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第4章:日本海の敗北4 『レールガンの夢と散華』

レールガン艦搭載決定会議

日時:5月18日夜間 場所:防衛省 地下C-3会議室(極秘扱い)

登場人物:

•統合幕僚監部 作戦部長・海自将補

•内閣官房 危機対策室調整官

•防衛装備庁 技術開発部 技術官:森合 誠二

________________________________________

「再出撃できる艦は……現在ありません。一般の船を改造するには最低2週間かかります。」海自将補が報告する。

「……既存の艦を改造する時間もないと。最速で撃てる方法を出してくれ」調整官が叫ぶ。

会議室の空気は凍りついていた。

戦況はすでに崩壊寸前。海と空に押し寄せる無人兵器の大群に、自衛隊の通常戦力はほとんど歯が立たない。しかしなぜか敵の進撃速度異常に遅い。

「試作艦が2隻、すでに海自に配備済みです」

森合誠二が口を開く。

「砲塔制御系、冷却、発射管制すべて搭載済み。

そのまま出せます。調整は不要。出撃可能です」

ざわつく場内。

続けて森合は、黒いケースからプロジェクターを取り出してテーブルに置いて、平面図を投影する。

「さらに1基、移動型の試作レールガンユニットがあります」

「これと高密度コンデサユニットを海自の練習艦「やまぎり」に積む。

接続は主機関系からの給電ケーブルと補助架台だけ。半日で載せられる」

統幕の将補が顔をしかめる。

「そんな簡単に……艦体の補強は?」

「不要です。射撃反動は慣性制御と磁気減衰で吸収済み。

弾数は50。砲身は最大100発の発射に耐える構造。理論上は砲身寿命まで持ちます」

調整官が食いつく。

「発射速度は?」

「通常マッハ7。コンデサチャージプラスで8までいけます。

水上艦正面から、水平射撃でプラズマ効果によりエンジンブロックごと貫通できます。

命中すれば、従来のミサイルより早く無力化できます」

静寂。

そして、誰かが小さく呟いた。

「怪物か……」

森合は小さくうなずく。

「でも、“怪物”でようやく、こっちも殴り返せる」

「たとえ戦局は変わらずとも、“届く一撃”が必要なんです」

しばしの沈黙のあと、防衛大臣の席から声が響いた。

「よし。試作艦2隻、ならびに練習艦「やまぎり」に搭載。

3隻編成でレールガン艦隊とする。

森合技術官、あなたも同行してくれ」

森合は立ち上がり、深く頭を下げた。

「はい──撃てば届く弾を、戦場に置きに行きます。」

________________________________________

備考:レールガン仕様(会議資料抜粋)

•試作艦2隻:常設型レールガン搭載済み、即出撃可能

オプション:超高密度コンデサユニット6(充電済:18発分)

      コンデサユニット2つを使用すると弾速はマッハ8以上

•第3艦(練習艦「やまぎり」):移動型レールガンユニット搭載(艦橋補強不要、半日で換装) 

オプション:超高密度コンデサユニット2(充電済:6発分)

•チャージ時間:5分/発

•砲身寿命:理論上100発

•発射速度:マッハ7(プラズマ効果により目標艦を一撃貫通)

•射撃後の冷却遅延・蓄電再充填の制限あり

•敵空域・海域に対する**限定的な制空・制海“割り込み力”**を期待


出撃前夜・艦内ブリーフィングルーム

5月20日 未明/練習艦「やまぎり」 第3格納区画(臨時ブリーフィング室)

室内の照明は抑えられ、艦内灯が天井の端でぼんやりと光っている。

折り畳み式のテーブルに、数人の乗員が集まっていた。

森合誠二は、机の上に展開された砲の配線図と冷却系統チャートを前に、工具箱のような無骨な資料バッグを広げている。

その隣に、まだ若い3人の艦員たちが座っていた。

「これが……あの、“レールガン”ですか?」

一尉らしき若者が、図面に見入るように訊いた。

森合は頷く。

「そうだ。これは“試作移動型”。元は陸上据え置き用に作った砲だ。

無理矢理この艦に載せたから、電源の接続が雑だ。機関から直接供給するから気をつけろ。

チャージ中は艦内電圧が8%低下する。電源が不安定になる。管制が使えなくなっても驚くな。そうだなあ、照明も消えるな」

「……そんなもんを、今から使うんですか」

一人の曹長が苦笑した。

だがその目に浮かぶのは、諦めではなく、どこかのぞく覚悟の色だった。

森合は静かに答える。

「他に選択肢があれば、俺もこんな真似はしない」

「でも、“撃てば届く”って兵器があるなら、そいつは出さなきゃ嘘になるだろ」

しばし沈黙。

壁の端で、冷却ポンプの音が低く唸っている。

その音を破るように、最年少の一人が口を開いた。

「森合さんは、戦いに行くんですか? 技術者なのに」

「行くさ」

森合は即答した。

「……俺は、“お前らがちゃんと撃てるように”ここにいる」

「使い物にならなきゃ意味がない。

失敗したら俺の責任だ。だから、隣で見届ける」

若者たちは、それぞれに表情を引き締めた。

兵士ではない大人が、隣で責任を取ると言った。

そのことが、戦いより重かった。

「……撃てば、終わり、ですか?」

その問いに、森合は一瞬だけ目を伏せた。

長く、深く息を吐くと、静かに言った。

「ああ。撃てば、この艦は集中攻撃されて、終わる。撃ち続ければ機関の故障で終わる。

でも、撃てば──誰かが“その先”に行ける」

そして立ち上がり、図面を畳んだ。

若者たちの前に、重いスパナと制御キーを見せる。

「これは、俺の決意だ。そして、この制御キーはお前らに託す。戦争を止められなくても、次の奴に道を拓け。お前らが、“その最初の一発”を撃て」

静かに、誰もが頷た。

その夜、艦内の時計は止まりそうなほど静かだった。

だが、エンジンはすでに始動していた。

静かなる“起動の夜”は、始まっていた。



■5月20日 未明

艦名:練習艦〈やまぎり〉

海域:日本海・能登沖100km

状況:敵無人ドローン群およびミサイル艦への対処任務

視点:森合 誠二

________________________________________

夜の海が、血のように赤く染まっていた。

それは朝焼けではなく、敵の探査ドローン群が放つセンサーフラッシュだった。

上空、約1300機のドローン群が分隊陣形で接近中。

森合はレールガン管制席の隣、モニター越しに敵影を睨んでいた。

「上空、目標多数! 迎撃回避コースで侵入中!」

「チャージ完了──上空迎撃モード、発射!」

初弾発射。

雷のような音が艦を打ち抜き、空に“風穴”が開いた。

1発で20機以上のドローンがプラズマ破砕波に巻き込まれ、燃えながら落ちていく。

「命中……32機撃墜!」

「第二射、空域偏差修正──撃てッ!」

二射目、角度調整。仰角15度。

弾は空を切り裂き、“降り注ぐ鉄の雨”に逆流するような一筋の雷光を描いた。

だが──敵艦隊も迫る。

「敵艦、3隻。うち1隻、巡洋艦級。飛翔体上昇確認。接近コース! 距離17km!」

森合は、操作員に叫んだ。

「ミサイルは、三射目で沈黙させる! 4発目から海に向けろ!」

「次、仰角ゼロ──水平射撃準備!」

第三射──上空、散開し始めた残存ドローン群に直撃。

空から、黒い鉄の花が落ちてくる。

「ミサイル迎撃成功。余波でドローン撃墜。数、14機!」

「照準切り替え! 水平射撃、第一目標:敵艦・艦首ブロック!」

発射音。マッハ7の弾が海面ギリギリを這い、敵巡洋艦の心臓部に向かって直進。

「命中──エンジン区画破壊!推進停止!」

「4発目──喫水線撃ち抜きました!」

敵艦が停まり、傾いた。だがまだ沈まない。

艦上に搭載された対艦ミサイルが、暴発し始めていた。

森合は口を結んだ。

「……燃えてる弾薬庫に、5発目をくれてやれ」

第五射──直撃。

一瞬の静寂。そして、爆発。

敵艦が火柱を上げて吹き飛び、海面に崩れ落ちた。

「目標艦──撃沈確認。残余艦、離脱行動開始」

艦内は歓声に包まれたが、森合は一言も発しなかった。

彼の目は、次のチャージゲージを見ていた。

「あと……45発。まだ、終わっちゃいねぇ」

艦が震えるたびに、誰かの命が助かっている。

この砲は、森合の贖罪でも、誇りでもない。

ただ一つ──

「これは、“間に合うための弾”だ」

彼の手の中に、まだ熱の残る射撃キーがあった。

________________________________________

■シーン:5月20日 未明

艦名:試験艦〈はるな〉

海域:日本海 能登半島沖117km

状況:敵艦隊迎撃任務/無人ドローン群飽和攻撃対応

視点:森合 誠二+戦術管制ナレーション混合

________________________________________

敵艦隊のミサイル発射が確認された直後、

「はるな」の艦上には視認不能な“黒い霧”のような群れが迫っていた。

ドローン。群れを成し、速度を活かし、センサー網を乱してくる空の悪意。

CIWS+で打ち落とせるのは限界がある。

ドローンは、数の暴力で押し通す。

しかし――

「GNSSジャミング、EMPモードA、スタンバイ」

「左右放射器、周波数同期──放射照準、展開!」

「はるな」の艦橋に低い電子音が走る。

左右甲板に設置されたGPSジャミング、EMP放射装置が展開を完了。

通常、対装備兵器としては使いにくいこの装置。

だが相手が廉価な自律ドローンなら、話は別だ。

「EMP、短波中出力──最大照射ッ!」

瞬間、艦の左右から青白い閃光が海霧を突き抜けた。

目には見えない圧が空を走る。

次の瞬間、ドローン群のうち約140機が空中でバランスを失い、火花を散らしながら墜落した。

「EMP効果有り! 群体電源遮断確認、ネットワーク断絶成功!」

「CIWS+、前方再照準──迎撃範囲内、制限戦闘!」

バリバリと火を噴く3基のCIWS+が、残存ドローンを刻む。

レールガンとちがい、一発必中ではないが、確実に“間に合っている”防衛だった。

森合は「やまぎり」艦内でその様子をリンク越しに見ていた。

「GNSSジャミング、EMPとCIWS+の連携……“はるな”は、まるで壁だな」

背中で支えてくれる仲間がいる。

だからこそ、森合の砲は“前”を撃てる。

________________________________________

「敵艦、反転開始──第一目標、追撃可能距離。はるなよりレールガン発射照準!」

「はるな」の艦首レールガンが旋回。

その砲身は、“海の果ての敵”を掴んで離さなかった。

「FCS-3A改、目標ロック!OPS-50改2型、パッシブ照準補完。チャージ上限オーバー

発射、どうぞ!」

レールガンが再び光る。

それは閃光ではない、“制裁”の矢だった。

マッハ8の砲弾が水平に走り、海面を引き裂いて敵巡洋艦に直撃。

続いて、弾薬庫へ着弾──爆発。

森合はつぶやく。

「――これが、“試験艦”の力かよ……」

だが、それは始まりにすぎない。

CIWS+が火を吹き、EMPが空を封じ、レールガンが海を割る。

「はるな」は今、次代を先取りした“面制圧に対抗する壁”となっていた。


________________________________________

■敵巡洋艦「長江級」艦橋(視点:艦長・陳瑞光)

海域:日本海 能登沖・第4戦列内進出時刻:5月20日 04:35

________________________________________

「……何が起きた?」

艦橋内に、沈黙が落ちた。

ドローン群、180機展開。空域支配率95%。

進行方向にフリゲートと思しき小型艦2隻。数では圧倒しているはずだった。

だが──空の支配は、一瞬で終わった。

「ドローン第1~3群、リンク断線。

第4群、反応不良……墜落、続出」

「対空迎撃か?」

「いえ……電子遮断、もしくはEMP……?」

「我々は制空圏を取ったはずだろう!」

艦長・陳瑞光の怒声に、戦術士官が口を噤む。

──次の瞬間、艦体が轟音と共に激しく揺れた。

「なんだ!!各部署報告せよ。」

「報告。艦首下部、被弾!」

「報告。兵員室全壊。死傷者10名。火災発生なし。」

「報告。機関損傷。燃料漏れ、火災発生。死傷者多数。損傷範囲拡大中!」

続々とCICに状況報告が届く。

「発射源、照合できず! レーダーには何も──ッ!」

煙と火花が艦内に走る。

敵艦は見えない。だが、何かが正確に“こちらの急所”を撃ってきている。

「ミサイルシステム、過熱警報!弾庫温度、上昇中──火災!? 排熱不能!」

「……まさか、砲撃か、レーザー? いやレールガン……?」

誰かがそう言った。

半信半疑だった。だが、事実だった。

視えず、避けられず、止められない。

陳艦長は、この時ようやく悟った。

これは、敵の“悪あがき”などではない。

“戦争に遅れてきた怪物”が、ようやく牙を剥いたのだと。

「敵艦の・・・・照準、完全に固定されてます!」

「迎撃手段は!? 何でもいい、ぶつけろ!」

「無理です! CIWSもEMPも──無効化できてません!」

「……化け物だ、あれは──っ」

そして、艦体中央に第三の矢が突き刺さった。

弾薬庫が一瞬で膨張し、艦が盛大な音と共に割れた。

________________________________________

■その後(森合視点)

遠距離センサーが、**“敵艦体温消失”**を告げた。

“敵の自信”が、爆煙の中で崩れていく。

「はるな」のレールガンは、まだ発射冷却中。

EMP放射器は再チャージを終え、CIWS+は残り20%の弾倉で動き続けている。

森合誠二は、やまぎり艦内の戦術モニター越しにその姿を見ていた。

「あれが“次の艦か……」

そして静かに、つぶやいた。

「……いい弾を撃ったな、“はるな”。

俺はまだ、あと45発ある。まだいける」

戦いは続く。

だが今や、敵の戦術優位は失われた。

自爆ドローンの雨を防ぎ、敵艦の心臓を貫く──それが“日本海の壁”、試験艦〈はるな〉だった。

________________________________________

■試験艦〈はるな〉艦橋

時刻:5月20日 05:02

艦長・鳥羽とば 一磨かずま、副長・小橋こばし 典昭のりあき

________________________________________

レーダーコンソールの光が一つ、また一つと消えていく。

それは撃墜ではなく、“撃沈”の証。

敵艦隊の進行は、止まった。

鳥羽艦長は、ゆっくりと帽子の縁を指で押し、深く息を吐いた。

「……CIWS+の発熱、まだ限界じゃないな」

「あと15分で再装填も完了します」

小橋副長が即答する。

「EMP放射器、再チャージ48%。

レールガン主砲、冷却完了まで1分43秒」

「やれるな」

「はい。やれます」

一瞬、艦橋にだけ、静かな“自信”が満ちる。

「……副長。お前、覚えてるか?」

「“この艦は、試験用にして戦闘不能。バッテリー艦と“揶揄されましたね。次世代に設計思想を引き継ぐための艦と」

小橋が苦笑する。

「ええ、開発室で散々聞かされましたね。機雷掃討機能なし。垂直離陸機なし。艦の半分以上をバッテリーが占める玩具。電池船と。」

「貫通力特化のために設計された実験艦、最低の戦闘艦……」

鳥羽は、前方スクリーンに広がる静かな日本海を見つめる。

「でもやったぞ。今ここで、“戦えた艦”になった。……試験艦のまま、前線に立って」

「この艦の記録は──もう“資料”じゃない。戦史に、載る」

副長は黙って敬礼した。

鳥羽も、応えるように背筋を伸ばす。

「設計者は、あの弾が撃てる艦を作ってくれた。

今度は、それを引き継ぐのが我々の番だな」

「……はるな、任務継続。全系統、監視態勢維持」

「まだ、次が来る」

________________________________________

■同時刻:練習艦〈やまぎり〉内・技術士官室

視点:森合 誠二

森合は、ぼろぼろになった設計メモの角を指でなぞりながら、戦術画面を見つめていた。

「試験艦が……本当に、戦ったな」

静かに、データリンクを開いた。

〈はるな〉から、撃沈した敵艦の弾道記録と反応時間ログが届いていた。

「敵艦、照準回避成功率:1.8%。レーダー偏差修正不要、再現可能」

“相手には、撃たれた理由が理解できなかった”。

これこそ、森合が求めていた理想の火力の姿だった。

「よし……次を設計するか。

今度は、最初から“戦うための艦”を作る。

……“試験”じゃなく、“抑止”として」

メモの余白に、ゆっくりと文字を書き込む。

“Type-RG02: 次期汎用電磁加速装備艦構想案(コードネーム:ゆうぎり)”

森合誠二は、技術者として再び立ち上がった。


________________________________________

■その火は、燃え尽きてなお、灯であった

日時:5月20日 06:47

海域:日本海 能登沖・戦域残存座標K-21


〈はるな〉のCIWS+は、もう弾が尽きていた。

ドラムマガジンは空。補填もない。

この海域で、CIWS+の再装填など不可能だった。

EMP放射器も、冷却が追いつかずに過負荷停止。

頼れるのはレールガンだけ。

それすら、熱量限界に近づいていた。

「弾道偏差増加……砲身応力、上限に接近」

「敵艦船群、照準不定のまま波状攻撃モードへ移行」

敵は学習した。

あえて集中せず、全周波数・全射角で“こちらの死角”を探しはじめた。

「主砲、あと3発で冷却不能!

鳥羽艦長は叫んだ。

「それでも撃ち切れ──“この艦の記録”を残せ!」

________________________________________

■一方、同海域 試験艦〈あすか〉

僚艦〈あすか〉はすでに火達磨だった。

後部コンデンサブロックに2発直撃。

爆発が艦を裂き、中央構造体が崩落。

「試験艦〈あすか〉──沈没……」

________________________________________

■やまぎり艦内:技術官・森合誠二

森合は、ただ一人“連れて行かれた”。

「技術者が残っても意味がない」

「この灯を、誰かが次に繋がなければ」

艦橋で、医療係員に引きずられるようにして、

彼はやまぎりから救助艇へと移送された。

その時、海面越しに見えた。

空が紅く染まり、〈はるな〉の艦影が、炎と光の中に呑まれていく。

誰かが言った。

「CIWS+は空、EMPは沈黙……

それでも、“最後の一発”まで撃ちました」

________________________________________

■同日 午後:救助艇内・森合誠二

意識が戻ったとき、彼の手の中には、

金属片──“スパナ”を握っていた。

「撃てたか……? はるな……」

彼は答えを知らない。

だが、彼は帰る。

次の艦を作るために。

“失われた弾”の意味を、技術に変えるために。

そして静かに呟いた。

「……燃え尽きても、灰の中に残った残火は灯だ。」

海は、静かだった。

だがその胸の奥には確かに今一度、火が宿った。

________________________________________

■補足:

•試験艦〈はるな〉:無数の自爆ドローンに襲われ奮闘するも4発の対艦ミサイルを受け沈没。最期のレールガン射撃は、記録上“命中”で終わった。

•試験艦〈あすか〉:同じく無数の自爆ドローンに襲われるも奮闘。しかしミサイルの直撃3発を受け沈没。通信途絶直前、「この記録を、次の技術に」と打電。

•練習艦〈やまぎり〉:稼働限界を超えての機関使用ため、故障によりレールガン使用不可、航行不能になるが、乗員の決死行動で森合のみ脱出に成功。その後撃沈される。

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戦果と戦略的評価(報道)

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「日本海に投入された“レールガン艦隊”は、電磁兵器による初の実戦迎撃に成功し、敵ドローン4,533機の撃破、中国艦船12隻の戦力無効化を達成」

——だが、戦いは続いた。

レールガン艦の建造・装備に費やされた費用は、日本の艦艇6隻分にも相当。

対する中国は日本の85%の費用の損失。

「国家総力」で作った3隻は、**“たしかに国家財政で買った防護の盾”**だった。

________________________________________

戦果と“代償”

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「勝ったのではない。耐えただけだ。

日本は3隻の未来を燃やし、数千の鉄くずを撃墜し、多くの敵艦船を沈めた。

しかし、それでも鉄くずの進撃を止めることはできなかった。」

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