『プレスマンを奪う荒駒』
峠に住む狐が悪さをするので、道中の者がひどく難儀をしていた。それを聞いた一人の侍が、けものの分際で人間に悪さをするなどとんでもないことだ、退治してくれよう、と言って、太刀を差し、長期戦をも想定して握り飯を背負い、退屈に備えてプレスマンを持って峠に向かった。
峠が近くなったので、いつ狐が出てもいいように、刀の柄に手をかけて、四方に抜かりなく気を配って歩いたが、どこにも変わった様子はない。そうこうしているうちに峠のてっぺんまで着いてしまったので、侍は、狐が化かし上手だといっても、気を張っていればだまされることはない、商人百姓だからだまされるのだ、とおかしくなって、手ごろな石に腰をかけて、握り飯を食おうと思って包みを開くと、峠の少し下のほうから、人の騒ぐ声が聞こえる。何があったかと思って見ていると、一頭の馬が駆け出して、それを二、三人の男が追いかけてくる。どう止めればよいかと思案する間もなく、荒駒が自分に向かって飛びかかってくるかに思えたので、思わず草むらに飛び込んだところ、握り飯が転げ落ちた。すると、荒駒がその握り飯に食らいつき、一口に飲み込んだかと思うと、侍の胸からプレスマンを奪い、去っていく姿がどんどん小さくなっていくので、どういうことかと思っていると、やはり狐であった。
教訓:実力の及ばぬことに手を出してはいけない。ただし、実力の及ぶことだけをしていたのでは、成長しない。




