第1章〜2人の少年〜
―――菊池渚
もう・・・・
もうイヤだっ・・・・!!
・・・死んでやる。
今すぐ死んでやるっ!!
僕は今、開かずの踏切と呼ばれる踏切の中にいた。
目の前は涙でぐちゃぐちゃになっていてよく見えない。
次に踏切が開くのはたぶん1時間後。
もう空は黒く染まっている。
踏切の前には数人のサラリーマンや女子高生、大学生などが次に開くのをまっている。
僕は見つからないように、近くの草むらに身をひそめている。
僕は次に電車が来るのを、待ち望んでいた。
―――僕の名前は菊池渚。
16歳の南古町高校の2年生。
5年前からいじめにあっている。
理由は・・・わからない。
きっと楽しみがないからとか刺激がほしいからとか・・・そういう理由なんだろう。
母さんは7年前に父さんに愛想をつかして消えた。
蒸発したみたいに
突然いなくなった。
父さんは荒れた。
元々酒好きだったけど、母さんがいなくなってから
仕事にも行かずに
毎日お酒ばかり。
僕は家事をしながらバイトをして、学校にもちゃんとでていた。
1日だって
休んだことなんかなかったんだ。
だって休んだらあいつらが家に来るから。
かんかんかんかんかんかん
踏切音が鳴り響く。
ライトが開かずの踏切を照らす。
僕は
ゆっくりと立ち上がった。
線路を前にして、しゃがみこむ。
運転手が僕に気づいてブレーキを踏まないように。
だんだん近づいてくる電車の音。
僕を楽にさせてくれる音。
もう30メートル先に電車はいる。
フラフラと僕は立ち上がって、線路に立ちふさがった。
恐怖なんかなかった。
迷いもなかった。
踏切まちの人たちが叫ぶ。
あぶないぞ
とか
なにしてんだ
とか。
でも助けに来る人はいない。
助けてほしくはないけど。
結局皆、自分のことが大事なんだから。
―――白樺爾
「ぅげぇっ!!もーこんな時間かよ」
時計と空を見比べて、彼は走り出した。
街灯がつき始める。
今日は日曜日。
彼の大スキな笑点が放送される日だ。
といっても興味があるのは大喜利だけだし、ビデオに撮っているので急ぐ必要はまったくない。
しかし、彼は走っていた。
ビデオに撮っているが、とにかく1秒でも早く笑点を見たかったからだ。
彼の住む町には、開かずの踏切がある。
1回閉まってしまえば、1時間近く開かなくなる。
彼は今、ちょうどその前にいた。
遮断機の前で待つ人の人数、いらつき加減で、もうすぐ開くだろうと彼は予想した。
けれど
再び遮断機があがることはないのだろう。
少なくとも彼の目の前では。
線路に立ちはだかる少年。
近づく電車。
人々の悲鳴、罵声。轟音。
微笑んだ少年の笑顔。
涙でぬれた瞳。
すべてを見て、すべてを彼の脳が確認する前に。
彼は動いた。
電車と少年との間はわずか5m。
騒ぐ人々を押しのけて
遮断機をまたぐ。
邪魔をする人々の手を払いのけて
少年に駆け寄り
抱きしめる。
そのまま2人は、宙を舞った。
重なっていた2つの身体が離れる。
2つの影は
別々に落ちる。
1つは遮断機の上にうつぶせになって。
もう1つは警報機の上に頭から。
2つの黒い影はどんどん赤くなっていく。
3日後。
その踏切には、2つの花束が飾られていた。
ブログで連載していたものを少し手を加えたものです。
すでに完結しているものなので早く投稿できれば、と思います。
あなたさえよければまた。三沢でした。