第十話
ハルナちゃん達を連れて港から屋敷に戻る。
帰りにユイさんや固定ネーム短足おじさんことセガールさんとフレンド登録をした。
実はユイさんもセガールさんもアカネさんの事務所にバックアップ役で働いている事を屋敷で聞いて驚いた。
サクラなのかと思ってたらユイさんの場合は元々リスナーで連絡をしているうちに仲良くなって、意気投合し就職氷河期たる昨今の背景もあり大学卒業後に晴れてアカネさんの会社、〔ライブ・ライフ〕に入社したとのこと。
セガールさんはリストラされるも株で儲けまくって早期ドロップアウトし、元々根っからのゲーマーでアカネさんや色々なライバーを支援する会社を設立。
つまりアカネさんのパトロンだという。
ほえー。皆色々あるんだなー。
さて…一度屋敷に戻ってきた私達一行は一度息を吐く為に団欒をしている。
アカネさんとヤエモンさんが手合わせをしている様子を配信しながらハルナちゃんとコミュニケーションを取りつつジンゴさんのお料理を手伝ったりユウヒやセツカと遊んだりして時間を潰したりと楽しく過ごした。
ハルナちゃんが寝た時間を見計らいアカネさんと共に屋敷を出る。
ユイさんやセガールさん、リスナーの人達と共にレベル上げをすることになった。
「ハルカさん、頑張りましょうね!」
「フッ…このぼぉくに任せておきたまえ、レディ!」
「オホホ、ソレビは引っ込んでなさい!このユイちゃん様が居れば千人力よ!精々足を引っ張らない様になさい!」
「はいはい、喧嘩はダメだよー。仲良くね?」
折角なので対戦形式の六人のチーム戦でレベルを沢山上げられるのか競う事になった。
勝敗はドロップアイテムの売却額とパーティーメンバーの総レベルで決める。
私のパーティーにはセレーネさん、ユイさんとソレビさん、もっセルさんと全員配信デビュー時に共演してくれた人達だ。
アカネさんの所にも何人か知っている人もいるが初対面の人も居て全部六パーティ31人、私のチームは一人少ないけど従魔枠として空けている。
というのもパーティ戦にしようと言い出したのはセレーネさんでルーレットで勝った順番にパーティを作ったらこうなった。
けど、それは春のような美しさと儚さで…通称ソレビさんとユイさんが少し仲が良くないらしくて少し心配だ。
ソレビさんは所謂ナルシストで自信家、戦闘スタイルは魔法使い。
ユイさんはワガママで人を見下す傾向があるのでそこは少し注意だと、もっセルさん(男装女子)に言われた。
ユイさんの戦闘スタイルは双剣と速度を生かしたスピードタイプ。
もっセルさんは面倒見が良いお姉さんタイプ。執事服を着ていて金髪を一本結びにしている美人なお姉さん。
ジョブは勝負師。サイコロとカードを使って味方をサポートするバフ要員だ。
ヤエモンさんと並んだら画になりそうだなー。
セレーネさんは言っちゃあれだけど似非お嬢様なユイさんとは一線を画するくらいお嬢様だ。
白のワンピースに日傘を差したお嬢様スタイルで楚々とお上品に私に笑みを浮かべて話しかけてくる。
まだ戦闘スタイルとかは聞けてないんだけど…
「おっとそろそろ時間だね!それじゃ皆準備は良いかい?お祭りの開催だー!よーい…どーん!」
アカネさんの掛け声で始まったレベルアップ祭り。
少しゆっくりしてから他のパーティが離れたのを確認して私はパーティメンバーに声を掛けフジミヤの町を南西に移動にしていく。
やがて暫くすると私がハルナちゃんと出会った…モウエンとのエンカウント場所だ。
たまたま料理のお手伝いをしていた時、ジンゴさんが話していたこの近くにフジミヤ兵の特訓場所があるのだそうだ。
そこには経験値効率が良い魔物が生息しておりドロップアイテムも期待できるとのこと。
あまり人が増えすぎても錬兵の時困るので今回だけ貸してほしいとジンゴさんからソウジロウさんに掛け合って貰っているのでパーティメンバーには軍事機密なので口止めを約束しているし、配信も一旦画面は切っている。
それぞれのパーティで一人配信していて接続配信しているけどメインはアカネさんのチャンネルだ。
えっと…お、この辺りかな?居る居る。
キンキラキンやら銀ぴかなやつに虹色なやつまで。
《金ウリ坊LV8》《銀ウリ坊LV6》《虹魔猪LV12》
従魔士スキルの魔物鑑定で確認するとその名前が分かる。
金は換金素材、銀は経験値、虹は経験値にお金、技能巻物らしい。
猪とその子供…つまりうり坊だ。
可愛いもの好きらしいセレーネさんは目をキラキラさせてうり坊の方に駆け出す。
「か!か!可愛いですわー!!!」
「ちょちょ、セレーネさん!一応倒さないとゲームにならないのでお願いしますよ?」
「ハッ!そ、そうですわね…これはゲーム。あんなに可愛くても我々の敵なのですわね…仕方が有りません、一思いに一撃で屠らせて頂きますわよ?」
インベントリに日傘をしまうと大きな斧を装備した。そして真っ直ぐ横に構えると助走を付けて回転を始める。
みるみる内に素材やら経験値やらお金が貯まっていく。
「セレーネさんストップ!ストーーップ!!狩り尽くしたら怒られちゃうからその辺でお仕舞いです!次の狩り場に行きましょう!」
「あらあら…わたくしとした事が少しはしゃぎ過ぎましたわ!ハルカさんの見せ場を奪うような出過ぎた真似を晒した事、反省しますの…」
「おじょ…セレーネさん、気にしないで下さいってハルカちゃんも言ってくれてますし、先に進みましょう?」
さっきのハイテンションから一転、しゅん…と沈んだセレーネさんを慰める様に私達は移動を始めた。
やがて正面から川が見えてくる。
この近くは誰も来ていないみたいで先ほどの狩り場からオフにしていたカメラを回して周囲の景色を移していく。
まだ薄暗い為、カメラの光源を頼りに進んでいくと魔物エンカウントする。
「鬼のレベル14が二体と18が一体。セレーネさんとソレビさんは左の18レベルの担当を、ユイさんともっセルさんが右、私とセツカで正面を倒します。良いですか?」
暫定パーティリーダーを押し付けられた私の指示で皆が動き出す。
セツカに足止めの雪魔法を使って貰いバイカーシュートコンボで瞬時に決着を着けるとユイさん達の方を確認すると此方はもう終わりそうだ。
しかしセレーネさん達の方は少し苦戦しているみたいだ。
「んんー!ぼぉくの攻撃を避けるなんて中々やるじゃないか!セレーネ君!レディを危険に晒すのはぼぉくのセオリーに反するけど少し足止めをお願い出来るかな?」
「任せて下さいまし!とぉりゃー!!ですの!」
鬼の金棒とセレーネさんの大斧が鍔迫り合いをする。
やや押されがちなセレーネさんだがわざと力を抜いて攻撃を往なすと左から背後に回り左肩を切り裂いた。
苦悶の声を上げる鬼を準備が整ったソレビさんが逃げる様に叫ぶ。
「レディ!待たせたねッ!んんッ!光魔法《キラキラ☆と輝く僕》!!」
ソレビさんの詠唱によって発動した魔法が鬼を貫く。
全身からビームを放ち周囲の地形を変えながら鬼を蜂の巣にしてしまった。
・つっよ!ネーミングセンスねぇけど
・なんだこいつww
・てかこれ既視感が有るんだが…ww
・人間型ミラーボールやんけ
・ソレビ、ついに人間を辞めたのかWW
うーん、魔法名は兎も角その威力は凄まじいね。
ごりごりの魔法使いスタイルで魔力全振りとか移動中の雑談で言ってたけど本当なんだ。
あ、スクロール落ちた。
今の鬼上位種だったぽい。ソレビさん、ないすー!
それから鬼が出るエリアをグルグルと回り効率良く狩りを進めていると。
『一定値以上の魔物 鬼種を倒した事でこのエリア内にLV50ボス個体 キンキが出現します。見つかると問答無用に戦闘となるので隠れてやり過ごしましょう。』
「レベル50だって!どうする?帰る?」
「そろそろ集合時間だし、帰りますか。あ、エンカウントしたらなるべく逃げる方針で!」
・このパーティなら余裕やろ
・リスクは避けるべき!ハルカちゃんが正しい
・ゆうてもう30近いんやから行けるっしょ!
「えー!ユイちゃん様は戦いたいんだけどぉ~!」
「リーダーの言葉には従いましょう。さぁ行きますわよ?」
「ぜぇ…ぜぇ…ふふふッ…このぼぉくが息切れして動けないなんてねぇ…はぁ…はぁ…誰か、肩を貸してくれないかい?」
うーん、ソレビさん、頑張ってたししょうがない。
肩を貸そーーえ?
「グォォオオアアァアァアア!!」
ーーそれは突然現れたのだった。




