ヒキョウモノのワタシ
「おはよ、瞬」
「おはよう花音」
私の名前は志田花音、白英高校に通う高校2年生だ。そして、私と挨拶を交わしたコイツは久野瞬。私の幼馴染。そして、私の好きな人。
「それじゃ行こっか」
「おう」
私は毎日、瞬と一緒に登下校している。別に付き合ってもない私達が一緒に登下校する理由、それは簡単に言うと、私がヒキョウモノだからだ。
毎日、瞬と一緒に登下校して、学校でもいてられるときは瞬の席にいて、誰も瞬に近づかないように見張っている。まるで彼女の様にふる舞い、誰も瞬に告白できないようにしてきた。瞬が私以外を好きになれないようにしてきた。その成果か、私は瞬が告白されたのを見たことが無い。でも瞬は、私の親友である白石涼子といる時の方が私といる時よりも楽しそうだ。涼子には彼氏がいるから安心だとは思うけど………
ヒキョウモノの私は……私が瞬といる事と引き換えに、瞬から他の女の子と離すチャンスや、色んなものを瞬から奪った。それでも、一緒に居たかった。
「おはよう花音」
「おはよ、涼子」
教室に到着、そして速攻で瞬は自分の席で眠りに付き、私は涼子に話しかけられる。瞬が中々のイケメンなのにあまり告白されないのは私の妨害の他に、この眠たがりの性格も一員していると思う。
「今日も一緒に登校だなんてアツいね~~」
「涼子達も同じようなもんでしょ?」
「そんなことないよ~。あんた達みたいに毎日一緒じゃないし(私はあんたみたいにベタ惚れしてないしね~)」
そう言われると私は何も言えなくなる。小学校のころからの初恋で、最後の恋の予定だ。この高校に入ったのも瞬が入るからと言う理由だし、瞬以外の男子には興味が無い。
「(まったく、初恋を高校まで続けるなんて純愛にもほどがあるわよ~)」
「も~。からかわないでよ」
涼子にはいつもこうしてからかわれているけど、それは別に苦じゃない。瞬の事が好きなんでしょ?と聞かれるのは、小学生時代から数えてもう3桁に届いていると思う。だから、ちゃんと私が瞬のことが好きって知っている涼子は私にとって気楽な存在だ。
「で、ほんとにいつになったら告白するのよ?まさかと思うけどさ、ずっとこのままなんて言わないよね?ノロケ聞かされる私の身にもなってよ~」
「……うぅ」
「あ~花音カワイイ!(久野君にもそんな姿を見せつけたらイチコロなのに~)」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、涼子が慌てて自分の席に戻った。いつの間にか瞬も起きていた。
そして放課後
「瞬、起きなよ」
「ふあぁ~。何?放課後?」
肩を揺すると、瞬はすぐに起きた。いつもはかなり揺すらないと起きないのにすぐ起きたのは、ちゃんと眠れてなかったからだろう。何か考え事でもしながら寝たのだろうか?
「そう、帰ろ」
「ああ、先に帰ってて。寄る所あるから」
「え?」
意味が分からなくて、理解するのに数秒かかった。瞬が私と帰るのを断ったことはない……はずだ。少なくとも高校に入ってからは一度も断られたことはない。それが、何で?
瞬に嫌われたくない私は、瞬に何も聞かずに帰った。
「………瞬」
私は悩んでいる。瞬が私と帰るのを断った日から3日が経った。その日から瞬は私と帰らなくなった。その間、私がいなくなったことにより、女の子達は瞬に告白をしまくっている。
それに瞬は何となく私を避けていた。告白してきた女の子も全部断ってるらしいし、もしかして……彼女が出来たのだろうか?
それなら、私が今までしてきたことは何だったんだろう……
「あ~あ、寂し」
瞬に、一緒にお昼を食べるのを断られた私は1人で屋上にきていた。涼子も彼氏と食べるそうだから、他に一緒に食べれるような人がいない私は自然と1人で食べる事になったのだ。今はお弁当を食べ終えて、何となく屋上の風に吹かれている。
「…うわ、たっか~」
フェンスまで歩いて下を覘いてみると、人が米粒くらいに小さく見えた。こんな高いところから飛び降りたらきっと助からないだろうな~、と素直な感想を呟くと
「待て!早まるな!絶対にやめろ!!」
瞬がバンと扉を開けて叫んだ。
ってそこから聞こえるとかどんなけ耳良いのよ!
完全に不意を突かれた私に、何でそんな所にいたのかという疑問はわかなかった。
「ってそうじゃな」
「落ちつけよ!そうだ!落ち着け」
いや、アンタが落ち着いて人の話聞いて!
「お、お前が飛び降りるなら俺も飛び降りるぞ!!」
って言うかこんなに慌ててるコイツを見るのは初めてかも……
私は、最近のイライラもあって、ちょっとからかってやることにした。
「ねえ!何で最近私を避けてたの!!?」
「え………それは……」
瞬は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
もしかして……ほんとに彼女ができたんじゃ…
「彼女……できたの?」
「……違う」
「じゃあ何で私の事避けてたの!!?」
「それは…それは」
瞬は、ああもう、どうにでもなれ!と呟いて、叫んだ。
「もう我慢できなかったんだよ!!」
「それって、私と一緒に居るのが嫌だったの?」
「そうだけど…………違う」
「どういう事よ」
瞬は私から目をそらして、1人語のように言った
「俺な、お前が傍に居て、お前が俺の世話焼いてくれるの、当たり前に感じてたんだ。でもさ、この先もずっとお前が一緒にいるわけじゃないし……辛かったんだよ。だって俺は」
そこで瞬は言葉を切り、私をじっと見つめて言った。
「花音が好きだから!……だから………避けてた」
その瞬の顔があんまり必死で、でも言ってることが嬉しくて、馬鹿馬鹿しくて
「私も、大好き!」
つい口が滑ったフリ、をしてしまった。そんな自分に、ヒキョウだな~と思いつつ、真っ赤な顔で状況が飲み込めてないアイツに抱きついてやった。
私はヒキョウモノだけど、これだけは誇って言える。私は、コイツの事が大好きだ。