キリギリスはなぜ鳴くのか
掲載日:2026/07/02
子供の頃、キリギリスを不気味な存在だと思っていた。
独特な鳴き声と、ずんぐりした体躯。あんなにまで羽根を鳴らして鳴く理由は、恋を求める以外にもあるのではないかと思ったからだ。
大人になってもそれは変わらず、見かけるとかならず鳥肌が立っている。
その夜も例にもれず、キリギリスは鳴いていた。
懸命に羽根を揺らして。
その姿を美しいととらえるかどうかは個人の自由になる。
あの薄い、はかなげな羽根を芸術のように感じる人もいるからだ。
問題は声だ。セミのように必死こいただみ声ではなく、スズムシのように澄んだ声でもない。
どこまでも地味な存在。
キリギリスが大量に舞う姿を想像しただけで、気絶しそうになる。
だけど大人になり、キリギリスを克服したいと思うようになった。
あの不気味な声をしっかりと聞き取れる大人になるために。
俺は、懐中電気を灯してキリギリスを探した。
小さな子どもみたいに必死になって探した。
やがて、自分の喉から不快な音が出てくることに気がつく。
そう、俺はキリギリスになってしまったのだ。
終わり




