第二十七話
そして…長い長い今日の授業課程が終了した。
尚、午後の授業、全てさぼったのはここだけの話である。
「二宮さんいる?」
三階に上がり一年生の教室が並ぶ通路へ。
約束通りサクヤちゃんを尋ねる。
普通の二年生は一年の階層には余り来ないのだが、私は月に四~五回は顔を出している。
まぁ、いつもの日常だ。
目が合うとパーッと、笑顔を咲かせたサクヤちゃんが私の元へ駆け込んでくる。
「美空お姉様!」
「あはは、とりあえず場所変えよっか。」
うーん、なんかお昼とのギャップが凄い。
もう少し落ち着いていた印象が有ったんだけどなー。まぁいっか。
当学園は由緒あるお嬢様学校だからか、当然のようにサロンやラウンジがある。
流石天下の三条グループ。
こういう細かい所にもお金を掛けている。
使用には色々手続きが必要なのだが、生天目ちゃん経由で生徒会から個室のフリーパスなるものを授かっている。
これも三条家の恩恵と言うやつなのかな…?
世麗那様万歳である。
その内の未使用の個室に入りサクヤちゃんと密談。
さて何を言われるやら。
「美空お姉様。私の突然の訪問に困惑したと察します。本当にごめんなさい…でもどうしても伝えたい事が有りまして。」
「ん、大丈夫だよ。改めて自己紹介させて?二年A組春風 美空。趣味は寝ること?いや、ここ最近はゲームも入るか。現実では初めまして…だよね?」
「いえ…昨年の冬、私が中等部三年の頃に一度お会いしています。」
「ほえ?冬…中等部の子…何かあったっけ?」
「美空お姉様は覚えているかは存じ上げませんが…私、助けられているんです。町で怪しい男の人達に拉致されるところを。」
拉致…あぁ、あれか。
ほぼ一瞬だったし、制服がほぼ一緒だから同じ高等部の生徒だと思ってたけど、中等部の頃のサクヤちゃんだったのか。
全然気付かなかった。
「私はたまたま通りかかった所を見掛けて写真と動画をばらまいただけだよ。助かったのはサクヤちゃんの運の強さと日本の警察が優秀だから。私の貢献度は低い筈。」
ネット社会万歳。
SNSに拡散すればすぐに情報が集まるし、日本の警察は優秀だからね。
すぐに特定して犯人は即逮捕されたらしい。
「実はその件で是非お礼を言いたくて。……あの時は本当にありがとうございました。こうして生きてお礼を告げることが出来るのも美空お姉様のお陰です。美空お姉様は常日頃から学園の秩序を裏方から正している素晴らしいお方。きっと似たような事案が多すぎて私を助けたなんて自覚が無いだけでしょう。」
んー…確かにサクヤちゃんの言う通り、表彰やら何やら色々されてて実家の居間の壁は賞状だらけなんだけどさ。
母方の亡くなったお爺ちゃんが刑事だった頃に比べたら私の善行なんて霞んじゃうよ。
というか私は偶々通り掛かって巻き込まれることの方が多いくらいだし。
「そうだったんだ。あれ?その頃ってペルソナ・ガールズの活動は停止するかどうかじゃ無かった?」
「はい。あの日は活動停止を言い渡された翌日です。レッスン漬けだった日々から解放されて、やさぐれていた私は一人で町に買い物に行きました。……あの男達も一人で浮き足立っていた私を見てしつこくナンパしてきたんです。すげなく断ってやりましたが。それから逆上したのか仲間の一人が車を持ち出し、他の連中が私を薄暗い横路に追い込むように追いかけ回して合流し、そこで無理矢理車に…後は美空お姉様の知る通りですね。」
「無事で良かったよ。偶々通りかかってなかったら…」
「美空お姉様が居てくれて助かりました。そしてこのご恩には一生を掛けて報いるのだと誓いました。美空お姉様、私を舎て…じゃなくて妹分として扱ってください。どんな要求にも応えますから。」
今、舎弟って良い掛けた?
あれ…エトワールさんが元ヤンだのなんだのと言っていた気が。
「ちょっと待ってね…もしかしてサクヤちゃんってこの特攻服にホッケーマスクの子?」
ペルソナ・ガールズの画像を検索する。
相変わらず統一感のない仮面の五人組だ。
その中でも赤髪と金髪を左右半分にした白い特攻服に身を包んだ小柄な少女に視線を向ける。
ヤンキー座りをして肩に釘バットを宛てている。
そういえば確かに…
言われてみれば髪の色は明るかったかもしれない。
「えと…はい、お恥ずかしながら…冬頃まで、少しヤンチャしてまして…あ、でも今はそんな事しませんよ!悪いことも一切してません。それも個性を出すためというか。」
「これも?」
動画を流す。
とある曲のラップパート。
サクヤちゃんのソロパートらしく、デスボイスを効かせながら早口で恋愛曲の甘くほろ苦い歌詞を朗々と叫んでいた。
ギャップ有りすぎでしょ…
「あう…恥ずかしい、です」
顔を真っ赤にしながら俯くサクヤちゃん。
ぐいぐい来るタイプかと思ってたけど意外としおらしい面も持っているみたいだ。
「さっきの話だけど」
「はい…!舎弟…じゃない、妹分にして頂けるでしょうか?」
もう舎弟って言っちゃってるし!
まぁ、私は大人だからスルー出来るんだけどね。
「ううん、違うよ。私、あんまり友達居なくてさ。良かったらお友達になってくれない?」
「ーーーッ!!はい、喜んで!」
サクヤちゃんが私の胸に飛び込んでくる。
「おっと!……もう、危ないよ?」
私は慌ててサクヤちゃんを抱き止めた。
「えへへー!ねぇ、美空お姉様?」
私の胸に顔を埋めながらサクヤちゃんが問い掛ける。
「なぁに?」
サクヤちゃんの高い体温を感じながら、甘えてくるサクヤちゃんを受け入れる。
「大好き、ですッ!」
急にガバッと埋めていた顔を出すと私の頬にさくら色の唇が触れる。
私にその気は無いんだけどなー…




