11話
「ねえ、アルバード、お願いがあるんだ。」
頬杖をついてアルバードを見上げる。
セオドアはまるで姫のように可憐におねだりをした。
「レオンのところにエマっているよね?」
「は、はい、おりますが…」
「あの娘、僕にちょうだい。」
「ちょうだい、と申されましても、レオナルド殿下の元におりますエマは侍女にございます。侍女が欲しいのであれば王宮人事にかけあえばよろしいのでは…」
まるでお菓子でもねだるかのように、軽々しく人を欲しがるのだな、とアルバードはセオドアの王族らしさに感心した。
「いーや、違うんだ。アルバード、僕はね_____」
エマをお嫁さんにしたいんだよ。
「…はい?」
「だから、お嫁にしたい」
「聞こえております。」
アルバードは眉間に皺がよることをもはや止められなかった。療養中にやたらと遊びに来い来いと脅してきたのはこのことだったのか。
大して仲も深くなかった幼馴染の兄が自分を呼びつけるのは、レオナルドに仕えている侍女のエマを欲しいからという理由で十分に説明がついた。
セオドアが療養に入ったのは、その前に婚約者だったセーラ・マクレーン侯爵令嬢が病に臥せて帰らぬ人となった後だった。
王宮ではセオドアは婚約者が亡くなって悲しみの淵にいるのだろう、回復するまで好きにさせようではないか、という空気があり、そんな元気そうな様子であることを知っているのは限られた人だけだった。
「殿下にはもっとふさわしい方がありますよ。」
「みーーーんなに言われるよ。セーラの後釜なんていくらでもいるのは僕もわかってるんだよ。
でもね、エマはエマだろう。他にはいないじゃない。」
一度婚約者を失った者とは思えないほど軽薄な言葉を放つセオドアに、アルバードは若干の呆れも感じた。
要するにとにかくセオドアはエマを婚約者にしたいらしいのだ。
なんとかできないかな?
とセオドアの無理難題をこなすために考えた方法は、少し頭のいい人間がいたら速攻で矛盾を突かれてしまうであろうことは明白だった。
アルバードはエマと幼馴染であり、良き同僚であると自負をしているものの、だからこそ王宮の一侍女のエマが第一王子に見そめられているとしても当然簡単には上手くいかないことをよくわかっていた。
エマの長所は他の女性より頭一つ抜けた知能の高さと、冷静沈着なところだ。短所もまた同じ。
残念ながらルミナリアは女は男の後ろをつくべきだという思想が古い貴族にほど残っており、エマは十八を超えた今も婚約者がいない。
それだけならともかく、アルバードを悩ませる大きな壁がもう一つあるのだ。
「…セオドア殿下、ご存知かと思いますが…エマは没落貴族の娘なんです。」
尚もセオドアはニコニコとアルバードを見つめるだけだった。




