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路地裏の風使い  作者: 月塔珈琲
風とウタブミ編

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5/13

record:05.つぶやくように

 街の中心にある時計塔の鐘が、十二回鳴った。


 そろそろかな、とヨーダは白いテーブルクロスをかぶり、二階の窓から教会の入り口を覗き見る。


「いいか? 俺が幽霊になってやつらを追い出すから、おまえは奥の部屋から出るなよ?」


 ヨーダが幽霊の背中を押し、奥の部屋へ行くように促すと、幽霊は不満そうに唇を尖らせた。


「ぼく、ひとりでできるもん……。なんでぼく、かくれるの……?」


「おまえ、そもそも見つかったら駄目なんだろ? 何でかは知らないけど、昨日、捕まったら誰かに怒られるって言ってたじゃん」 


 それに、とヨーダは続ける。


「ただ隠れてろってわけじゃない。やつらが礼拝堂に入ってきたら合図するから、なんでもいいから不気味な音でも出して怖がらせてやれよ。できるだろ?」


 できるけど……。幽霊は少し考えて、人差し指を顔の前に立てた。


「礼拝堂にあるのは、オルガンだから、オルガンの音で、いーい?」


「いいよ。誰もいない礼拝堂でオルガンの音が鳴ったら、怖がって逃げてくだろ」


 幽霊は人差し指をくるりと回し、空中に円を描いた。するとそこにいくつかの記号が浮かび、花形の水泡が現れる。


「じゅんびが、できた」


「OK、じゃあ奥で待ってろ」


 はーい。幽霊は花形の水泡をまといながら、廊下の一番奥の部屋へと入っていった。ドアを少しだけ開け、ヨーダに手を振る。


 しばらくすると、教会の外から子供たちの声が聞こえてきた。来たか、とヨーダは息をひそめた。


 教会の扉が開く。子供たちの数は、昨日と同じ五人だ。


 子供たちは箒やらモップやら、各々武器を持っていた。恐る恐る、警戒しながら教会の中へと入ってくる。向こうの方が人数が多いのだから、ばらけさせないほうがいいだろうとヨーダは思った。


 子供たちが全員教会へ入ったところで、突然外から風が吹き込み、入り口の扉が閉まった。きゃあきゃあと騒ぐ子供たちの声が礼拝堂に響く。ヨーダが奥の部屋を振り返ると、幽霊がちらりと顔を出した。おそらく風を起こしたのは、幽霊だろう。ヨーダは両腕を上げ、頭の上で丸を作る。


 子供たちが震えながら、身を寄せ合って礼拝堂の奥へと進んでいくのを見て、ヨーダは再び振り向き、幽霊に頷いて見せた。


 礼拝堂に、不気味なオルガンの音が響いた。子供たちは皆、誰もいないオルガン前を見て叫んだ。もう帰ろう! と子供たちの中で一番小さい少年が言ったが、眼鏡をかけた背の高い少年がそれを止め、言った。


 このオルガンの音、上から聴こえてない? 子供たちが一斉に上を見上げた。きょろきょろと周囲を見渡し、皆かたまって廊下へと歩き始める。


 こっちに来たか。そのまま帰ってほしいと思っていたが、子供たちは二階へ上がってくるつもりらしい。ヨーダは白い布をかぶったまま立ち上がり、二階の階段前に立った。


 階段を上る途中、薄暗い二階の階段前に立つヨーダに気が付いた子供たちは、また叫び声を上げた。そこに、う~………、といううめき声が響く。あの幽霊の声は変幻自在だなとヨーダは感心した。一息の長いビブラートの、うめき声。


 とうとう子供たちは泣きだして、慌てて階段を駆け下り始めた。ひとり、ふたり、さんよんと階段を下り教会の入り口から逃げていく。


 と、その時。


 ドン! と大きな音が階下から聞こえた。驚いたヨーダが二階から踊場へ降りていくと、階段の下に一番小さい少年が倒れていた。何段目からかはわからないが、老朽化している階段の手すりが折れ、バランスを崩して落ちたようすだった。


 怪我をさせるつもりなんてなかった。ヨーダは白いテーブルクロスを脱ぎ、急いで少年に駆け寄る。そして意識があるかを確認した。異変を感じたのか、二階から幽霊も下りてくる。


「おちたの……?」


 幽霊は心配そうにヨーダと少年を見た。気を失った少年の額から、血が流れている。ヨーダは少年の額に手を当て、治癒魔法を使った。花形の水泡がヨーダの手のひらから上がる。


「治る?」


「思ったほど、傷が深くない。治すよ」


 少年の額から流れていた血が止まった。傷口はふさがったが、まだ傷跡が残っている。


 その傷跡を消そうと、ヨーダが少年の額に再び触れた時だった。うう、と声を上げ、少年が目を覚ました。


 少年は寝ぼけた様子で起き上がり、目をこするとヨーダの方を見て叫び声を上げた。


 ――目が合ってしまった。


 ヨーダは慌ててフードをかぶった。自分が瞳を隠していないことに気づいたが、今気づいたところでもう遅かった。少年はうつろな目でガタガタと震え、すでに幻覚を見ているようだった。


 その様子を見ていた幽霊が、なにやら小さい声でつぶやいた。その声は徐々にメロディを紡ぎはじめ、三人の周囲に花を咲かせる。


 うつろだった少年の目に、光が戻りはじめた。正気を取り戻したのか、けれど少年はヨーダを無視してぎくしゃくと立ち上がり、教会を後にする。


 少年は最後に一言だけ残していく。


「悪魔……」


 と。


 震えながら、つぶやくように。


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