第二話
「説明、要求。」
挨拶もそこそこに泣きじゃくる茜さんを何とか宥め、復活した茜さんを手伝い夕食の準備を終えた。
一ノ瀬さんと三人で卓を囲んで茜さんお手製の筑前煮と鮭の塩焼きをつつきながらそう言われた。
「実はねー」
ポツポツと話し始める茜さんの言葉に聞き入る一ノ瀬さん。ある程度の事情は予想していたのか、所々言葉を挟み茜さんが話しやすい様に持っていく。
凄いなー。地下アイドルとは言え現役だし、この話術で能面さえ被ってなければバンバン仕事が舞い込んで来るんだろうけど…不思議だなぁ…
「理解、整理…評価。茜が悪い。春風さん、良い子。」
私の隣に腰掛けていた一ノ瀬さんが私の頭を撫でる。
「あ、あの、茜さんは何も悪くないですよ?それは突然カミングアウトされたのには面食らいましたけど、女子高なので私の周囲には茜さんと同じ性癖の人が何人か居ますし。」
「ふぅ…それでも弱味に漬け込んで未成年を部屋に招き、あまつさえ泊まっていきなよは流石にやり過ぎ。」
お酒が入ったからか、突然饒舌になった一ノ瀬さんが私を諭す。
茜さんは顔色が少し悪い。
「茜、少し反省して?春風さん…こんなおバカな茜だけど嫌いになったりしないでね?」
「ええ…と。私、茜さん大好きですよ!あ、友達って意味の、って注釈は付きますけど。」
「じゃあこの話はおしまい。茜、少し買い物行ってきて。春風さんの歯ブラシとか着替え、ないでしょ?私は茜のでサイズ合うから良いけど。」
私の胸を見てそう告げる一ノ瀬さん。うん、茜さんも一ノ瀬さんもスレンダーだもんね。
「分かったよー。いっちー、美空ちゃんをあまり苛めないであげてね?」
「苛めない。苛めるのは茜だけで十分。」
「酷いなー…行ってきまーす。」
茜さんが出ると一ノ瀬さんはお皿を洗い出した。
私も皿拭きを手伝っていると一ノ瀬さんが口を開く。
「春風さんは私の動画、どう思った?」
「えっと、ダンスも上手だし、歌声も綺麗だなーって思いました。」
「能面さえ被ってなければ、って思わなかった?」
「それは…」
はい、思いました。
さっき一ノ瀬さんの芸名〔SNOW〕を検索したら能面被った水着の画像が出てきてびっくりした。
気に入ったので保存はしたけど…それは内緒。
「私はアイドルが夢だった。けど極度の緊張持ちで上がり症。絶望的に向いてなかった。そんな時プロデューサーが能面を持ってきた。メンバー五人全員上がり症やら色々コンプレックス持ちで能面を被れば不思議とパフォーマンスが向上した。私は夢が叶ったって嬉しかった。でも現実は非情。それだけじゃ食べていけない。そんな時プロデューサーの知り合いだった茜を紹介して貰ってバイトで生計を経てている。」
「なるほど…でも事務所に所属しているのにどうして茜さんのライバー事務所に?」
茜さんの顔が広いのは謎だけど、そんな事情が有ったのか。
「そのプロデューサーと社長は夫婦で、経営難に陥って資金を持って海外に逃避行して今は居ない。仕事が無くて困っていた時に茜にライバーに誘われた。それが一年前の話。他のメンバーも茜の事務所に移籍して全員ケット・シーでバイトしてる。もうすぐINFINITE Monster Onlineでライバーデビューもする。」
「マジですか…」
絶句である。
一ノ瀬さん苦労してるんだな…
「あと…これも話さないといけない。私、茜の元カノ。」
「ふえ?!」
茜さんと恋人だったってこと?でも学生とは付き合わないって茜さん言ってたような…
「茜の事務所に移籍して一緒に過ごしているうちに自然とそうなった。けど私は学生であまり時間とお金もない。茜は移り気であちこちに愛想を振り撒いてるから別れを告げた。だから騙されちゃダメ。」
「はぁ…ご忠告肝に銘じます。」
「春風さん…ミクって呼んでもいい?私も深雪でいい。」
「深雪さん。分かりました、私は大丈夫ですよ。」
「ミクは純粋、だから茜に騙されちゃダメ。それだけは絶対。それに茜はアラサーだし、お酒沢山飲むし、あの間延びした話し方は作ってるし、アラサーだし、良い匂いするし、頭の回転早いし、ゲーム上手いし、アラサーだし、髪ツヤツヤしてるのに全然お手入れしてないしーー」
深雪さんの茜さんへのダメ出しは段々褒め言葉になっていく。
うん…少し酔ってるみたい。
アラサーって三回言い出したし。
まだ26歳だから若い部類のはずなんだけどなぁ…




