1.王都へ
ヴァルリッカの戦後処理は簡単なものであった。
城の守備を指揮していた貴族の処刑…といっても城代となっている男が指揮していたので、実際のところは周囲にその布告を行い、城代の処刑を行っただけであった。この城代の男は優秀で忠誠心に溢れることが誰の目にも明らかであった為に、助命を沢山の人間に嘆願されたが、エメリヒ第三王子と東方大公は断固として処刑した。その処刑は速やかに行われ、落城の翌日には晒されている。
東軍はヴァルリッカに長く留まる事はしなかった。
ヴァルリッカの守備兵を吸収し僅か2日の休息を入れたのみで、攻城戦を経て1万3000程となった東軍は、一切の兵士をヴァルリッカに残すことなく出発した。兵站路であるヴァルリッカの守備を捨てたのは、ほぼ無傷で手に入れた兵糧があることによるものだ。
ヴァルリッカから王都であるオレンジまでは早馬で2日、通常の行軍で5日程の距離になる。そこを我々は陣形を崩さず、奇襲に備えて大量に斥候を放ちながら慎重に進み、7日もかけて進んだ。
「ついに見えたぞ!!!」
夕日に染まる王都オレンジを見て、エメリヒ第三王子は喜色に染まった大きな声を上げた。彼にとっては、王国の辺境へと追いやられて以来の王都であり、それは自分にとっても同じく辺境に追いやられて以来のものである。ここで自らの境遇とエメリヒ第三王子の境遇が少し似ている事に気が付く。
エメリヒ第三王子は妾の子で王族の中では孤立していた。自分は平民出身であるから近衛騎士団で孤立していた。追放の経緯は違えど、2人の辺境伯の下に体よく追放された。そして、揃って目の前に勝利の凱旋をするべき目標が見えている。
「まだだ……まだだな」
エメリヒ第三王子の喜びは表情の裏にいつの間にか隠れていた。
「さあ、南軍主力がこちらに来る前に落としてしまおうか」
そのまま前進を指示したエメリヒ第三王子が、西日を受けながら王都に向かって行く姿は王の風格を持っていた。これまでの行動や、言葉に王たる素質を深く感じる事は無かったが、その姿だけは城と夕日に良く映える。これが生まれ持った素質なのだろうかとも思う。
オロール王国の王都オレンジは500年以上の深い歴史のある都市だ。
王都に流れるヴァストリバーは、このベルディグリ大陸の東半分にとって重要な河川である。メイズ大公国始まり、スマルト共和国を経由してレイトリバーに流れ込むヴァストリバーは、周辺に水をもたらし、実りをもたらし、水運をもたらしていた。
このヴァストリバーは、王都の南4日の位置で北に向きを変え、王都の北2日の位置で西に流れを変えるのだが、それにより丁度流れが緩くなるために王都周辺は氾濫もしづらく、河川港としても優秀なもので古くからオレンジの土地には大きな都市があった。この”オレンジ”という土地の名前は、王城がある丘から周辺の景色を見渡す事で、夕日が映えるヴァストリバーと周辺に実る穀物の橙色に染まる事による。
王都オレンジの中でも、王城はこのヴァストリバー東岸の少し小高い丘の上に聳える。丘自体の高さは500フィート程度だが、その上に王城があるものだから周辺が平野な事も相まって非常に目立つ存在だ。
そして王都オレンジは非常に堅固な城である。
ヴァストリバーの東にある王城と都市を囲む広大な城壁に、ヴァストリバーの中州にある河川港と城壁、ヴァストリバーの西にある砦と城壁の独立した3拠点が連携している事と、先日攻略したヴァルリッカを上回る尖塔の数。川を引き込んだ広く深い水堀。なにをとっても王国で最大規模の城であった。
川は簡単に渡る事が叶わない程深く、船を利用するか泳がなければならないので、完全包囲を完成させるのには時間がかかる。その上簡単に連携が取れないほど広く、包囲が完成しても川も封鎖できなければ、船の出入りがし放題ときている。
「であるから、我々は東岸の王城区画のみを全軍で包囲する」
と、エメリヒ第三王子が軍議で発したのは、我々より若干少ない程度の守備兵に完全包囲をしてしまうと、兵が薄くなってしまうからだ。それに時間も掛かってしまう。我々の元には、南方でムタルド教国と対峙していたカタラーニ侯の軍が決戦を挑もうとしている報告と、東方のヴィアネッロ侯が間もなくメイズ大公国の軍と戦うとの報告が届いていた。
「ですが、どうやって短期間で攻略を…?」
軍議に参加している貴族の誰かが疑問を口にした。
その男に見覚えがあった…西門で兵を貸してもらった泥だらけの部隊長の男だ。どうやら貴族だったらしいが、自らも兵と共に泥だらけになる貴族など聞いたことも無い。部下想いの相当奇特なひとだ。
「失礼しましたエメリヒ殿下、息子には後ほど私が」
この言葉を発した主にさらに仰天する。なんと東方大公だ……つまり、泥だらけの部隊長は東方大公の息子だった訳だ!親も出来た人ならば、子もそうなのかと納得せざるを得ない。なにせ、東方大公の息子は自分と同じ頃の年齢にみえる。自分とは大違いだ。
「なに、進軍の道中で合流していたであろう?気にすることは無い。ここで皆の確認も含めて話そうではないか」
エメリヒ第三王子は、簡単に王都攻略計画を話し始める。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




