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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

睾丸では、常に戦が起きている

作者: つるおん

要約

"僕らの『発散』までには睾丸の中での熱い男達の、恐怖、弱音、苦悩、勇気、希望、友情......そんなストーリーが積み重なっていることをどうか忘れないで"というお話。

ある偉い人は言った。

戦場に"意味"を持ち込むな、と。


そう、ここには意味も理由も恋も、家族も希望もない。

飛び交う銃弾と、それに突っ込む俺達。

特攻。

与えられたわずかな寿命で、顔も名前も知らない誰かのために生まれて、死んで。


「おい、ヒトシ、なにぼーっとしてんだ?」

「あ、ああ、悪いイトウさん」

「その呼び方、どうにかなんねぇのか?笑」

「ナンバー1103だから、イトウに"さん"をつけないとおかしいだろ?」

1104(ヒトシ)はいいよな、男っぽい名前になってさ

俺だとヒトミになっちゃうからな笑」

「いいじゃんヒトミで」

「テキトーに言うな笑」


俺らには名前がない。

故郷がない。

親が居ない。

兄弟もいない。

ただ、どこからともなく若い奴らがやって来て、年老いた奴は死んでいく。

ただそれだけ。

ここはそんな虚しい場所だ。


「俺らの番も......」

「ああ、そろそろなのかもな」


特攻で死ねたなら、それは名誉なことだとされている。

ここで空腹やら疫病やらで野垂れ死ぬ奴らも大勢いるんだ。

お国のために~ってやつだな。


「なあ、ほんとに逃げ出す気はないのか?イトウさん」

「......どこにだ」

「え...そりゃまあ、遠くに」

「...そこに飯はあるのか?」

「......ま、まあきっとなにか食べられる植物が...」

「ここはずっとずっと砂漠だろ」

「で、でもさ!救助のヘリとかが来てくれるかもしんねぇだろ?」

「ここは戦場だ、ヘリが来て、物資を置いていくか、それか撃たれてゲームオーバーだ」

「んなこと言ったって...」

「ここは戦場だ!!!」

「...ッ!!」

「助けなんて来ない!

逃げた先に都合よく食いもんとか寝床があるとも限らない!

それに脱走なんてことがばれたらすぐに処刑だ!!」


じゃあ...それじゃあ俺らはただ"死"を待って、"死"に突っ込んで行けばいいってのか?

ここで、質素な飯を食って、砂っぽいトタンをかぶって寝て、

女もいない、娯楽もない、ゴールも意味もないこの戦場で......。


「分かったよ...俺がバカだったんだな」

「......」


。。。


戦場において、夜が1番の恐怖だと、死んだ仲間たちは口々に言っていた。

"夜襲"というやつだ。

次の朝を迎えられない、寝ているまんま殺される、そんなことがあるのかもしれないと考えるだけでおぞましい。

安心してゆっくりと寝られるはずなんてない。


「......」

「...ご、ごめんよヒトシ......」


隣で寝るイトウさんがその体格に見合わないくらいのぼそっとした声で言う。


「...いや、俺の方が悪かったな

変なこと言っちまって」

「...ヒトシ......」

「どうせ短い人生なんだ

唯一の友人とピリピリしてたってしょうがないだろ」

「そうだな、これからも頼むぜ...」

「「 相棒 」」


カンカンカンカンカンカン


パチッ


「はッッ!!ヒトシ!」

「ああ、来たな...」


夜の戦というのは、昼のそれよりも恐ろしい。

もちろん、敵が見えない、なんてのもあるがそもそも...。


「ったく!今回で何回連続の夜襲だってんだよ!」

「11回...だな」

「しかも毎日1回の夜襲じゃあすまねぇ...!」

「2回、3回...間を空けて4回だった時もあったな」

「クソッ!!」


そう、俺らは若い。

だけど、この中では1番の年長者でもある。

俺らはたまたま、運がよかっただけなんだ。


カンカンカンカン


「行け~~!!!

あの光に向かって突っ走れ!!

それがお前たちの希望!夢!未来なんだ!!」

「おおおおおおおおおお!!!!!!」


ズダズダズダズダ


なにも知らない、なにも考えない、そんな若者らが、光という名の火の元に我先にと駆けていく。

その先に待つものが"死()()"だなんてことはつゆ知らず。


「なあヒトシ、あいつらはバカだと思うか?」

「...とんだド阿呆だ」

「...だよな」

「でも...」

「でも?」

「たった1つの貴重な自分の命を、他の誰かのために費やす

そう簡単に出来たものじゃないとは思う...」

「...そうだな」

「そういう意味ではあいつらの方がよっぽど...勇者だ」

「俺らは...?賢者かなにかか?笑」

「俺らは......ただの弱虫だ」

「ははっ...言えてる」


このまま足をすくませて、この場にとどまれば、それはそういう選択肢もあるのかもしれない。

だけどここ(戦場)で求められている人材は...


「俺ら、もうすぐ用なしになるのかもな」

「そうかもな...」

「俺達に求められているのは活気、若さ、獰猛さ、野蛮さ...」

「もうなにもかも持っちゃいねぇな」

「...はぁ...なあ、これからどうするよヒトシ」

「...俺らもいつかは......あの光へ――」


・・・


「うっげぇ~あっち~~」

「最近ますます、だよな」

「なんで皆あんなに平気そうなんだよ」

「...若いからだな」

「言うなよ~俺だって知ってるよ~

んなことくらい~~」


ブロロロロロロ


「お、新入りか」

「一体どこからつれてくんだよ

こんなにもやる気に満ちた人材をよお」

「さあな、どこか、水も食いもんも、屋根も遊びも女もいるような楽園で、のんびり子作りしてる奴らがいるんだろ」

「楽園...ねぇ」

「っま、んなこと考えてたってしょうがないだろ?行くぞっ」

「ああ、そうだな」


ピピーー!!


「おい新入り!こっちに並べ!」

「「「 はいっ!! 」」」


どこからともなく連れて来られる、元気一杯の新人達はそのほとんどが明日を迎える前に光の彼方へと散っていく。

いつしか俺ら古参は指導役のようになっていたけど、こんな”逃げ“がいつまでも許されるものではないということは俺も、イトウさんもなんとなく感じていた。


。。。


「ふう…一段落ついたかな」

「だな」

「相変わらず純粋で、無知で、眩しいな」

「ああ…」


ぴょこぴょこ


「おっ、どうした?他の皆はもう行っちゃったぞ?」

「せ、先輩…」

「どうした、なにか悩みがあれば聞くぞ」

「はい…今夜、お時間いただいてもいいですか?」

「ああ、俺たちの寝床まで来るといい」

「ありがとうございますっ!!」


ズバっ(お辞儀)


タッタッタ…


「さすがイトウさん、コミュ力たけえな」

「ヒトシもいい加減後輩くらいとは話せるようになれよ」

「まあな、

……にしても…」

「ああ…」

「他の奴らとはちょっと違うようだったな」

「若かった時の俺らを思い出すな」

「ははっ笑

確かに」


。。。


「し、失礼しますっ!!」

「おっ!入っていいぞ」

「お、お邪魔します!!」

「君、ナンバーは」

「32億、とんで7777です!」

「32…おく…ははっ笑

俺らと桁いくつ違うよ」

「…7777とは縁起いいな

コウタって呼んでもいいか?」

「こうた…」

「ああ、幸せが太い、コウタだ」

「は、はいっ!!今日から僕はコウタと名乗ります!」


ヒソっ


「どうしたヒトシ、珍しいじゃないか」

「別になんでもなぇよ

ただ……」

「ただ…?」

「気分だ」


ただ…本当に昔の俺らみたいだ、そう思っただけだ。


「それで…相談なんですけど……」

「おう!そうだったな」

「僕…死ぬの、怖いです……

これって変なことなんでしょうか」


ッ!!!


俺とイトウさんは自然と目を合わせる。


「いいや、ここだけの話、全くおかしなことではない」

「…ほんと…ですか…?」

「ああ、俺らだってずっとそう思ってる」

「…プハっ…はあ…はあ…」

「ど、どうした?」

「い、いえ、なんだか気が抜けちゃって…」

「はっは笑

可愛いな、ここにはコウタの敵はいない、恐れる必要もない」

「はいっ!!」


せっかくの新面だが、俺たちに平穏は許されない。

そんなことはここにいる誰でも、分かっているはずだ。


「皆が怖いんです

どうして死ぬことがあんなに怖くないのかなって

自分のタメでもなく死に身を投じられるのかなって...」

「...俺らみたいな臆病者も、稀だがいるみたいだな」

「い、いえ!決して先輩方を侮辱したわけではなくってですね!」

「冗談だよ冗談笑

そんなこと分かってるって」


カンカンカンカンカンカン


ビクッ!!


「せ、先輩...これって......」

「ああ、夜襲だ」


ヒューーー

ドォン!


「第1陣!特攻用意!」

「「「 おおおぉぉぉぉ!!!! 」」」

「っけ~~!!!」

「「「 うおぉぉぉ!!!! 」」」


ズドズドズド


「...先輩...」

「大丈夫だ、ここまで火の手が来ることはない」

「あの光の先って...なにがあるんですか」

「......」

「希望、未来、夢、だそうだ」

「...それって......」

「綺麗事、方便だな」

「それをあの特攻して行った先輩たちは...」

「...知ってるよ、皆」


皆そんなことは知っている。

火に飛び込んで夢が、未来が、幸福な人生が、得られるとでも思ったか。


「お互いに知らないふりをしてるだけなんだよ、俺らは」

「先輩...」

「ほら、コウタはもう寝とけ

明日からは鍛錬もあるんだろ」

「は、はいっ...!!」


カンカンカンカン!


「に、2回目っ!!?」

「...まずいな」

「先輩っ!!?」

「いや、なんでもない

俺らはちょっと出てくる」

「先輩!!」

「大丈夫、まだ俺らは逝かない

だからここで待っててくれ」

「...はいっ!!」


マズいマズいマズい。

連日の夜襲ラッシュで今は圧倒的に人員不足だ。

新人は来たからといってすぐに投入するもんでもないし。


「おいヒトシ...これ、結構まずくないか」

「...だな、とりあえず、新人以外で出られる奴に出てもらって...」

「数はだいぶ減っちゃうぞ」

「...構わない......」


この際...しょうがないだろ。

俺達には指示をすることも、止めることも出来ない。


「俺ら32億組!!行きまーーっす!!!!!」


あれは、今日入ったばかりの...。


「ダメだ!お前らはまだ若い!

ここでのことだってなんにも...」

「大丈夫です!イトウさんパイセン!!!

どうせ俺らの命、あの火の元へ帰る運命!

先輩方のお役に立てるなら!!

行くぞお前ら~~~!!!」

「「「 うぅおおおぉぉぉ!!!! 」」」


ドダドダドダドダドダ...


「なあ、ヒトシ...」

「ああ、イトウさん...」

「「 情けねえな、俺ら 」」


バサッ


「先輩っ!さっきの声って...」

「ああ、お前の同期達が一部行ってくれたよ」

「そう...ですか......」

「大丈夫、心配すんな

俺らがいるだろ?

コウタは弱虫なんかじゃないよ」

「ああ、そうだぞ

もう今日は早く寝るぞ」


。。。


カンカンカンカン!!!!


バッ!!!


「おいおいマジかよ...」

「ヒトシ...これは...」

「......」

「...先輩...」


ゴクリ...


これはいよいよ...いよいよなのかもしれない。

怖い。

馬鹿らしい。

もっと行きたい。

遊びたい。

食べたい。

恋してみたい。

イトウさんとくだらない話してしていたい。

......。


「先輩...僕...」


でも...。

そんなこと、誰だってきっと思ってたはずだ。

当たり前のことだ。

誰だって楽したい。

面白いことばかりをしていたい。

でも...。


「コウタ......」

「ダメです先輩!

先輩はこれからも新入りの面倒を見るんです!」

「......コウタ、お前の夢はなんだ?」

「夢...?ですか...」

「ああ、夢だ」

「...いつか...いつか綺麗で優しい女の子と結婚して、その...子どもが欲しいです!

パパとママがそうしてくれたように!」

「それはいい夢だったな」


俺には、俺らには父と母は存在しない。

それはきっとコウタも分かっている。

だからこその夢なんじゃないか。


「コウタ、お前は夢を必ず掴み取れよ」

「そうだぞコウタ、あの光の先のどこかにあるかもしれない希望の種を、この手で」


ガシッ


「先輩...いえ、先輩!!」


ビシッ(敬礼)


「ふぅ...」

「緊張するもんだな」

「あぁ...だけど」

「「 俺ら2人なら出来る 」」

「今日入った新人でも出来たんだ」

「そうだな」


バシッ


「ヒトシ」

「イトウ」


俺らは互いの手をがっしりと握って、お互いの名を呼び合いながら、目を瞑り、震える足で、でも着実に、ゆっくりと、焦らず、これまでを振り返りながら、一縷の()()を信じて――。



*****



トピュッ


『うっは~ww量すっくなwww』


ま、眩しっ...!!


「かはっ!!い、息が...!!

イトウ!!!」

「けほっ...こ、ここほっ...こほっ...ここだ......」

「イトウ...」

「ああ...けほっ...こ、ここにいるよ...ヒトシ...」


『あ~~腰痛て~~』


なにが希望だクソ野郎!

これが...これが...俺らの最期...か。


「かほっ...けはっ...」


はあ、苦しいな。

こんなことなら残った方がよかったのかな、なんて。

俺らがいなくても...コウタは...コウタ、お前は...。


「絶対辿り着けよ、"希望"にな」


ぽいっ


『やっぱり3回連続は疲れんな~ww

なっ、モモカ』


『ワゥンッ!!』




―――おわり。

頑張ったこと、勇気をだして行ったことが"成果"に結び付く例はほんのわずかなんですよ。

実際、僕たちは、何百億、何千億の"発散"のうえにコウタたちが掴み取った"希望"なんですから。

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