第四話
「皆、位置に着いたね?それじゃ十秒のカウントで始めるよー!!」
ふぇ?もう始めちゃうの?!
集中しなくちゃ!
…ふぅ、私なら行ける。
勝てる!!
例え始めてのゲームでだって一番になってみせる。
私はやれば出来る子…よし、自己暗示完了!
・・・3.2.1…0!
スタートと共に加速を上げていく。
今は上位勢の五番目…
良い位置に着けてるはず。
一位はアカネさん。
二位はユイさんってバイクに乗ってる人。
三位は…パンダカーのセレーネさん、四位は三輪車のモハメドさん。そして私。
この三人でほぼほぼ横並びって感じだ。
パンダカーってこんな速度出るんだね…
妨害有って言ってたよね。
えーと、あ!このボタンか。
何々、煙幕、撒菱、加速か。
三つのアイテムが有って、それぞれ一回ずつ使えると…ふむふむ。
一度通しで走った時はアイテム使わないで三位内だったから上手く使えば…って感じか。
と…うわあ!
ユイさんがミニ爆弾?爆竹?を投げてきた。
私は慌てて急ハンドルを切って壁スレスレまでぶつかりそうになる。
セレーネさんとモハメドさんは避けきらずに後方へ。
私は今三位へ上がった状態。
撒菱使うならここだよね?ていッ!
うわー…タイヤ付きのマシーンに乗った人がどんどん踏み抜いてパンクを起こしている。
リペアは二回まで可能で修理するかそのままパンクしたタイヤで走って温存するか二通りになっている。
後ろで団子になっている集団からスノウさんがどんどん前に…
え?!壁を走ってる?!それズルくない?
いや、レースゲームだし何でもありが売りのゲームだった。
有り得ないがない…未体験の走りを!
がキャッチフレーズのゲームであるこのCMO(CRAZY MACHINE ONLINE)では何が起きても当たり前なんだ!
負けない…!
ユイさんとアカネさんは…
そこまで離れてない、追い付けない距離じゃない。
よし…残り一週。
勝負を賭けるならここかな。
三週目で目星を付けていたヘアピンカーブ、ここで煙幕を発動して後方からの視界をセーブ。
加速をしてコースアウトからの距離を稼いだコースイン。ここで衝撃が私を襲う…うん、まだ行ける!
アカネさんとスノウさんが迫ってきてる。
ここで反転、からのリペア!私の乗るマシーンのハイビームとリペアの強い光が闇を照らす。
当然後ろを走っていたアカネさんとスノウさんは暗闇の中で、前方で突然光り出した私のマシーンを見つめているはず。
そしてその光は二人の目を焼いた筈だ。
残り数メートル…
「やったー!一位だー!」
・うおおおおおおおおー!おめでとうー!!
・この子初めてプレイするんだよね?プロゲーマーじゃないよね?
・柷!配信者デビュー戦でアカネ、スノウを差し置いて優勝!皆ご祝儀の準備だー!!
・☆短足おじさん ¥50000 ハルカちゃんおめでとー!
・☆勝手にヒーロー ¥50000 待ってたぜェ…この時をよォ!!
・☆シムリン ¥50000 ちょっWWこの子新ショトカとリペアの光&高速バックで目潰してWWプロレーサーも真っ青やろこんなんWW
・☆プロクレマシレーサー カケル ¥50000 弟子にしてくれ!!
・プロクレマシレーサー沸いて草
・前代未聞やろこんなん…え?加工じゃないよね?
・俺も思った。夢見てる訳じゃないよね?
・悲報。レート25000のアカネ、まっさらな1000の新人に負ける
・現実なんだよなぁー他の配信者巻き込んで二秒差で勝っちゃってるんだよなー
「いやー…先達として恥ずかしいなぁー。初めてクレマシするハルカちゃんに圧倒的差をつけられて負けちゃうなんてねー…しかもショトカと目潰しなんて一年以上やってた私でも思い付かなかったよー。うん、完敗だねー。」
「このゲームはショートカットがやりづらい仕様。検証班が何処かから嗅ぎ付けてすぐに来る。アカネ、少し巻きでお願い。」
「はいはーい!えー、今日は集まってくれてありがとー。新人のハルカちゃんが見事に一位をかっさらいましたー。はい拍手ー、ハルカちゃん一言良いかなー?」
「あ、あの…応援してくれた皆さんのお陰で勝てました!けど、参加してくれた皆さん、大分手加減してくれてたみたいで…またこのメンバーで走ってみたいです!あ、頻度は少な目ですけど…私今度発売されるINFINITE Monster Onlineでソロライバーデビューするのでもしよかったらコラボとかお願いしますね!本当、ありがとうございました!」
「「「おめでとう!」」」
「わたくしもIMOやるつもりですわ!コラボしますわよ!」とパンダカーのセレーネさん。
「俺、アカネちゃんのファン辞めてハルカちゃん推すわ…!」と言ったのはton点館さん
「ぼぉくの本気をいずれ見せてあげるよ…!グッナイ、レディ!」とは、それは春のような美しさと儚さで…ことソレビさん。
皆思い思いの言葉で祝福してくれたらしくとても気分が良い。
縁も竹縄でアカネさんが〆の挨拶をして今日の配信は終了。INFINITE DESTINY Online、早くリリースされないかなー。
アカネ視点
本日のゲリラ配信を終えて一息吐く。
美空ちゃんといっちーは今夜はお泊まりしていくらしい。
今はいっちーが日本酒を開けちゃってぐでんぐでんに酔っぱらいそれを美空ちゃんが寝かし付けている状況。
いやー美空ちゃんヤバいねー、才能の塊だよ…!
普通あの状況でヘアピンカーブから大ジャンプして着地しようと思う?
しかもゴール寸前で反転して目潰しまでしてくるなんて考え付かないでしょ。
美空ちゃんのミラクルプレイを切り抜き編集して、私の方で作った美空ちゃんのライバーSNSのアカウントも同時に通知していたら伸びる伸びる。
某動画サイトでは既に再生数40万を越えている。
こりゃ日を跨いだ頃には100万行くかもねー。
ちゃちゃっと収益化申請を出しておいた方が良いかもね。
これからリリースされるINFINITE Monsters Onlineの方でもバズりそう。
こりゃ囲い込むか独立させるか悩みものだなー、要相談。
将来的には独り立ちで良いと思うんだけどプロやらアイドル系の事務所やらから誘いが鬱陶しそうだから私の会社が防波堤になってあげるのも有りだよね。
まだ高校生なのに一時間で120万稼いじゃってるし。
うん…時給120万って異常な額だよね、考えてみたら。
美空ちゃんのやってるコンビニバイト時給1120円くらいだから約百倍だよ…
これは怪物を掘り出してしまったかもなー。
あわよくば顔出ししたいっちーのグループ、【ペルソナ・ガールズ】の新メンバーに…
とか思ってた私が恥ずかしい。
ルックスも良いし、スタイルも抜群。
教養もあってスポーツも出来る。
非の打ち所がない完璧超人な美空ちゃんがアイドルごときで満足するとでも?
過去に戻れるなら浅はかな私を助走付けてラリアットしたい…!
これから美空ちゃんは日本中を…いや、世界中を席巻するだろうという確信があった。
炎上しても多分プレイングでアンチさえも魅了してしまうだろう天性のオンゲーの申し子。
発想が柔軟でそれを難なくこなしてしまうプレイヤースキルの高さ。
ハッキリ言ってヤバいよね。
あ、振り込み手続きしとかなくちゃ。
美空ちゃんの口座番号聞いとかないと。
ふふーん、美空ちゃんの将来が楽しみだなー。
あと十日…彼女はどんなプレイングを見せてくれるのだろうか。
そんな風にムフフと笑っているとセレナからの着信…うん、めちゃくちゃ興味持ってたもんねー
「もしもしー、配信出てくれてありがとねー」
『ーーーーー。ーーー、ーーー。』
案の定セレナは大興奮している。
うーん、これは長話になりそうだなー。
美空ちゃんがちょこんと扉を開けておやすみなさいと小声で言ってくれた。
きゅん死させたいのかな、この子は…?
私も早く寝よう。
興奮冷めやらぬセレナを何とか落ち着かせてから私も眠りについた。




