10話
「心配か?」
「殿下…何のことでしょうか。」
ルミナリア王国の白亜の城の中の資料室は、創建以来溜まり続ける資料のおかげでインクと羊皮紙が埃と混ざった匂いに包まれている。
そこにいるのは、第一王子セオドアと先日から出張という名目で仕えているレオナルドから離れて過ごすアルバードである。
レオナルドが国王から仕事を振られる数週間前、アルバードは長いこと療養していた第一王子のセオドアが体調不良から復帰したという噂を聞きつけて見舞いに行った。
元々『タイミングを見てこっちに遊びに来てね(意訳:来いよ)』というふうに呼ばれていたのもあり、面倒そうだなとあれこれ引き伸ばし続けていたそれも諦めて、復帰の祝いを持っていった。
その際にとある取引を持ちかけられ、断れなかったアルバードは現在主人から離れてセオドアと共にいる。
「僕は何もそこまで鬼じゃないさ。別に自分が仕えている気難しい主人が、代わりの人間と上手くやれているか案じるなんてとても殊勝な心がけではないか。」
資料室にある古びた椅子に、なんの抵抗もなく腰掛けカラカラと他人事のように笑うセオドアを見て、アルバードは『人形みたいだな』とまた他人事のように思う。
「…ただ、少々無理のあるやり方でエマを側近に“仕立てた“ので、ボロが出ていないか心配なだけです。」
「仕立てた、なんてまた人聞きが悪いよ。」
また人形のように微笑むセオドアを見て、アルバードはこんな状況になった経緯を回顧した。
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セオドアが療養から明けたと聞いて弟であるレオナルドを誘ったものの、都合がつかないと断られたアルバードはそのまま一人でセオドアの自室を訪れた。
柔らかな日差しが差し込み、シルクのカーテンが揺れる穏やかな部屋がセオドアはよく似合う。
療養明けだというのに、すでに書き仕事に取り掛かっている様子の彼は、訪問したアルバードを見て手をとめた。
「やっと来てくれたね、アルバード。」
ふふ、と声変わりをしているはずなのに鈴のような可愛い音で喉を鳴らす。セオドアは大袈裟にようこそ、と笑い、「そこに座ってよ」と空席の椅子をさした。
「殿下、私をお呼びした理由を伺っても?」
「早くなーい?ご令嬢のような茶会をしたいんだよ僕。」
ぷくー、とまるでフグのような顔をして抗議をするセオドアに、アルバードは聞こえないようなため息をついた。
そもそもアルバードはレオナルドに仕える側近だ。
王子が二人いて、なおかつ王太子がまだ誰もいない。
次の王様がまだ決まらない今、王宮内は少なからず穏やかではないのだ。
そんな状況でアルバードがセオドアに個人的に会ったとなると、レオナルドを裏切った、あるいはセオドアを潰そうとしている、などの醜聞が流れるに決まっている。
自分としては全くそんなつもりないのに対立を煽るような行動を責められるなどしたら、よくて左遷だ。
「…殿下、この状況をわかって遊ばれていますね。」
「あはは、バレた?」
くくく、と笑った後、セオドアはアルバードの目を見つめて言った。
「ねえ、アルバード、お願いがあるんだ。」




