12話
「レオナルド殿下、リシェル様がお戻りになりませんが…。」
市井の民にキツい言葉を浴びせたリシェルに怒り、レオナルドは冷たく突き放してから数時間。
視察どころではないような空気感だったものの、予定変更などできるはずもないのでそのまま他の二つの地域にも訪問。
いくら待てどもその日の夕方になるまで、リシェルはレオナルドの元に戻る事がなかった。
彼女にも護衛がいるものの、高位貴族であるフォーテスキュー家の令嬢が公務に付き添った際に行方不明になるなんてとんだ一大事である。
このままだとレオナルドにも飛び火することを危惧したエマは、心配するそぶりがなさそうな主人に尋ねたのだった。
「いずれ戻るだろう。」
「いずれ、にございますか?」
なんでもないかのような顔をしているが、その実彼も割と心配してるようだった。
思った事が顔と口に出るのが良いところだと育てられたエマは、もちろん「心配ですか?」と尋ねた。
「不躾な。…探してきてくれ。」
「私がですか?!」
エマはレオナルドのポンコツぶりに驚いて、素っ頓狂な声をあげてしまった。
慌てて咳払いをしてお茶を濁したが、レオナルドはエマの声に不満そうな返事をした。
「なぜそんなに驚く。嫌か?俺の命令だぞ。」
「ご命令とは存じておりますが…え?お分かりにならないのですか??王族ともあろうレオナルド殿下が??」
エマが本気でそう問うと、レオナルドはさらに不満そうにした。
「お前は口のききかたに気をつけろ!というかなぜそんなに嫌がるんだ!」
レオナルドはどうやらリシェルと同じ女性のエマが探した方が気持ちに寄り添えるのではないかと考えたようだった。
「殿下、エマは貴方様の分からず屋っぷりにめまいがしそうです。」
エマが額に手を当てながら大袈裟にふらついてみせると、年下の幼馴染の王族は茹蛸のような真っ赤な顔でさらに怒る。
「そんなに言うなら理由を説明しろよ!」
「殿下、リシェル様がお怒りなのは、殿下ではなく私に対してなのですよ。」
敢えて説明するほどでもないはずの事実を、レオナルドは目を見開いて「え?」と驚いていた。
「考えてみてください、そもそも公務で多忙な殿下が、最近は潰れたデートの埋め合わせもほとんどない。
不満も溜まっていた中持って帰ってきた仕事はこれまでの中で一番重たい仕事。
それだけならまだしも、今回付き添うのは見慣れた側近ではない違う人間…しかもそれは女。
既に何度も自分の醜態を晒している侍女がなると。
公務が忙しいことは抜きにして、誰がどう考えてもこの状況は意味不明です。
実際側近代理を任されたから遂行している私でさえ意味がわからないなと思いながら仕事しております。
そんな人間が逃げた自分を探しにきて宥めるなどしたら火に油を注ぐのは明白です。」
そう言うと、レオナルドは「そうか…」と呟いて一人考え始めた。
「…ならば俺が探す。」
「それならばよかったです。」
エマがにこやかに答えたのを見たレオナルドは、したり顔で「その代わり…」と続けた。
「俺の仕事の残りを頼んだ。文官もいるから共に励めよ。」
そしてエマは思ったのだ。
_____しくじった、と。




