第十一話
ーーそれは突然だった。
突然岩が上から飛んで来たかと思ったらソレビさんに命中し、ポリゴンとなって消えていった。
その瞬間、空から筋肉の塊が降ってきてユイさんが下敷きとなり、逃げようとしたもっセルさんが捕まりその隆々とした金剛のような両腕で上半身と下半身に引き裂かれたポリゴンとなり消え去った。
・え?
・ソレビどこ行った?
・ユイともっセルも一瞬で消えたぞ!
・これが50レベルだって?明らかにおかしいやろ
・ハルカちゃんセレーネ様逃げて!
たった一瞬で半壊…いやほぼ全壊だ。
「セレーネさん、逃げて!《創造》変身!〈魔闘〉〈跳躍〉〈蹴闘術〉〈渾身擊〉!!うぉぉお!!バイカーシュート!!」
腹に蹴りを入れるも片腕でガードされてダメージは最小。
そのまま逆の腕で足を掴まれ木へと投げられ背中を強打する。
ジリジリと近付いてくる敵、残り十メートルもない…
その時、私と鬼の間に立ち塞がったのはセレーネさんだった。
「わ、わたくしも戦いますの!五分間だけ時間を稼ぎますわ!その間に体勢を整えて下さいな!なるべくわたくしに近付かない様にしてくださいまし!〈乱擊〉〈捨て身〉〈分身〉〈狂化〉《破壊衝動》ーーグルルゥアア!!」
セレーネさんの動きが変わる。
多分固有スキルだ…《破壊衝動》か…
多分知性を下げて暴れるんだろうな…
斧を投げて足を縫い留めると、顔面に蹴りを入れ轢き倒すも踏ん張られて往なされている。
やばい、見入ってないで回復しないと!
セツカとユウヒを召喚して作戦を練る。
「セツカ、足止めとセレーネさんのサポートをお願い!ユウヒ、キンキの気を引きながらヘイト管理出来る?」
「あい。ゆきまほー、ふぶき!」
「にゃあ」
私は今のうちに…何か打開策を。
あ、スクロールと沢山の素材が有った。
ふむふむ…コレとコレが使えそう。
スクロールも、うん…!これなら行けそう!
「〈合成〉〈合成〉〈合成〉おっ!やっと成功した!それでこいつをこう弄って…よしよし。」
「にゃあ?」
「あれ?いつの間に声出ちゃってた?ってあっちにもユウヒが?じゃなくて大丈夫だからセツカ達をお願い出来る?」
何故か分身しているユウヒに戸惑いつつも私はユウヒにサポートに入って貰うように頼んだ。
「にゃにゃあ!」
しょうがないと言わんばかりに頭を振ったユウヒがサポートに戻った。
そろそろセレーネさんが限界だよね?
私も全線に戻らなきゃ。
「《創造》よし。狙いどおり!セツカ、セレーネさんにかくれんぼ、ユウヒはセツカの護衛と周辺の警戒をお願い!」
私が合成したのは鬼の大堅骨と金剛鉄鋼と呼ばれる金属。それを巨大な剣へと作り替えた。
使ったスクロールは〈合成〉と成功率付与の効果が上がる〈超幸運〉と他二枚。
どっちもBランク相当だから売れば100万メルは下らない代物だ。
キンキが私に気付いたのかセレーネさんを弾き飛ばしこっちに向かってくる。
でも向こうは満身創痍、私は全快の状態だ。
私は作った大剣をキンキに刃を向けて投げ付ける。
〈豪腕〉、そして〈投擲〉のコンボが炸裂。
深々とキンキの腹に刺さった大剣目掛けて…ーー
「ふぅ…行くよ?バイカー、シュートッ!!!」
大剣の柄を的確に飛び蹴りで捉えるとそのまま蹴り砕く。
そして大剣を残しポリゴンとなり自壊していった。
勝った!勝ったんだけど、もう限界かも…
同盟主権限の1日人数分配られる帰還石を使って、フジミヤの町に戻るとセレーネさんを連れてホームに帰る。
アカネさんや他の人達に疲れたので落ちます、と連絡を入れてそのままログアウトした。
時刻は0時を跨ぐ頃。
私ご飯も食べないで6時間集中してたのか。
夕飯は良いや。
明日起きてから何か食べよう。
お手洗いと歯磨きだけを済まして、戻ってきて私の配信を見ていたらしい深雪さんにおやすみなさい、と伝えて私は借りている自室で眠りに落ちた。
一方その頃、気絶状態から復帰したセレーネはーー
「ここは?」
わたくしは確か《破壊衝動》を使って戦っていた筈ですの。ハルカさんの同盟のお屋敷?のようですわね。
「おお、目覚めたかお客人。ほれ、これでも食って精を着けな!ハルカにはあんたが目覚めたらこれを渡してくれって言われてる。あー俺ぁジンゴってんだ。ハルナ姫の護衛で今はハルカの目付役?ってやつだ!」
ジンゴさんが手渡してくれたのは虹の宝箱が二つと金の宝箱四つ。
わざわざわたくしのために?
いえ、あのボスモンスターを一人で?一体どうやって?
疑問は尽きません…
ですが…
ハルカさんは特別な星の元に生まれたのでしょう。
天性のゲーマー…これ程とは…
後でアーカイブを見直して見ましょう。
ウィンドウを確認すると『セレーネさんの分をジンゴさんに預けました。疲れたので落ちます。また遊んで下さいね!』と書かれたメッセージが入っていました。
「全く…ハルカさんらしいですわね。」
「おん?どうかしたか?」
「いえ。あぁ、一つお願いが有るのですが。」
フフフッ、ハルカさんって本当に面白いお方ですわ!
わたくし、もっともっと気に入りましたの!
これからも一緒に遊びたいですわ!
もっと…仲良くなりたいですわ!!
「おん?言ってみな!」
「わたくしを御領主に謁見させてほしいんですの!」
「殿様に?別に構わんが…よし、ちっと待ってろ!」
だからまずは同盟に加入して同じラインに立ちますの。
年下なのに尊敬出来る方を見たのは初めてですわ!!
もっセルに連絡しなくては。
アカネさんさえ満たしていない条件をわたくしはすでに整えて居ますわ!
あとは領主との友誼さえ結んでしまえば此方の物ですの。
ハルカさんはわたくしを受け入れてくれるかしら?
いいえ、疑うのは止めましょう。
お人好しで常人にはない発想が彼女の美点。
きっと受け入れてくれますわ。
あぁ…!あの日、彩りを失くした世界が、色付いて行きますわ。
闇に沈んだわたくしの暗い過去を照らす光のような存在。
ハルカさん、貴方はきっと私達の・・・




