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第5章:インフラ破壊

第5章:インフラ破壊

発生日:2030年5月21日〜5月22日

記録種別:施設機能喪失報告

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【東京・防衛省地下指揮所】

幕僚が走って来て敬礼しながら「各基地より報告。」

資料を防衛大臣・佐伯に渡しながら、叫ぶように報告する「発電所、原子力発電所が爆撃されました。……全電源、喪失です。柏崎刈羽原発、東海第二、姫路第一、姫路第二。全て制御棟に直撃。被害詳細確認中です」

資料を見ながら、「放射能もれは!」

「現在不明。確認中です。しかし被害の状況が……制御室だけを潰してます。炉心やタービンは無傷。スクラム(緊急停止)はしていますが、メルトダウンの可能性はあります。」


防衛副大臣・佐伯は、目の前の状況モニターを睨みつけた。電源供給図の真ん中が、まるで腫瘍のように“真っ黒”になっている。総電力の20%の喪失。

資料に目をやって、「黒部も爆撃されたのか?うん、、ミサイル、……誘導兵器か?」

「はい、いいえ、映像解析の結果では……自律型ドローンによる誘導の可能性が濃厚です」

「誘導? だれが?」

「ドローン自身です。ダム空域で静止、座標信号を発信していた模様です」

幕僚長・藤原が眉をひそめた。

「ドローンが、弾道ミサイルを自分で呼び込んだということか?」

「はい。“座標ビーコン”のような機能をもっていたと考えられます」

「中国本土からのミサイルで?」

「正確には上海南部からの発射。おそらくDF-17系統の弾道ミサイル。飛行時間は7分弱」

その場にいた誰もが一瞬息を呑んだ。

「弾道ミサイルだと、核の可能性もあったのか」副幕僚長・吉村が頷く。

「敵は、詰め将棋の実践しているつもりかもしれません。」そっとつぶやいた。

藤原が振り返る。

「どういう意味だ?」

「従来の兵器は“状況に応じて使う”もんでした。しかし今、やつらは順番を決めて潰している。詰め将棋みたいに、生活インフラの“急所”を一手づつさす、……そういう意味です」

「人的被害は、想定より少ない。だが国土全体の機能が低下している」

「無差別攻撃ではないな。意図した作戦なのだろうな」

横で呟いたのは、元統合幕僚長・道上だった。現役を退いてなお、助言役としてその場にいた。

「壊死させるき、、か……」

「ええ。都市を狙わず、発電所だけ潰す。電力という血を流す心臓が止まる。電力が止まれば都市は腐る」

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【黒部峡谷上空・5月21日 午前4時13分】

標高2,000メートルを超える稜線を、音もなく通過する影があった。全長3メートル、自律飛行型ドローン。

そのドローンは、黒部ダムの中心点でぴたりと静止し、ドローンが運んでいた高周波誘導装置が機動した。

それは、信号を発した——

直後、南方上空、成層圏を裂いて放たれた一発の巡航ミサイルが、富山上空を通過。

7分43秒後、ドローンがいた空間ごと、盛大な音とともに蒸発した。

爆風が吹き抜ける谷間で、空気は逆流し、ダムのコンクリートゲートが1つ、半壊した。

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【東京・都市防衛通信網中継所】

「海底ケーブルに異常。沖合のデータハブが、応答を断ちました」

「無線は?」

「……首都の基地局はオーバーフローです。衛星通信は問題ありません。ネットはパンク気味です。やはり海底ケーブルが切断の可能性も」

その場の司令官は、声を失った。

『通信経路を確保しろ!』

『世界と切り離されるぞ』

『国家機能そのものの破壊だ』

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【鹿児島・志布志港】

貨物用クレーンのアームが一斉に倒れた。遠隔操作ではない。

狙撃——正確には、自爆ドローンによる支柱破壊だった。

中国艦艇が発射したのではない。発射元は、日本国内に拠点を持つ無人ドローン製造施設。

すでに機体は無数に製造され、港湾施設に“潜伏”していたのだ。

「港が、沈黙していく……」

呟いた現地の警備員に、答えはなかった。

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【防衛省 非公開戦略文書(入手経路不明)】

「人を殺さない戦争は、戦争ではない。

だが、戦わずに殺すのは、

孫子として優れている。そして生かして無力化する方が、支配としては効率的だ。」

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【2030年5月22 内閣府臨時会議】

首相秘書が告げる。「被害状況がでそろいました。

「インフラ破壊の全容が出そろいました」

・制御棟破壊により、火力発電所18ヶ所が停止

・ダム制御中枢の破壊で、12の地域で断水開始

・港湾設備の損壊で、物流用燃料搬出が停止

・空港管制設備3ヶ所が一時ブラックアウト

「民間死者は12名です。死傷者は少ない。少ないが、しかし……これは・・」

「人を殺すことが目的じゃない。“機能”を殺してるんです」

「日本が止まる。そういう形で、屈服を演出しているわけですね」

誰かがテーブルの上に投げ出した未承認文書を読み上げた。

「人を殺さない戦争は、戦争ではない。だが、戦わずに殺すより、生かして無力化する方が、支配としては優れている。」

沈黙のなか、誰かが呟いた。

「違う。中国は、インフラを破壊して、大量殺人の準備をしている……」

「もし、輸入が止まり、国内だけで養える人口は?」

官僚達が素早く必要なデータを集計して計算していく。

15分後、答えを導き出す「食料自給率、38~40%くらいだから、・・・・5千万・・です。」

「日本人の二人に1一人は餓死するのか!!」

「もっとです。肝心の食料生産には、水が大量に必要です。もっと餓死者がでます。」

「・・・・・・・・・」

作戦室内が静まり返った。

「水道は?電力は?」

「主要都市の上水は、82時間以内に断水が始まります。発電は稼働率76%以下」

「じゃあ、首都圏は?」

「各地のダムの復旧がない状態で最悪9日で物流が止まります。電気が無ければ冷凍・冷蔵ができません。食料品の高騰を招きます。計画停電を考えなければいけません。ATMもネットも停電で、すべて使用不能に」

——誰も、声を上げなかった。



日本は、この3日間で“征服”されたのではない。

社会機能の土台から、沈められつつあるのだ。

________________________________________

【富山県・黒部ダム上空/午前4:12】

黒部ダム上空にドローンが静止しているのを、警戒監視レーダーが初めて捉えたのは、すでにミサイル発射を感知して数分後のことだった。

「黒部に向かってる! 落下角度16度、速度マッハ3超!」

着弾。

黒煙があがる。構造体は保った。しかし、放流制御室は、跡形もなく消えていた。


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