第七話
暫く歩いていると櫓が見えてくる。
これが軍用門かな?
あ、アカネさん見つけた!
隣には熊みたいなお兄さんも立ってる。
「おーいハルカちゃーん!」
「アカネさーん!!やっと会えーー」
「ーーぬぅおおぉぉお!ハルナ姫ー!」
「ジンゴ。お主は相も変わらず暑苦しいよのう…わらわは無事じゃ。そこの異邦人に命を救われたわ。そもそもお主が野いちごをわらわに食べさせたいと森に一人で行ったのがことの発端じゃぞ?妖術も使えぬ猪武者のお主では悪鬼に食われかねんとわらわは心配してお主を探してたんじゃがのう。まぁ結果としてはお主は無事、わらわはヤエモンとハルカのお陰で無傷じゃ。ヤエモンは少し痛手を負ったがそれもハルカ殿が直ぐに治療してくれおった。直ぐに父上の元へ向かうぞよ。」
「はっ!直ちに!」
おやおやぁー?
ハルナ姫の頬っぺたが真っ赤っかですねぇー。
どうやらこの熊さんーーもといジンゴさんの事が気になっちゃう感じ?
ヤエモンさんはそんなやり取りを見てやきもきしてる感じだ。
うーん、歯痒いねー。青春だねー。
「ハルカちゃん凄いねー。もうお姫様と仲良くなったんだ?」
「えっと、まぁ…はい。成り行きで。詳しくは後で話しますね。ネームドモンスターのモウエンって奴が居てそいつに襲われてたのを倒しちゃった感じです。それと後で相談があります。」
「了解ー。後でちゃんと聞かせてねー。いやはや。私もあのジンゴさんってお侍さんが森で迷ってたから助けてねー。姫様を探してたらしくて方向音痴なのに森の中に入っちゃったみたい。お礼をしたいからお城にーって感じで話が進んじゃってさー。プレイヤーの女の子達が鬼の群れに襲われてたから助けてたんだけど気付いたらジンゴさんも助ける形になっちゃってねー。そんでハルカちゃんから連絡を受けた感じだよー。」
「はぁ…良かったです。その女の子達がアカネさんの毒牙に…いえ、何でもないです。」
「ハルカちゃん結構毒吐くよねー。まぁ、そんな所も素敵なんだけど。」
ウインクされたけどスッと避ける。
私にその気はないからねー。
「そろそろ配信の時間じゃないですか?スノウさんここから遠くに居るみたいですけどどうします?」
「うーん、その事だけど配信は延期にしたよ。スノウは脱獄RTA配信するって言ってたけど私達はもう少し様子を見よっかー。」
え…?何それめっちゃ見たい!
とりあえずやることやらなきゃだ…大人しくアーカイブでも見よっと。
それからあーだこーだと詳しい話をしながらフジミヤ家の屋敷へと辿り着く。
それから程なくして屋敷に案内され広い部屋に通された。
少し待っているとハルナちゃんに似た優しそうな顔の30代後半くらいの男性が入ってくる。
ヤエモンさんから事の真相を聞いてから此方に視線を向けてきた。
立派な服装に身を包みハルナちゃんに優しげな視線を一瞬向けて直ぐに威厳のある顔つきに変わった。
「お主が我が娘ハルナを窮地から救ったという異邦人、ハルカか?」
「はい。私がハルカです。お目通り叶い嬉しく存じます。」
私古文とか国語の成績そこそこなんだけど対応として合ってるかな?
なにも言われないってことは多分大丈夫だよね?
「ふむ…その堂々とした佇まい、中々の修羅場を潜ってきたように見える。褒美を与えよう。何を所望するか?」
いきなり褒美って言われてもなぁ…うーん。
技能の巻物も欲しいけど、やっぱり住むところかな?
それに修羅場なんてくぐってないよ?
ネームドとか言うのを一体偶然にも倒しちゃっただけだし。
けどその前にハルカちゃんとジンゴさんの間にある違和感を取り除きたい。
「褒美の話はまた後でよろしいでしょうか?それよりも先に此度起きた不可解な行き違いについて話を詰めたいと思います。」
「行き違い?…良い、話してみよ。」
「はい。まずハルナ姫の供述となります。彼女はそこにいるジンゴ殿が姫様の好物である野いちごを採取するために森に入ったと仰っています。ジンゴ殿にお伺いしたいのですがジンゴ殿はそのような事実はありますでしょうか?」
「直答をお許しください。ーーハルカ殿の言う野いちご狩りなどは行っては居りませぬ。拙者は門番の遣いを名乗る者からハルナ姫様が門を飛び出し一人森の奥へ走っていったと聞き及んでおります。拙者はハルナ姫様の警護であり護衛の任を賜って居りますので直ぐに門より飛び出しハルナ姫様の安否確認をした次第。しかしついぞハルナ姫様は見付からず途方に暮れていた所、そこのアカネ殿に合流し共に探し回っておりましたが、ハルカ殿からの無事を知らせる連絡にて焦りは無くなりました。」
「ーーということです。八割方何者かの陰謀によってハルナ姫様を誘拐…もしくは暗殺しようと言う動きがあると私は睨んでいます。そこで一つ提案があります。」
「ふむ…聞こう。」
「先程保留した件ですが…私にハルナ姫様を下さい。ソウジロウ様も知っているかと思いますが、我々は死にません。町に戻り広間で復活します。そしてこの世界の方は我々異邦人と友誼、若しくは婚約をすれば我々と同程度の恩恵を受けられる。そうすれば最悪の事態は避けられる。私の言っている意味は聞かなくてもお分かりでしょう?」
暗にハルナ姫が最悪暗殺されるという可能性を伝える。もし暗殺されたとしても私の近くでリスポーンする。レベルダウン、技能の封印などの制約はあるけど少なくともこの世界から消えることはない。
ハルナ姫の安否確認をして優しげな眼差しを向けていたソウジロウさんなら私の策に乗って来る筈。
「分かった、直ぐに婚姻の段取りをしよう。ハルナ…良いな?」
「父上…畏まりました。」
「それと…ゴホン…私達はタカマガツハラを統一したいと思っております。フジミヤ家にはその協力をしていただきたい。よろしいでしょうか?」
少し溜めて私の思考を読み取ったアカネさんが配信を始めた。うん、流石です!
「良かろう。フジミヤ家は協力を要請する。ハルカ殿には仮の屋敷を用意しよう。仲間を集め同盟の本拠地にでもするが良い。ヤエモンよ、ジンゴとハルナを連れハルカ殿を旧タカツミヤ屋敷へご案内せよ。」
『旧タカツミヤ屋敷が仮拠点となりました。機能 同盟が解放されます。』
〔ワールドアナウンス プレイヤーにより同盟が解放されました。詳しくはヘルプをご参照下さい。 同盟 名称未定を結成しました。同盟主はあなたです。メンバー(4/20) ハルカ ハルナ・フジミヤ ヤエモン・サンモト ジンゴ・カブラギ〕
ほえ?ワールドアナウンス…
ってことは全プレイヤーに知らされたってこと?
もしかしてやらかし案件では…?
アカネさん声殺しながら爆笑って器用なことしてるし…
「有り難く利用させて貰います。それではまた近い内にお会いしましょう。それと…一つ忠告を。家中にフジミヤ家を陥れようと画策する手の者が潜んで居る可能性が高いです。例えば…ジンゴさん、貴方にハルナ姫が森へ行ったと伝えたのはあの人ですか?」
一人だけ挙動不審でソウジロウ様と目を合わせようとしなかった人を指差す。
慌てて逃げ出そうとした所を他の人が取り押さえる。
「ぬっ…確かにそいつが言ってきたな!てめぇちょっとこっち来い!そういやぁ見ねえ顔だな!おいセンキチ!こいつを牢にぶちこんでくれ!後で俺が尋問する!」
「へ、へい!」
「ふむ、ハルカ殿は直感も鋭いのだな…さて家中の者を集めよ!評定を行う!」
「ではまたお邪魔します。失礼しました。」
お屋敷を出て暫く歩くと遠くに海が見える小高い丘の東側が崖地になっていてそこから先が海のようだ。
ヤエモンさんとジンゴさんは私達の前後を挟むように無言で進んでいる。
途中の海岸で前を歩いていたハルナちゃんが私を振り返り、口を開く。
「ハルカ殿。わらわを嵌めたのか?」
「私としては全く想定外だった。元々タカマガツハラ統一をするって言うのは確定事項だった。システムの穴を突いたのは認めるけどハルナちゃんが欲しいって言うのは本当かなー。可愛いし一緒にいて飽きないし。それに護衛の依頼も満たせるでしょ?」
「わらわが欲しい…?ククッ…ならば仕方あるまい…!わらわも覚悟を決めようぞ。ハルカ様…幾久しく…ふつつか者ではあるが宜しくお頼み申し上げまする。」
『NPCハルナ・フジミヤとの間に絆が生まれました。絆ゲージを溜めて報酬を受け取りましょう』
突然現れた表示に驚く私。
ハルナちゃんが如何した?
と心配そうに覗き込んでくるの可愛い…!
私そっちの気はない筈なんだけどなぁ…アカネさんに当てられたかも。
というかあのアカネさんと数日いるだけでポンポンと口説き文句が出てくるから不思議だ。
まぁ私としてはハルナちゃんを暗殺から守る為、そして配信のネタとしてタカマガツハラ統一を目指そうっていう魂胆なんだけどね。
アカネさんにはバレバレみたいだけど私より楽しそうなのは何でだろ?
それで、その元凶がピョコピョコと私に近づいてくる。
「ねぇねぇ、ハルカちゃーん!私も同盟に入れてよぉ!さっきのワールドアナウンス、ハルカちゃんなんでしょ?放置プレイは興奮するけど配信中だからねー?リスナーも気になってるみたいだしー!ね?」
「あー、忘れてましたっと…放置プレイなんてしているつもりはありませんからね?…およ?アカネさん今何lvですか?」
「今?5だけどそれが何かあるのー?」
「えっと同盟に入るにはー…一つ目がlvが15以上、二つ目が三ヶ所の町に入らないといけないみたいです。他にも条件があってネームドを単独で討伐する。NPCの領主と友誼を結ぶっていうのもあるみたいでその他にも幾つかあって内二つをクリアしていればいけるみたいですよ?今全部の項目コピペして送りますね。…っとこんな感じか。」
・lv15以上
・3つの町を通過、もしくは滞在した
・ネームドモンスターの討伐(単独の場合は同盟盟主に、パーティーの場合は同盟参加権のみ)
・NPCの領主と友誼を結ぶ
・NPC二名以上と友誼の絆を結ぶ
・何処かの街に拠点を持つ
・50万メル以上の所持
・各ギルドにて下から三番目以上のランクに上がる(例:冒険者ギルドの場合、下から石・青銅・鉄・銅・銀・金・黒曜・金剛となり鉄級まで上がっていれば条件を満たす)
・PC、NPCフレンド数が五十名以上
・第二職業に就いている
・ユニークスキルを百回使用
等々
「つまり…?」
「つまり、アカネさんはまだ条件を達成してないので入れません。ハルナちゃん達はレベルと領主…ソウジロウさんの親族や部下なので達成条件を満たしてるみたいですけどNPCはそもそもの条件も緩いみたいですねー。」
「ノォ~ッ?!」
頭を抱えて踞るアカネさんを放置して私はハルナちゃんと屋敷へと歩き出す。
ねぇ、放置?放置プレイなの?ゾクゾクしてきた…!
なんて言ってる変態さんは無視である。
ハルナちゃんはアカネさんを気にしている様だが私が手を引いてずんずん進んでいくと、良いのだろうか?と呟きながらも着いてくる。
やがて屋敷の前に辿り着く。
見た目は戦国時代の武家屋敷と言ったとこだろうか。
立派な造りだなー。
お庭も整備されてるし、ちゃんと手入れしているのが分かる。
こんな広いお庭を見ながら縁側で猫ちゃん撫でられたら楽しいだろうなー。




