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灰色の羽をもった…?

作者: 黒野 衣梨

屋上、13、灰色、錆びた柵。と、喋らない女の子。



…今回はそんなお話。



楽しんで読んでいただけると嬉しいです

1、

2、

3、

私は階段をのぼる。

4、

5、

6、

右手で手すりにつかまっていないとふとした時に落ちてしまいそうな階段を。

7、

8、

9、

ここまでのぼった時、上の方に錆びれた古い扉が見えた。

もう少しのぼらないと手は届きそうにないけど。

10、

11、

12、

あと1段。

13。

「っと。」

階段を登り終えて、一息つく。

目の前にあるのは見慣れた汚い扉。

私はさっきまで手すりをつかんでいた右手でドアノブを握った。

手をひねって引く。

「…あれ?」

開かない。

「あ、押すのか。」

今度は手をひねって押す。

少し開いた扉の隙間から新鮮な空気が流れ込んでくる。

髪がさわさわ揺れて気持ちがいい。

扉が完全に開いたときに見えたのは、

青い空。

白いコンクリの床。

錆びた汚い柵。

…。

ここは屋上。

雲ひとつない青空の中にぽつんと私1人…

「やぁ。」

じゃなかった。

私の頭上から声が聞こえる。

っていっても、声の主は浮いてるとかそんな非現実的な感じではない。

私がのぼって来た階段がある建物の屋根の上にあぐらをかいて座ってる。

「今日も来たんだね。」

よっこらせ。と、ぴょんと軽く身長の倍はある高さを飛び降りてきた。

私はその人を無視して真っすぐ柵の方へ向かう。

「あれ?」

パタパタと、羽を動かしながら私の目の前まで飛んでくる…。

そう、羽を使って飛ぶんだ。この人は。

だから、さっきの頭の上に浮いているって言うのもまぁ、出来なくはないんだろう。

「ちょっと待ってよー。」

私の目の前にすとん。と、着地してまた胡坐をかいて座ってる。

背中でパタパタと動いてる羽は、灰色。

キレイな灰色の羽が背中からはえてる。

灰色って言ったら汚い色のイメージかもしれないけど、この灰色はキレイ。

本当にキレイで、キラキラ光ってるように見える。

「はぁ…。」

私はため息をついた。そして、避けて進むようなことはせずにその人の前に座った。

この人の名前は…。

そういえば、名前をまだ知らなかった。

もうここ数日毎日会ってるというのに。

「百済。くーだーらー。」

目の前の口が動いた。何、考えとか読まれてるの?

…変な名前。いや、見た目から言動から何もかも変だけど。

百済だそうです…。

「よしっ、じゃぁ今日は、そうだね…ある女の子と変な男の人の話にしようか。」

この変な人は私がここへ来るたび1つだけ何か話をする。

話を聞くたびに私はここへ来た目的を達成できずに帰ってしまうのだけど…。

「そうだね…。ある女の子が居ました。その女の子は学校と、家族とか嫌になってね、すべてを投げ出したくなった。あれだね、自殺…しようとしたんだね…。」

悲しそうに話し始める。

私は特に頷くも返事するもせずただ黙って聞いてるだけ。

「またあるところに、変な男の人が居ました。その人には灰色の羽が生えてました。プクッ…灰色だって。」

なぜかそこで笑う百済さん。

怪訝そうな目で見ていたのが伝わったのか、

「ほら、だって悪魔の羽を想像してご覧?」

ふむ…。

悪魔ねぇ…。

黒い角に、黒いしっぽ、そして…。

「黒い羽根…。」

黒だ…。

「そうだね。じゃぁ、天使の羽はー?」

私は早々と悪魔に退散してもらって、今度は天使を頭に思い浮かべてみる。

んーと、

キレイな光の輪に、

「白い羽根。」

うん。白。

「そうそう、白。…ね?おかしいでしょ?…ククッ。」

また笑い始める百済さん。

いや、分かんないんですけど。

何?何で笑ってるの?

「ほら!灰色ってどっちでもないんだよ?おかしいよねー。」

そう考えてみれば少しおかしいかもしれない。

いや、おかしいというより、変?珍しい?そんな感じかな。

笑うほどでもないけれど。

「さて、話を戻そうか。その羽をはやした男は実際、天使でも悪魔でもなかったんだ。いや、どっちにでもなれるって言ったが正しいのかもしれない。彼は、人を地獄に落とすことも、天国へ行かせてあげることもできたんだ。」

ここで一息ついて私の方を見てくる。

私はまた知らぬ顔。

目を合わせるのはいやだったからやっぱり百済さんの羽を見ていた。

「彼は人を天国へ送る事を好んだ。そりゃ、誰だって人を地獄に落とすのはいやだよね。そして、彼の仕事は…死人を減らすことだった。このご時世、天国へ送るのも地獄へ送るのも何かと大変なんよ?で、ちょうど彼の手の空いてるとき、ある女の子が自殺をしようとした。そう、最初に言った女の子。」

なんだかこの話は好きになれない。

なんとなく、そう思った。

ふと、視線を彼の羽から外して辺りを見てみると空にはいつの間にか少し暗い色の雲が出てきていた。

「そうだ。ここで、死人を出さないようにする方法を話そうか。そうだね…病気で亡くなってしまいそうな人が居るならどうにかしてその病気を治せばいい。事故で亡くなってしまいそうなら事故を防いでその人を守ればいい。でも、彼は困ったんだ。自殺しようとしてる子にはどうしたらいいんだろう…って。」

どうする?って感じの目で見てくる。

…見ないで。

言ったら百済さんが気を悪くするから言わないけど。

…この期に及んで私は何を考えているんだろう。

今さら敵を作ったって私にはもう何もないのに。

私は…もう居なくなるのに。

「彼は考えた。自殺を無理やり止めても彼女はまた死のうとするだろう。問題はもっと根本的なところにあるからね。」

何も答えない私にしびれを切らしたのか、また語り始める。

「結局、何もいい考えが出てこないまま女の子が自殺する日が来てしまった。とりあえず、屋上に行って彼女会うことにした。でも、彼女に会ったら何もかも吹き飛んじゃったんだよ。たくさん考えてたのにね。」

ちょっと自嘲気味に笑う百済さん。

私はやっぱり何の反応も示さない。

「話しかけてしまったんだ、彼は。自殺しようとしてる女の子に。原則として天使、悪魔は生きてる人に話しかけてはいけないんだよ。もし、そのまま生き続けた時天使、悪魔に会ったっ言いふらされちゃたまらないからね。誰にも気づかれないように任務をこなすのが彼らの仕事だった。」

やっぱりこの話は好きになれない。

何で、こんな…。

申し訳ない気持ちにならなきゃいけないんだ。

最後くらい楽しませてほしい。いつものように可笑しな話をしてほしい。

口に出していない私の気持ちは届いてるのかどうか分からないけど、百済さんは話を続ける。

「規則を破ったらどうなるか?それは彼にも分からない。まぁ、もう仕事ができなくなるのは確定してるだろうね。もしかしたら、この世にだって2度と来れないかもしれない。そして…天使にもなれない。彼は天使になるために仕事をしてるんだ。神様に、仕事をやり遂げたら天使にしてやる。って言われてね。」

ぱちん☆と、無意味なウインクを無意味なタイミングでしてくる百済さん。

ちょっと鬱陶しい。

さっきこんな人に申し訳なく思ったのか。とちょっと自分で自分を恥ずかしく思った。

「彼はそれでも彼女に話しかけることをやめなかった。彼女に1つ話を聞かせてあげることにしたんだ。自殺を止めてくれるよう願いをこめて。」

…知ってる。

私はその女の子も男の人も知ってる。

でも…なんでこんな話をするの?

分からない。

「ちょっとした昔話を彼女一生懸命話した。話し終わった後、女の子は自殺することなく家に帰ってくれた。彼もホッとしたさ。」

覚えてる。

最初の話。あの世にまつわる昔話だった。

特に面白くもない内容が薄い話だったのが逆に印象的だった。

ふと気が付いたら、さっきよりも多くの雲が空を覆っていた。

「でも、翌日、また彼女は屋上に来た。ホッとしたのもつか間。彼は驚いたよ。もう死のうとなんてしないと思ってたから。あんな話で改心するはずないのにね。」

軽く笑いながら言う百済さん。

好きになれない話だと思ったけど、長くなりそうで余計嫌気がさしてきた。

「彼はまた話しかけた。彼女も聞いてくれた。次は…なんの話をしたんだっけ?」

何で私に問いかけてくるの。

私が1回も返事したことないの知ってるくせに。

懲りずに聞いてくる。

「失敗談だ。そうそう。彼は面白おかしく自分の失敗を語って聞かせたんだった。彼女は黙って聞いてた。本当にピクリとも動かないんだ。話してとしてはちょっと辛いよねー。」

頭を掻きながら照れてるのか、悲しいのかよく分かんない表情を見せる。

そういえば、この人はいつもこんな感じだ。

何を考えてるのか分からない。

「彼女はその日も帰ってくれた。でも、やっぱり次の日屋上に姿を見せた。彼はやっぱり話を聞かせた。そして、ある約束をした。」

そう。約束。

私はその約束があるからこうやって何回も足を運んでる。

「13回。13回、僕の話を聞いて、それでも心が変わなかったらもう何もしない。だから、それまで他の場所で死のうとしないで、僕の話を聞いてほしい。女の子は承諾してくれた。彼も賭けなんだよね。13回の話のうちで、彼女を説得させられるかどうかの。」

確かに承諾した。13回聞けば死ねるんだから。

私はそんなこと考えながら表情を変えないで聞く。

ここで何か顔に変化をつけるとしたら…。

きっと、泣きそうな、寂しそうな顔してると思う。

そんな顔を最後にするわけにいかない。

最後くらい笑って…とまでは言わないが、せめて普通の顔をしていきたい。

「彼も彼女も毎日話をした。って言っても男の人のが一方的に話してるだけなんだけどね。彼女はやっぱり黙ったまま聞いていた。そう、君みたいにね。」

…私みたい、か。

んー…。

ま、いいや。

「ついに13日目。よく晴れた日だった。彼女も彼もやっぱり屋上に来ていた。お決まりの挨拶をかわし…と喋るのはもっぱら彼だけだったね。挨拶をしてから彼は話し始めた。その日の話は、女の子と変な男の人の話だった。もちろん、ハッピーエンドだよ?彼は今まで悲しい終わり方をする話をしたことがなかった。」

当たり前だろう。

自殺しようとしてる女の子に悲しい話をしてどうする。

さらに自殺願望を強めるだけだ。

「ある女の子を男の子が助ける話。その女の子は、命を神に捧げようとしてた。それと引き換えにお母さんの命を助けてもらうように。生贄的な感覚なのかな?」

「――っ」

私はここで初めて声を漏らしてしまった。

…どうして…。

しかし、言葉には出さない。

動揺を悟られたくない。

「その子のお母さんは病気だったんだ。不治の病と呼ばれるほどのね。だから彼女は助けたかった。大好きなお母さんを自分の力で。」

……。

嫌いだ…。

こんな話…。

「大嫌いっ…だ。」

百済さんの前で初めて発した言葉はこんなものだった。

しかもその声はか細く、百済さんの耳には届いていないだろう。

案の定、気付いてないらしい。百済さんはまた話し始めた。

「男の子はそれを止めようとした。誰かの命と引き換えに救える命なんて無いんだ。と。そりゃ、普通そうだよ。でも、彼女は分かっててもお母さんを救いたかったんだ。そして…同じ場所に行きたかったんだ…。」

いやだ…。いやだ…。

こんな…心を見透かされてるような話なんて…。

なんで百済さんが…。

「彼は説得したさ。精一杯ね。しかし彼女は聞く耳を持たなかった。そして、彼はこんなことを言ってしまったんだ。」

ここで百済さんは間をおく。

もう聞きたくない…。

でも…百済さんなら…。

こんな話でも…ハッピーエンドにできるの…?

空は気づかないうちに厚い雲で覆われて、どんよりと曇っていた。

「“僕ならお母さんを助けられる。 僕は神様の子。天使なんだ。”とね。もちろん嘘さ。天使なんて居ない。でも、彼は少しでもこの世に彼女を繋ぎとめておきたかった。」

――ポツッ――

気づいたら雨が降ってきていた。

小さな滴がコンクリートの床にしみを作っていく。

百済さんの羽もさっきより微かに色が濃くなっていた。

「彼女はそれに納得した。文字通り神様以外に助けてもらえる人が居ないとでも思ってたんだろう。でもね、ここから困るのは男の子の方。彼女が納得してくれたのはいいが、彼女のお母さんが元気にならないと意味がない。」

…ここら辺からはもう知らない話。

ハッピーエンドにならなかったら…。

ううん。

ハッピーエンドになったとしても私の意思は変わらない。

むしろバットエンドになってほしい。

その方が逆に気持ちがいい。

「彼は必死にお願いしたさ。毎晩空の彼方に居る神様に向けて。彼女のお母さんが元気になるようにって。それ以外に方法がなかったんだ。」

ふと空を見上げるとさっきより大粒の雨が降っていた。

コンクリートも、百済さんの羽も、もう前の色が分からないくらい色が変わってる。

私は、なんだか濡れて心地よかった。

「そしたら、ある日天から声が聞こえたんだ。“そなたに1回だけ願いをかなえられる力を授けた。好きに使いたまえ。”とね。神様の声だ。彼はそりゃ喜んださ。さっそくその日の夜のうちに空に向かって念じたよ。“病気が治りますように”と。」

百済さんは丁寧に目を閉じて、手の指を組んで祈るポーズと取りながら言った。

目を閉じた百済さんの顔を今、初めて注目してみるとなかなかキレイな顔であることに気付いた。

少し長めのまつ毛に通った鼻。

目には栗色の毛がかかっててなんだかミステリアス…。

―パチッ―

ここまで考えたところで百済さんが目を開けた。

その気配を察した私はすぐに目をそらす。

「翌日の朝、様子を見に行ってみたら…女の子がベットに横たわるお母さんに抱きついて泣いていた。彼はびっくりした。どうして泣いてるんだろう…と。僕は彼女を泣かせるようなことをしてしまったのかと。」

「――うっー」

私の口からは嗚咽が漏れる。

泣いているんだ。

気付かないうちに私の目からはたくさんの涙がこぼれおちていた。

その涙は、雨と混ざってもう何が何だか分からなくなる。

「彼女は悲しくて泣いていたんじゃない。お母さんは元気になったんだ。彼女の目から流れていたのはうれし涙だったんだよ。」

雨も激しく降ってきた。百済さんの声がやっと聞こえるくらい。

「彼は女の子を救ったんだ。」

「うっ――あっ――」

私は何か言いたいけれど、言葉がのどに突っかかって嗚咽しか出てこない。

でも、百済さんは何も言わずに待っててくれた。

「ごめんなさいっ――ごめんなさい――」

しばらくして私の口から出てきたのはこの言葉だった。

「ごめんなさい――――」

私はそれしか言えなかった。

百済さんは優しくうなずいてくれた。

「さぁ、雨も強くなってきたし、今日はもうお家にお帰り?」

雨にぬれて黒に近くなった羽をパタパタと動かしながら言う。

私は頷く以外に何も出来なくて、そのまま立ち去ろうとドアの方へ向かった。

雨の中、百済さんは私が立ち去ろうとしてもその場から動かなかった。

ドアの前まで来た時、最後に百済さんの姿を見たくて振り返ったら…。


そこにはもう、百済さんは居なかった。

あったのは、たった1枚の灰色の羽だけ。

私はそこで思い出した。

天使、悪魔の規則。

人間に話しかけたら、もう仕事はできない。

もしかしたら2度とこの世に来れないかもしれない、と。

百済さんは、もう…。

私は残された羽がこれ以上濡れないようにそっと服の中に隠してドアまで運び、最後、振り返って屋上に向かって言った。

「ありがとうっ。」


家に帰った私は驚きの事実を目の当たりにする。

目を開けてたんだ。

お母さんが、もう何か月も意識がなかったお母さんが。

私はお母さんに抱きついて泣いた。

話に出てきた女の子の様に。


読んでいただきありがとうございました



読み返したら自分でも頭がこんがらがりました←


でも、かなり気に入ってるお話です。



感想頂けると嬉しいです

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大変申し訳ありませんが、「まぁ、もう仕事ができなるのは確定してるだろうね。」となってました。
[一言] ううっ… 確かに一瞬混乱する事が度々あったけど、とてもいい話だと思います!! あと、大変申し訳ありませんが、「私はその人無視して」「さて、話を戻そか。」「まぁ、もう仕事ができなるのは確定し…
[良い点] 少しミステリアスな始まり方で、ハッピーエンドなところは、さすが黒野さんだと思います! [一言] こんにちは(^9^) 最初に「13」段の階段が出てきて、「まさかのバッドエンド?」と思いまし…
2011/04/17 11:20 退会済み
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