ハズレスキル「ギフトボックス」で追放されたテツヤです
AI小説の乱立を嘆くエッセイに触れ、思うところがあり勢いで執筆しました。
もしこの改稿を面白いと感じていただけたなら、評価をいただけますと幸いです。
1年前に書いて、AI小説の乱立・小説家になろうの偏った評価方式で、誰にも評価されない気がして眠らせていた作品です。
十話まで書きためているので好評だったら連載版を掲載します。
「テツヤ……お前をパーティーから追放する、クビだ。人間は臭いからだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!ワーフさん!」
突然のことで、俺は声が裏返りながらリーダーの獣人ワーフさんに叫んだ。
どっと獣人族のパーティ「レッド・クラウンズ」の皆さんが笑う。
二十歳の獣人ワーフさんは人気者だ。
彼だけじゃない、「レッド・クラウンズ」の獣人族のみなさんは、みんな若くて金、恋人や家庭もある。
ここの契約は日払い。ゴミ拾い係をしている。
早朝から深夜まで徹夜の見張り番もして、何とか生活している。
俺はフルで働いてゴミも売って、一か月、ようやく二十五ゴールドになる。
収入が不安定だから、眠っても疲れが取れない日々だ。
だが、ワーフさんみたいなBランク冒険者はダンジョン一回で百二十ゴールドを軽く稼ぐ。
冒険者ランクが違うと、世界はこんなにも違う。
「魔物が見つからねえ!人間族のお前がいるせいだろ!臭えからよ!」
「ワーフさん、そ、そんな。俺は毎日ちゃんと体ふいて匂い消しも使っていますよ。」
ワーフさんが、謝ろうとしたら押し倒してきた。
獣人の力は強い。為す術もなく地面に転がされた。
痛い、鼻から血が出てる。涙目で鼻を押さえた。
「レッド・クラウンズ」は4人のメンバー。
十代、二十代で成功したエリート獣人族の皆さんだ。
ワーフさん、ダーガさん、ジーべさん、ポワルさん。
戦闘能力が高い、鼻も視力もいいし、装備も高級品だ。
辺境の街ミリオングラードで最上位のBランク冒険者たちで、女の子たちからも人気がある。
このパーティーに参加して三日目。
ここは、ダンジョン「暗黒の洞窟」の最下層。
「うぅ……ワ、ワーフさん、せめて、ダンジョン脱出まで後ろをついて行かせてくださいよ」
「ふん、戦闘能力がないくせに、最下層まで来る奴がおかしいんだよ、知らねえよ。来るな!」
顔を見上げると、パーティーの皆さんが見下ろしていた。
楽しそうに『ニチャア』と笑っていた。
「そ、そんな!ここで置いて行かれたら俺、死んじゃいますよ!見捨てないで下さいよ」
「おお、いいな、それ。不幸な事故死ってことで、お前が魔物にやられた後に荷物頂くぜ!」
前衛担当の力が強いダーガさんが俺のリュックを乱暴に取り上げた。
「や、やめて下さい!これは俺の全財産なんです!」
無駄だと分かっていたが、生活がかかっているので、ダーガさんに飛びかかろうとした。
十九歳のBランク冒険者に、三十五歳でFランクのゴミ拾い係なんて、相手にならないのに。
「おー?なんだ、抵抗するのか?へ、ゴミ虫が!」
ダーガさんは、ボールで遊んでいるかのように、俺の腹を蹴飛ばした。
腹に衝撃が響いた。俺は痛みでうずくまった。い、痛い。やめてくれよ。
「おい、ダーガ、そのリュックから金目のものを取れ!」
「へ、シケてんな!銀貨は百枚しかねーよ!没収~!それぐらいですねぇ」
「ふむ。そのリュックは売っても金になりそうにないな、燃やせ!」
待ってくれ。それだけは、やめてくれ。
そのリュックには、ギルド登録証が入っている。
「ういー!安くてボロいリュックを燃やしまーす!」
それがなきゃ、次の仕事が出来なくな――
「おらー、炎魔法でファイヤー!あははは!」
三十年間ずっと貯金して5日前に買った新品のリュックは笑いと共に灰にされた。
荷物を運び、汚れを拭いて、ゴミ拾いの雑用で、何とか暮らして買った努力はゴミになった。
リュックの燃えかすを拾おうとしたら、顔面を蹴り飛ばされた。
レッド・クラウンズはパーティー追放や暴力はない、募集には、はっきり書いてあった。
常連が別の街に引っ越して仕事もなかった時、断ってもリーダが何度も誘ってきた。
だからパーティー募集に申し込みしたのに、俺は騙されたんだ。
「やめて下さい。俺も生活があるんです。これはギルドの契約違反です。やめて下さいよ。」
「ふん、どうでもいいわ。獲物がいないのに、日当を毎日チマチマ払うのが、嫌なんだよ」
獣人達に体の四肢を押さえつけられて紐で縛られていく。やめろ、やめてくれ。
自分なりに、抵抗したが力の差は圧倒的だった。叫べば笑われ、怒鳴れば殴られた。
「そんな、態度が悪いなら改めます。悪い点は直すので、どうか許して下さい。お願いです…」
「テツヤの声や顔、ヘラヘラした態度がストレスなんだよ。おら、もっと泣いて叫べよ」
(もう、やめてくれ……)
「あれー?もう反応しやせんね。裸にして吊るして放っておきましょう!」
抵抗する気力を失い無反応な俺が面白くないのか、服をビリビリと剥ぎ取られた。
そして、魔物が襲ってきやすいようにと、木に括り付けられた。
(わざわざ裸にまでするのかよ、何だよこれ。あんまりじゃないか。)
若くして成功者になった奴らにとって、俺は笑い物だろう。
戦闘力も学歴も商売や交渉も苦手で、友達もいない、運もないからな。
剥ぎ取った服まで、炎魔法で派手に燃やされ、笑いながら去っていく。
魔物にやられて死体になったら、不幸な事故として、ひと稼ぎするんだろう。
遺体の肉片をギルドに運べば金貨1枚の謝礼が出る。
(俺の命は、ゴミ拾い3ヶ月分か……。)
***
裸で木に縛られて、何時間が経ったのだろう。いつの間にか夜になっていた。
ここはダンジョンの中だが、なぜか昼と夜があるらしい。
遠くから魔物の叫び声が聞こえる。
草陰から出てきたのは、オークだった。
緑色のゴブリンより豚顔の亜人だ。
オークが、俺の最期なのか。
(俺のハズレスキル……ギフトボックスは最後まで使い方が不明だったなあ)
Fランクのテツヤは、存在しない扱いをされて、ここで終わる。
死を覚悟して目を閉じると機械的な声が響いた。
『ギフトボックスに新しいギフトアイテムが届きました。』
何だ?
ゆっくり目を開けると、
『今すぐ新しいギフトアイテムを使いますか?
はい/いいえ』
そう書かれた光るプレートが浮かんでいた。
これは、ずっと使い方が不明だったハズレスキル「ギフトボックス」か?
もう遅い。けど、最後くらい自分で決める。
恐怖も、怒りも、不思議と消えていた。
俺は「はい!」と答えた。
『ギフトボックスを開きます』
眩しい光の中に、誰かの声がする——
***
『ギフトアイテム使用より特別報酬として使い捨てスキル《百回連続召喚》を獲得しました。』
オークの咆哮が闇に響く。
「おい、《百回連続召喚》なんて、何をすればいいんだよ……」
スキルをどう使えばいいか分からないなら意味がないじゃないか。
使い捨て?ずっと使うこともできないのかよ。俺は絶望しかけた。
オークが近づいてくる。だめだ、絶望するぐらいなら決意しよう。
それだけが俺のできることだ。三十五年間のレベル1をなめるなよ。
『使い捨てスキル《百回連続召喚》を使用しますか?』
やるしかない。やってやるさ。俺は力強く「はい」と答えた。
夜空に流星群が走り、魔法陣が開いた。見たこともない美しさだった。
これが俺に与えられたギフトアイテムの力か……。
『一回目、召喚は失敗しました。成功率が上昇します。』
『二回目、召喚は失敗しました。成功率が上昇します。』
『……二十九回目、召喚は失敗しました。成功率が上昇します。』
ずっと失敗し続ける。何だよこれ。オークに殴殺されるのは嫌だ。頼む。
召喚、成功してくれ!頼むよ!もう俺には何もないんだ。
『……三十回目、召喚成功 女剣士カレンが召喚されました——レベル9』
金の髪が光を受けて弾け、長いポニーテールが舞う。
紅い鎧が彼女の身体の曲線を柔らかくなぞり、動くたびに胸の装甲がわずかに揺れた。うほっ!
強いのに優しさを帯びた微笑みで、彼女は片手剣を構える。
その瞳は真っ直ぐにこちらを見つめ、確かな敬意を宿していた。
「テツヤさん、任せてください。あなたを、もう傷つけさせません」
「君なんかが、俺を助けてくれるのか……どうして、俺なんかを」
「あなたが、私を呼んでくれたからです!」
「う、うう、ありがとう……頼む、ここから助けてくれ」
「大丈夫です。もう一人で泣かなくていいんですよ」
彼女はそっと微笑み、指先で涙の跡をなぞった。
彼女の瞳に宿る光に、俺は電気で打たれたような衝撃が走る……これは、恋?
次の瞬間、彼女は炎のような視線でオークを睨みつけた。
彼女の剣は速かった。
だが棍棒の一撃に弾かれ、剣を落とす。巨体に押し倒されそうになる。
「くっ……!」
カレンはオークの棍棒を素手で掴んで抵抗している。
カレンの顔に焦りが走る。
『……四十回目、召喚は失敗しました。成功率が上昇します。』
カレンが戦う間も次なる召喚の呼び出しは失敗されながらも回数を重ねていく。
そうか、これが《百回連続召喚》なんだな。頼む、もっと成功してくれ。
今のカレンでは勝てそうにない。もっと力が必要なんだ。もっと助けてくれ!
『四十九回目、召喚は失敗しました。成功率が上昇します。』
俺は必死で召喚成功を祈る。カレンは棍棒を避けて剣を拾った。頑張れカレン!
『五十回目、召喚成功 女剣士カレン』
また女剣士カレン?
どうなるんだ、これ?
二人になるの?いや、まさか——
『同じ召喚体が呼ばれたので、女剣士カレンが成長します。
レベル上限を突破——レベル10に上昇』
光に包まれたカレンが片手剣を拾い上げる。装備が強化され、動きが鋭さを増した。
(そうか、カレンがレベルアップするのか)
カレンの剣がオークを押し返す。だが決定打には届かない。
「まだ……足りない!カレン、頑張れ!」
再び押され、苦戦が続く。まだダメなのか。俺は召喚の成功を待ち続ける。
『八十回目、召喚成功 女剣士カレン』
またカレンだ。
(もう一度、レベル上限を突破するのか?)
『女剣士カレンが成長します。
レベル上限を突破——レベル100。
新たに革鎧を装備しました。』
カレンの身体に堅牢な鎧が現れる。
今度はオークの打撃を受けても倒れない。
今度は持久戦に持ち込み、互角に渡り合った。確実にカレンは強くなっている。
それでもオークの怪力は衰えず、戦況は予断を許さない。
「くそっ……あと少しで……頼む!」
『百回目、召喚成功 女剣士カレン』
カレンが輝きはじめた。
もう一度、レベル上限を突破か…まあ、きっとレベル120ぐらいだろうな。
それでもいい、カレンもっと強くなってくれ。俺は祈った。
『女剣士カレンが成長します。
レベル上限突破——レベル1,000。
新たに両手剣を装備しました。』
(レベル1,000!?すごい、絶対に勝てる)
轟音と共に光柱が立ち上がる。カレンの手に巨大な両手剣が現れた。
オークもカレンの両手剣に驚いて後退りしている。カレンが走り込んで行く。
「これで終わりね!」
振り下ろされた剣が棍棒を粉砕し、そのままオークを斬り裂く。
巨体は断末魔を上げ、光の粒子に砕け散った。
カレンが剣を収め、俺のところに来て縄を断ち切ってくれた。
微笑んで、まるで昔から知っていたように言った。
「大丈夫?テツヤさん。遅くなってごめんね。」
……どうして、俺の名前を知っている?
***
「あー、死んじゃった。信じられない!! なーに、この剣士カレンって。ちゃんと運営はデバックしてるの?」
私はフルダイブ型VRゲームのMMORPG「レジェンド・レッドクラウンズ」でのゲームアカウント名「太鼓腹オーク」が映っているVRゴーグルを外してコントローラーごとを放り投げた。
レアなレベル1のNPC「テツヤ」をせっかく飼育しようとしていたのに、テツヤは、突然にギフトボックスを使って、カレンとかいう、めちゃくちゃ強い剣士を召喚してきて、私が育ててきた可愛い太鼓腹オーク(レベル800)を惨殺したのだ。
ひどーい。
ああそうだ、今日は、お誘いメールをくれた、「脳筋ゴリラ」氏と待ち合わせの日。
せっかくいいとろこのなのに………ま、でも「脳筋ゴリラ」と会って話してみなくちゃね!
わたしは颯爽と喫茶店に向かった。
***
ボクの名前は青桐ぽぷり。
いきなり 太鼓腹オークから メッセきた。
またか。だるい。面倒くさい。
ネトゲのフレンドが急にリアルで会いたい?
ありえん。
どーせ、ゲームと同じ口数が少ない陰キャでしょ?
(まあ、「脳筋ゴリラ」を名乗るボクも陰キャだけどね)
こんなキラキラしたスタバで呪文を詠唱とか落ち着かない。
むり。帰ろ。
スマホ取り出そうとした、その時。
からん、とベルの音がする。
ドアに目を向けると──
「あの、すみません。脳筋ゴリラさん、ですよね? 太鼓腹オークです……」
ほわー!
綺麗な声。
あ、太鼓腹オークの、いつもの声じゃん。
え?あれってボイチェンじゃなくて本物の声だったの?
えっ、これ「神」じゃん?
いや、め、女神?
だめだめ!尊すぎ!まぶしい。
ささっとボクは顔を下げた。
そんなにボクを見ないで女神さま。
ボクは「脳筋ゴリラ」だから……。
あー、ドキドキする。
「あらあら、どうされました……?」
目の前のお姉さんが、ぺこりと綺麗なお辞儀をして。
髪をかきあげながら 優しく微笑む。
ど、どどどどどうしよう⁉︎
あっあっ なんで どうして?
どうしてボクはSteamで『脳筋ゴリラ』に?
死。終わった。
「初めまして……私、『太鼓腹オーク』と申します。
お会い出来て光栄です……」
ひ、ひぃー!ひーーーー!やっぱり?
この尊いお方が、この女神さまが、太鼓腹オークさん?
──目の前にいる、この麗しき黒髪の清楚系お姉さんが?
『太鼓腹オーク』さんじゃないか?!
なんかよく分からんけど尊いからヨシ!
「冬季限定カップ付きホットココア、とっても美味しいんですよ?ふふふ」
「あ、そ、そうなんでしゅね。ウホッ」
お姉さんが、向かい合って腰を掛けた!
なんか甘い香りだし、顔まわりの黒髪の遊び方がうますぎてえぐい。
ウルフっぽく段が入ってて、動くたびにふわふわしてるし。
うわっ、首なっが!え、足ほっそ!胸でか!
あ、ちょっとタレ目でえっろ!えっろ!
だめだめ!
ボクは今、何考えてるの?
お姉さん、君の名は──
「白石こはる、です」
「ほえ?」
整いすぎた端正な顔立ちの、白石こはるさん——それが太鼓腹オークの本当のお名前……。
なんて美麗なんだろう。
あ。息するの、忘れそう。
「私の名前、普通は教えないんですよ?ナイショですからね?
脳筋ゴリラさんになら、教えても構いませんので」
「ぼ、ボクは、青桐ぽぷり。
こ、ここ高校生です。ぐにゅー」
「あらあら、女子高生さんですね。
姫カットに地雷系ワンピース、とってもかわいいですよ?」
クスクスと幸せそうに微笑んでる──白石こはるさん。
か、可愛い美人の笑顔!ふわふわ〜!
えー?なんで、美人ってこんなに心が休まるの?
ほわー!
「こ、こはるさんも、すごくカワイイです?」
あれ!
ぼぼぼボクは?
急に何を言い出しているのかなぁー!?
でも……これは、「本心」だから!!!
夜月のような光でかがやくオーラをもった尊き女神様……白石こはる様。
世が世なら帝国の皇女でも不思議じゃ──?
「あら、動かないで」
「な、なんですか?ご褒美?ふにゃーーー!」
こはるさんの細くて白くて綺麗な指が、そっとボクの唇に触れた。
「いえ、ぽぷりちゃんが、簡単に口説いてくるものですから……」
「え?!」
別に口説いているつもりは、ない!……たぶん。
慌ててボクは訂正する。
「こはるさんとボクは!
そそそそ、そういう関係じゃないですから、フン!」
「そういう関係、とは?」
「まだ、こ、恋仲じゃないってことです。
と、ととと友達だし?」
綺麗なお姉さんだと分かった途端に色目なんて。
それだけはボクは何だか嫌だった。
嘘です!
ドキドキしてます!!最高です!!
「ふふ、意地っぱりね」
こはるさんが、吹き出すように笑ってる。
それから、わがまま過ぎる上半身を突き出して、ボクの耳元に顔を近づけた。
甘い香り、こはるさんのいたずらっぽい柔らかな声──
「私の事、いや?」
こはるさんが、小声で尋ねてる。
ああ、もう勝てないよ。
エモすぎ 尊すぎ。
もう……メス堕ちするかも。
こんなの……ずるいよ。
「い、嫌じゃ、ない……好き」
「あらあら。 ふふ、可愛いわね。 ちょっとイイところ行こっか? ね、ぽぷり」
こうして、二人は異世界「ユグドラシル」へと旅立つ。
使い慣れたプレイヤーキャラクター「太鼓腹オーク」と「脳筋ゴリラ」として。
フルダイブ型VRゲームのMMORPG「レジェンド・レッドクラウンズ」で、テツヤに再会するために。
***
「テツヤさん、寒いでしょう?」
「へっくし!」
カレンが縄をほどいてくれたのは助かった。
すると、草陰から咆哮がして、強そうな斧を手にした太鼓腹のオークと、棍棒を手にしたゴリラがやってくる
「おい、カレン! こんどの敵、めちゃくちゃ強そうだぞ!」
おかしい、あの時のオークは倒したはず。
なのに、どうして生き返っているんだ。
それに、凶暴なゴリラまでいる。
俺が戦慄してどうすればいいのかと立ち尽くしていると、隣にいたカレンに、オークの斧の斬撃が直撃した。
「テツヤさん、ごめんなさい、私、もう……!」
「カレンーーーーー!」
振り返ると、カレンがゴリラの激しい殴打で押されている。
服もボロボロで、あられもない姿になっている。
(くそ、何かないのか、何か。俺は、低レベルで、オークともゴリラとも戦えないんだ!)
「テツヤさん、私が身代わりになるから……逃げて?」
カレンは革鎧を外し、上着を脱ごうとした。
慌てて止めようとした俺は、足を滑らせて前のめりになった。
「きゃっ」
倒れ込んだ俺の右手は、やわらかな感触をとらえていた。見ると、カレンの胸に……。
「ち、違うんだ!これは――」
「んん……テツヤさん……」
顔を赤らめるカレンに動揺して起き上がろうとした瞬間、彼女に抱き寄せられた。
温もりが直に伝わってくる。
「召喚してくれて、ありがとう。……大好き」
耳元で囁かれて息が止まった。
『カレンの好感度レベルが上昇しました。
真名の解放条件が満たされました。』
真名?何だそれは?
彼女は真剣な目で俺を見て言う。
「お願い。私の真名を解放して」
真名? どうすればいいか分からない。
俺はさっき使った《百回連続召喚》を思い浮かべてみた。
『アイテムボックスは0件です。
アイテムボックスに《百回連続召喚》がないので使用できません。』
頭に機械的な声が響いた。
は?何を言ってるんだ?俺の心に絶望が広がる。
「じゃあ、さっきどうして……」
『ギフトボックスが999,999件の時、1,000,000件目は
必ず 〜特別報酬のギフトアイテムがプレゼント〜 されます。
どんなアイテムになるかはランダムです。
先ほどは、特別報酬のギフトアイテムにより
使い捨てスキル《百回連続召喚》が使用されました。』
そう言えば、ずっと使い捨てなどと連呼していたな。
もう使えないのか?俺が疑問に思っていると説明は続いた。
『なお、使い捨てスキルは、アイテムによる一時的なスキル発動です。
スキル発動アイテムは一度使用すると消えるため、再使用できません。』
説明を聞いた瞬間、膝から力が抜けた。
「ギフトボックスは、やっぱりハズレスキルだ……」
ずっとそうだった。村を失い、家族を失い、今日まで何ひとつ報われたことがなかった。
村を襲ってきたゴブリンどもに燃やされていく村、俺は震えながら木の陰で見ているだけだった。
五歳の記憶が蘇ってくる。
灰となった村で泣きながら一人で村のみんなを埋葬した。
それから、ずっと一人だった。野宿をしながら百回以上も冒険者ギルド登録を断られた日々。
「ランクなし」でギルド登録したあと、「掃除係」として仕事してきた日々。
役立たず、掃除しかできないレベル1と言われ、ずっと笑われてきた日々。
その仕事のために冒険者ギルドで頭を下げ、三十五年間どうにか生きてきた。
「結局……俺はダメなんだな。俺はダメな奴なんだ。」
だがカレンは否定するように首を振った。
「違うわ。私を呼び出してくれたのはテツヤさん。だからあなたはダメなんかじゃない。」
この俺が、ダメなんかじゃない?
はっと顔をあげるとカレンが俺を微笑みながら見つめてくれていた。
まっすぐな瞳が俺を射抜いた。胸が痛い。
「だけど、俺は、誰にも相手されないような、そんなダメな存在なんだ。」
「ううん、それでも、私は、あなたを見ているよ。【テツヤ】さんも、私を見て?」
うつむきかけた俺は、顔をあげてカレンの顔を見た。カレンは俺を見てくれていた。
みんな俺の顔を見ようとはしなかった。両親さえもだ。誰も俺を見なかったのに?
何もないダメな俺。そんな俺をどうしてこんなにまっすぐ見てくれるんだ。
俺をしっかり人としてカレンは見てくれる――目から涙がこぼれそうになる。
「……今まで、生きてて何一ついいことなんてなかったんだ。俺は何も無いんだ。」
「ううん、これから起こせばいいんだよ。これからだよ。」
カレンがそう言ったとき、頭の中に再び声が響いた。
『0時になりました。
新しい 〜特別報酬のギフトアイテム〜 が届きました。
ギフトボックスが999,999件です。
これ以上はギフトアイテムを追加できません。
今すぐギフトボックスを使いますか?』
夜のダンジョンに、光の予兆が差し込んでいくのを感じる。
そうだ、そうなんだ。俺には完全に何もないわけじゃない。
ギフトボックス――俺にはギフトボックスというスキルがある。
なんで0時になったらギフトアイテムがくるんだろう?
いや、そんなことは、今はどうでもいい。
今の俺にできるのは決意しかない。
レベル1の俺ができる意地を見せてやるよ。
俺は力強く「はい」と答えた。
『特別報酬のギフトアイテムにより――
使い捨ての特殊スキル《真名解放》を一時的に獲得しました。』
真名解放。カレンを見た。カレンも覚悟を決めたようにうなづいている。
やるぞ、やってやる。カレンを真名解放だ。
『使い捨ての特殊スキル《真名解放》を今すぐ使用しますか?』
俺は力強く「はい」と答えた。
「【テツヤ】さん……ありがとう。私を真名解放してくれて――」
その瞬間、カレンの全身から奔流のように光があふれた。
一本の光柱が天へと突き抜け、ダンジョンの天蓋を突き破る勢いで広がっていく。
大地が震え、砕けた岩が宙に舞う。
赤黒い稲妻が何十本も走り、夜空は昼のように輝き、次の瞬間には真っ赤に染まった。
轟音が耳を裂き、竜の咆哮にも似た風が吹き荒れる。
『――女剣士カレンの真名が解放されました。
SSSランク/最上級の召喚体
伝説の女剣士カレンシア・イェーガー、降臨』
宙に浮かぶカレンの髪は銀炎を帯び、目は紅蓮に燃えていた。
衣装は灼熱の炎で形を変え、白金の鎧と、血のように紅いマントへと変貌していく。
背からは竜の翼の幻影が広がり、その一振りで空気が爆ぜる。
剣は光を吸い込み、やがて灼熱の両手剣となった。
振るわぬままに刃先から炎の衝撃が滴り落ち、床を焼き裂く。
——これが真名解放。
人ではなく、神話そのものが目の前に顕現したのだ。
『真名:カレンシア・イェーガー
称号:殲滅者
属性:炎
種族:皇帝竜
レベル:10,000』
光の嵐が収束し、天から一人の戦乙女が舞い降りた。
その手には灼熱の大剣。背には白金のマントが翻り、歩むたびに床石が赤熱していく。
瞳は燃え盛る焔のように紅く、気配だけで空気が焼け焦げた。
これが……これが、本当のカレン。
俺の知らない、伝説そのもの。
その圧倒的な存在が、ただ俺にだけ微笑みを向ける。
「テツヤさん……これが、あなたが解き放った力。さあ、一緒に復讐を始めましょう」
……いやいやいや、カレンさん。
そんな伝説級のプロポーズみたいなこと言う前にさ。
俺はまだ裸なんだぞ!?
——ハズレスキル「ギフトボックス」。
俺はずっと恵まれない人生だった。
こんなスキル無ければいいのにってずっと思ってた。
でも、カレンがいてくれるなら、目の前の、オークもゴリラも倒せるかも知れない。
そんな気がしていた。
「へっくし!」
だが――俺は裸のままだ。
服もリュックも燃やされ、丸腰でダンジョンの夜を迎えている。
寒さで骨の芯まで冷える。
あの、獣人族ワーフさんたち「レッドクラウンズ」とも決着をつけないといけない。
やるぞ、やってやる。
レベル1の意地を見せてやるんだ!
カレンが真名解放したら、太鼓腹のオークと、棍棒をもったゴリラは逃げ去っていった。
なんだ、あいつら、知能が高いのか?
「とりあえず、なんとかなりましたね、テツヤさん。」
「ああ、だが油断はできねえ。へっくし!」
カレンこと、カレンシア・イェーガーはいろいろなスキルがあるらしい。
鑑定もできるというので、俺は自分について鑑定してもらった。
「テツヤさんを鑑定しました:
テツヤ
真名:レアなモブ
称号:村人
属性:NPC
種族:人間
レベル:1(レベル上限)
スキル:ギフトボックス(999,999/999,999件)
武器:なし(素手)
防具:なし(裸)
所属:ギルドパーティ「レッド・クラウンズ」(状態:追放)」
「だいたい身をもって知ってることばかりだな……ん? なんだよ、属性NPC……強いのか?」
「ごめんなさい、テツヤさん。私もNPC属性を今調べたのですが、説明なし、と出ました」
「そうか。じゃあ、きっとロクでもない属性だろう。俺は何もない人生だったからな」
そう言えば、ギルドでも本当は、NPCの方は登録できませんって言われてたな。
NPCの方はレベルアップしてはいけない――それがギルド受付嬢の決めゼリフだった。
掃除係で魔物も倒せないから絶対にレベルアップできない、と百回以上も登録申請した。
最後はギルドマスターに、ギフトボックスは本当はチートスキルじゃないのか?と詰められた。
『私【テツヤ】は隠しチートスキルなしです。
虚偽があれば世界を混乱させる者として討伐対象になります。』
そんな内容の念書も書かされたな、と俺は三十年前を思い出した。
カレンはいい子だ。それでも、ギフトボックスはハズレスキルだ。
「何もない? いえ、ギフトボックスはすごいスキルですよ!? 聞いたことがありません!」
「でも、このハズレスキルは三十五年間ずっと使い方が分からなかったんだ」
俺は嘘はついてないはずだ。
「ランクなし」ギルド登録者として、少ないゴールドを貯めてきた。
冒険者の後からついていく掃除係として、ずっと下を向いて生きてきたのが俺だ。
「ううん、テツヤさんは私を召喚し真名解放もできました。きっと本当は、すごい方ですよ!」
「そう言えば、今日、初めて受け取ったアイテムが使えたんだ。俺のスキルについて何か分からないか?」
「ちょっと待って下さいね。スキルを調べます。
——ギフトボックスのスキル説明
・苦しいこと悲しいことを体験させてしまうとお詫びにギフトアイテムが送られます。
・装備なし+衣装なし、の場合はお昼と深夜に一度ずつギフトアイテムが送られます。
・ギフトボックスが上限の場合、最後のギフトアイテムはアイテムボックスに送られます。
・アイテムボックスに送れなかったギフトアイテムは『今すぐ使う』しか選べません。
……ってありますね」
「何がお詫びだー! ふざけんな! 俺はこの三十五年間ずっと……ずっとレベル1で……」
俺は腹が立ってきた。つまり、999,999回も、お詫びされる人生ってことか。
俺は怒りのあまり空に向かってワーっと叫んだ。獣のように。
何十年もずっと耐えてきた怒りだ。三十五年間、何もいいことが無かったんだ。何もだ。
俺は叫び続けた。カレンが俺を背中からそっと抱きしめてくれたが、俺は気にせず叫んだ。
頭の中で機械的な声が響いた。またか。今度は何だ。
『ギフトボックスに 〜緊急のお詫びギフトアイテム〜 が届きました。
ギフトボックスが999,999件です。
これ以上はギフトアイテムを追加できません。
今すぐギフトボックスを使いますか?』
また何か送られてきたのか。今度はなんだ?ふざけやがって。
「カレン、急に、緊急のお詫びギフトアイテムが送られてきた。」
「ええ!やっぱり、すごいスキルじゃないですか!」
「いやそんなことより、どうすれば、こんなに溜まっちまったギフトアイテムを使えるんだ?ギフトボックスの999,999件もあるから、どうにかしたいんだ」
「まずはアイテムボックスに移さないといけませんね。テツヤさん、『ギフトアイテムをすべて受け取る』を試してみて下さい」
アイテムボックスだと?そんなスキルは俺には身に覚えがないんだが。
それでも、カレンが言うので素直に『ギフトアイテムをすべて受け取る』と頭に浮かべた。
『基礎スキル:アイテムボックスがありません。
そのため「ギフトアイテムをすべて受け取る」が失敗しました。
今すぐギフトボックスを使いますか?』
「カレン、よく分からないんだが、アイテムボックスがないから受け取れないって言われる」
「え?そ、そんな……テツヤさん、基礎スキル:アイテムボックスをまさか……」
「ああ。その、まさかだ。ない、ないんだよ、俺は。基礎スキルさえ俺はないんだ!」
カレンは言葉を失う。その顔を見て俺は確信した。俺は最低以下の底辺の存在なのだと。
実家のあったゴブリンに滅ぼされた村でもアイテムボックスはみんな持っていた。
両親も、幼なじみも、妹も。0歳の赤ちゃんでさえも。持っていない奴はいなかった。
そもそも、誰も、あれをスキルとさえ言っていなかった。だから荷物運びさえ、できなかった。
そして、三十年コツコツ貯金して買ったリュックは獣人ワーフ達に燃やされた。
「もしかして……アイテムボックスという基礎スキルなしは世界で俺一人だけか?」
「いえ、召喚体である私もアイテムボックスはないんです。なので私もです……」
カレンは気まずそうにうつむく。
カレンのしょんぼりした顔を見て、少し申し訳ない気持ちになった。
カレンは俺の命を助けてくれた召喚体だ。彼女は悪くない。
そう、悪いのはこの世界だ!お詫びさえまともにできない狂った世界だ!
それでも俺は犯罪者にもならず、真面目に生きてきた。バカにされても頭を下げてきた。
深呼吸して心を落ち着けた。何をすればいいか、答えはシンプルだ。
できないことを考えても仕方がない、できることを俺はやる。試せることを試す、それだけだ!
頭の中で再び文字が浮かんできやがった。
『今すぐギフトボックスを使いますか?』
俺は力強く『いいえ』と答えた。
言いなりになってたまるか。俺にだって選ぶ権利がある。試せることを試してやる。
『基礎スキル:アイテムボックスがありません。
これ以上はアイテムを追加できません。
そのため「いいえ」が失敗しました。』
なんだよ、これ。何なんだよこれ!せめて、どんなアイテムか教えてくれ!
『ギフトボックスが999,999件です。
これ以上はアイテムを追加できません。
今すぐギフトボックスを使いますか?』
予想していた結果ではあったが、俺にはショックだった。
俺ができるのは「はい」を言うか、言うタイミングを引き延ばすこと。それだけ。
中身の確認もできないから、計画なんて立てられない。ずっと行き当たりばったりかよ。
「テツヤさん、顔が真っ青です。大丈夫ですか?」
「カレン、今分かったことがある。アイテムボックスがない俺は、ギフトボックスに届いたアイテムの中身を事前に確認すらできないらしい」
「そんな……! テツヤさん、元気出して。私を呼び出してくれたのはあなた。だからあなたのスキルにはきっと何かあるはず、私はテツヤさんを信じています」
カレンが俺を見ながら手を優しく握ってくれた。温かい。
そうだ、もう俺は一人じゃない。カレンがいる。俺はカレンの手を強く握り返した。
進むしかない。前に進むしか俺はないんだ。
俺は力強く「はい」と答えた。
俺の体が炎のような光に包まれて、身体中が温かくなる。何だこれは……。
『チュートリアルを開始しますか?
属性がNPC→テストプレイヤー《真実の探究者》に昇格します。
警告:テストプレイヤーに昇格すると、以下の内容が変更できなくなります。
・称号:村人→持たざる者(通称、蛮族)
・武器:なし(素手)→なし(棍棒)
・防具:なし(裸)→なし(腰布)
・新しい基礎スキル1:不死(セーブポイント“焚き火”からの回数制限なし蘇生)
・新しい基礎スキル2:パリィ、ローリング、両手持ち
・新しい基礎スキル3:ソウルポイント(チュートリアル終了後)
チュートリアル終了まで召喚体は戦闘に参加できません。応援は可能です。』
なんだ、これは……。テストプレイヤーって何だ?
俺はカレンをちらっと見た。カレンは真っ直ぐな瞳で俺を見ている。
カレンが俺を信じてくれている。ありがとう、カレン。俺は前に進むよ。
やってやろうじゃないか、テストプレイヤーってやつを。
もともと俺は失うものなんか無い。
俺は力強く「はい」と答えた。
その瞬間、白い光が俺を包んだ——
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最後までお読みいただきありがとうございます。
AI小説の現状を憂う意見を拝見し、本作は眠らせていたファイルを開き、もどかしさを勢いに変えて書き上げました。
「AIに書かされたもの」ではなく「自分の魂を削って整えた物語」として、少しでも皆様に届くものがあればと願っています。
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本作品は、AI小説の乱立を嘆くエッセイや、小説家になろうの偏った評価方式にインスピレーションを得て執筆しました。
【参考にさせていただいた作品】
AI小説のみわけかた
https://ncode.syosetu.com/n8715mb/
【創作の指針としている自作資料】
私自身はまだ修行の身であり、プロ作家の友人に厳しくも的確な助言をもらいながら、日々研鑽を積んでいます。
小説投稿サイトのAI作品乱立に辟易し、撤退を口にしている師匠(友人)に、少しでも笑ってもらおうと思って書きました。
Web小説の文章力とは?「短文」の基本テクニック
https://ncode.syosetu.com/n2691me/
【感想やご意見をお待ちしています】
私は評価を得るためだけに作品を乱立させたり、安易にAIへ傾倒したりするつもりはありません。
至らない部分も含め、どうすればより良くなるか、いただいたご意見を参考に作品を改善していきたいと考えています。
「ジャンル自体が気に入らない」といった根本的なご指摘にお応えするのは難しいですが、もっとこうしたら面白くなる」「こういう展開が読みたい」といった具体的なご意見・ご感想は、ぜひ遠慮なくお寄せください。




