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【エッセイ】夏目瀬石の「冷やし中華はじめました」♯5 還暦前のおじさんがフェルマーの最終定理に挑む

作者: 夏目瀬石
掲載日:2026/09/26

 ここ一年くらいでしょうか、ずっと気になってはいたものの、そのボリュームもあって(500ページ近くある)なかなか手に取ることを躊躇していた本があったのですが、ついに読み始めることにしました。それは『フェルマーの最終定理』(新潮文庫、サイモン・シン、青木薫(訳))という本です。

 扱っている分野そのものは難解なのですが、門外漢の私でも楽しく読み進めることができ、あっという間に読み終えました。その理由として著者の筆力に負うところが大きいとは思いますが、やはり一番の要因はその題材の魅力にあるのではないでしょうか。

 では、題材となったフェルマーの最終定理とはいったい何なのでしょう。

 フェルマーという名前を聞いたことがあるでしょうか。いま話題のフェルメールではありません。後の世に彼の定理で名を馳せることになるピエール・ド・フェルマーのことです。

 フェルマーは1601年にプランス南西部の裕福な皮革商人のもとに生まれた数学者です。数学者といっても、数学で生業を立てていたわけではなく、裁判官として働き、社交界から身を引いて、あいた時間を趣味の数学の研究にあてていたアマチュアの数学者だったようです。

 さて、そのフェルマーですが、古代ギリシャの数学者ディオファントスの著した『算術』という書物に載っていた問題と解答の研究に一人いそしんでいたそうです。そしてその際に、自ら考察した定理などの所見をその書物の余白に書き込んだりしていたという。しかも、解法を発見したとは書くのだが、その証明をわざわざ書くことはしなかった。

 そして、その書き込みは48箇所にも及び、そのうちの47個はのちの数学者たちによって証明されたり、反証があげられたが、2番目の書き込みだけは証明や反証を免れていたそうです。その残った書き込みこそ、3世紀もの間、あまたの偉大な数学者を悩ませ続けた「フェルマーの最終定理」であったのです。

 では、その「フェルマーの最終定理」とはいかなるものだったのでしょう。

それは、

「3以上の自然数nに対して (Xのn乗)+(Yのn乗)=(Zのn乗 )を満たす自然数X,Y,Zは存在しない」

 というものです。

 自然数とは1,2,3,4・・・のような数です。そして、(Xの3乗)とはX×X×X、(Xの4乗)とはX×X×X×Xのことで、(Xのn乗)とはXをn個掛けたもののことを表します。

 数学の問題の難しさの半分はまずその問題を理解することにあるそうですが、「フェルマーの最終定理」の問題の意味は素人の私にも理解できます。

 問題文とは少し離れますが、かりにnが2なら、X=3,Y=4,Z=5のとき、(Xの2乗)+(Yの2乗)=(Zの2乗) の式を満たします。しかしnの数をひとつ増やしただけで、X,Y,Zは存在しなくなるという・・・・。ためしに、(Xの3乗)+(Yの3乗)=(Zの3乗) のX,Y,Zにいろいろな数をあてはめてみますが、うまくいきません。

 ところで、なぜこの定理は多くの数学者たちを魅了してきたのでしょう。

 まずその問題のシンプルさにあることは間違いないように思います。一見するとすぐにでも解けそうに思うのですが、いざ取り掛かってみると、なかなかどうして、うまくいかない。

 つぎに、書物の余白に書き添えた、フェルマーの言葉が数学者たちをいざなったのかもしれません。

<私は真に驚くべき証明を見つけたが、それを書くには余白が狭すぎる>

 この挑戦的な言葉が数学者魂に火をつけたのではないでしょうか。その後、多くの優秀な数学者がフェルマーに挑み続けました。しかし、みな孤高の数学者の前に膝を折ることになり、いつしか数学最大の未解決問題と呼ばれるようになったのです。

 ところが、フェルマーの最終定理が公表されてから優に300年もの月日が流れようとしていたとき、この問題に敢然と挑んた数学者がいました。イギリス人数学者、アンドリュー・ワイルズです。彼がフェルマーの最終定理に出会ったのはなんと10歳のときだそうです。

「絶対にこれを手放すまい。私はこの問題を解かなければならない」

 ワイルズ少年はそう思ったそうです。

 それから三十数年後の1995年、最後の最後でかっての教え子でもあったリチャード・テイラーの助力を得たものの、精力的な研究のすえ、ワイルズはついにフェルマーの最終定理の証明に成功し、数学界における長年の戦いに終止符を打ったのです。そして論文 130ページにも及ぶというその証明はとても美しく、魅力的なものだという。

 それにしても、ワイルズ少年を突き動かしていたものはいったい何なのでしょう。優秀な数学者さえも解けなかった問題を自分が解決するんだという功名心でしょうか。それとも数学の真理への純粋な好奇心、探究心でしょうか。あるいは言葉では表すことのできない、フェルマーの最終定理のもつ魔力でしょうか。

 そしてワイルズが示した証明はどのように美しく、どのように魅力的なのでしょうか。フェルマーの最終定理のなにがそれほどまで人を魅了するのでしょうか。

 さらには、ワイルズ、そしてフェルマー自身をとりこにした数学とはいったいなんなのでしょう。躍動する数字の世界の中に彼らはいったいなにを見ていたのでしょう。彼らが夢中になった世界をほんの少しでも垣間見たい気がしてきました。


 ということで入手してきました、『自由自在 算数 小学高学年(受験研究社)』を。

 自由自在・・・。たしか私がまだ小学生のころからある有名な参考書。フェルマーの最終定理には遠く及ばないものの、移り変わりの激しいこの世の中でまだ現役でがんばっているんですね。

 まずは小学校の算数から始めて、いつになるかは分かりませんが、フェルマーそしてワイルズが没頭した数学の世界、フェルマーの最終定理の世界に到達できるよう、学んでいきたいと思います。

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