第六話
「はぁ…はぁ…やっと追い付いた…!」
体力ゲージが尽きて息が上がる。
こんなところもリアルなんだな…ヤエモンさんは…あ、居た!でも酷い怪我だ。左肩から血を流している。
12歳くらいの女の子を背に匿い、鬼?みたいな敵と戦ってる。
『ネームドモンスター【悪鬼 モウエン】と遭遇しました。』
「来たかハルカ殿!戦いの腕に自信は?」
「いえ、全く…というかこれが初戦闘です。でも負ける気がしませんよ…?」
「お、おい!大丈夫なのか?!」
「まぁ…見ててくださいよ。《創造》、こんな感じかな?」
ユニークスキル《創造》
MPを消費してアイテムを作ることが出来る。耐久値は注いだMP×五倍。所有者は変更不可
初期装備を媒体にして変換する。
私の装備を作ることが出来る唯一無二のスキルだ。
ちょっとMPが足りなかったけどその辺は魔力回復薬をがぶ飲みして片手、片足と分けて創造したから大丈夫!装備も一瞬だしね!
そうして出来上がったのは全身白のボディスーツに手甲と足甲、腰にはゴツめなベルトを巻いた[ペルソナバイカー]スタイルだ!
「おおっ!いきなりハルカ殿の姿が変わっただと?!面妖な…!」
「ヤエモンさんはこれでも飲んで少し避難しといて?よーし!行っくよぉー!とりゃー!」
近付いて右ストレート!
左腕でガードされるけどそれは想定済み。
ヤエモンさんが削ってくれていたから行けそうだ!
爪を振り下ろしてくるのを後ろに飛んで避ける。
体制を崩した所を右に回り込んで〈魔闘〉を発動。
からの蹴闘術で強化された蹴りを膝裏にトーキック(爪先蹴り)!
え?!鬼の膝から下が消し飛んだんだけど!
まぁいいや!続けてー
「必殺!バイカーシュートォッ!!」
相手が膝を着いたのを確認して距離を取って〈魔闘〉〈跳躍〉〈蹴闘術〉の三点セットを発動。
サマーソルトからのオーバーヘッドキックでフィニッシュ!
ドゴーンという大きな音と共に爆発四散していく鬼くんことモウエン。
うん…なんというか私強すぎない?
何かバフでも乗ってたのかな?
あ、ハルナ姫が手を組んでお祈りみたいな事してる。
多分それっぽいな…
『ノーマルクエスト【ハルナ姫を探せ】をクリアしました。報酬60000メルと経験値を獲得します。レベルが1上がりました。』
『ネームドモンスター【悪鬼 モウエン】を倒しレベルが5上がりました。ドロップアイテムがストレージに送られます。レアスキル〈見切り〉〈勧善懲悪〉を取得しました。SP20を獲得しました。割り振りますか?YES/NO』
おー!強くなった!スキルも2つ手に入ったし、良い感じだ!
あ、創造の効果切れちゃった。まぁ、良いか!
「ハルカ殿、無事か?」
「うん、平気だよ。お姫様の様子は?」
「わらわはハルナ・フジミヤと申す。この度は助けてもらい感謝するのじゃ。」
「いえいえ。無事で何よりですよ。それで何故町の外へ?」
「むぅ…実はのう…先日わらわに弟が生まれたのじゃ。じゃが母上は体調を崩したまま寝たきりでのう…せめて栄養をと思っておった矢先、護衛のジンゴが森で木いちごを取ってくると他の者から聞いてな?だがジンゴは妖術を使えぬのじゃ。わらわは心配になってのう…気付けば慌てて飛び出しておった。ジンゴも見付からずそろそろ帰ろうと思った矢先にさき程の悪鬼がわらわを襲おうとしてのう…」
「そうだったんですか、でも勝手に屋敷を飛び出しては駄目ですよ?せめてヤエモンさんや側付きの人を連れていかないと。今町の中でハルナ姫さんを多くの人が探してるんですから!ね、ヤエモンさん?」
「うむ、ハルカ殿の言う通りだが…姫様、次からは拙者やジンゴを共に付けて下され。約束していただけますかな?」
「…うぅー…はーい。」
反省しているのか拗ねているのか分かりにくいけど少なくともヤエモンさんの言葉はハルナ姫ちゃんに届いた筈だ。
「そうだ!ハルカと言ったかの?わらわの護衛をせぬか?日に5000メルでどうじゃろうか。そなたの強さならばどんな敵が来ても倒してくれよう?」
ハルナ姫の目がキラッキラ輝いている。私の戦いを見て興奮しているのだろ。しかし護衛かぁ…
「護衛ですか…ですが私は異邦人であり、度々元の世界に帰らないといけないので四六時中一緒にということは出来ませんよ?」
「勿論心得ておる。それを加味しての5000メルじゃよ。どうかの?」
ハルナ姫がうるうるした目で私に訴えてくる。
うー…多分これもクエストなんだろうなー。
後々に続いていく奴かもしれない。
なんだっけ…あ、チェーンクエストってやつか!
でも…アカネさん達との約束もあるしなー
「あの…ハルナ姫。実は一緒に旅をする予定の人がいるんですよね。あ!それとは別に一つだけ欲しいものがあるんですけど!」
「言うてみい。そなたはわらわの命の恩人じゃ。勿論ヤエモンものう。その者にはわらわの出来る範囲で恩を返したい。」
「えっと…じゃあ地図を下さい!」
「地図かの?タカマガツハラ全域のものなら屋敷に帰れば残っていた筈じゃが…どうだったかの、ヤエモンよ?」
「確かにある筈です。拙者とジンゴが預けられている物で良ければこの場で渡せますが?」
がさごそと腰掛け鞄から地図を取り出したヤエモンさんから地図を受け取る。
おぉー!こんな形してるんだ!
なんかお皿に乗ったプリンみたいな形をしてる。
紐無しバンジーしてた時は焦ってて地形やら景色やら何やらをきちんと見れてなかったし。
ふむふむ。
フジミヤは東の端っこで…
スノウさんの居るスワヌマって北の北じゃん!
うへぇ…スノウさん今日中に合流は無理なんじゃ?
あ、アカネさんからコール?が来た。
端末も登録してたら通話も出来るんだねー。
「ちょっとごめんなさい。友人と連絡を取らせて下さい。」
「うむ、構わんよ。」
「あ、アカネさんですか?すみません、立て込んでて!今から町に戻るんですけどどちらに居ますか?」
『あははー大丈夫大丈夫!何かのクエストでもやってたんでしょ?私もフジミヤからスタートだったよー。取り敢えず北と南どっちの門に行けば会える?』
あーその辺確認してなかったなー。
「ちょっと確認しますね?ヤエモンさん。こっちは町から方角的にどっちになるんですか?」
「南西の森だ。だが距離的には西の軍用門の方が近いだろうか。」
「ありがとうございます。アカネさん、西の軍用門らしいです」
『軍用門ー?ってことはー、あー!こっちかー!それじゃ門の前で待機してるねー?』
「はい。私達もそっちに向かってますので、後程。」
「連絡は済んだかのう?異邦人とはつくづく便利な能力を持っておるのう。離れた位置におる者同士で連絡が取れるとは念話の魔法具みたいじゃのう…わらわも欲しいのう…」
「今度上の者に掛け合ってみましょう。当家の格ならば豪商が持ち寄ってくれるやも知れませぬ。」
「本当かえ?ヤエモン、頼んだぞ!」
暗い顔から一転して花が咲いた様な笑顔になるハルナ姫。表情がころころ変わって見ていて面白い。




