾はDAYSの秦から目をはなさない。僕もじっと見つめる。

秦は、両手を空に伸ばして何かを掴むように空中で手を握り締めた。

そしてその瞬間。


秦の体が光った。


光はどんどん秦から離れていく。どうやら秦の体の中から発せられているようだった。

そしてやがて、光は完全に消えうせた。

「渚…嘘…だよな??だって…あんな…あんな・・・・・・・・・・」

爾の言葉が震える。僕も体がヤクザににらまれたみたいに震える。



秦の体からすべての光が出し尽くしたみたいだった。



秦は灰色の人になっていた。






その夜、廃墟に戻った僕たちは一言も会話を交わさずに寝た。

話さなかったんじゃない、話せなかった。言葉も出なかった。

爾の寝息が聞こえる中、僕は灰色の廃墟の天井を見ながら小さくため息をついた。

当たり前になってきた。誰かが隣にいること。

生きているときに当たり前だったのは1人でいることと投げかけられる罵声だ。

誰からも愛されずに、誰の瞳にも映してもらえずに、誰の心にも僕は存在していなくて。

実の親さえも僕を嫌い、憎しみ、貶した。

僕は誰にも心を開かず、誰の目も見なくて、1人で生きていた。

食事だって1日1回。夜親が寝たときにこっそり台所をあさるだけ。学校に給食なんかなかったから昼休みは屋上で空腹を紛らわすために昼寝した。

バイトは禁止だったから自分でお金を稼ぐこともできなかった。度々親の財布から野口英世さんを数枚抜き出してどうしてもおなかがすいたときに購買でパンを買った。

ただ、使う分だけ持っていかないと盗られる。

隠れた生活。1人っきりの生活。他人の目を恐れる生活。

そんな生活を捨てたかった。

誰も僕を見てくれなくて、僕も自分を見ていられなくてなんとなく生きていた生活が嫌だった。

自殺はそんな生活をなくす手っ取り早い解決方法だった。

1人で生きてきたんだ。死ぬのだって1人で死にたい。

鉄道自殺ならいろいろとお金が請求される。僕を見てくれなかった親に最初で最後の迷惑をかけたかった。

考えてもいなかった。だってずっと1人だったんだ。

・・・・僕を見てくれる人がいたなんて知らなかったんだ。

最期に覚えているのは爾のぬくもり。一瞬だけだったけど触れた人の温かさ。

ずっと知ることのなかった人の体温。

もっと触れていたかった。

それからここにきた。1人っきりでここにきた。

それから爾に会って、2人になって・・・・・・・・・。

人のぬくもりなんて知らなければよかった。知らなければこんな気持ちにならなかったんだ。

涙があふれるほどの、悲しみ。

消えたかったはずなのに

消えたくないと思う僕がいた。

爾と一緒にいたいと思った。


君がいなければ価値のない僕だから。


僕たちが離れるまで

あと48時間。







計算してみたらあと2章みたいです。

1章でも十分な字数ですがわかりにくくなりそうなのでわけたいと思います。

感想、評価いただけると嬉しいです。脳内補給になります。三沢でした。

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