13話
「では行ってくる。」
そう言い残したら早い、レオナルドはそのまま護衛を引き連れてさっさと愛しい婚約者を探しに行ってしまった。
その後ろ姿たるやなんと軽やかなことか、乗っている馬に羽でも生えていそうだな、とエマは夕方の空を見上げて思った。
レオナルドは元々公務に積極的な人ではなかった。
常日頃から側近のアルバードが諌めて溜まった仕事をやらせる、そんな様子は日常茶飯事だった。
今回のこの仕事は今までの軽い書類仕事とは違って、レオナルドの進退にも直接影響が出ることを国王自ら示唆されている。
サボると自分へモロ影響が出るからサボれなかった中、エマが率先して婚約者を探しにいけ、とこの場を離れることをおすすめしてきた。
内心両手をあげて喜んでいるはずだ。
エマは舌打ちをしたい気分だったが、一応うらわかき乙女なので控えることにした。
「…さて、」
視察によって得た情報をまとめた文官のメモと、自分自身で見た情報。
国境地域が悩んでいる不法移民の問題はかなり深刻であることは明らかだったので、文句を言わずに早急に解決しないといけない。
(ただ…どうすればいいのやら。)
文官と共に情報を整理してみると、ふととある一つの疑問が湧き上がったのだ。
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「リシェルー。」
エマから背中を押されて、逃げた婚約者の足取りを追っているレオナルド一行は、フォーテスキュー家の家紋入りの馬車が、一行の馬車列から消えていたことを知った。
車輪の跡をゆっくりとたどりながら進むと、随分発達した森が出てきた。
馬車はその入り口あたりに停車しており、馬は逃げている様子もないが、御者が見当たらなかった。
「殿下、後ろへ。」
雲行きが怪しくなってきたな、とレオナルドが訝しんでいたら、外から見たら鬱蒼として見えた森が案外管理の行き届いた場所であるということがわかる看板を見つけた。
"国営公園"
「ここは国営公園か。そういえばこの辺にもあったな。」
そういうと、護衛が前に出ながら森へと進むことにした。
森の外の気温とは違った涼やかな空気が、仕事を詰め込んでいたレオナルドのこもった熱を逃がしてくれているのを感じる。
気持ちのいい森だ、そう呟くと護衛もそうですね、と頷く。
リシェルたちの足取りは不明だが、公園でもあるので通路はある。流石にドレスにハイヒールの彼女はまさか通路から外れて進むこともなかろう、とそのまま通路を直進している。
「_____ん?」
レオナルドが通路の左脇の低木の上に、見慣れたバレッタが置かれているのを見つけた。
「…これは…」
「殿下、私が。」
護衛が手袋をはめた手で丁寧にバレッタを拾い上げ、よく観察をした。
「リシェルのであれば裏にフォーテスキュー家の家紋が刻印されているはずだ。」
そう言うと、護衛はバレッタの裏をレオナルドに見せた。
「…リシェルのだ。」




