5話
執務室のソファーにレオナルドが座り、その横でリシェルはレオナルドの腕にマグネットのようにひっついて離れようともしない。
アルバードが「レオナルド殿下、」と声をかけると、不満そうにレオナルドが顔を上げる。
(ああ、やはり本当に不機嫌なのね。)
「なんだ。説教の続きか。」
「いえ、それがご所望とあらばお説教は別途させていただきますが…明日から私は出張になる、と以前お伝えしたことを覚えていますか?」
「…そんなこと言ってたか?」
レオナルドがすかした顔でアルバードに返事をすると、アルバードの右の眉がぴくりと上がる。
レオナルドにとってはこれが頭の切れるアルバードに返せる唯一の仕返しなのだろう。
「まあ書面にも残していないですから覚えてらっしゃらなくても大丈夫ですが…側近代理が明日から二週間、私の代わりに殿下のサポートを致します。」
そう言うと、アルバードはエマに視線をやる。
「…殿下、侍女のエマが明日から側近代理です。」
「__________はあ?」
(そりゃその反応にもなるわね。)
「はあ?とは何ですか、エマではご不満ですか?お父上の国王陛下は性別で仕事に差をつける方ではなかったのですが…」
「なんだと?!…いや、そもそもエマは側近候補ではないだろう。ずっと俺の侍女をしていたではないか。」
先程のエマと同じ反応をレオナルドが返すと、また不満そうにアルバードがまた説得を始める。
「他のものに声をかけても誰も空いておりませんでした。そんな時にエマが"快く"返事をしてくださったのです。」
("いけしゃあしゃあ"とはこのことね。)
いつ私が快く返事をしたのか思い出せない。
先程のまどろっこしいやり取りなどなかったかのように大嘘をつき、レオナルドにどうですか?と聞くアルバード。
エマはこの男について、昔から変わり者だと思っていたが今日ほど思ったことはないわね、と呆れたように肩をすかした。
「…待ちなさいよ…ただでさえレオンはこんなにも時間がないのに、その間そばにいるのが女なの?!」
ずっと静かにしていたリシェルがわなわなと震え始める。
(そうよ、私はこれが心配だった。)
「リシェル様、」
リシェルの侍女が今にもエマに飛び掛からんと震える彼女に声をかけるも、全く耳に入らないのか、エマのことを全身全霊で睨んでいる。
「…許せない!!公務が忙しくなるなら私も同行するわ!こんな使用人の女がレオンのそばから離れないなんてぜっっったいに嫌!!!」
ブロンドが逆立っているかのような錯覚を覚えるほど、リシェルはこれまでとは比にならないくらい怒りを露わにしている。
侍女がリシェルを抑えていなかったら、エマは即刻顔に傷でもつけられていたに違いない。
「何とか言いなさいよこの使用人風情が!」
それでも飽き足らず、やはり手が上がる。
エマが反射的に目を瞑ったその時だった。
「____ああ、ちょっとレオンに用があったのだが…」
リシェルの手入れの行き届いた美しい手を、同じく美しい手がとめにかかった。




